耳鼻と臨床
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67 巻, 3 号
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原著
  • 安永 太郎, 我那覇 章, 白根 美帆, 松田 悠佑, 下荒 翔研, 陰山 紗季, 市原 さくら, 中島 崇博, 東野 哲也
    原稿種別: 原著
    2021 年 67 巻 3 号 p. 129-135
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    少なくとも一側が高度難聴の症例における人工内耳の効果や両耳聴活用状況を明らかにするために、2009 年から 2019 年に当院で行われた言語獲得後失聴の成人人工内耳例について検討した。対象を術前の聴力レベルにより、両側高度難聴(70 − 90 dB)群( A 群)、術側高度難聴群( B 群)、対側高度難聴群( C 群)、両側重度難聴(90 dB 以上)群( D 群)に群分けした。人工内耳成績は各群で差がなく、高度難聴者においても重度難聴者と同等の言語聴取能の改善が得られていた。対側が70 − 90 dB である A 群と C 群は術後も 1 例を除き、気導補聴器を併用していた。A 群には両側性の急性高度難聴者や補聴器装用が困難な高齢者が多く、B 群には重度難聴側(対側)の聴力が固定してからの期間が長い例で、かつ高度難聴側(術側)の補聴器活用が困難な例が多かった。左右の聴力に差がある場合、聴力が固定してからの期間や年齢を考慮し、良聴耳を術側に選択することで聴取能の改善が得られる症例が存在する一方で、補聴器による対側耳の聴覚補償が困難となる欠点もある。今後両側人工内耳による両耳聴達成を視野にいれた聴覚管理が望まれる。

  • 藤吉 昭江, 福島 邦博, 伏見 久未子, 北野 朱里, 菅谷 明子
    原稿種別: 原著
    2021 年 67 巻 3 号 p. 136-142
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    人工内耳装用を行った言語習得期前難聴児で、知的な障害がなく、音に対する反応も良好であるにもかかわらず言語発達の遅れを呈した児(disproportionate language impairment:DLI)に対して、音韻処理過程を考慮した言語指導を実施した 2 例について報告した。いずれも知的な遅れなく、また人工内耳装用下での聴取閾値も 20 − 30 dBSPL で良好な反応を示していたが、言語発達では 3 歳以上の遅れを呈していた。両症例とも非語の復唱で著しい困難さを呈しており、音韻認識の障害の合併を推定した。種村の既報をベースにした音韻認識をターゲットにした言語指導を行い、それぞれ指導後の 1 年間で順調な言語発達の伸びがみられた。音韻障害に起因する DLI 児に対しては、病態に応じた言語指導が有効である可能性が示された。

  • 木下 慎吾, 大崎 政海
    原稿種別: 原著
    2021 年 67 巻 3 号 p. 143-148
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    65 歳以上の高齢者に、薄切軟骨併用の鼓膜形成術を 18 例に施行し治療成績の検討を行った。麻酔法は局所麻酔で、移植片は側頭筋膜と軟骨膜付き薄切軟骨を併用し、鼓膜上皮層と鼓膜固有層の間に inlay した。穿孔閉鎖率は 94.4%で、日本耳科学会の術後聴力成績判定基準での成功率は 83.3%であった。移植片においては、軟骨膜付き薄切軟骨の軟骨膜部分が、鼓膜固有層にかかるように移植することで、薄切軟骨部分が鼓室内に脱落しないようにした。軟骨部分は壊死することが少ないため、鼓膜形成時の足場となり、同時に inlay 法のため鼓膜上皮層と鼓膜中間層の両面から移植片に血流が入り、良好な上皮化が得られた。本法は局所麻酔を採用したことを含め、安全かつ有効な治療法の一つであると考えられた。

  • 佐藤 有記, 御厨 剛史, 米崎 雅史, 倉富 勇一郎
    原稿種別: 原著
    2021 年 67 巻 3 号 p. 149-153
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    当科では他科医師を対象として、医療用吸水スポンジを用いた鼻出血止血法の指導を行っており、その取り組みについて検討を行った。2017 年度に当グループに在職する耳鼻咽喉科以外の医師を対象とし、医療用吸水スポンジを用いた鼻出血止血術のレクチャー(人体モデルを用いた実習含む)を行い、終了後アンケート調査を行った。レクチャー後は実際に救急外来などで、他科医師が医療用吸水スポンジを用いて鼻出血止血法を行うようになった。医療用吸水スポンジを用いた鼻出血止血法は、他科医師にとっても実践可能でかつ有用な手技であるといえる。

  • 太田 康
    原稿種別: 原著
    2021 年 67 巻 3 号 p. 154-159
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis:AR)の 40 例(AR 群)、慢性副鼻腔炎(chronic rhinosinusitis:CRS)の 75 例(CRS 群)において、鼻・副鼻腔粘膜中の異所性リンパ小節(ectopic lymphoid nodule:ELN)について検討した。AR 40 例において下鼻甲介粘膜中に ENL が存在したのが 13 例、存在しなかったのが 27 例であった。粘膜中の好酸球数、血中の好酸球%、血中 IgE 値は有意差をもって ENL が存在する群の方が存在しない群より高値であった。一方、血中 IgG4 は 2 群間に有意差は認められなかった。CRS 75 例において、副鼻腔粘膜内に ENL が存在したのが 33 例、存在しなかったのが 42 例であった。粘膜中の好酸球数、血中の好酸球%、血中 IgE 値は 2 群間に有意差を認めなかったが、血中 IgG4、血中 IgG は有意差をもって ENL が存在する群の方が存在しない群より高値であった。ENL は AR 群においては IgE によるアレルギー炎症の難治化に、CRS 群においては IgG4 や IgG による副鼻腔炎症の難治化に関与していることが考えられた。

  • 梅野 悠太, 澤津橋 基広, 速水 菜帆, 杉山 喜一, 坂田 俊文
    原稿種別: 原著
    2021 年 67 巻 3 号 p. 160-169
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    口蓋扁桃摘出術は耳鼻咽喉科医にとって施行頻度の高い手術手技の一つである。これまで術後出血の危険因子として、男性、術者の経験年数、習慣性扁桃炎などが報告されているが、加齢と術後合併症の関連についての報告は少ない。今回、われわれは、慢性扁桃炎に対する口蓋扁桃摘出術症例に対し、加齢と手術時間や在院日数との相関因子などについて後ろ向き検討を行った。対象は 2016 年 1 月から 2019 年 4 月までに口蓋扁桃摘出術を施行された 295 例のうち、慢性扁桃炎と診断された 115 例を対象とした。また、予備的研究として病理学的検討も行ったが、術後合併症の因子として、癒着の程度や年齢といった患者側の因子や術者の技量だけでは説明が困難であった。これまで経験的に年齢の高い慢性扁桃炎患者は手術時間が長くなり、術後経口摂取も困難で、在院日数も長くなる印象があったが、本研究では若年層との比較においてその統計的有意差は認めなかった。

症例報告
  • 田中 康隆, 瓜生 英興, 増田 智也, 池尻 公二, 吉永 敬士, 中島 寅彦
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 67 巻 3 号 p. 170-174
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    われわれは、67 歳男性の気管分岐部から左耳下部に至る本邦最大級の頸縦隔型脂肪腫の 1 例を経験した。頸部および胸腔アプローチにて根治的に切除し得た。術後の合併症は認めなかった。術前の検査では、悪性腫瘍の可能性も否定できず、完全摘出を目指すために複数の科(耳鼻咽喉科・頭頸部外科、食道外科、呼吸器外科)による術前の手術方法の検討が重要である。

  • 近藤 俊輔, 比嘉 輝之, 親川 仁貴, 平川 仁, 我那覇 章, 鈴木 幹男
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 67 巻 3 号 p. 175-182
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    髄膜腫は原発性脳腫瘍の中で最も頻度が高い組織型であり、頭蓋内へ向かって進展する例が多く、頭蓋外への進展を来す例はまれである。難聴を契機に診断された中耳腔進展を伴う髄膜腫の 2 例を経験した。症例 1 は 62 歳、男性。主訴は右難聴。右鼓膜から灰白色病変が透見された。CT・MRI にて右中耳から側頭骨頭蓋内にかけて連続する腫瘤性病変を認めた。外来にて鼓膜切開を行い、鼓室内腫瘤の生検を行い髄膜腫の診断を得た。その後、脳神経外科と合同で経中頭蓋窩法および経乳突法を用いて亜全摘術を行った。術後病理は術前生検と同様に髄膜腫の診断であった。症例 2 は 45 歳、女性。主訴は左難聴。左鼓膜から白色病変が透見された。CT・MRI にて左中耳から左後頭蓋窩にかけて腫瘤性病変を認めた。外来にて鼓膜切開の上、鼓室内腫瘤の生検を行い髄膜腫の診断を得た。中耳腔から頭蓋内に進展する腫瘍性病変として髄膜腫の可能性に関しても留意する必要がある。

  • 前原 宏基, 田畑 貴久, 村上 一索, 宮城 司道, 坂田 俊文
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 67 巻 3 号 p. 183-192
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    下腿蜂窩織炎を契機に気管切開術を必要とした高度肥満症例を経験した。症例は 39 歳、男性。発熱および右下腿の発赤・腫脹を主訴に当院受診し、右下腿蜂窩織炎の診断で緊急入院となった。身長 165 cm、体重 180 kg 以上、body mass index(BMI)66.1 以上の高度肥満を認めた。入院後、敗血症による呼吸状態増悪のため、経口挿管による人工呼吸器管理を必要とした。高二酸化炭素血症のために抜管困難となり気管切開の方針となった。術前 CT では皮膚から輪状軟骨直下までの距離が 6.2 cm であった。全身麻酔下に気管切開術を行った。輪状軟骨下約 1 横指に約 10 cm 幅の凸型デザインの皮膚切開をおき、皮下から広頸筋上までの皮下脂肪組織を切除した。Bjork flap を作成し換気用補強型気管切開チューブを挿入した。術後の減量に伴い呼吸状態も徐々に改善傾向となった。カニューレ抜去困難や重篤な合併症はなく、術後 84 日にカニューレを抜去し、術後 99 日に気管孔閉鎖が可能であった。

  • 稲毛 まな, 波多野 孝, 高橋 秀聡, 佐野 大佑, 徳久 元彦, 西村 剛志, 折舘 伸彦
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 67 巻 3 号 p. 193-199
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    症例は 62 歳、男性。下咽頭癌に対し化学放射線治療を施行後、局所再発を認め、咽頭喉頭頸部食道摘出術を施行した。その後根治切除不能な頸部リンパ節転移を認め、一次薬物治療としてニボルマブを導入したが、計 4 回投与後に撮影した CT で progressive disease の判定となった。二次治療の化学療法施行中に意識障害を発症し、救急搬送となり、入院後 CK の上昇と腎機能障害を認めた。人工呼吸器管理、持続的血液濾過透析を施行しステロイド投与等の治療を行ったが奏功せずに死亡された。病理解剖では横紋筋の融解および変性の所見を認め、横紋筋融解症の診断に至った。ニボルマブ投与後に横紋筋融解症を来した症例報告は少ないが、致死的な有害事象となり得る可能性があり、慎重な経過観察が必要であると考える。

製品レビュー
  • 土師 知行
    原稿種別: 製品レビュー
    2021 年 67 巻 3 号 p. 200-210
    発行日: 2021/05/20
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    光電距離センサによる喉頭運動計測システム(ノドミル OE-NDMR01)を用いて嚥下時の喉頭運動を測定し、嚥下機能評価における有用性について調べた。健常な成人男性 4 名と成人女性 2 名で試行し、いずれも明瞭な喉頭運動曲線が得られた。この運動曲線のデータから嚥下機能評価の指標として、1 )喉頭最大挙上距離、2 )喉頭挙上・下降ピーク速度、3)喉頭挙上持続時間、4 )喉頭挙上到達時間を提案した。本システムは「喉頭隆起が不明瞭な例では測定が難しい」、「頸部を伸展して計測する必要がある」、「喉頭挙上位置での喉頭隆起を正確に検知できない例がある」、「絶対的な座標表示が難しく、VF でのデータと単純に比較できない」など改良すべき点もあるが、非侵襲で比較的安価であり、放射線被曝もなく、簡便にデータの集積が可能なため、嚥下のメカニズムの解明や、嚥下障害のスクリーニングあるいは嚥下リハビリテーションの評価に有用であると考える。

臨床ノート
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