本稿では,小学校国語科教科書に掲載されている伝記教材を軸に学習マンガ,映画を対象として被伝者「宮沢賢治」の語られ方の差異について検討した。 従来の単一テクストの伝記教材のみの学習では,被伝者を多面的に見ることや,筆者の存在に意識的になることが難しいとされてきた。また,被伝者と学習者の距離感が課題とされてきた。そこで,学習マンガや映画を含む複数テクストを用いた比べ読みを行うことで,そのような課題を克服し新たな伝記教材の価値とともに,複数メディアによる教育の新たな可能性を提示することを目的とした。分析の結果,テクスト間の語られ方の差異や,そこから与える被伝者像が変化していることが明らかとなった。大学4年生を対象とした授業実践においてもテクストによって与える被伝者の印象が違うことや,被伝者の様々な一面に出会えたことから被伝者と学習者の乖離についても本稿の内容が一助となることを示唆している。
本論の目的は,英作文上の誤りに与えるメタ言語的筆記訂正フィードバックを用いた訂正法に着目し,個人で利用し自己訂正した場合と,学習者間で共有し,話し合いながら協働で訂正した場合における直説法・仮定法の正確さに与える効果を比較検証することである。日本人大学生64名を2つの群に分け,直説法・仮定法の知識上の正確さを測る時間制限のない文法性判断テストと,英作文における生成上の正確さを測る和文英訳テストを実施した結果,両テストにおいて,協働で訂正した方が,個人で訂正したよりも正確さの向上が見られた。その理由を探るべく,協働での訂正の際に生じた言語に関するやり取り(Language-Related Episodes, LREs)を分析した結果,学習者間で支援を与えあうことで,各学習者にとって必要なメタ言語的情報の獲得に繫がり,また個人での自己訂正では得られなかったメタ言語的思考の機会等が得られることが確認された。
本研究では,日本の国際バカロレア(以下IB)認定校における家庭科教育の展開の現状と課題を明らかにすることを目的とした。研究方法は,MYP(Middle Years Programme)における「デザイン(Design)」,「技術・技能」に関する教科観や実践等に着目しながら,文献調査及びIB認定校の家庭科教員への質問紙調査,インタビュー調査を実施した。また,インタビュー調査の分析ではKJ法を用いたグループ化,図解化を行なった。その結果,家庭科とIBの関連性や,「デザイン」における課題,実践している授業内容の特徴等の現状が明らかとなった。そして,調査結果に基づいて,生徒自身が製作物を決定し,その計画や遂行の中で技術・技能を習得していく展開の可能性等,今後の家庭科における製作等に関わる技術・技能教育や生活者教育への示唆を得ることができた。
本研究の目的は,学習者が文学テクストとの主体的な関わりにおいて読みの妥当性を探求する「批評」の様相を分析し,批評する力について考察することにある。研究の方法としては,ガダマー解釈学と山元(2011)を分析枠組みとして設定し,学習者13名の批評文を対象として質的分析を行う方法を採った。研究の結果,批評する力は「テクスト世界に参加するために,批評の拠り所である自らの経験や思考を〈批評枠〉やテクストに応じて選択・適用する力」「テクスト世界への自己の参加を分析して相対化する力」「参加と相対化の往還のなかで弁証法的にテクストを価値づけ,意味づける力」の3点を含むことが明らかになった。
近年,国語教育学における読むことの学習指導の領域において教材性が認められてきたものに,「ポストモダン絵本」がある。一方で,日本の学習者は,どのような段階で,ポストモダン絵本のどのような側面を読むようになるのかは明らかになっていない。本研究では,日本の学習者はポストモダン絵本に対してどのような反応を示すのかを,小学校4年生,小学校6年生,中学校2年生を対象にした調査によって,発達的な視点から明らかにしつつ,ポストモダン絵本の教材価値を検討することを目的とした。結果,初読の感想のみではポストモダン絵本特有の傾向は積極的に支持しにくいものの,直接的,明示的な指導がない状態で学習者が小集団の話し合いを行うと,小学校4年生段階でもスタンスの移行が認められたり,テクストを自らと関わらせ,自らの価値観を相対化するように読んで解釈を更新できたりする点にポストモダン絵本の教材的な価値があることが示唆された。
本研究は,小学校の外国語科の授業において,ルーブリック形式の自己評価を取り入れた実践を行うことで,子どもたちの自己調整する力に変化があるかを明らかにすることを目的としている。東京都内公立小学校の5・6年生254名を対象に,外国語科の話すこと[発表]の指導において,ルーブリック形式の自己評価カードを活用しながら準備や練習,自己評価を行うプレゼンテーションの授業を実施した。自己調整する力を測るために,高校生向けのEMSR-Qを小学生向けに修正した質問紙を使用した。分析の結果,5年生では実践の前と後で,Learning SRが有意に伸びていることが明らかになった。記述統計より,5・6年生の子どもたちは,外国語科の授業中に自己調整に関わる思考をしていることが分かった。