脊髄脂肪腫新分類では胎生期の神経管形成過程を背景に脊髄脂肪腫をtype 1~4に分類した. この新分類は以下の点で病態解明を進展させ, 治療概念を深める契機となる.
1. 脊髄脂肪腫を発生学的に系統立てて分類
2. 脊髄脂肪腫が移行期神経管形成期 (junctional neurulation) を経て二次神経管形成過程にも及ぶ器官形成障害により発生することを解明
3. 新分類が脊髄脂肪腫の臨床像を反映し治療選択の選択指針となる
この分類をもとに, 今後脊髄脂肪腫に対する葉酸の予防効果, 肛門直腸異常との合併, 手術成績の比較, 長期予後の予測といった課題に対する新たな臨床研究が進むことが期待される.
MCDO法は, 頭蓋縫合早期癒合症のあらゆるタイプの頭蓋縫合早期癒合症や再手術に適応がある. 当院でMCDO法で治療した頭蓋縫合早期癒合症40例の治療成績を報告する. 平均手術年齢は3歳8カ月, 平均骨片数17.9個, 平均手術時間は5時間6分, 平均出血量は307mlであった. 合併症は硬膜損傷2例, 感染4例, フレームのずれ1例であった. 癒合部位は, 多縫合25例・矢状縫合12例・片側冠状縫合1例・片側ラムダ縫合1例であり, 6例が頭蓋形成・頭蓋骨延長・MCDO法後の再手術であった. 頭蓋拡張目的の1例を除いた39例で良好な頭蓋形態を得た. 合併症軽減のために手術方法や術後管理において改良の必要がある.
先天性小児脳神経外科疾患は希少疾患が多く, 診断に苦慮する場合がある. 診断確定の1つの方法として, 遺伝学的検査がある. 次世代シーケンサーの普及により遺伝子の網羅的検査が可能となり, 遺伝性疾患の診断率が向上してきた. 2012年から2022年に当科で遺伝学的検査を行ったのは72例, 診断率は59.7%であった. 検査法としては次世代シーケンサーが37件と最も多かった. 遺伝学的診断は正確な予後予測や治療選択を可能とするため, 最新の知識をアップデートして診療に活用する必要がある. 一方で, 親や同胞の診断や次子の出生前診断にもつながるため, 正確な知識に基づいた遺伝カウンセリングが必須である.
代表的な小児脳腫瘍である髄芽腫については, 遺伝子発現の差異などをもとにした分子分類が発達している. 最新のWHO分類では, 髄芽腫の診断として病理学的分類ではなく分子分類のみが採用され, WNT群, SHH群, Group3, Group4の4群に分類される. 分子分類が重要視されているのは, 予後をよく反映しているためである. 髄芽腫の治療は, 年齢, 残存病変や転移・播種病変の有無による臨床的なリスク分類に基づいて治療が行われてきた. これに分子分類の情報を加えることで, よりよい治療方法の選択と予後改善が期待される. われわれ脳神経外科医には, 髄芽腫の治療動向を把握し, 長期生存を見据えた手術を提供する責務がある.
脳膿瘍は, 頭蓋内占拠性病変として手術の適応ともなるが, 基本的に抗菌薬治療が主体である. 一般的には第三世代セフェム系抗菌薬が用いられ, 嫌気性菌をカバーする目的でメトロニダゾールの併用が推奨されている. その一方で, 抗菌薬治療の長期化に伴いメトロニダゾール誘発性脳症の合併例が報告されている. 今回われわれは, 小脳に発生した脳膿瘍に対し排膿術と抗菌薬治療を行い, メトロニダゾール誘発性脳症を合併した1例を経験した. メトロニダゾール誘発性脳症は比較的まれであるが, 適応拡大に伴う今後の増加が予想され, われわれ脳神経外科医もその危険性を知っておくべきと思われる. 本例の臨床所見を提示し, 文献的考察を加え報告する.
中枢神経原発組織球性肉腫はきわめてまれであり, 症例報告も限られ, 予後因子や治療法も確立されていない. 術後放射線治療後の再発病変に対してMPV療法が奏効した1例を報告する. また, 本疾患の治療戦略を探るべく, 渉猟した文献症例と当症例を合わせた33症例の臨床データを解析し, 予後因子と治療法の効果予測因子を評価した. 結果, 多発病変は生存期間が短い傾向にあった. 肉眼的全摘出と放射線治療が有意な予後延長因子であった. 化学療法の有意性は認めなかったが, 化学放射線療法群はおのおのの単独治療群よりも生存期間が延長した. 本疾患の生存期間延長には肉眼的全切除が望ましく, 化学療法を含めた集学的治療の有効性も示唆された.