感染症学雑誌
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59 巻, 12 号
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  • 国松 幹和
    1985 年 59 巻 12 号 p. 1175-1183
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Haemophilus influenzaeは慢性下気道感染症の重要な起炎菌であるが, 下気道における分布, 動態に関しては明かにされていない.この問題に取り組むために, H.influenzae (non capsulatd strain) に対する抗体を作成し, 慢性下気道感染症患者の気管支壁について, 蛍光抗体法を用いH.influenzaeの分布を調べた.対象は経気管吸引法 (TTA) にてH.influenzaeが検出された慢性下気道感染症患者8例で, 陰性コントロールとしてTTAにてBranhamella catarrhalis, Klebsiella pneumoniaeがそれぞれ検出された慢性下気道感染症患者2例を用いた.気管支壁は経気管支的気管支生検にて慢性下気道感染症患者の主気管支および区域気管支 (B7) より採取し, 蛍光抗体法により染色した.
    1.H.influenzeaは主気管支には8例中1例も検出されなかったが, 区域気管支には8例全例に検出された.
    2.組織学的にみるとH.influenzaeは全例, 気道分泌物および気道粘膜上に認め, そのうち1例は気道粘膜下組織 (非腺組織) にも検出された.
    3.他菌の検出された対照の2例ではH.influenzaeは検出されなかった.
    以上のことから慢性下気道感染症において, 気道上のH.influenzaeには定着しやすい部位があることが推測された.
  • 加藤 稲子, 松林 正, 林 まり, 平田 清二, 鈴木 賀己, 松本 延男, 山本 崇晴, 西村 豊, 山下 峻徳
    1985 年 59 巻 12 号 p. 1184-1190
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    当院における細菌性腸炎の起炎菌の動向を調査し, 低温増菌法導入前後のYersinia属の検出率の変化およびその臨床像を明らかにするため, 1979年1月より1984年7月までの5年7ヵ月間に当院を受診した下痢, 腹痛を主訴とする患者3, 127例に直採による便培養を行い臨床的検討を加えたので報告する.
    検出された菌の内訳はCampylobacter属462例 (14.8%), Salmonella属229例 (7.3%), Yersinia enterocolitica 58例 (1.9%), 病原性大腸菌血清型56例 (1.8%), Vibrio parahaemolytics 1例, Yersinia pseudotuberculosis 1例で, これは諸家の報告とほぼ同様な結果であった.
    低温増菌法導入に伴ないYersinia enterocoliticaの検出率は上昇したが, 直接培養による検出率も増加しており, その実数の増加がうかがえた.増菌法導入後に検出された51例中低温増菌法のみによるものが33.3%を占め, その臨床的有用性が確認された.
    Yersinia enterocolitica腸炎の臨床症状として特異的なものはみられなかったが, 腸重積, 虫垂炎が各々1例ずつ含まれていたことは注目された.
    検出されたYersinia enterocolitica 58例の薬剤感受性を検討したが, gentamicin, nalidixic acid, chloramphenicol, minocycline, fosfomycinに良好な感受性を示した.さらにfosfomycin投与12例につき排菌期間を検討したところ, 症状出現後11日間で50%が便培養陰性となり17日後には全例陰性化していたが, これまでの報告と比較して排菌期間の有意な短縮はみられなかった.
  • 小花 光夫
    1985 年 59 巻 12 号 p. 1191-1197
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Chlamydia trachomatis (以下C.trachomatis) の感染実態は本邦では未だ明らかでない.そこで内科疾患の内, 易感染性疾患例におけるC.trachomatis感染を知るために, かかる症例の血清抗C.trachomatis抗体を測定し, 疫学的に検討した.
    対象は糖尿病76例, 全身性エリテマトーデス (以下SLE) 80例, 悪性リンパ腫18例, 急性白血病および慢性白血病10例, 再生不良性貧血9例の計193例で, 対照は健常人51例とした.血清抗C. trachomatis抗体の測定はformalin不活化処理C. trachomatis (Elementary body) を抗原とした蛍光抗体法を用いた. 結果は以下のごとくであった.
    1) IgGクラス抗体陽性率は糖尿病症例では32.9%と対照 (11.8%) に比し有意に高く, また悪性リンパ腫症例では高い傾向があった.
    2) IgMクラス抗体陽性例を糖尿病, SLE, 悪性リンパ腫で各1例検出できた.
    3) IgGクラス抗体陽性率は糖尿病症例でそのコントロール状況により差を認めた.すなわち, コントロール不良例ではコントロール良好例におけるよりもIgGクラス抗体陽性率が高かった.
    4) IgMクラス, IgGクラス抗体価の変動よりC.trachomatis肺炎が疑われた例が悪性リンパ腫に1例存在した.
    以上より, 本邦ではC.trachomatis感染が易感染性の内科疾患では健常人より多く存在することが判明した.
  • 芦田 隆司, 長谷川 廣文, 椿 和央, 岩永 隆行, 入交 清博, 堀内 篤
    1985 年 59 巻 12 号 p. 1198-1203
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    易感染状態にある血液疾患患者 (急性白血病の寛解導入期および重症再生不良性貧血の骨髄移植の計10例) の腸内細菌を抑制する目的で非吸収性抗生物質Tobramycin 720mg/日, Vancomycin 1.5g/日, Nystatin 300万単位/日 (TVN療法) を分3で経口投与し, 腸内細菌の変動について検討した.
    1) TVN療法において, 腸内細菌叢は全例が投与開始後1~2週間で糞便1g当り1×102以下に抑制され, 少なくとも4週間は続いた.
    2) 好気性菌にくらべて, 嫌気性菌の消失がやや遅延する傾向がみられた.
    3) TVN療法は1日3回投与でも, 従来の1日4回以上の投与と同様に腸内細菌叢を抑制し得ており, 特に問題はないと思われた.
    4) TVN療法施行中, 7例にCandidaが検出された.
    5) TobramycinおよびVancomycin服用後の血清・尿・便のそれぞれの濃度の測定結果より, 投与抗生物質の腸管からの吸収はごく微量であった.
    以上のように, TVN療法は充分に腸内細菌叢を抑制するが真菌は充分に抑制出来ず, 真菌の抑制が今後の問題であると考えられた.
  • 大国 寿士, 留目 優子, 横室 公三, 木村 義民, 江口 儀太, 若林 恒郎, 手代木 正, 工藤 厚
    1985 年 59 巻 12 号 p. 1204-1209
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Culturette Brand Ten-Minute Group A Strep IDテストについて基礎的検討を行なった.1.4×108/mlのgroup A st.を原液として10倍希釈系列 (10-1~10-8) を作製し, これを用いてStrepIDテストを行なうと, 10-6希釈液まで陽性を示した.またB群, C群, D群, G群のStreptococcus (以下St.), St. pneumoniaast.sanguis, St.mitior, St.mutans, Saums, Sepidermidisとは反応せず, A群St.に特異的に反応した.A群St.にいくつかの菌種を混合して本反応を行なうと, A群の同定は他の菌種により影響されなかった.A群St.から抽出されたC-多糖体とは50ng/mlで陽性反応を示すが, St.pneumoniaeのC-多糖体やProtein-Aとは高濃度でも反応しなかった.本反応はあらかじめハブ.テン (N-acetylglucosamine) を添加することにより阻止された.それ故StrepIDテストはA群st.を感度よく特異的に同定しうるものと思われる.
  • 福田 博英
    1985 年 59 巻 12 号 p. 1210-1224
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    抗生物質投与後下痢症の糞便の25.8%からClostridium difficileを検出した.偽膜性大腸炎では75.0%, nonspecific colitisでは17.9%, 内視鏡正常例では8.7%であったが, 急性出血性大腸炎からは検出されなかった.Cytotoxinの検出率は, 偽膜性大腸炎では83.3%, nonspecific colitisでは21.4%であった.
    C.difficileを検出した症例のうち, 偽膜性大腸炎は56.3%で, nonspecific colitisとしたびらん, 浮腫だけの症例 (31.3%), 異常所見のない症例 (12.5%) もあった.偽膜性大腸炎ではC.difficileのtoxin titerは偽膜のない症例に比して有意に高く, このtiterはその病原性や病勢, さらには治療に対する反応性を反映するものと推測された.
    次にハムスターに各種の抗生物質を投与して出血性盲腸炎を作成した.これらのハムスターの盲腸内容液中にはC.difficileとそのtoxinを100%に検出した.その盲腸内容濾液, ヒトの偽膜性大腸炎の糞便濾液, C.difficileの培養濾液を適度に希釈して他のハムスターに投与することにより同様の出血性盲腸炎を発症させた.ヒトの急性出血性大腸炎の糞便濾液, Klebsiella oxytocaの培養濾液投与では, 発症させ得なかった.
    偽膜性大腸炎はC.difficileのtoxinとの関与が考えられたが, 急性出血性大腸炎は臨床的にも細菌学的にもこれとは異なり, 糞便中にはtoxinは存在せず, K.oxytocaの病原性も明らかでなく, その原因については明らかでなかった.
  • 猪狩 淳, 小栗 豊子, 小酒井 望
    1985 年 59 巻 12 号 p. 1225-1230
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    The medical records of 28 patients with Staphylococcus aureus bacteremia at the Juntendo University Hospital during a 7 year study period, 1976 to 1982, were reviewed. Bacteremias with community acquired in 12 patients and hospital acquired in 16 patients were seen.Most of the patients were 40 years of age or older.Ten of 12 patients with community acquired bacteremia had primary foci of staphylococcal infection occurring secondary to bacteremia. Patients with hospital acquired bacteremia had more serious underlying conditions than those with community acquired bacteremia.Seven of 16 patients with hospital acquired bacteremia had a malignancy and five were associated with an infected intravenous catheter for IVH.There was no patient with endocarditis secondary to Staphylococcal aureus bacteremia. Penicillin-G and ampicillin were not effective for most isolates of S. aureus from blood cultures, whereas cloxacillin, sulbenicillin, cefazolin, cefmetazole and cefotiam had an antimicrobial activity for the isolates.
  • 石古 博昭, 林 邦彦, 渡沼 稔, 桜井 兵一郎, 吉井 孝男, 山崎 修道
    1985 年 59 巻 12 号 p. 1231-1235
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    モノクローナル抗体を用いた直接蛍光抗体 (FA) 法による単純ヘルペスウイルス (HSV) 1, 2型の鑑別と迅速診断法への応用について検討した.
    1) HSV1, 2型の鑑別: 標準ウイルスと分離ウイルス52株を用いて, FA法と種々の型別法一中和試験, RL-33細胞でのBiological marker試験およびウイルスDNAの特異切断パターンーによる型別結果と比較検討した. FA法と種々の型別法による型別結果は一致し, 性器より分離したウイルス41株のうち31株が1型, 10株が2型, また水ほうの11株はすべて1型であった.
    2) 迅速診断: FA法の検出感度を調べるために, 階段希釈した標準ウイルスをMRC-5細胞に接種し, 経時的にウイルス抗原を検出した.103~104PFU/ml以上のウイルスを接種した場合には24時間後に, また101~103PFU/mlの場合でも48~96時間以内にウイルス抗原が検出された.臨床材料として性器ぬぐい液の10材料を用い, ウイルス分離効率を高めるために材料を細胞に接種した後に3,000rpm, 1時間, 遠心した場合には10材料とも24時間以内に型別同定された.これらの結果より, 本法はウイルスの迅速診断法として応用できると思われる.
  • 黒木 俊郎, 渡辺 祐子, 山井 志朗, 小原 寧, 滝沢 金次郎
    1985 年 59 巻 12 号 p. 1236-1240
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    酵素抗体法 (EIA) を利用したGonozyme (Abbott Laboratories) の改良法によって, リン菌抗原の迅速検出実験を行なった.臨床分離リン菌株の菌数とEIA吸光度の相関からみると, 本法では103CFU/mlのリン菌抗原を吸光度0.489で検出し, 105CFU/mlでは吸光度≧2.0であった.
    性病診療所の外来患者から尿道または頚管分泌物を採取して, 培養および鏡検の成績とEIAの成績を比較した.男性261検体と女性58検体の比較の結果, 培養法に対するEIAの陽性一致率は男性で100%, 女性で95.5%であった.陰性一致率は男性16.7%, 女性69.4%と低かった.これは培養用検体の保存期間が長かったためで, 保存期間の短い検体ほど両方の成績が一致し, とくに採取当日に培養を行なった検体では両法の成績が完全に一致し, EIAの有効性が確認された.鏡検法に対するEIAの陽性一致率は男性で98.8%であったが女性では76.9%と低かった.これは鏡検による判定の誤りによるものと思われた.また陰性一致率はそれぞれ100%, 94.7%であった.
    これらの結果から, EIA法は女性検体の鏡検法に代わる迅速, 確実なリン菌診断法, および輸送を要する検体からのリン菌検出法として, 優れた方法であるものと思われた.
  • 第2報2-mercaptoethanolに対する感受性抗体の陽性率と日本脳炎ウイルスに感染するブタの発生率との比較
    吉田 靖子, 薮内 清, 岩崎 謙二, 田口 文章
    1985 年 59 巻 12 号 p. 1241-1248
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    日本脳炎 (日脳) ウイルス感染後すみやかに産生される2メルカプトエタノール (2-ME) 感受性抗体を保有するブタの陽性率 (実測値) と, 数値論的解析のための想定式から理論的にもとめた発生率 (各単位時間に感染するブタの比率) を比較検討した.その結果, 想定式から求めた発生率の最高値を示す流行経過の単位時間と2-ME感受性抗体陽性率の最高値を示した単位時間とはよく一致した.
    理論的に求めた発生率の単位時間ごとの移動小計値を求めて実測値と比較すると, 2~5単位時間ごとの移動小計値に相関性が高かった.
    これらの結果は, 想定式を利用することによって, ブタ集団における日脳流行の開始直前に, その年の日脳流行の推移を予測することが可能であることを示唆するものと考えられる.
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