早期舌癌の治療戦略、中でも予防的頸部郭清術の適応に関する過去の報告と自験例について述べた。予防的郭清術の適応あるいは郭清の省略が許容される範囲は必ずしも明らかになっておらず、ランダム化比較試験の結果が待たれる。現在、Stage I/Ⅱ舌癌に対する予防的頸部郭清省略の意義を検証するランダム化比較第Ⅲ相試験(JCOG1601)が実施されているが、これは腫瘍深達度が 3 − 10 mm の T1/2 舌癌で予防的頸部郭清術の省略が可能であるかどうかを検証するための試験である。
早期舌癌治療の大きな論点となっている潜在的頸部リンパ節転移を予測する上で、腫瘍が転移能を獲得する十分な時間経過を有するという観点から原発巣の進達度、また腫瘍が実際に遊走能・浸潤能を獲得しているという観点から腫瘍深部浸潤先端部における浸潤様式が重要と考えられる。本稿では早期舌癌における潜在的頸部リンパ節転移の予測因子としての depth of invasion を含めた腫瘍の深達度や、YK 分類や大腸癌における簇出や低分化胞巣を含めた腫瘍深部浸潤先端部における浸潤様式の有用性について述べる。
局所進行頭頸部癌に対する標準治療は手術+同時放射線化学療法(CCRT)または CCRT である。再発転移性頭頸部癌における First line 標準治療は FP + Cetuximab であるが、プラチナ耐性、不耐症例に対しては Paclitaxel + Cetuximab も有効である。Nivolumab はプラチナ抵抗性頭頸部癌において生存期間の改善が報告され、今後他の免疫チェックポイント治療も承認されると考えられる。有害事象管理についてはチーム医療が必要で、当院では TEAM ERBITUX、TEAM IT を組織して多診療科、他職種が加わるチーム医療を行っている。
声門上癌/下咽頭癌 T1、T2 症例に対する治療においては喉頭温存が指向されるが、頸部リンパ節転移を伴う場合の治療予後に関する詳細な報告は少ない。今回、2001 年から 2018 年の間に兵庫県立がんセンターで初回治療として化学放射線療法を行った症例の治療成績を報告した。下咽頭癌では原発巣制御は良好で発声機能や嚥下機能も比較的保たれていたが、頸部リンパ節再発は 29.7%と多く救済頸部郭清術を施行しても予後不良であった。遠隔転移巣の制御と合わせて頸部転移巣の制御も課題として依然残るものと考えられた。
経口的咽喉頭部分切除術(TOVS)と頸部郭清を施行した声門上・下咽頭癌 T1-T2、N + 症例 29 例の治療成績と術後嚥下機能を、術後(化学)放射線の追加の有無に分けて解析した。全体の治療成績は良好で、術後照射なしの群、術後放射線治療のみ施行した群、術後化学放射線治療を施行した群とも良好であった。術後嚥下障害は、全体で 29 例中 5 例に、術後照射なしの 13 例中 4 例に、術後放射線治療のみ施行した 12 例中 1 例に見られたが、術後化学放射線治療を施行した 4 例の中には嚥下障害を来した症例はなかった。従って、声門上・下咽頭癌 T1-T2、N + 症例に対する TOVS + 頸部郭清は、手術単独でも制御できる可能性があり、また術後に(化学)放射線療法を追加した場合であっても、機能障害(嚥下障害)は明らかには悪化しないと考えられた。