2002/2003年冬季の着氷の化学的な特徴を見出すため,2002年12月から2003年4月まで,山形県山形市の蔵王地蔵山頂駅前(標高1661m)で着氷を採取し,化学分析と粒子解析を行った.蔵王山の西方には,火山や大きな人為起源の排出源がなく,広域的な大気汚染の監視には適している.2000/2001年冬季は,大規模な黄砂現象が発生したが,2002/2003年冬季は,顕著な黄砂現象は確認されなかった.そこで,両年度を比較し,化学的特徴を検討した結果,以下の諸点が明らかとなった.
(1) 2002/2003年冬季の着氷のpHは3.4~6.6で推移し,平均は4.2±0.6であった.また,酸性化成分(nssSO
42-, NO
3-)の合計と中和成分(nssCa
2+, NH
4+)の合計を比較すると,最初の2試料を除いて,常に酸性化成分過剰であった.
(2) nssSO
42-, NO
3-とNH
4+濃度の平均値は2000/2001年冬季と2002/2003年冬季でほぼ同じであったが,nssCa
2+については,2000/2001年冬季は2002/2003年冬季のおよそ2倍の濃度であった.
(3) 2002/2003年冬季の着氷に含まれている粒子濃度は2000/2001年冬季のおおよそ半分であった.また,2000/2001年冬季と2002/2003年冬季共に粒子濃度とnssCa
2+濃度のピークは,特に2月以降において,ほぼ一致している.
(4) 2002/2003年冬季の着氷は,顕著な黄砂現象が発生せず,黄砂由来の粒子状物質からのnssCa
2+の寄与が小さかったことから,中和が進展せずに推移した,と推測される.
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