感染症学雑誌
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77 巻, 2 号
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  • 阿部 仁一郎, 井関 基弘, 松田 肇, 大西 健児
    2003 年 77 巻 2 号 p. 47-52
    発行日: 2003/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    Cyclospora cayetanensisは, 胞子虫綱のコクシジウム類に属する原虫で, ヒトの下痢起因病原体として知られている. 近年, 霊長類からC. cayetanensisと形態的に区別できない3種のCyclosporaが報告された. 霊長類由来種のヒトへの感染性は不明であることから, 患者の中には霊長類由来種に感染している例があることも予想され, 今後はCyclosporaの種を鑑別できる検査法が必要となる. このため本研究では, 分子生物学的手法を用いて患者由来株の種の同定を試みた.
    CYCIFEとCYC4RBのプライマーペアで増幅される, Cyclosporaの18SリボソームRNA遺伝子のシーケンスは, 種間で異なることから, 両プライマーを用いたPCR-ダイレクトシーケンス法により分離株, 同定を行った. その結果, 期待されるサイズの産物が全株で増幅され, それらのシーケンスはC. cayetanensisの当該領域のシーケンスに一致したことから, 患者由来株は全てC. cayetanensisと同定された.
  • 葛谷 光隆, 藤井 理津志, 濱野 雅子, 小倉 肇
    2003 年 77 巻 2 号 p. 53-59
    発行日: 2003/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    2000年5月下旬に岡山県南部の教育研修施設においてヒトC群ロタウイルス (CHRV) による集団胃腸炎が発生した. 当該施設での宿泊研修に参加した生徒および教職員あわせて172名 (F小学校51名, K小学校121名) のうち, 87名 (50.6%) が症状を訴え, 患者の31%は5月27日に集中して発症していた. 主な臨床症状は腹痛87.4%, 下痢50.6%, 嘔吐・嘔気21.8%, 発熱12.6%, 頭痛14.9%であったが, 学校間で症状の重さに違いが認められた. 患者糞便32検体についてウイルス検査を実施したところ, 21検体 (65.6%) から逆転写PCR法によりCHRVの遺伝子が検出された. CHRVは患者発生期間を通じて検出されており, 特に研修初日に発症した患者からもCHRV遺伝子が検出された. 本事例の感染経路は, 研修初日に発症した患者からCHRVが検出されたこと, 調理従事者からは本ウイルスが検出されなかったこと, および喫食調査において原因として疑われる食材がリストアップされなかったことなどから, ヒトからヒトへの感染, すなわち「連鎖感染」であると推定された. さらに, 今回検出されたウイルスの由来を探るため, 県内で検出されたCHRV株との遺伝的系統関係を調べた. その結果, 原因ウイルスは前年に発生した集団事例由来株とは系統的に異なり, その一方で1996年に検出された散発性胃腸炎由来株と最も近縁であることがわかった.
  • 発生季節気温の疫学的考察
    岡田 長保
    2003 年 77 巻 2 号 p. 60-67
    発行日: 2003/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    淡路島北部地域を診療圏とする内科医院の日常外来患者中, 1987年から1999年までに診断治療されたツツガ虫病 10症例について検討した. 症例は男8名, 女2名, 年齢は6歳から69歳, 感染地は3町にまたがる丘陵地に分布し, 発症季節は11月から12月であった. 1) 年度により発症時期が微妙にずれること, 2) 発症患者数が複数の年は数日以内の時差で発症していること, 以上の2点に注目し, 気温との関係を追究した. 当地域に近い気象観測点である一宮町郡家の年間, 旬別気象記録と, 各年推定虫刺時期を照合した. 推定虫刺時期の旬別平均気温は, 9.1℃ から13.3℃, 特に10例中7例では, 11.6℃から13.3℃の温度域を示した. 最高気温は11.3℃から17.5℃, 最低気温は6.6℃から9.1℃の範囲にあった. 複数発症年を比較すると, 11月上, 中旬の平均気温が1~3℃高い場合, 発症は12月へずれこむ傾向にあった. これらの事実は, ツツガ虫病の発生季節が, 当地域におけるツツガ虫幼虫の発生, 活動に最適な気温に左右されることを示すものと思われる.リケッチアOrientia tsutsugamushi標準3株に対して, いずれの症例も高い抗体価が検出されたが, IgG抗体価は数年以内に20倍乃至10倍程度にまで急速に低下し, 3症例では10年以上経過後にも10倍の抗体価が残存した. 健康者でIgG抗体価が10倍以上あれば既感染者, 20倍以上あれば数年以内の感染が考えられる.
  • 中村 文子, 小栗 豊子, 三澤 成毅, 三宅 紀子, 猪狩 淳
    2003 年 77 巻 2 号 p. 68-74
    発行日: 2003/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    1992年~1998年の7年間に, 順天堂大学附属病院で分離されたmethicillin-resistant Staphylococcusaureus (MRSA) のなかから, arbekacin (ABK), mupirocin (MUP), teicoplanin (TEIC) に耐性であった株が, 各々2株, 9株, 7株検出された. これら耐性株について, pulsed-field gel electrophoresis (PFGE) による遺伝子解析を行い, コアグラーゼ型および抗菌薬感受性パターンについて検討した.
    ABK耐性 (MIC 8μg/ml) 2株のPFGE型はA型 (A3とA7型), MUP耐性 (MIC 4μg/ml以上) 9株はC1型3株, A型3株 (A1, A4, A8各1株) とD型, E型, G型各1株であった. これらの株には抗菌薬感受性パターンに類似性は認められず, 一定期間に集中して検出されることもなかった.
    TEIC耐性 (MIC 16μg/ml) 7株のPFGE型は, すべてB型 (B1型5株, B2型とB5型各1株) であった. これら耐性株は, 抗菌薬感受性パターンがほぼ同じであったことから本院の流行株である可能性が示唆された. しかしながら, PFGE型Bは他のPFGE型に比べてTEICに明らかな耐性化傾向を示しており, 本型がTEIC耐性に関与する要因を保持している可能性も考えられた.
  • 笹原 武志, 青木 正人, 関口 朋子, 高橋 晃, 佐藤 義則, 北里 英郎, 井上 松久
    2003 年 77 巻 2 号 p. 75-82
    発行日: 2003/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    強酸性電解水の一つである混合酸化剤溶液 (Miox溶液と称す) のCryptosporidium parvumオーシストの感染性におよぼす不活化効果について乳飲みマウス感染モデルを使って検討した. その結果, Miox 溶液 (滅菌PBS希釈) は残留塩素濃度および処理時間依存的にオーシストの感染性に対して不活化効果を発揮し, 腸管から検出されるオーシスト数は, 無処理対照群と比較して残留塩素濃度5mg/l, 2時間処理で0.5log10, 4時間処理で1.5~2.1log10の有意な減少を認めた. 一方, 次亜塩素酸ナトリウム溶液 (滅菌PBS希釈) では残留塩素濃度5mg/l, 4時間同様に処理した場合でも腸管から検出されるオーシスト数の減少を全く認めなかった. また, 両者の不活化効果の違いは形態観察によって, Miox溶液処理群にのみ変性オーシストが散見されたことからも確認された. さらに, オーシストを含む生物処理下水に残留塩素濃度5mg/lのMiox溶液を加えて4時間処理し, オーシスト感染性の不活効果を比較した. その結果, 腸管から検出されるオーシスト数は, 無処理対照群に比較してPBS希釈Miox溶液で処理した場合に2.1log10, 生物処理下水希釈Miox溶液で処理した場合に08log10の有意な減少を示した. 以上の成績から, Miox溶液は浄水や下水などの水環境を汚染する可能性のあるC. parvumオーシストの感染性に対して優れた不活化効果を発揮することが示唆された.
  • 土壌由来レジオネラ属菌のアメーバ内増殖性と薬剤感受性の検討
    古畑 勝則, 宮本 比呂志, 原 元宣, 福山 正文
    2003 年 77 巻 2 号 p. 83-88
    発行日: 2003/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    感染症学雑誌第77巻第2号レジオネラ症に関する疫学的研究の一環として, 2001年に全国の表層土壌から分離同定したレジオネラ属菌62株についてAcanthamoeba内での増殖能と薬剤感受性について検討したところ, 以下の成績が得られた.
    1) 供試菌株はすべてAcanthamoeba内で増殖し, 病原性を有するものと考えられた. また, 増殖に要する最小菌数は103-108 CFU/mlで, 菌株によって差異が認められた.
    2) Etestにより10薬剤に対する薬剤感受性を検討したところ, β-ラクタム系のイミペネムと抗結核剤であるリファンピシンのMIC90がそれぞれ0.047μg/ml, 0.064μg/mlであり, 高い感受性が認められた. 一方, 感受性が低かった薬剤はテトラサイクリン系のミノサイクリンとβ-ラクタム系のピペラシリンで, それぞれのMIC90は12μg/ml, 16μg/mlであった. なかでも前者では, MICが32μg/mlと感受性の低い株が2株あった.
    以上のように, 土壌由来株はいずれも病原性であると考えられ, 薬剤感受性は臨床分離株のそれと比較してやや低い傾向が認められた.
  • 古田 敏彦, 秋山 美穂, 加藤 由美子, 西尾 治
    2003 年 77 巻 2 号 p. 89-94
    発行日: 2003/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    2001年12月11日に, 浜松市内の飲食店で喫食した1グループ57名中22名が, 翌12日から下痢・嘔吐・発熱等の急性胃腸炎症状を呈した. 患者便4検体からEIA法でノロウイルス (ノーウォーク様ウイルス, NV) genogroup I (GI) とgenogroup II (GII) の両方が検出され, 同じ4検体についてNV検出のRT-PCR法およびリアルタイムPCR法を行ったところ, すべての検体からNV遺伝子が検出された.
    NVによる急性胃腸炎食中毒発生から約1カ月後に, 同じグループの4名がA型肝炎を発症した. この4名の患者便について, A型肝炎ウイルス (HAV) 検出のRT-PCR法およびリアルタイムPCR法を行ったところ, すべての検体からHAV遺伝子が検出された.
    両疾患を発症した患者グループはウチムラサキ貝の唐辛子蒸しを喫食しており, この貝が原因食材として疑われたため, 原材料である中国産冷凍ウチムラサキ貝の同一ロット品についてウイルス学的検査を行ったところ, NV GIとGII遺伝子およびHAV遺伝子が検出された. そのため, 本事例はNVとHAVに汚染されたウチムラサキ貝を原因とする食中毒であると断定された.
    本事例の発生により, A型肝炎の原因として輸入魚介類の関与が明らかになるとともに, 二枚貝を調理する場合は十分に加熱するよう指導・啓発していく必要性があると考えられた.
  • 福田 美和, 川田 一伸, 矢野 拓弥, 杉山 明, 中山 治, 西尾 治, 関根 大正, 櫻井 悠郎
    2003 年 77 巻 2 号 p. 95-102
    発行日: 2003/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    カキ等の貝類を生で喫食することにより, Norwalk-like virus (NLV) を原因とする食中毒事例がしばしば発生している. 特に海水温が10℃を下回る厳寒期に多発する傾向があることから, 海水温とカキの生理機能に着目してウイルス浄化方法の検討を行った. ウイルス取り込みおよび排出実験は本実験では1型ポリオウイルス (Sabin株) を指標とし, カキ養殖場で実際に使用している浄化システムと同じ原理で作製した閉鎖系の循環型水槽装置を用いて行った. その結果, 海水温10℃, 20℃のいずれにおいても, 水槽内に投入したウイルスはカキの中腸腺内に急速に取り込まれ, その後, 紫外線照射水で還流することにより, 6時間以内に約1/1,000~1/10,000以下に減少した. この結果から, ウイルス浄化における本装置の有用性が認められ, 現行の浄化システムにおいても浄化槽の海水温を一定温度以上に保持し, 十分な流水量で浄化することにより, ヒトへのNLV感染リスクを大幅に軽減できる可能性が示唆された.
  • 伊与田 貴子, 雑賀 威, 金山 明子, 長谷川 美幸, 小林 寅〓, 尾上 泰彦, 田中 正利, 内藤 誠二
    2003 年 77 巻 2 号 p. 103-109
    発行日: 2003/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    川崎市の診療所を受診した淋菌感染症が疑われた男性および女性の咽頭および男性尿道, 女性子宮頸管よりNeisseria gonorrhoeaeを分離し, 細菌学的性状ならびに疫学的調査を行った. 対象患者は男性127名, 女性41名の168名で, 尿道または子宮頸管からの材料についてN. gonorrhoeaeの細菌学的検査を実施した. さらに咽頭ぬぐい液を採取し, 変法サイヤーマーチン寒天培地に塗抹し, 35℃ 48時間, 炭酸ガス培養を行った.
    男性尿道127例からN. gonorrhoeaeが検出されたのは117例 (92. 1%) で, 咽頭からは127例中14例 (11.0%) であった. 咽頭からN. gonorrhoeaeが検出された14例は全て尿道からもN. gonorrhoeaeが認められた. 女性においては子宮頸管41例中20例 (48.8%) がN. gonorrhoeae陽性で, 咽頭41例中N. gonorrhoeae陽性例は14例 (34.1%) であった. 咽頭, 子宮頸管ともに陽性は41例中11例で, 咽頭のみ陽性は3例であった.
    これら分離菌の各種抗菌薬感受性は咽頭および尿道または子宮頸管由来で大差はなかった. 咽頭および尿道または子宮頸管から同時に分離されたN. gonorrhoeaeのPFGEパターンを比較した結果, 25例中女性1例を除き咽頭および尿道または子宮頸管からの分離菌は同一菌株であることが判明した. また, 症例間ではバンドパターンは多様であった.
    以上の結果から, 我が国における淋菌感染症は咽頭にも広く分布し, 異なった遺伝子性状を有する株によるものと考えられた.
  • 長谷川 美幸, 小山 悦子, 内野 卯津樹, 佐藤 弓枝, 小林 寅〓, 西園寺 克, 渡辺 彰
    2003 年 77 巻 2 号 p. 110-115
    発行日: 2003/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    全国の医療施設より抗酸菌感染症を疑い収集した多数の喀痰検体を対象とし, MGIT960を用い培養後, 陽性を呈した100検体を検討に用いた. 抗酸菌の同定にはイムノクロマトグラフィを用いたキャピリアTB (CTB) と対照としてアキュプローブを使用した. 喀痰検体をMGIT960にて培養し, 陽性を呈した時点で培養液をCTBに接種し, 判定を行った.
    MGIT960陽性サンプル100検体から検出された抗酸菌の内訳はMycobacterium tuberculosis complex49株, M. avium-intracellulare complex (MAC) 46株, その他5株であった.
    これらのサンプルの直接同定において, CTB, アキュプローブ結核菌群 (APMT) で両者が陽性を示した検体は48検体であった. CTBが陽性でAPMTが陰性を示す1検体はMGITチューブを追加培養後, APMTにて陽性を示した. 逆にCTBが陰性でAPMTが陽性の検体は認められなかった. MACが検出された46検体およびその他の抗酸菌検出検体では, CTBはすべて陰性であった.
    MGIT960陽性と同時にCTBを使用することで, 抗酸菌症における主要起炎菌の結核菌群を迅速に鑑別可能であった. CTBは感度と特異性が高く, 操作は簡便であることから, 結核症の迅速診断に有用で, 我が国の結核症対策に大きく寄与するものと考えられた.
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