幼犬5頭を用いて挙手動作の調教を連日行ない, 挙手動作の主働筋である上腕二頭筋より筋電図を3~4日間隔で記録した. 筋電図は一般に, 動作に対応する持続性活動電位と, それに先行する疎な活動電位に区別された. 前者の潜時, すなわちpremotor time (PMT)は調教の進展と共に短縮しかつ一定となり, 調教の成果が明らかに認められた. その過程は無反応期, 遅反応期, 移行期, 完成期に区別され, 完成期におけるPMTは平均で119~358 msecであった. また, 調教の一時休止によって, PMTの延長ならびにバラツキの増大が認められた. 後者の潜時, すなわちpreceding potential latency (PPL)は9~1135 msecの広い範囲に分布したが, 15 msecにmodeをもつ群, 75 msecにmodeをもつ群および150 msec以上の群の3群に大別された. 視覚遮断, 挙手の合図に伴う音の遮断の実験によって, 75 msecにmodeをもつpreceding potentialの発現は聴覚入力に, 150 msec以上のものは視覚入力に依存すると推測された. これらの結果から, 挙手反応の運動プログラムは調教初期では主に視覚, 完成期に近づくにつれて聴覚に依存するようになると考えられた. また, 調教の出来の良い動物では早く完成期に達するほか, PMTが短かく, そのバラツキも小さく, あるいはpreceding potentialが完成期に消失するなど, 個体の調教適性が挙手反応時の筋電図パターン上に多面的に反映された.
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