当院における細菌性腸炎の起炎菌の動向を調査し, 低温増菌法導入前後のYersinia属の検出率の変化およびその臨床像を明らかにするため, 1979年1月より1984年7月までの5年7ヵ月間に当院を受診した下痢, 腹痛を主訴とする患者3, 127例に直採による便培養を行い臨床的検討を加えたので報告する.
検出された菌の内訳はCampylobacter属462例 (14.8%), Salmonella属229例 (7.3%),
Yersinia enterocolitica 58例 (1.9%), 病原性大腸菌血清型56例 (1.8%),
Vibrio parahaemolytics 1例,
Yersinia pseudotuberculosis 1例で, これは諸家の報告とほぼ同様な結果であった.
低温増菌法導入に伴ない
Yersinia enterocoliticaの検出率は上昇したが, 直接培養による検出率も増加しており, その実数の増加がうかがえた.増菌法導入後に検出された51例中低温増菌法のみによるものが33.3%を占め, その臨床的有用性が確認された.
Yersinia enterocolitica腸炎の臨床症状として特異的なものはみられなかったが, 腸重積, 虫垂炎が各々1例ずつ含まれていたことは注目された.
検出された
Yersinia enterocolitica 58例の薬剤感受性を検討したが, gentamicin, nalidixic acid, chloramphenicol, minocycline, fosfomycinに良好な感受性を示した.さらにfosfomycin投与12例につき排菌期間を検討したところ, 症状出現後11日間で50%が便培養陰性となり17日後には全例陰性化していたが, これまでの報告と比較して排菌期間の有意な短縮はみられなかった.
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