マイコプラズマの生態学的研究の一環として,家畜の腫瘍と本菌属の関係を究明するため,各種家鳩腫瘍からマイコプラズマの分離を試みた.その結果,悪性リンパ腫症を呈した2頭の犬の牌臓およびリンパ節より,3株のマイコプラズマを分離した.これらのマイコプラズマの性状を調べ,同定を行ない,腫瘍から分離された意義について検討した.成績を要約すると,次のとおりである.I.牛8,馬2,豚6,犬9,猫I,ラット1,マウス1,鳩1の個体から,各種の腫瘍(ma11g-nantlymphoma,papi11arycarcinoma,lympho一sarcoma,rcticuIosarcoma,fibrosarcomaおよび未分類腫瘍)合計59材料を採取し,マイコプラズマの分離を試みたところ,悪性リンパ腫瘍の犬2頭の牌臓および腋窩リンパ節より,3株のマイコプラズマを分離した.他の腫瘍材料からのマイコプラズマ分離は,すべて陰性の結果に終わった.2.これらのマイコプラズマは発育阻止試験により,そのうち2株がMycoPlasmacanis,他の1株がM.edwardiiと同定された.各種生物学的生状検査の結果,これらの株は,標準株のM.canisPG-14およびM.edwardiiPG-24と,それぞれ全く一致する性状を示した.3.これらのマイコプラズマが犬の腫瘍から分離された意義を検討するため,外見的健康犬19頭,腫瘍およびそれ以外の各種疾病罹患犬21頭において,上部呼吸器道,泌尿生殖器道,内臓諸器官およびリンパ節から,マイコプラズマの分離をこころみた.健康犬からは気管18/19,膣5/7,肺1/19からのみマイコプラズマが分離されたが,その他内臓およびリンパ節は全《陰性であった.これに対し,病犬からは,気管6/13,膣3/6,尿道2/2ばかりでなく,内臓諸器官すなわち肺4/17,肝1/16,腎2/16,牌2/17,リンパ節4/18からもマイコプラズマが分離された.4.これらのマイコプラズマからクローン化された58株につき,発育阻止試験によって同定を行なったところ,31株はM.canis,7株はM.edwardii,15株はM.sPumans,5株はM.ma-culosumで,すべて犬由来の既知のマイコプラズマであった.このことから,これらのマイコプラズマは,健康犬においては,上部呼吸器道および泌尿生殖器道に正常菌叢として存在しているが,腫瘍を含め各種疾病に罹患した場合,正常の防衛機構の異常が起こり,内臓およびリンパ節にも分布したものと考えられる.家畜腫瘍のウイルス学的検索において,マイコプラズマの存在に対し注意が喚起される.
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