雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
76 巻, 6 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 平島 寛行
    2014 年 76 巻 6 号 p. 411-419
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    これまでに多くの積雪モデルが開発されてきたが,近年開発が進んでいる積雪変質モデルは,複雑な物理過程に基づいて計算することで,雪質や層構造等の計算も可能にしている.積雪変質モデルは雪の研究で用いるモデルの中心となりつつあり,また国内外で雪崩の発生予測等に応用されている.本稿では,スイスで開発された積雪変質モデルSNOWPACKが,日本に導入された後,雪崩の発生を予測するためにどのような改良が進められてきたかレビューを行う.また,新たに導入した水分移動過程や,海外における積雪モデルを用いた雪崩発生予測に関する紹介,そして現在の積雪モデルの限界と今後の進展のために必要な研究について解説する.
  • 阿部 修, 望月 重人
    2014 年 76 巻 6 号 p. 421-429
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    雲粒のない板状結晶の降雪直後の顕微鏡写真を撮影し,3日後,この降雪結晶からなる弱層の密度,剪断強度を測定するとともにその薄片構造を調べた.この結果,今回の弱層にはこれまで注目されてきた広幅六花だけでなく,大きな樹枝状結晶も含まれており,密度は過去に報告された降雪結晶のものより低かった.また,密度と剪断強度の関係では,等温変態にある積雪と同等であることがわかった.薄片構造からは,単結晶である雪結晶が斜面に平行に積み重なることにより,その剪断強度を低下させる可能性があるかについて考察した.このとき,単結晶氷の力学的異方性に基づき,それぞれの板状結晶が一様にc軸を斜面に対して垂直に堆積した積雪層に剪断応力が加えられたと仮定した場合の挙動を,脆性破壊と延性破壊の両面から検討した.これによれば,前者では結晶軸の方位による差は弱層の剪断強度にさほど大きく影響しないこと,後者では単結晶氷の底面滑りを仮定すると,長時間にわたる塑性変形がやがては延性破壊に至ることが想定された.したがって,これを抑制する機構を考慮しないと,現実には強度が増加する傾向のある弱層の振る舞いと合わないことがわかった.
  • 秋山 一弥
    2014 年 76 巻 6 号 p. 431-440
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    新潟県能生町の柵口地区に位置する権現岳(標高1104m)の東斜面において,2001年12月から2005年3月までの4冬期に行った雪崩観測の結果のうち,最も雪崩が頻発する斜面で得られた431個の雪崩映像を対象として,雪崩の規模として雪崩サイズの概念を導入して雪崩の発生数との関係について調査を行った.アメリカで用いられているU.S.スケールの雪崩サイズを用いた研究では,最小の雪崩サイズを除いた場合は雪崩サイズ(S)と発生数(n)にはLog n=−αS+βの関係があり,係数αは時空間的に差異があることが指摘されている.本研究では最小のサイズを除いた場合,雪崩サイズと発生数には同様の関係がありα=0.65,β=3.7となったが,冬期別のαの値には差異があり,降雪深や最大積雪深と関係がみられた.このため,雪崩の規模と発生数には特定の規則性が存在し,同じ斜面でも係数αは冬期ごとの積雪の違いによって差異があると考えられる.
  • 小林 容子, 本間 信一, 松田 宏
    2014 年 76 巻 6 号 p. 441-450
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    雪崩危険度評価手法には定まった手法はなく,雪崩対策を進めるにあたり筆者らは国や地方自治体等の事業主体が独自に設定した評価手法により多くの斜面の危険度を評価してきた.これまでは斜面の傾斜や植生,積雪深,方位,見通し角などを定性的に扱い,道路や集落での危険性を評価することが多く,2004年に刊行された「2005除雪・防雪ハンドブック(防雪編)」には各機関のいくつかの例が示されている.筆者らが上記ハンドブックにより斜面の危険度を評価する際には,植生は写真判読によって疎密を判定することが多いため,判読者の個人差が現れ,雪崩危険度にも個人差が反映されることが多々あった.また,地形図の精度もまちまちであり,場合によっては,必ずしも正確な地形を再現していないものも見られ,任意の斜面における危険度の推定精度が落ちることもあった. 近年,ALS(航空機搭載型レーザスキャナ)の普及に伴い地表面や積雪面の標高データや樹高を高精度で計測して,さまざまなデータを,個人差による判断を排除し,合理的に解析していく事例が増えてきた.本報告では,ALS の計測データを雪崩の解析に応用する手法を紹介する.
  • 出川 あずさ
    2014 年 76 巻 6 号 p. 451-460
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    日本雪崩ネットワークは長野県・白馬連峰を対象山域として,国内において初めて国際標準の雪崩情報の発表を2011/12シーズンに開始した.そして2シーズンの週末のみの発表を経て,2013/14シーズンは年末から3月末まで毎日,雪崩情報の発表を行った.この雪崩情報は1)標高帯毎に5段階に区分された雪崩危険度,2)最も警戒すべき雪崩の種類とそれが存在する標高帯,斜面方位,誘発の可能性,そして発生した際に想定される規模,3)雪崩の発生状況,積雪状態および気象についての概要,4)行動する人への助言などの構成要素からなる.このような雪崩情報の展開には,フィールド観察者の育成,データと人員を集約して雪崩情報に発展させる仕組み,そして,雪崩情報の利用者に対する教育という3つのフェーズがある.ここでは,これらについて日本雪崩ネットワークの実践的アプローチを報告する.
  • 鄭 好, 蟹江 俊仁
    2014 年 76 巻 6 号 p. 461-480
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    凍上現象を数値解析的に評価する場合,地盤の弾性係数を一定に取り扱うと,弾性係数の非線形性を見込んだ場合よりも,応力を過大評価することが起こりうる.それは凍上作用を受ける構造物にとっては安全側の設計となるかもしれない.しかし一方で,高志の式を適用すると,有効拘束圧が大きく評価される分,凍上量そのものが小さくなり,変形がもたらす作用応力の過小評価が構造物の安全性を脅かすことにもなりかねない.すなわち一種のパラドックスである.こうした事から,本研究では地盤の弾性係数の軸差応力依存性,ならびに温度依存性を考慮した二次元凍上評価モデルを構築し,それが地盤内の応力分布や凍上量にどのような影響を与えるのかを確認することを目的とする.本論文では,熱伝導解析と非線形応力解析をカップリングさせた数値解析モデルを提案し,凍上量の評価には我が国で実績のある高志の式を適用することとした.ただし,本来一次元の凍結凍上を対象とした高志の式に対して,凍上量の異方性を考慮できる配分パラメータという概念を導入して多次元化を行っている.このパラメータは,高志の式で計算される凍上量を,凍結方向とそれに直行する方向に配分しようとするものである.熱伝導解析においては従来のフーリエ則に加えて,等価比熱法による凍結潜熱の影響を評価した.さらに,非線形モデルの適用にあたっては,地盤の弾性係数の軸差応力依存性,ならびに温度依存性も考慮している点が重要なポイントであり,従前の弾性的な凍上評価モデルとの大きな違いである.このモデルを用い,実験結果と数値シミュレーション結果との比較等を行い,地盤の弾性係数の非線形性評価がもたらす解析結果の差異について検証した.
feedback
Top