感染症学雑誌
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91 巻, 6 号
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原著
  • 齊藤 誠司, 山﨑 尚也, 藤井 輝久, 高田 昇
    原稿種別: 原著
    2017 年 91 巻 6 号 p. 924-929
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

    序文:HIV/HCV 重複感染ではHCV 単独感染と比較して,線維化の進行が早く,発癌リスクが高い.線維化進展例や高齢者では,インターフェロン(interferon;IFN)治療成功例においても発癌リスクが高くなるため注意を要する.感染から30 年以上が経過した非加熱血漿由来製剤による重複感染者では,C 型肝炎関連による死亡数の増加が問題となっているが,その長期予後を示した報告は少ない.
    対象と方法:2005年4月から2016 年10 月までの期間で広島大学病院に通院歴のあるHIV 感染者313 名のうち,初診時もしくは通院中にHCV-RNA 陽性を確認した重複感染者15 例(5%)を対象とし,HCV の治療歴と治療効果,長期的な予後について後方視的に検討した.
    結果:対象例のうち12 例でIFN ベースの治療が施行されており,sustained virologic response(SVR)は 10 例(83%)であった.うち24 カ月以上の長期に渡り観察できた7 例(長期観察群)の年齢中央値は50 歳,治療終了からの観察期間中央値は118 カ月で,この間に再発例はなかった.未治療2 例を含むウイルス検出例が5 例(ウイルス検出群)あり,うち4 例でIFN フリーの直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals;DAAs)による治療が行われ,3 例でウイルスが陰性化した.肝癌の発症は長期観察群,ウイルス検出群とも1 例ずつあり,ともに遺伝子型は3a,アルコール摂取や糖尿病といったリスク因子があった.手術時の肝生検ではA3,F4 と線維化が進展していた.
    結論:本院においてはHIV/HCV 重複感染者のHCV に対する治療成績は概ね良好であった.しかしながらHCV 単独感染と同様にIFN にてSVR が得られていても,線維化進展例やリスク因子保有例では肝癌の発症を認めていた.肝癌の早期発見のために,より注意深くスクリーニング検査を行うことが重要である.

  • 篠原 浩, 忽那 賢志, 加藤 康幸, 山元 佳, 藤谷 好弘, 馬渡 桃子, 竹下 望, 早川 佳代子, 金川 修造, 大曲 貴夫
    2017 年 91 巻 6 号 p. 930-935
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

    要旨 背景:2014 年,60 年以上なかったデング熱の国内感染が東京都を中心に発生した.社会におけるデング熱に対する不安の高まりの中で,医療機関においては,発熱等の主訴を呈し受診した患者の中からどのようにデング熱とその他の疾患を鑑別するかに苦慮した. 方法:デング熱疑いとして他院から紹介された,もしくはデング熱が心配で当科外来を直接受診した,3 カ月以内に渡航歴のない患者を“デング熱国内感染疑い”症例と定義した.平成26年8月25日から9月26 日(8 月27 日に厚生労働省が国内感染デング熱症例について第一報を公表)の間で定義を満たす患者47 例を後方視的に検討した.<BR> 結果:47 例のデング熱国内感染疑い症例の中で,最終的にデング熱と診断されたのは9 例(19.1%)であった.デング熱以外の診断として,2 日以内に自然軽快した発熱が10 例,咽頭炎が7 例,上気道炎が5 例,腎盂腎炎が4 例,感染性腸炎が3 例認められ,その他の疾患では腸チフスや急性HIV 感染症,反応性関節炎,亜急性壊死性リンパ節炎等が認められた.デング熱症例では非デング熱症例と比べ,蚊の刺咬歴,流行地域への訪問歴,白血球減少,血小板減少が有意に多かった.また,統計学的に有意でないものの,初診時において,関節痛,筋痛がデング熱症例で多い傾向にあり,皮疹や鼻汁,咽頭痛は非デング熱症例で多い傾向が認められた.検討した47 例には9 例(19.1%)の細菌感染症および,13 例(27.7%,うちデング熱7 例)の入院例が含まれた.<BR> 結論:“デング熱国内感染疑い”症例の多くは,上気道炎や咽頭炎などの日常的に良く遭遇する熱性疾患であったが,中には腎盂腎炎や腸チフスなど菌血症を伴うような重篤な細菌感染症や,全身状態不良で入院の必要な症例も認められた.デング熱症例と非デング熱症例の鑑別には,蚊刺咬歴や流行場所への訪問歴,白血球減少や血小板減少が有用と考えられた.これらの結果を参考にしながら,初期に特異的な症状が乏しい発熱性疾患を丁寧に鑑別し,緊急性のある疾患を除外していくことが肝要である.

  • 堀越 裕歩, 樋口 浩, 相澤 悠太, 磯貝 美穂子, 伊藤 健太, 荘司 貴代
    原稿種別: 原著
    2017 年 91 巻 6 号 p. 936-942
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

    耐性菌対策は国際社会で取り組む課題であり,2016 年に日本も薬剤耐性対策アクションプランを発表した.東京都立小児総合医療センターでは,2011 年より抗菌薬適正使用プログラムを導入し,特定抗菌薬の許可制,抗菌薬感受性の制限報告,抗菌薬投与の標準化,薬剤のTherapeutic Drug Monitoring の導入,教育などを行った.この評価を日本のアクションプランの成果指標を用いて行った.抗菌薬使用量の変化率は,導入前後の2010 年と2015 年度を比較し,細菌の耐性率は2015 年度のデータを用いた.使用量は,入院でDays of Therapy/1,000 延べ入院患者日数,外来で処方件数/1,000 外来受診者数を用いた.
     入院および外来の抗菌薬使用量の変化率はそれぞれ-8.0%,-27.6%(目標-33%),静注抗菌薬の使用量の変化率は+5.0%(同-20%)は達成できなかった.特定抗菌薬は,入院静注薬で-23.0%,入院内服で-73.9%,外来内服で-91.2%と有意な使用量の削減が行えた.種類別の使用量の変化率では,経口セファロスポリン系は-49.6%,経口マクロライド系は-54.9%,経口フルオロキノロン系は-85.7%と目標-50%は,ほぼ達成できた.肺炎球菌のペニシリン耐性率は47.8%(同15%以下),黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率は39.4%(同20%以下),大腸菌のレボフロキサシン耐性率は29.1%(同25%以下)といずれも達成できなかった.イミペネム耐性率では,大腸菌0.8%(同0.1~0.2%)と達成できなかったが,緑膿菌9.2%10%以下),肺炎桿菌0%(同0.1~0.2%)と達成できた.
     内服使用量は目標達成できた.静注は特定抗菌薬以外の適正化が必要である.また耐性菌率は単独施設での達成は困難で,全ての医療機関で抗菌薬の適正使用を推進する必要がある.

  • 山根 侑子, 松原 啓太
    原稿種別: 原著
    2017 年 91 巻 6 号 p. 943-947
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

    RS ウイルス(RSV)感染症とヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染症の胸部単純X 線所見や重症度については,まだ一定の見解を得られていない.我々は,2014 年4 月から2015 年3 月までの1 年間に広島市立舟入市民病院小児科に入院したRSV 迅速検査陽性例,hMPV 迅速検査陽性例を対象として,両ウイルス感染症の胸部単純X 線所見と臨床像を検討した.胸部単純X 線写真で肺炎所見を認めた例(肺炎例)は,RSV 陽性31/126 例(24.6%),hMPV 陽性31/73 例(42.5%)で,hMPV 陽性において有意に多かった(p <0.01).RSV 陽性肺炎例とhMPV 陽性肺炎例の,努力呼吸の有無,入院時SpO2 値,血清CRP 値,入院日数を比較すると,いずれもほぼ同様であった.また,RSV 陽性とhMPV 陽性のそれぞれで,肺炎例と肺炎所見がなかった例に分けて臨床像を比較すると,RSV 陽性,hMPV 陽性ともに肺炎例の入院時SpO2 値が低く,血清CRP 値が高い傾向があったが,その差はごくわずかであった.努力呼吸の有無と入院日数は有意差がなかった.以上より,hMPV 陽性例はRSV 陽性例より肺炎の頻度が高いが,重症度は同程度であり,肺炎の有無によっても重症度に明らかな差は生じないことが示唆された.

  • 中沢 春幸, 嶋﨑 真実, 竹内 道子, 粕尾 しず子
    原稿種別: 原著
    2017 年 91 巻 6 号 p. 948-955
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

     乳幼児期のウイルス性呼吸器感染症は,喘鳴を呈し重症化することがある.近年,特にRS ウイルス感染症患者の報告数は増加しており,発生動向を調査することは重要である.本研究は,長野県松本市の1 医療機関において2013 年10 月~2016 年2 月までに,小児急性下気道炎患者から採取した咽頭ぬぐい液または鼻腔ぬぐい液301 検体を検査材料とし,RS ウイルス(RSV),ライノウイルス(HRV)等の検出を行い,喘鳴合併の有無について検討した.また,同地区のRS ウイルス感染症患者の発生動向を合わせて検討した.検査した301 検体中269 検体(89.4%)からウイルスが検出された.RSV は,当地区の流行期である晩秋から春先にかけて患者報告数の増加にともない138 検体から検出され,喘鳴を認める患者は検出患者の57% を占めた.また,その比率は流行シーズンを経るごとに増加する傾向にあった.一方,HRV は112 検体から検出され,そのうち61.9% が喘鳴を呈し,調査期間を通じてHRV による喘鳴が認められたことから,近年,HRV 感染症もRSV と同様に,症状の重症化に関与する可能性が推察された.

症例
  • 宮川 明祐, 中村 朗, 鈴木 良夫, 足立 吉數
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 91 巻 6 号 p. 956-961
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

    A 34-year-old man with no significant medical history was seen at our outpatient department with a three-month history of weight loss, diarrhea and fatigue. Colonoscopy was performed, showing red and edematous mucosa in the ileocecal valve. A biopsy specimen with hematoxylin and eosin staining revealed basophilic and flocculent colonies that adhered to the surface epithelium. The organisms were dyed black by Warthin-Starry staining. These findings were compatible with intestinal spirochaetosis. We ruled out any other disease through biochemical examination of blood, esophagogastroduodenoscopy, capsule endoscopy,computed tomography and stool culture and diagnosed intestinal spirochaetosis. The patient improved after treatment with 1500mg/day of Metronidazole for 7 days. Colonoscopy was performed again after 8 months. The mucosa in the ileocecal valve was normal, and a biopsy specimen showed the spirochaetal infection had disappeared. Case reports of intestinal spirochaetosis are rare due to the low level of awareness of the disease. The present case suggests that we have to rule out intestinal spirochaetosis as a cause of chronic diarrhea.

  • 谷口 理恵子, 荘司 貴代, 大部 聡, 伊藤 雄介, 渡邉 健一郎
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 91 巻 6 号 p. 962-967
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

    Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae (CRE) are resistant to almost all β-lactam antibiotics. Colistin,the production of which had been halted in Japan because of its serious side effects and the availability of safer alternatives, was re-evaluated as an antibiotic against CRE and re-approved in March 2015. However,the pediatric use of colistin has been reported in only few studies. A 4-year-old girl with juvenile myelomonocytic leukemia underwent stem cell transplantation (SCT) from her mother after the rejection of umbilical cord blood transplantation. Two months after engraftment, her neutrophil count gradually decreased. She developed sepsis caused by carbapenem-resistant Escherichia coli with severe neutropenia. Although multidrug therapy was initiated, E. coli continued to be detected in her blood cultures. We initiated colistin as an emergency measure and infused it into the patient at a dose of 5mg/kg/day. Despite clinical and microbiological responses and an immediate negativity of blood cultures, she redeveloped a high fever, and E. coli was again detected in her blood cultures. The colistin dose was increased to 7mg/kg/day. Neutrophils from her father were transfused after the patient had the central venous catheter was removed. Eventually,her temperature normalized, and her blood cultures became negative again. Colistin was administered for 14 days. No side effects related to colistin were detected. It is suggested that colistin in multidrug therapy can be safely and effectively used for children with severe CRE infections.

  • 藤田 裕晃, 中村 造, 松本 哲哉
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 91 巻 6 号 p. 968-971
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

    We report herein on what is, to our knowledge, the first case of leptospirosis infection acquired in Guam and imported into Japan. The patient was a 31-year-old Japanese man who stayed in Guam for 4 days in early January 2017. He initially experienced headache and high fever 10 days after returning to Japan, and was admitted our hospital 15 days after returning. On admission, he also had conjunctivitis, renal dysfunction, liver dysfunction, and proteinuria. He reportedly had gone mountain climbing in Guam and on the way getting off the mountain, he had lost his way and walked in the river. We suspected leptospirosis and began administering intravenous ceftoriaxione. However, Leptospira DNA was not detected in the blood collected at admission. His fever and other symptoms subsided within 3 days. A microscopic agglutination test was performed using serum collected on days 3 and 10. This revealed a greater-than-four-fold increase in antibody titers against several strains in serum collected on day 10 and the leptospirosis diagnosis was confirmed. Diverse activities can be undertaken when traveling abroad, and this case showed that not only waterborne activities but also climbing, which is seemingly unrelated to fresh water, also presents opportunities for infection. Accurate diagnosis depends on having as much information as possible concerning the worldwide infectious disease climate.

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