声帯の病変を考える時, その形態的な変化であるとか, 充血や白血病変のように色調の変化, あるいは声帯の閉鎖, あるいは開大といつた機能的な面をまず考えることが出来る. それらはまた直接視覚的にとらえることのできる病的変化であるといえる. したがつて音声自体の聴覚的印象の変化や, 音声力学的検査の結果, あるいは筋生理学的検査の結果などと結びつけてとらえることができるので, そのもの自体の病変を理解するのにさほど困難ではない.
しかしながらここで, 更に考慮に入れなければならない病変のひとつに, 声帯の粘膜における“硬さ”の変化がある. それはもちろん音声外科的な治療の対象となるようなもの, すなわち声帯ポリープ, 声帯結節, あるいは腫瘍性疾患そのものにおける硬さの問題としてとらえるのはもちろんであるが, 一方向など肉眼的に変化のない声帯粘膜において, 声帯振動の異常, 嗄声の存在の場合など, 若干異なつた視点から問題とされるべきことである.
実際に日常診療において, その声帯の肉眼的所見に此較して, 嗄声が著しく, また声帯振動の障害がはなはだしい場合が少なくない. そのような時, われわれは“硬そうな粘膜”といつた表現を用いることがある. ひとつには術後性の疲痕であり, また強度の局所的炎症の残遺症であり, また粘膜上皮下における浸潤性の悪性腫瘍など, いろいろな場合が考えられる.
声帯粘膜の硬化を予想できる検査というのは確実にはなく, 発声時における声門抵抗の測定などが日常臨床検査として行いうればひとつの指標とはなるかも知れない. したがつて予想しうる場合というのは, 声帯振動の様式が変化し, かつ聴覚上声帯の肉眼的変化に比して嗄声が強い場合で, それにともない音声検査にも変化がある場合である.
声帯粘膜上皮の硬さを考慮した場合, 硬さの増加ということがまず念頭にうかぶのであるが, 逆に減少ということも考えなくてはならない. 声帯はひとつの固体であることはまちがいがないが, その構造は等質ではないので物理学でいう“均質等方性-homogeneous and isotropic-”ではなく, したがつてその物理学的特性は極めて複雑であるといえる. しかしその複合された物理的特性の中で, 完全弾性体としての物質と可塑性体としての物質としての性質がある範囲内で混在したものと考えることはできるわけである. その点でわれわれが声帯をみる時に, “硬化”ばかりではなく“軟化”という面でも注目すべきことである. すなわち完全弾性体側へのシフト, また可塑性体側へのシフトの量に注目すべきである. ここで可塑という言葉を便宜上用いているが, 本来は粘液をのせた構造, あるいは粘膜の粘性を考えた上で, 発声という経時的な量をも加味した上で解析すべきことであり, つきつめれば時間の影響も考慮して弾性, 可塑性, 粘性などの現象を一括してとりあつかう“流動学” (Rheology) の対象なのである1). ここで具体的に声帯のポリープ様変性を考えてみれば正常な声帯構造よりは鯉軟らかそうだ”という印象を容易に受けるし“, また声帯結節が一見硬そうにみえても強倍率の顕微鏡下では意外に“硬くなさそうだ”という印象をもつことがある. いずれにしても声帯粘膜や疾患そのものの硬さが測定しうれば, 臨床上でも, またその発声の基礎的面でもかなり寄与することが多いと考えてさしつかえない.
以上のような観点からして, 生体の一部を局所的にしかもin vivoにおいて, 硬度としてとらえられないかと考え, 特に喉頭内視鏡下ということを考慮に入れて, 一応の方法を考案したので以下報告する.
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