感染症学雑誌
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89 巻, 6 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 橋本 篤, 松井 利浩
    2015 年 89 巻 6 号 p. 713-719
    発行日: 2015/11/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    血中(1→3)―β-D―グルカン(BDG)測定はニューモシスチス肺炎(PCP)を含む深在性真菌症の診断に有用な検査であり,末梢血好中球上CD64 分子定量(CD64)は種々の感染症で上昇する感染マーカーである.当院における2005~2011 年のBDG 測定状況と初回陽性時の背景について,同時に測定されたCD64 と合わせて検討した. 全3,960 検体中BDG 陽性検体数は441,陽性症例数は185,BDG 陽性症例における初回測定値は24.3 [16.4~70.5]pg/mL(中央値[四分位範囲])であった.以下初回陽性例について,主な診療科はリウマチ科とアレルギー呼吸器科,基礎疾患は関節リウマチ(RA)が最多で36%,以下その他の膠原病,悪性疾患,胸部異常影精査,気管支喘息と続いた.63.7%は免疫抑制治療中,50.9%は発熱なし,40.8%は白血球数が基準値内であった.BDG 上昇原因はPCP38 例(20.5%),PCP 以外の深在性真菌症(以下真菌症)48 例(25.9%)で後者はアスペルギルス症が最多.残り99 例(53.6%)はBDG 上昇原因不明(以下不明例),うち53 例は自然軽快していた.BDG 初回陽性値はPCP,真菌症,不明例の順に高くそれぞれ49.9,28.9,19.7pg/mL (中央値).57 例(30.8%)が経過中に死亡.CD64 はBDG 陽性例の77.8%が陽性(カットオフ2,000 分子/ 細胞),特に基礎疾患がRA のPCP では94.7%が陽性(中央値9,386 分子/細胞)で,同時期に入院した細菌性肺炎RA 例(同4,399 分子/細胞)より高値であった.不明例ではCD64 陽性率が低かった. 免疫能が低下した患者において,BDG 値はしばしば基準値を越えて陽性と判定される.これが真の陽性か偽陽性かを推測する上で,CD64 の同時測定は迅速かつ高感度で有用な補助診断法であると考えられる.
  • 佐藤 光, 菊地 佑樹, 真砂 佳史, 大宮 卓, 伊藤 洋子, 木村 達夫, 西村 秀一
    2015 年 89 巻 6 号 p. 720-726
    発行日: 2015/11/02
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    現在我が国で承認されているインフルエンザワクチンは皮下注射による接種のための不活化ワクチンのみである.一方,世界的には生ワクチンもある.投与条件や保存条件,使用期限等の制限があるものの,鼻噴霧式生ワクチンのFlumist はアメリカで10 年以上使われており,臨床試験でも一定の効果が認められている.このワクチンは日本では未だ承認されてはいないが,一部の医療機関が個人輸入の形をとって入手し,医師の裁量により使用している.だが,そうした形での本邦での使用に際し,その生ワクチンとしての感染価が担保されているか否かを調べる体制は全く整えられていない.そこで我々は,2013~14 年と2014~15 年シーズンに同ワクチンを並行輸入業者経由で購入し,それに含まれる4 株のインフルエンザウイルスのそれぞれについてFFU(focus forming unit)感染価を測定してみた.その結果,A 型インフルエンザウイルスでは,含まれるH1N1pdm09,H3N2 株の双方とも,2013~14 年シーズンでは添付文書に記載のある感染価下限値の1/30 程度であり,2014~15 年シーズンでは1/10 程度あった.一方,B 型については,記載の感染価の下限値付近であった.これらのウイルスについてデジタルPCR を用いてウイルス遺伝子の絶対定量を行った結果,A 型ウイルスは,B 型ウイルスの1/10 のコピー数であった.同ワクチンを到着後4℃に保存し続け,感染価を経時的に測定したところ,B 型に100.5FFU 程度の低下が見られ,かろうじて下限ラインにとどまったB 型の一株を除きすべてが,使用期限直前には下限の1/10 程度の感染価となった.今後もしこの生ワクチンが本邦でも認可されるような場合には,ワクチンとして効果を発揮するのに必要な最低限の感染価についての検討,そしてさらに,本邦での流通段階でその感染価が保たれていることを保証する公的な監視体制が必要であろう.
  • 田坂 佳資, 松原 康策, 仁紙 宏之, 岩田 あや, 磯目 賢一, 山本 剛
    2015 年 89 巻 6 号 p. 727-732
    発行日: 2015/11/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    小児期の非チフス性サルモネラ属菌による侵襲性感染症の臨床像や,長期間に亘る発症頻度の解析報告は少ない.これらを明らかにするため,地域中核病院において1994~2014 年に無菌検体から同菌が分離された小児を対象に,診療録を後方視的に検討した.研究期間を第1 期(1994~1999 年),第2 期(2000~2004 年),第3 期(2005~2009 年),第4 期(2010~2014 年)に分けた.該当症例は17 例(日齢2~13 歳)であった.腸炎に菌血症合併例が13 例,菌血症・敗血症のみが2 例,骨髄炎,髄膜炎が各1 例であった.発症時期は,第1 期から第4 期の順に各々10 例,5 例,2 例,0 例と経時的に有意(trend p<0.001)に減少し,入院数で補正しても有意(trend p=0.009)な減少であった.新生児期発症2 例と骨髄炎1 例を除く,菌血症を呈した14 例では,入院時WBC は13 例(93%)が15,000/μL 未満で,CRP は0.8~20.4mg/dL と幅広く分布した.これらの菌血症の診断は,血液検査から推定することは困難で,高熱,全身状態不良,低年齢等の危険因子を考慮する必要があった.分離菌のO 血清群はO9,O7,O4 群が各々11 株,5 株,1 株であった.抗菌薬の感受性は評価した15 株中,ampicillin 耐性が2 株,fosfomycin 耐性と中等度耐性が各1 株であった.cefotaxime,ofloxacin またはlevofloxacin,trimethoprim-sulfamethoxazole は全て感性であった.日齢2 の敗血症例は下痢を伴う母からの垂直感染が,日齢14 の髄膜炎例は3 週間の治療後に再発を認めたことがそれぞれの特徴であった.本研究は,小児期侵襲性非チフス性サルモネラ感染症の臨床的特徴を明らかにし,20 年に亘って有意に減少していることを示した本邦初の報告である.
  • 中桐 逸博, 和田 秀穂, 徳永 博俊, 福田 寛文, 田坂 大象, 杉原 尚
    2015 年 89 巻 6 号 p. 733-740
    発行日: 2015/11/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    早期にHIV 感染症を診断することは治療において極めて重要とされている.この度,新たに開発された第4 世代イムノクロマトグラフィー法(Alere HIV Combo)によるHIV 迅速診断試薬の性能評価を実施した.川崎医科大学附属病院を受診し,HIV スクリーニング検査を受けた日本人成人250 例から採取された全血,血漿および血清検体を用いた.また,市販の12 種類のセロコンバージョンパネルおよびWHO スタンダード抗原を用いた.本法の検出感度は100%,特異度は99.3%でCLIA 法に匹敵する精度であった.セロコンバージョンパネルを用いて感染初期感度試験を行ったところ,平均陽性転化日は19.3 日であった.本法はHIV-1p24 抗原の検出感度が高く,かつ全血検体でも血漿および血清と同じ結果が得られることから,一般診療に有用な迅速測定法であると考えられた.
症例
  • 山中 篤志, 白濱 知広, 西村 直矢, 上田 尚靖, 姫路 大輔, 川口 剛, 上田 章
    2015 年 89 巻 6 号 p. 741-744
    発行日: 2015/11/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    Streptococcus suis is a major swine pathogen. It has recently been recognized as an emerging zoonosis that causes mainly meningitis and sepsis in human. In particular, toxic shock-like syndrome (TSLS) caused by this pathogen has a high mortality rate. However, misidentification of S. suis by conventional biochemical and commercial identification tests is not rare. The patient was a 71-year-old man who worked as a pig farmer who was admitted for fever, oliguria and subcutaneous hemorrhage. He was diagnosed as having septic shock and blood culture was positive for Gram-positive cocci, mainly diplococcus. This pathogen was identified with S. suis with using MALDI-TOF MS analysis, though a commercial Gram-Positive bacteria identification kit revealed viridans streptococci. His clinical features met the diagnostic criteria of TSLS, and ceftriaxone and clindamycin were administered. On admission day 28, he was discharged in good condition.
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