本研究の目的は,初級L2学習者のスピーキングに関わる問題として挙げられる「即興性」の本質を明らかにすることである。まず,「即興性」を,Levelt(1989)の4つの機構を漸増・並列処理させようとするプロセスと捉えた。そのうえで,L2の「即興性」には,主に概念処理・形式処理間の注意資源の配分の問題と,母語の介入に関わる問題があると指摘した。その際,言い換えの方略は,日本人英語学習者を含む初級L2学習者の「即興性」を支援する具体的な方略として捉えられることを示した。これらを踏まえ,最後に,初級L2学習者の「即興性」の本質について整理した。
中学校学習指導要領(平成29年告示)解説国語編では,「言葉による見方・考え方」に関して,「生徒が学習の中で,対象と言葉,言葉と言葉との関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目してとらえたり問い直したりして,言葉への自覚を高めること」と示され,その重要性が謳われている。そこで,本研究では,俳人による俳句と学習者による創作俳句を教材として用いた学習者の言語活動を質的に分析することで,「言葉による見方・考え方」が働く学習活動の具体を明示した。また,この分析から,俳句作品の読みを広げたり深めたりすることで,学習者自身の鑑賞を変容させる言語活動は,「言葉による見方・考え方」を働かせるための重要な要素となり,この要素を引き出すために俳句の協働鑑賞が有効であることを明らかにした。これらの結果は,「言語による見方・考え方」が働く俳句の授業を実現するには,学習教材として扱う俳句の種類や授業形態も重要な要素となることを示唆している。
小学校学習指導要領を対象に平成29年版図画工作科の教科の目標にある「自分の感覚や行為」,昭和33年版から平成29年版について経年比較や教科間比較を行い,類似点や相違点を見出すことにより,文言出現数の動向を明らかにした。調査の結果,図画工作科では,昭和33年版から昭和46年版への移行と,平成20年版から今回改訂平成29年版への移行について,類似の傾向が見られた。また,類義語を含め「感覚」に関する文言は増加傾向にあった。系統主義・経験主義の視点,民間美術教育運動との関わりの視点等で考察した結果,学習指導要領の枠組みが変わった平成29年版以降も,「感覚」等は重視されるのではないかと結論付けた。
本研究の目的は,「マットの上でどのような遊び方ができるか」をテーマにした課題解決型の授業において,低学年児童が何を契機に遊び方を工夫するのかを明らかにすることである。方法として,遊び方を工夫する過程をエピソード記述法によって記録し,ゲーム論に基づいて分析・考察を行った。その結果,教師が計画段階で想定していた「マットの置き方に触発される」,「自分や他者とマットの置き方を変えてみる」,「他者の遊びに混じる」,「他者についていく」,「挑戦的な問いかけに触発される」,「他者の動きを取り入れる」ことを契機に遊び方が工夫された。一方で,教師が事前に想定していなかった「自分の行為が妨げられる」,「できないことと出会う」,「できるようになる」,「飽きる」といった偶発的な契機によっても遊び方が工夫されることが明らかとなった。従来,学習を阻害すると考えられてきた要因も「ゲーム論」から授業を捉え直すことによって,逸脱ではなく遊び方を工夫する契機になりうることが示された。
本稿では,国語科における読むことの学習指導研究を対象とし,1980年代以後の英語圏の読者論の影響などを背景とし現在でも日本の文学教育理論の主流となっている「読者反応理論」の課題を見据え,それを超えて文学教育における読者である学習者のあり方を捉え直すために,筆者は「縁意識」という概念を援用し「おにたのぼうし」を使い,読者である学習者の内面にアプローチする実践を考察・検討し,「読者反応理論」における「学習者の内面」への通路に接続することを試みた。その結果,これまで,「読者反応理論」に基づいた国語科における読むことの学習指導研究や実践では十分議論されてこなかった「学習者の内面」を明確にすることこそが,学習者としての読み手の内部に「揺らぎ」「ズレ」の定位,「自己物語」の語り直すアプローチを捉え直すことに繋がるのだということを明らかにした。