局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する非外科的な標準治療は、過去の第Ⅲ相試験結果やメタ解析の結果からシスプラチンを用いた化学放射線療法と考えられている。しかし、抗 EGFR 抗体であるセツキシマブの放射線療法に対する上乗せ効果は第Ⅲ相試験で証明されている。シスプラチン併用化学放射線療法かセツキシマブ併用放射線療法かという臨床的疑問については、現在進行中の臨床試験の結果も踏まえて判断すべきであり、現時点では最もエビデンスレベルの高いシスプラチン併用化学放射線療法を特に問題がなければ選択すべきであろう。
頭頸部扁平上皮癌化学放射線治療の世界標準治療である高用量シスプラチン(100 mg/m2 q3w)同時併用化学放射線治療の日常診療レベルの完遂率を後ろ向きに検討した。対象は、高用量シスプラチン同時併用化学放射線治療を行った頭頸部扁平上皮癌 75 例であり、男性 64 例、女性 11 例、年齢 36 − 79 歳(中央値 65 歳) 、部位は中咽頭 20 例、下咽頭 18 例、喉頭 3 例、口腔 24 例であった。完遂基準は、化学療法(CDDP 200 mg/m2 以上) 、放射線治療(予定線量完遂) 、2 週間以上の治療休止のないものを完遂として検討した。結果は、放射線治療の完遂率は 96.0%(72/75 例) であったが、化学療法の完遂率は 73.3% (55/75 例) であり、シスプラチン full dose(300 mg/m2)投与率は、30.7%(23/75 例)と低率であった。リスク因子として、年齢、治療前クレアチニンクリアランスが関連した。
頭頸部癌に対する Chemoradiotherapy(CRT)や Bioradiotherapy(BRT)の際の有害事象と支持療法について概説した。程度の差はあるものの、いずれにおいても粘膜炎や皮膚炎はほぼ必発である。BRT 導入に伴いインフュージョンリアクション(IR) 、間質性肺炎への対応も重要となってきた。支持療法をしっかり行うことは治療完遂率、治療成績の向上につながる。
進行口腔癌に対する機能温存治療として、手術療法が選択されることが多い。本研究では広範な切除と遊離自家組織移植による再建術を必要とした舌癌を対象に、嚥下機能を調査・検討した。遊離自家組織移植を伴う喉頭温存手術を行った舌癌 39 例を対象に、切除範囲、再建方法、嚥下改善手術施行の有無と退院時の栄養摂取方法などを検討した。退院時の食事摂取方法は、経口摂取のみが 34 例(87.2%)と大多数を占めた。このことから進行口腔癌に対する手術治療では、適切な再建術を行うことで嚥下機能を再獲得することが可能であることが示された。嚥下機能が担保できない症例は、PS の低下やリハビリテーションに対する意欲低下などの問題を抱えており、頭頸部外科医が単独で有効な対策を講じることは困難である。嚥下リハビリテーションチームや精神サポートチームの介入が、より良い機能の獲得のために重要であると考えられた。
外切開手術で切除+再建を行った、中咽頭側壁癌 19 例(T 2 : 12 例、T 4 a : 7例)の術後嚥下機能を検討した。全例で経口摂取は可能であったが、ミキサー食にとどまっていた症例もあった。ミキサー食止まりとなっていたのは T 4 a 症例と舌根の切除をうけた症例であり、後外側の切除ラインを内頸動脈の層とするか、外頸動脈の層とするかは、術後の嚥下機能を悪化させる要因とはいえなかった。
中咽頭は軟口蓋、側壁、舌根、後壁で構成される 3 次元的に複雑な構造をしており、頭頸部再建術の中でも難易度の高い部位の一つである。特に軟口蓋+側壁+舌根の 3 つの部位が同時に切除された場合は、機能障害が生じやすく、より治療を困難にしていると考えられる。当院では、このような症例に対して以下のようなアプローチで再建術を行っている。①Gehanno 法により軟口蓋鼻腔側粘膜と中咽頭後壁粘膜を縫合する、②中咽頭側壁に皮弁を縦に配置し皮島の頭側部分で軟口蓋切除面をパッチ状に被覆する、③舌根断端が側壁の皮弁に接する部分の皮島を半月状に脱上皮して舌根断端を縫着する。本稿においては本術式を施行した症例について、術後の嚥下機能評価を行った。その結果、舌根部を縫縮する術式よりも、皮島の一部を脱上皮して舌根断端を縫着する「脱上皮法」の方が、良好な嚥下機能が得られる可能性が示唆された。
ほとんどの上咽頭癌で Epstein-Barr ウイルス(EBV)が発癌や進行に関与している。欧米での標準治療は、化学放射線同時併用療法+補助化学療法であるが、補助化学療法まで含めた治療完遂率は 55%と低くメタアナリシスにおいてもその有効性は示されてはいない。一方で、EBV-DNA(BamHI-W 断片)をバイオマーカーとして再発リスクが高い症例にのみ補助化学療法を施行する臨床試験が海外で進行中である。近年、エクソソームと呼ばれる小胞が細胞中の RNA やタンパク質を内包し、細胞外へ放出され細胞間メッセンジャーとして機能していることが判明した。エクソソームは生きた細胞から放出され、内包されている RNA は血液中でも安定に存在することができる。そこで、上咽頭癌患者血清のエクソソーム中に EBV に特異的な RNA である EBV-encoded small RNAs(EBERs)が内包されているか検討し、さらに、上咽頭癌治療後の効果判定、予後予測に関して既存の画像診断やバイオマーカーと比較し鋭敏な指標となるか話題提供することにした。
HPV 関連中咽頭扁平上皮癌(OPC)は HPV 非関連 OPC に比べ、治療方法にかかわらず治療反応性や予後が良好であり、臨床的に異なる特徴を持っている。しかし、HPV 関連 OPC であっても多量喫煙や late TN stage が予後不良因子となる。これらを鑑みて、HPV 関連 OPC の新病期分類が提唱されている。また、いかに HPV 関連 OPC の治療成績を保ちながら治療強度を低減し、重篤な晩期障害を減じて quality of life (QOL)を改善するかに主眼を置いた臨床試験がいくつか計画、進行中である。HPV がバイオマーカーとして有用なことは周知の事実であるが、臨床試験の結果に基づいた OPC に対する個別化治療の構築が必要であり、現段階では HPV status による治療強度の低減は時期尚早である。
近年、タンパク質をコードしない機能性 RNA の一種であるマイクロ RNA (miR) が注目され、特に癌の発生、浸潤、転移への関与が注目されている。本稿ではわれわれが作成した「頭頸部扁平上皮癌マイクロ RNA 発現プロファイル」から、癌部において顕著に発現抑制が認められた miR-29s(miR-29a、b、c)について、その機能と miR-29s が抑制する癌促進型遺伝子を解説する。まず機能解析として、頭頸部扁平上皮癌由来細胞株に miR-29s を核酸導入すると、癌細胞の遊走能・浸潤能が顕著に抑制されたことから、miR-29s が癌抑制型マイクロ RNA であることが示された。さらにゲノム科学的手法により、miR-29s が制御する遺伝子を探索した結果、ECM(細胞外マトリックス)関連遺伝子である laminin γ 2(LAMC2)と integrin α 6 (ITGA6) を見いだした。これら遺伝子について、siRNA を用いてノックダウンすると、癌細胞の遊走能・浸潤能が顕著に抑制された。以上より、これら二つの遺伝子は、miR-29s が制御する「癌促進型遺伝子」であることが示された。