耳鼻と臨床
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68 巻, 4 号
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原著
  • 小山田 匠吾, 岩崎 聡, 高橋 優宏, 岡 晋一郎, 古舘 佐起子
    原稿種別: 原著
    2022 年 68 巻 4 号 p. 227-234
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    耳垢を溶解させる作用のある耳垢除去剤を定期的に塗布することで耳垢貯留を予防できるかを検討する目的で、予備的な前向き研究を行った。外来で耳垢除去後、綿棒で耳垢除去剤を外耳道に塗布する方法を指導し、定期的に施行してもらい、4 週間後と 3 カ月後に耳垢の貯留の程度と症状の有無について評価した。対象は 33 例 65 耳であった。耳垢貯留の程度は処置前が平均 1.9 に対し、4 週間後 0.5、3 カ月後 0.0 と耳垢貯留の予防効果が得られた。コントロールとして生理食塩水を塗布した群(9 例 18 耳)は処置前が平均 1.6 に対し、4 週間後 1.4 と耳垢の再貯留傾向を認めた。耳垢除去剤群の 51.5%の症例において塗布前にみられていた症状が、塗布後は 9.1%と減少した。綿棒による耳垢溶解作用のある耳垢除去剤の塗布は安全に耳垢貯留を予防することができることが示唆された。

  • 浦本 怜奈, 安井 徹郎, 西村 直矢, 岡部 翠, 松永 啓秀, 野田 哲平, 岡 正倫, 吉澤 誠司, 玉江 昭裕
    原稿種別: 原著
    2022 年 68 巻 4 号 p. 235-242
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    2014 − 2021 年の期間において、当院で ANCA 関連血管炎性中耳炎(OMAAV)と診断した 10 例について臨床的特徴を検討した。初診日は 2014 年、2015 年、2017 年が各 1 例、2019 年と 2020 年が各 3 例、2021 年が 1 例で、初診診療科は耳鼻咽喉科が 9 例、内科が 1 例であった。初診から治療開始までの期間は 7 日から 5 カ月で、2014 年初診の 1 例を除き 26 日以内に治療を開始できた。厚労省基準による ANCA 関連血管炎の診断は多発血管炎性肉芽腫症(GPA)確実例が 4 例、GPA 疑いが 6 例であった。肥厚性硬膜炎は 1 例、顔面神経麻痺は 2 例に合併していた。顔面神経麻痺は 2 例とも改善し、生命予後は全例生存中であった。診断基準 2015 が提唱されたことで早期診断が可能になり、内科医と連携した早期治療が容易となった。

  • 冨岡 亮太, 河野 淳, 西山 信宏, 白井 杏湖, 太田 陽子, 冨澤 文子, 松本 尚子, 前田 沙知, 塚原 清彰
    原稿種別: 原著
    2022 年 68 巻 4 号 p. 243-250
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    成人人工内耳装用者の音声知覚能力の継時的変化(術後 3 カ月、1 年、2 年、5 年、10 年)について、長期的な変化はどの程度あるか、当初の評価として手術後どの時点での検査が妥当か、またスピーチ・プロセッサの変更などによる変化がみられるかなどを把握することを目的に、装用閾値、単音節、単語および文の聴取能について検討した。装用閾値では、手術後 3 カ月時点の中央値で既に 26 dB であり、その後の変化は認めなかった。単語、文の聴取能においては 3 カ月(中央値それぞれ 80%、87.5%)から 1 年(同それぞれ 85%、94.5%)で有意に向上しており、その後ほぼ変化はなかった。単音節でも 1 年以降 10 年までほぼ変化がなかったことから、術後 1 年で人工内耳の効果を評価することが妥当と思われた。文では 1 年以降で中央値 90%以上であり、検査の天井効果と思われ、雑音下の検査など別の検査方法で評価する必要があると思われた。

  • 松吉 秀武, 山田 卓生, 後藤 英功
    原稿種別: 原著
    2022 年 68 巻 4 号 p. 251-257
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    われわれは、持続性知覚性姿勢誘発めまい Persistent Postural-Perceptual Dizziness (以下 PPPD と略) に先行する疾患についての検討、および少量の選択的セロトニン吸収阻害剤 Selective Serotonin Reuptake Inhibitor (以下 SSR I と略) を投与し、PPPD 治療に対する有効性の検討を行った。少量 SSRI (Sertraline 12.5 mg) 投与を行うに当たり、Niigata PPPD Questionnaire (以下 NPQ と略) を用い、この NPQ 値を治療効果の指標とした。また少量 SSRI 投与による副反応と治療継続率の検討を行った。PPPD の先行疾患は末梢性と中枢性前庭疾患が 69.6%、片頭痛関連めまいが 17.4%、起立性調節障害が 11.6%、原因不明が 1.4%であった。PPPD に対する少量 SSRI 投与の有効率は 75.9%であった。副反応出現率は 23.1%、治療継続率は 79.2%であった。副反応を減らしながら、これまでの報告との同程度の治療継続率と治療の有効率を得ることができた。少量 SSRI 投与は PPPD 治療に積極的に施行していくべきと考えた。

  • 宮城 司道, 宮本 雄介, 甲斐 智朗, 村上 一策
    原稿種別: 原著
    2022 年 68 巻 4 号 p. 258-265
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    2016 年 10 月から 2019 年 3 月までの 2 年 6 カ月に当科で治療された扁桃周囲膿瘍 153 例の患者データで後ろ向き分析を行った。年齢分布は 8 − 87 歳で中央値 35.5 歳、性別は男性 108 例、女性 45 例であった。罹患則は右側が 79 例(51.6%)、左側が 66 例(43.1%)、両側が 8 例(5.2%)で喫煙者は 69 例(45.1%)であった。画像診断は口蓋垂で境界し、最長の膿瘍径の部位で上極型・下極型に分類した。膿瘍径が15 mm 以下では保存的治療を優先した。抗生物質の選択に関しては、SBT/ABPC が好気性、嫌気性、および薬剤耐性菌をカバーする幅広い抗菌スペクトルを持っているため、単剤として使用することで十分な効果が期待できると思われた。

症例報告
  • 宮﨑 真優, 野田 哲平, 土橋 奈々, 小宗 徳孝, 松本 希, 中川 尚志
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 68 巻 4 号 p. 266-272
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    ANCA 関連血管炎は腎障害や肺病変などの全身疾患で発症することが多い自己免疫性血管炎であるが、近年、中耳炎初発・耳限局型の ANCA 関連血管炎の報告が増加している。本症例は結核の既往がある 52 歳女性で、主症状は抗菌薬無効の中耳炎と難聴、頭痛であった。難治性中耳炎として ANCA 関連血管炎性中耳炎(OMAAV)を鑑別に挙げてはいたものの、ANCA 抗体陰性で生検組織は血管炎の所見が得られず、また、結核性中耳炎の可能性を懸念し診断に苦慮した。最終的に、OMAAV に特徴的とされる肥厚性硬膜炎の合併や、ANCA 関連血管炎やその他自己免疫疾患の診療経験が豊富な膠原病内科医による他臓器評価により除外診断を行い OMAAV の診断を得た。診断までに 1 年を要した OMAAV の症例を経験したため、主にその診断について若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 假谷 彰文, 石原 久司, 秋定 直樹, 濱田 浩司, 藤 さやか, 赤木 成子, 竹内 彩子
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 68 巻 4 号 p. 273-278
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    個人輸入した PDE-5 阻害薬内服後に急性感音難聴を生じた症例を経験したため報告する。症例は 40 代、男性。インターネット経由で購入したバルデナフィルを使用後に、感音難聴を生じた。プレドニゾロンの全身投与を行い、バルデナフィルを中止したところ、聴力はおおむね改善した。PDE-5 阻害薬は難聴との関連が指摘されているが、わが国では十分に周知されていない。PDE-5 阻害薬はインターネットで簡単に個人輸入できる一方で、偽造薬も数多く出回っており、健康被害も生じている。また、個人輸入薬は処方薬に比して服薬歴の把握が難しい場合があり、薬剤性難聴を疑う場合は詳細な問診を心掛ける必要がある。

  • 加藤 照幸, 荒井 真木, 山田 大貴, 水田 邦博
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 68 巻 4 号 p. 279-283
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    Propionibacterium acnesP. acnes)は尋常性痤瘡の原因として知られる嫌気性グラム陽性桿菌で、毒性が低く発育が遅いため、遅発性感染を来しやすく侵襲性感染症の原因となることはまれである。今回われわれは、糖尿病を基礎疾患に持つ 70 歳男性に、局所的な右後部篩骨洞炎から鼻性視神経症を発症した結果、右視力低下を来した 1 例を経験した。内視鏡下鼻内手術を行い、副鼻腔炎は治癒し視力の更なる悪化は防がれた。細菌検査の結果 P. acnes が起炎菌と考えられた。P. acnes による鼻性眼窩内合併症は非常にまれであり貴重な症例と考えられた。

  • 逆井 清, 塩野 理, 折舘 伸彦
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 68 巻 4 号 p. 284-290
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    脂肪肉腫は四肢体幹に好発する悪性軟部腫瘍の一つである。頭頸部領域の発生は少なく、鼻副鼻腔領域ではさらにまれである。今回われわれは上顎洞に発生した高分化型脂肪肉腫の 1 例を経験したので、文献的考察を加え報告する。症例は 56 歳、男性。反復する鼻出血を主訴に近医を受診、左鼻腔内に出血を伴う腫瘤性病変を認め、当科紹介受診。初診時、鼻内視鏡検査で左中鼻道に易出血性の腫瘤性病変を認めた。顔面造影 CT で左上顎洞に骨破壊を伴い側頭下窩に突出し、不均一な造影効果のある腫瘤性病変を認めた。顔面単純 MRI では、T1 強調像で軽度高信号、T2 強調像で高信号を示す内部不均一な腫瘤性病変であった。生検で脂肪肉腫が疑われ、内視鏡下に遺残なく摘出し得た。病理学的検査で高分化型脂肪肉腫と診断された。術後出血等の合併症なく退院し、術後 6 カ月現在まで転移再発なく経過している。

  • 飴矢 美里, 田中 加緒里, 勢井 洋史, 岡田 昌浩, 羽藤 直人
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 68 巻 4 号 p. 291-298
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    肥厚性硬膜炎を合併した多発血管炎性肉芽腫症(GPA)により嚥下障害と音声障害を来した症例を経験した。本症例の嚥下障害は、代償法の習得にて経口摂取を再獲得できた。しかし音声障害は、迷走神経麻痺による声帯の副正中位固定と弓状弛緩から高度な声門閉鎖不全を来し、代償的な過緊張性発声から粗糙性、気息性、努力性嗄声となっていた。音声機能改善術と音声治療を行うことで、声門閉鎖不全の改善や過緊張性発声の軽減が得られ、本人の自覚的印象においても改善を認めた。GPA は難治性疾患であるが、原疾患のコントロールが可能であれば、音声外科的治療と音声治療を組み合せて多角的に介入することで患者の QOL 向上につながると考える。

  • 奥田 匠, 久冨木 冠, 猿渡 英美, 何 尚樹, 井手 慎介, 東野 哲也
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 68 巻 4 号 p. 299-307
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    頭頸部の希少癌(耳下腺唾液腺導管癌)症例で、がん遺伝子パネル検査を経験した。当初アンドロゲン受容体の過剰発現がみられ、CAB 療法により著効が得られたがその後 PD となり、増悪病変の組織を本検査に提出した。腫瘍細胞の遺伝子異常に基づく推奨薬剤が免疫チェックポイント阻害剤と決定され投与したが、irAE により継続が困難で、不幸な転帰となった。本検査に基づく治療の実施率は現状では 1 割程度と低く、保険診療内での実施にも限界があることを認識した。検査の活用・普及にあたっては、治療開始早期の承認、薬剤の適応疾患の拡大または混合診療が実施可能な体制整備が望まれる。また、増悪病変の組織ではアンドロゲン受容体の陰性化がみられ、難治性の要因と考えられる腫瘍内不均一性も念頭に治療戦略を検討する必要がある。

視点
  • 三好 彰, 大沼 直紀, 三邉 武幸
    原稿種別: 視点
    2022 年 68 巻 4 号 p. 308-316
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

    スイミング・スクールにおける水泳指導の難聴児に与える精神的影響、ならびに難聴児の平衡機能未発達などへの身体的影響を議論した。ワールデンブルグ症候群による高度難聴の 1 例においては、平衡機能未発達に好影響が推測され、さらに地域社会への溶け込みも促進されたものと判断できた。全国難聴児を持つ親の会へのアンケート調査では、調査法の限界から平衡機能改善は示唆されるにとどまった。それ以外の面では水泳指導は、難聴児親子にさまざまの好影響を与えることが判明した。ただしそれらの利点については認識が行き渡らず、難聴児はその福音を必ずしも十分に享受できていないように思われた。今後、より一層の地道な調査が重ねられ、社会一般に難聴児の水泳指導に関する啓蒙が行き渡る必要がある。

臨床ノート
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