本研究では,通路を流れる群集の安全確保のための環境設計という領域における,雑踏の混乱要因とならない効果的なデジタルサイネージ配置の条件特定という課題を解くために,エージェントベースシミュレーション(ABS)による雑踏のシナリオ分析を提案する. 従来研究では,人の注意を引くデジタルサイネージの効果は認められていたものの,その配置が通路の雑踏に対して与える影響を,歩行者の歩行プロセスベースで解析を試みた例は少なかった.本研究の目的は,エージェントベースシミュレーションによって,デジタルサイネージの配置が通路の雑踏へ与える影響を分析する手法を提案することである.
私は、共同研究者と共に、ブログ記事の収集・分析により消費者ニーズを明らかにする手順としてKIPを提案し、その実行プログラムの作成・公開をし、そして実際に使用した経験研究の発表を行ってきた。これらの研究において、その時々にKIPの問題点を今後の課題として示してきた。だが、こうした課題の指摘もそのままでは散逸してしまいかねない。今後これらの課題に正面から取り組むには、これまでの課題をきちんと整理しおかねばならない。こうした背景で、本発表では改めてKIPの各ステップの抱えている課題について現在解決に向けてのアイデアを交えながら説明し、議論する。これが本発表の目的である。本発表では、今後の課題としておおむね7点について説明する。
本研究では、エボラ出血熱およびジカ熱ウイルスによる感染症モデルに基づき、それらの感染力の比較とワクチン接種などの医療政策の有効性について述べる。このモデルでは、一人ひとりの行動をコンピュータ上で表現することが可能であり、これらのデータを用いて人々の接触過程をシミュレーションすることから、感染症の広がりを表現することができる。本研究では、Epstein等の天然痘感染モデルをベースとして、医療政策として重要なワクチン接種および蚊の発生抑制などをモデル化した。実験結果から、電車通勤などの公共交通機関の感染拡大への影響が大きいこと、駅周辺での蚊の発生抑制が有効であることが見出された。
ビジネス組織の役割の一端は組織的な問題解決にある.ここに,問題解決とは,理想から乖離しつつあるシステムの状態を,何らかの対策を通じて,許容範囲内に収めることである.組織の各構成員は,通常,システムの状態のある限られた側面しか認知することができず,取り得る対策やそれらの効果,制約条件などについての知識も完全ではないため,誰一人として問題の全体像を把握できていないことが多い.そうした状況の中で,コミュニケーションを通じて情報共有を図りながら,適切な対策をタイムリーに繰り出していく必要がある.本研究では,そうした組織的な問題解決におけるチームコミュニケーションの分析を目的としたゲームを提案する.
ビジネスアナリシスの考え方がビジネス価値を探求する場合に役立つ可能性がある.BABOK Version 3でBACCM (Business Analysis Core Concept Model)が提唱されている.BACCMは6つのキーワードで成り立っている.Change, Stakeholder, Needs, Value, Solution, Contextである.BACCMの枠組では,Business Valueは,StakeholderのNeedsを満たすことによって得られるものである.新たなBusiness Valueを得るためには,今の仕事のやり方を Changeする必要があり,新しい仕事のやり方を Solutionと呼ぶ.非常に多くのビジネスはBACCMの枠組みで捉えられる.新しく得られる Business Valueはどんな Needsをどのように満たすかを見ていけばよい.Business Valueを計算で求める仕組みが提供されるので,複数の Changeの選択肢がある場合に,どの選択肢が最も大きいBusiness Valueを導くかを決定することが可能になる.Contextはものを考えていく場合の制約条件を表すので,制約充足問題の側面もある.このようなことから,BACCMを人工知能へ応用できる可能性はかなり高い.
証券会社が発行するアナリストレポートは、投資家に企業情報を提供する役割を果たしている。 例えば、業績の見通しやそれに基づくレーティングや目標株価などは広く知られたものとして挙げられる。本研究では,アナリストレポートの読みやすさに焦点を当てた分析を行う。アナリストレポートが読みやすければ読みやすいほど、アナリストレポートの情報が早く、正確に市場に伝わることが期待される。そこでアナリストレポートの読みやすさ(可読性)の決定要素を各社アナリストレポートから分析し、アナリストレポートと取引量などの関連性を分析する。
エージェントベース・モデリングでは,マクロレベルの動学を記述する数理モデルをミクロレベルから説明するエージェントベースのモデルへと展開するが,この際エージェントの意思決定モデルを定める必要がある.多くの場合,ある種の最適化原理や満足化原理,あるいは消費者行動論のような当該ドメインにおける有力理論を基に意思決定の数理モデルが構築されているが,特に個別組織・社会を対象とするときには,通常これらの理論では捨象されているローカルな文化や価値観などを考慮したモデルとする必要性が存在しうる.本稿では,エージェントベース・モデリングにおける意思決定モデルの定式化に際して,質的研究法を活用することに関して考察する.
国際的な金融規制強化の流れは,金融機関の安定性を高めた一方,市場の流動性低下等をもたらしたとの見方がある.本稿では,金融規制下での金融機関の行動が金融システムに与える影響に注目する.著者らは,金融規制及び金融機関の運用・調達行動を表現したシステミック・リスクのシミュレーションモデルを提案している.当該モデルを用い,各種規制の組み合わせから生成したケースに基づきシナリオ分析を行う.その上で,金融システムの安定性と流動性低下のトレードオフの問題にアプローチする.
システミックリスクに関するインターバンクネットワークの研究が、欧州を中心にグローバルで増えてきているが、未だにそのメカニズムの解明は十分でなく、データ解析、実データを用いたストレステスト、数理モデル、ゲーム理論、等の手法で研究が行われている。一方、2016年6月のIMFのレポートでは、世界的にシステミックリスクを抱える28の銀行のリスクの度合いが示され、現状でもグローバルで高い関心を持たれていることがうかがえる。本研究では、エージェントベースモデルで構築した環境で、インターバンクによる資産損失ショックの伝播に焦点を当て、シンプルでありながら金融機関毎の特性を考慮した検証と評価を行う。