顔面神経麻痺は Bell 麻痺と Ramsay Hunt 症候群によるもので大多数を占め、腫瘍性病変によるものの頻度は少ない。われわれは右顔面神経麻痺で発症した膀胱癌の髄膜癌腫症の症例を経験したので報告する。症例は 59 歳、男性。右顔面神経麻痺を発症し、他院でステロイド治療が行われていた。顔面神経麻痺発症の半年前に表在性膀胱癌に対して膀胱全摘術の既往があった。治療開始 2 カ月後、顔面神経麻痺の改善を認めず、また嚥下障害も生じたため当科を受診した。頭部造影 MRI にて中耳、乳突洞の軟部組織陰影と中~後頭蓋窩の硬膜の肥厚を認め、耳漏からの細胞診が class Ⅴであった。乳突洞試験開放を行い組織診断を確定した。表在性膀胱癌の髄膜癌腫症は非常にまれであるものの、本症例では、頑強な頭痛、難治性の顔面神経麻痺、多発脳神経麻痺といった非典型的な症状を生じていたため、当初より腫瘍性麻痺を念頭に精査をすすめ、適切な化学療法を施行し得た。ステロイド治療に反応の乏しい顔面神経麻痺の場合、腫瘍性麻痺の可能性に留意する必要性を再認識した。
基礎疾患として慢性閉塞性肺疾患(COPD)があり、治療のための器具使用を契機として、隆鼻術施行時鼻背部に留置したプロテーゼ周囲に蜂窩織炎を起こしたため、摘出した 2 例を経験したので報告する。プロテーゼ摘出例は、美容外科関連の文献にて頻出するが、COPD のために病院での内科的治療が必要であり、容易に美容外科にて治療できない症例が高齢化社会の到来とともに増加することが予想され、一般病院の耳鼻咽喉科医も留意しておくべきと考えられる。
56 歳、男性。1986 年に右腎に腫瘍性病変を指摘されたが、放置、増大したため、1992 年に福岡大学病院泌尿器科で右腎摘出術を施行し、病理検査にて clear cell carcinoma の診断を得た。インターフェロン α 療法を術後治療として施行し、1997 年まで再発の兆候は認めなかった。2005 年頃より咽頭の違和感を自覚、改善しないため、喉頭蓋腫瘍を指摘され福岡大学病院耳鼻咽喉科紹介となった。喉頭蓋の喉頭面にカリフラワー状の腫瘤を認めた。硬性直達鏡による喉頭腫瘍摘出術を行ったところ、病理診断は clear cell carcinoma であった。腎臓からの転移が疑われたため、泌尿器科で精査したところ、左腎の上・中部に不均一に造影される腫瘤性病変があった。両側肺に多発する腫瘤性病変と右肺門・縱隔にリンパ節の腫脹、左上腕の三角筋内に腫瘤性病変を認めた。左腎腫瘍に対し、transcatheter arterial embolization(TAE)、インターフェロン α・インターロイキン 2 で治療を施行し、腎病変は Complete Remission(CR)となった。その後、腎臓に局所再発し、 2012 年に亡くなった。その間、喉頭病変の再発は認めなかった。
症例は 63 歳、女性。40 数年前から関節リウマチに罹患しており、10 年以上メトトレキサート(Methotrexate:MTX)、タクロリムスを服用していた。201X 年 8 月下旬に左耳下部腫脹と疼痛を認めたため、近医内科クリニックより総合病院耳鼻咽喉科を紹介受診した。造影 MRI にて左耳下腺深葉に腫瘍性病変を認め、穿刺吸引細胞診にて class Ⅲ b の結果であった。悪性の可能性が否定できないため、手術加療目的に九州大学病院耳鼻咽喉科紹介受診となった。耳下腺原発悪性腫瘍が疑われたため、10 月 6 日に左耳下腺全摘術を施行した。永久病理診断の結果、組織型は Diffuse Large B Cell Lymphoma(DLBCL)、EBER 陽性であったため MTX 関連リンパ増殖性疾患と診断した。術後 MTX 内服を中止し、以後再燃を認めていない。本邦では関節リウマチ罹患者の多くが MTX を服用している。MTX 服用中の関節リウマチ患者に頭頸部腫瘍性病変を認めた場合は、本症を十分に念頭に置き、診断、治療にあたる必要がある。
類上皮血管腫、別名 angiolymphoid hyperplasia with eosinophilia(ALHE)は、紅色丘疹や結節が頭頸部に発生する原因不明のまれな疾患である。今回われわれは、木村病との鑑別が難しく、かつ術前に動脈瘤が疑われた耳下腺深葉に発生した ALHE の 1 例を経験したため報告する。症例は 29 歳、男性で、左耳前部に 5.5 × 3.5 cm の拍動性腫瘤を認めた。MRI では、T1、T2 強調画像で淡い高信号を呈し、不均一に造影され、内部に flow void を伴う腫瘤を認めた。MRA では浅側頭動脈分枝の流入を認めた。耳下腺動脈瘤の診断にて摘出術を施行した。腫瘤は耳下腺深葉に位置し、血管の流入を認めた。切除標本の病理組織所見で、類上皮様に腫大した血管内皮細胞で裏打ちされた未熟な毛細血管の増殖を認め、間質に多数の好酸球やリンパ球の浸潤を伴っていた。免疫組織化学染色で腫瘍細胞に血管内皮マーカー(CD31 と CD34)陽性が確認され、類上皮血管腫の診断となった。術後 3 年経過するが、再発は認めていない。