耳鼻と臨床
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原著
  • 樽谷 勇, 松尾 美央子, 橋本 和樹, 古後 龍之介, 次郎丸 梨那, 本郷 貴大, 真子 知美, 中川 尚志
    原稿種別: 原著
    2023 年 69 巻 2 号 p. 75-81
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    上咽頭癌は、ほかの頭頸部癌とは異なる側面を持つことから、予後因子も通常の頭頸部扁平上皮癌とは異なる。2018 年に TNM 分類が改訂され、上咽頭癌も変更されたため、今回われわれは、新 TNM 分類を用いて、当科で加療を行った上咽頭癌症例について予後の検討を行った。対象は、2010 年 1 月から 2020 年 1 月に九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科で一次療法を施行した上咽頭癌 45 例である。男性 31 例、女性 14 例、年齢は 12 − 88 歳、中央値 59 歳であった。これらのうち、上咽頭扁平上皮癌であった 40 例における 5 年全生存率(以下 OS)、無増悪生存率(PFS)、予後関連因子などについて後方視的に解析を行った。その結果、5 年 OS は 75.5%、5 年 PFS は 64.3%であった。予後関連因子として、Stage 別や組織型、Epstein-Barr Virus 陽性か否かによる有意差は認められなかった。また、上咽頭癌治療の軸となるシスプラチン併用化学放射線療法については、シスプラチンの至適投与量についてさらなる検討が必要と考えられた。

  • 北村 匠, 宮地 英彰, 佐藤 伸宏, 梅﨑 俊郎, 森田 紘生, 立野 綾菜, 蔦本 伊緖里, 加賀 勇輝
    原稿種別: 原著
    2023 年 69 巻 2 号 p. 82-88
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    近年、干渉波(Interference current:IFC)刺激の嚥下動態への補助的効果や、嚥下反射遅延改善の報告があり、嚥下障害診療における IFC 活用が望まれている。そこで IFC 刺激を併用した嚥下訓練効果を VF で評価した 14 例を対象とし、聖隷式嚥下質問紙結果と喉頭挙上遅延時間(Laryngeal elevation delay time:LEDT)の訓練前後の変化を調べた。 結果、質問紙の A 項目数は、8 例(57.1%)で減少していた(有意差なし、p = 0.109 > 0.05)。また、平均 LEDT は訓練前 0.46 ± 0.19 秒から訓練後 0.33 ± 0.09 秒と短縮し、有意差を認めた(p = 0.016 < 0.05)。結論として、IFC 刺激を併用した嚥下訓練は、自覚症状を改善させ、従来の嚥下訓練で改善が難しいと考えられていた咽頭期嚥下惹起の遅延を改善させる可能性があることが分かった。

症例報告
  • 真鍋 敬宏, 野田 哲平, 小宗 徳孝, 土橋 奈々, 松本 希, 中川 尚志
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 2 号 p. 89-96
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    2016 年から 2021 年にかけて当科で手術を行った側頭骨グロムス腫瘍の 4 例について報告する。4 例の内訳として鼓室型 2 例、頸静脈球型 2 例に対し治療を行った。鼓室型の 2 例では拍動性耳鳴を認めた。術前聴力検査では 3 例で患側の聴力低下と気骨導差を認めた。頸静脈球型のうち 1 例では生検、切除、再手術と 3 回の手術を必要とした。血管塞栓術は鼓室型、頸静脈球型それぞれ 1 例ずつ施行し、すべての症例において、術前後の神経脱落所見は認めなかった。1 例は残存病変があるものの増大なく経過しており、その他 3 例は再発・再々発なく経過している。グロムス腫瘍は血流豊富であり、栄養血管の塞栓や高周波バイポーラの使用が安全な手術に有用と考えられる。

  • 三橋 亮太, 佐藤 公宣, 田中 久一郎, 川口 壽比古, 深堀 光緒子, 黒岩 大海, 小野 剛治, 千年 俊一, 梅野 博仁
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 2 号 p. 97-103
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    われわれは拍動性耳鳴を呈する内頸動脈鼓室内脈走行異常の 1 例に対して手術加療を行った。症例は 19 歳の女性で数年前から拍動性耳鳴が増悪し、難聴も出現したため紹介となった。鼓膜前下象限に淡紅色の拍動性腫瘤を認め、側頭骨 CT で下鼓室小管の拡大と動脈の走行異常および異常血管が頸動脈水平部に移行する所見を認めた。内頸動脈鼓室内走行異常による拍動性耳鳴と診断した。手術の予想される効果と内頸動脈損傷のリスクについて説明を行い、手術を行った。薄切軟骨で意図的に浅在化した鼓膜を形成し、長いコルメラによる Ⅲ c 型伝音再建を行い拍動性耳鳴の消失と伝音難聴の改善を認めた。術中出血は微量であった。本疾患は手術操作による大量出血の可能性があるが、診断確定のもと注意深く手術操作を行うことは必ずしも危険ではない。鼓膜の意図的浅在化と長いコルメラによる伝音再建を行うことは拍動性耳鳴の改善と伝音難聴の改善にも有効であると考えられた。

  • 三橋 亮太, 田中 久一郎, 川口 壽比古, 伊東 智樹, 佐藤 公宣, 小野 剛治, 千年 俊一, 梅野 博仁
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 2 号 p. 104-109
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    側頭骨骨折が外リンパ瘻(PLF)を生じることは一般的に知られているが、その診断は困難である。そのため側頭骨骨折による PLF は見逃されている可能性がある。両側側頭骨折により両側 PLF を発症した 1 例を報告する。症例は 18 歳、女性。交通外傷による急性硬膜下血腫の集中治療後に、両側顔面神経麻痺を認め、脳神経外科医より精査を依頼された。歩行可能で、めまいを訴えなかったため前庭障害は疑われていなかった。両側顔面神経麻痺、両側難聴に加え、暗視下の起立も困難であり、赤外線眼振計で自発眼振と頭位眼振を認めた。PLF を疑い、両側試験的鼓室開放術を施行した。両側内耳窓からのリンパ液の漏出を認め、両側内耳窓閉鎖術を行ったところ、翌日には暗視下での歩行可能となった。めまいの訴えがなくても側頭骨骨折症例では PLF を疑い、耳鼻咽喉科で精査を行う必要があると思われた。

  • 大久保 佑香, 北岡 杏子, 佐藤 智生, 木原 千春, 熊井 良彦
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 2 号 p. 110-115
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    悪性腫瘍の頭蓋底骨転移は、その転移巣の位置によって頭痛や複視から嚥下障害、構音障害などの脳神経麻痺症状を含め、多彩な症状を示す。今回、その中でも斜台転移巣の増大が難聴・めまいといった内耳障害を契機に発見された。本症例のように初発症状としてめまいや嗄声、嚥下障害、構音障害など耳鼻咽喉科が初診となる症状が出現することがある。脳神経障害が発症すると患者の quality of life(QOL)は著しく低下することが多い。担癌患者にこのような症状を認める場合は、頭蓋底骨転移も鑑別に挙げて画像検査などを用いた早期発見に努め、放射線治療などにつなげることが望ましい。

  • 村上 大輔, 空閑 太亮, 小宗 徳孝, 迎 伸孝, 宮本 雄介, 鈴木 智陽, 齋藤 雄一, 樋口 良太, 吉本 幸司, 中川 尚志
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 2 号 p. 116-123
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    症例は 18 歳、男性。3 年前に意識消失を伴うてんかん発作を発症、その後薬物治療を行うもてんかん発作を繰り返す状態であった。画像検査で中頭蓋窩から蝶形骨洞側窩に陥入する側頭葉の髄膜脳瘤を指摘され、側頭葉てんかんの焦点と考えられたため髄膜脳瘤切除目的に当院入院となった。経鼻内視鏡下に蝶形骨側窩の髄膜脳瘤を切除し、その後、有茎中鼻甲介粘膜弁を用いて多層での頭蓋底再建を行った。術後、てんかん発作は消失、髄液漏や創部の合併症なく経過している。蝶形骨洞側窩のように蝶口蓋孔近傍で限局した箇所であれば鼻中隔粘膜弁でなくても中鼻甲介粘膜弁での代用が可能で、minimal transpterygoid approach を用い、さらに蝶口蓋動脈とその分枝である中鼻甲介動脈を温存することで頭蓋底再建時に中鼻甲介粘膜弁の利用が可能となった。

  • 野尻 尚, 奥田 匠, 津曲 省吾, 猿渡 英美, 井手 慎介, 東野 哲也
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 2 号 p. 124-128
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    症例は 10 歳代の女子で、数年前から嚥下時の違和感があり、起床時の突然の嚥下困難と喀血のため近医耳鼻咽喉科を受診した。右口蓋扁桃下極付近に基部を有する 3 cm 程の暗赤色の腫瘤により咽頭腔は狭窄し、出血を伴う中咽頭血管腫の疑いで翌日当科を紹介された。当科初診時には腫瘤は発赤腫脹し白苔の付着を認め、炎症を伴っていると考えられたが、血液検査では軽度の炎症反応を認めるのみで、凝固機能も正常であった。翌日の造影 MRI では腫瘤上縁と口蓋扁桃の下極の一部に境界が不明瞭な領域を認め、ADC 値は低値であり、悪性リンパ腫や固形悪性腫瘍も鑑別として考えられた。初診から 1 週間後には腫瘤の発赤腫脹は軽減し、連続する右口蓋扁桃と同様の外観となり、生検でも炎症を伴う扁桃組織の診断であった。再燃を警戒し、初診から 3 週間後に口蓋扁桃摘出術を施行した。病理組織学的検査で腫瘤部分は扁桃の過形成性組織で、悪性所見は認めなかった。

  • 小出 彩佳, 梅﨑 俊郎, 松原 尚子, 鈴木 智陽, 中島 寅彦
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 2 号 p. 129-133
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    喉頭平滑筋肉腫はまれな喉頭悪性腫瘍である。症状は非特異的で診断に難渋し、治療法は確立されていない。今回われわれは喉頭平滑筋肉腫の 1 例を経験した。症例は 57 歳、男性。保存的加療に反応しない左声帯ポリープとして来院した。左声帯前方 3 分の 1 に粘膜下腫瘍を認め、ラリンゴ所見では左声帯嚢胞が疑われ嚢胞開放術を施行した。術後 1 カ 月で再発し、ストロボスコピーで左声帯全体の粘膜波動消失を認めたことから、粘膜下悪性腫瘍を疑い、再度ラリンゴマイクロ下に腫瘍切除し、喉頭平滑筋肉腫の診断に至った。治療法として治癒切除を検討し、喉頭垂直部分切除術を選択した。術後半年経過するが、局所再発なく経過している。過去の文献では喉頭全摘術を選択することが多いが、腫瘍の進展範囲が治癒切除可能な場合は、術後の音声機能温存の観点から喉頭垂直部分切除術も治療の選択肢に加えるべきと考えられる。

  • 青山 尭央, 川北 大介, 的場 拓磨, 村嶋 明大, 蓑原 潔, 中井 一之, 岩城 翔, 柘植 博之, 近藤 綾乃, 讃岐 徹治, 岩﨑 ...
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 2 号 p. 134-138
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    放線菌症は Actinomyces 属の感染による炎症性疾患である。近年では局所炎症、疼痛を主とする急性型は減少し、腫瘤形成を生じる慢性型が増加している。頭頸部に好発するが、喉頭病変は極めてまれとされる。今回われわれは喉頭放線菌症の 1 例を経験したので報告する。症例は 71 歳、女性。2 カ 月前からの嗄声を主訴に紹介受診した。喉頭内視鏡にて声門部に壊死様白色腫瘤および左声帯麻痺を認め、悪性腫瘍との鑑別を要する臨床所見であった。同部から組織生検を行い喉頭放線菌症と診断した。左声帯麻痺は炎症性変化と考えられた。アモキシシリンを 8 週間内服し、以後声帯麻痺は残存したものの再発なく経過している。本疾患は頻度が高くないため往々にして診断に苦慮する場合がある。 腫瘤性病変を確認した際に本疾患も念頭に入れることで早期診断につながると考えられる。

  • 大平 彩菜, 山本 馨, 村上 あゆみ, 羽田 華練, 柊 陽平, 木谷 洋輔, 高橋 秀聡, 佐野 大佑, 折舘 伸彦
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 2 号 p. 139-144
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー

    症例は 73 歳、男性、嗄声を主訴に受診した。左声帯白板症の経過観察中、初診から 13 カ 月後に右声帯前方にポリープ様腫瘤が出現し、全身麻酔下での切除生検時の病理所見と術後の画像診断で紡錘細胞癌(T1aN0M0)と診断した。切除断端が陰性であったため、追加治療は施行しない方針とした。治療後 1 年 6 カ 月経過し、再発なく経過している。紡錘細胞癌は扁平上皮癌と紡錘形細胞の 2 相性細胞で構成されるものであり、扁平上皮癌の亜型とされている。頭頸部領域では発生部位は喉頭が最多であるが、その発生頻度は喉頭悪性腫瘍の 1%程度とまれである。喉頭紡錘細胞癌はポリープ様、外向性発育を示すことが特徴であり、良性病変との鑑別が重要である。治療は手術を施行されることが多いが、症例数が少ないことから放射線治療や薬物治療のエビデンスが乏しく、治療標的を含む分子生物学的な特徴の解明が必要である。

臨床ノート
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