本研究では,飛驒山脈北部,杓子岳南東斜面に位置する杓子沢氷河において,2022年10月14~15日と2023年9月18日に掘削した706 cmと330 cmの2本のアイスコアを用いて,氷化過程と氷化年数を推定した.コア中の花粉濃度分析と酸素同位体比測定をおこなった結果,全花粉濃度ピークとd-excessの低い夏期層の重なりはほぼ一致し,全花粉濃度ピークは年層境界になりうることが示唆された.コアの堆積層を調べたところ,従来年層として用いられてきた汚れ層と全花粉濃度が一致せず, 汚れ層を年層境界として積雪の堆積層を区分すると過小評価する可能性があることがわかった. 複数年における積雪最大期の数値表層モデル(DSM)から求めた冬期積雪深を用いて上載荷重を推定した結果, 圧密による氷化が可能であることがわかった.また,コアの堆積層と質量収支の観測結果から,杓子沢氷河の氷化過程は,融雪末期のフィルン-氷遷移境界が雪面から深い位置にある場合は圧密氷化,これが浅い位置にある場合は,高密度化フィルンに含まれる間隙水の凍結(雪ごおり化)と圧密氷化が考えられる.氷化年数は雪ごおり化が関与する場合で1~3年,圧密氷化のみで4年~と推定された.