感染症学雑誌
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62 巻, 2 号
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  • 石井 英昭
    1988 年 62 巻 2 号 p. 85-96
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    McCoy細胞における生殖器由来Chlanmdia trachomatis株の増殖過程を経時的に電顕下で観察し以下の成績を得た.
    Elementary body (EB) は0.41-0.50μm径の短楕円体で, 偏在性のnucleoidを持ち, 厚さ9-10nmの三層構造の明瞭な細胞壁と一層の不明瞭な細胞質膜で包まれ, 両膜の間に幅9-10nmのペプチドグリカン様物質からなる低電子密度の層が認められた.
    EBはnucleoidの反対側で宿主に吸着する傾向が見られた.
    宿主細胞に吸着したEBの侵入はphagocytosisにより接種後30分以内に起こり, 1時間では終了し宿主細胞質の小胞内に取り込まれた.
    1-3時間までにintermediate form (IF, 0.6μm) に変化し, 細胞質膜の一層化が明瞭となり, 6時間までに増殖型であるreticulate body (RB, 0.6-1.5μm) に展開した.
    また, 侵入したC. trachomatisの一部がIF段階で二次ラインゾーム内で消化される所見が得られた.
    RBでは細胞壁, 細胞質膜ともに三層構造を示し, 細胞壁の厚さ8-9nm, 細胞質膜の厚さ7-9nm, 両者の間のペプチドグリカン様物質の幅7-10nmであった. nucleoid部はDNA糸塊がほぐれて, 明調部として認められ, 一般のグラム陰性細菌に酷似した電顕像を呈した.
    12時間以後二分裂様式によるRBの増殖が始まり, 24時間以降RBは封入体嚢胞の限界膜に近接する傾向を示し, 36時間以後RBは後期IFを経てEBに移行し, 増殖環は48-72時間で完了した.
    各時期のRB表面の一部に, 封入体嚢胞の限界膜への結合, 栄養物質を宿主細胞から取り込む器官と思われる特殊な「梯子状構造」が認められた.
  • 病態と起炎性に関する臨床的解析
    永武 毅
    1988 年 62 巻 2 号 p. 97-107
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    当科において過去10年間 (1976-1985年) に経験されたプランハメラ・カタラーリス (Branhamella catarrhalis) 性呼吸器感染症は186症例, 239感染エピソードである. その症例を対象にブランハメラによる各種呼吸器感染症について, 各疾患毎の臨床的特性と本菌の呼吸器疾患起炎性に関する検討を行なった. 急性気管支炎の24症例で基礎疾患合併率は75%でこの中で易感染に結びつく基礎疾患は11症例 (45.8%) にみとめられ, 21症例 (87.5%) は単独菌感染症であった. 肺炎の13症例 (14感染エピソード) でのみ全例に基礎疾患がみとめられ, 11感染エピソード (78.6%) が複数菌感染症であつた. 肺炎は注射ペニシリン剤が無効で死亡した1症例が含まれている. 慢性下気道感染症201感染エピソードではブランハメラ単独菌感染が116感染エピソード (57.7%) で, 複数菌感染ではインフルエンザ菌との組み合わせが多かった. ブランハメラの起炎性に関する検討では, 高熱 (≧38℃) 群 (n=5) でWBC数平均値が9,560.0/mm3, CRP平均値5.2+であったのに対し, 発熱無し (<37℃) 群 (n=14) でのWBC数平均値は7, 300.0/mm3, CRP平均値1.6+であった. 約3年間に亘る同一症例での急性増悪時の菌数, 炎症マーカーとしての血液生化学検査および喀痰中炎症細胞数の追跡から, ブランハメラはインフルエンザ菌と同様化学療法によく一致して菌数, 炎症マーカーおよび喀痰中細胞数が変動しており, これらの成績はブランハメラの起炎性を裏付ける根拠といえよう.
  • 宮田 義人, 田口 真澄, 原田 七寛, 塚本 定三, 石橋 正憲, 木下 喜雄, 橋本 智, 後藤 郁夫, 市来 重光, 阿部 久夫, 浅 ...
    1988 年 62 巻 2 号 p. 108-122
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    1980-1983年の4年間に大阪空港から入国した海外旅行者は5,694,435名で, 検疫の際に下痢を申告した者は15,232名であった.
    そのうち, 4,843名について下痢原因菌の検索を行い, 次の成績を得た.
    1) 病原菌検出率は47.7%で, 毒素原性大腸菌 (enterotoxigenic Escherichia coli, ETEC) が最も多く, 1,079名 (22.3%), ついでSalmonella 711名 (14.7%), 腸炎ビブリオ572名 (11.8%), 赤痢菌221名 (4.6%), V. cholerae non-01 (NAGビブリオ) 120名 (2.5%) の順で, この5菌種が海外旅行者下痢症の主因をなしているものと考えられた.
    2) 病原菌検出率には季節的な変動はなく, 各菌種とも年間を通じて検出された.
    3) 推定感染地は, ETECとSalmonellaでは東南アジアに多い傾向がみられたが, アジア全域およびアフリカ, 中近東など広範囲にわたる感染であった. 腸炎ビブリオ, NAGビブリオなど, ビブリオ属では東南アジアに集中する傾向がみられた.赤痢菌では南西アジア, 東南アジアに多く, とくにインドにおける感染例が多かった.
    4) 病原菌陽性者の18.3%にあたる423名の患者からは複数の病原菌が検出された.
    5) Salmonellaおよび赤痢菌を検出した患者では, それぞれ124名, 11名から複数の血清型が検出された.
    6) 検出した病原菌の血清型, 薬剤感受性を調べた.
    7) ETECの毒素型を調べた.
  • 木村 薫, 山口 英世, 西田 陽一, 澤井 誠, 佐藤 英昭
    1988 年 62 巻 2 号 p. 123-129
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    1982年6月から1986年6月までの間に, 散発下痢症患者の糞便から乳糖分解性のSalmonella paratyphi B (d-tartrate+) (以下S. para B (t+) と略す) 4株, 乳糖分解性Salmonella litchfield 1株, 集団食中毒例の患者の糞便から乳糖分解性S. para B (t+) 10株を分離した. これらの分離株は, 乳糖分解性である事のほかに, ONPG試験陽性, およびTSI寒天培地やSS寒天における硫化水素非産生の点で定型株と異なっていた.
    分離株を継代したところ, 分離当初は全て乳糖分解菌であったが, 6代目には乳糖非分解菌が解離し始めた. このように乳糖分解性の性質が不安定である事からこの形質はプラスミドにより支配されている事が推測された.
    乳糖分解性や硫化水素非産生などのような性状を有する非定型サルモネラ菌は本報告以外にも散発的に報告されており, サルモネラ菌の検索上注意を要すると考え, 報告した.
  • 黒木 秀明, 加藤 政仁, 林 嘉光, 多代 友紀, 伊藤 剛, 松浦 徹, 武内 俊彦
    1988 年 62 巻 2 号 p. 130-134
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    ラットの気管を用い, 正常粘膜と傷害粘膜に対するグラム陰性桿菌の付着能を検討した. すなわち, 0.1N塩酸を10分間接触させて傷害粘膜を作製し, P. aeruginosa, K. pneumoniae, E. coliの3種のグラム陰性桿菌をin vitroで付着させ走査型電顕で観察した. 傷害群は正常群に比し3菌種とも付着能が増加したが, その増加は菌種間に差がみられP. aeruginosaは特に高い付着能を示した. 3菌種とも多数のpiliを有していることから, 菌種間での付着能の差はそれぞれのpiliに対する上皮細胞側の特異的なレセプターの数に差がある可能性が示唆された.
  • 高田 伸弘, 多田 高, 近藤 力王至, 赤尾 信明
    1988 年 62 巻 2 号 p. 135-140
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    北陸地方における従来および今回の調査によれば, 恙虫病の有力媒介種とされるLeptotrombidium pallidumの広範な分布ならびにL. scutdlareの生息が確認され, 病原Rickettsia tsutaugamushiもこれら2種の分布域内で分離された. また本病患者は, 福井県で6例と石川県で2例が見出された.
    そこで野鼡におけるツツガムシの吸着ならびにRt保有の季節的消長につき定点観察を実施した. 福井県勝山市の住民のRt抗体保有率が高い野向地区における周年調査では, L. pallidumが春・秋に多くみられて特に10-12月にはその月の捕集数の80%を占める著明なピークを示し, Rt分離例も秋季は強陽性が多かった. ただKarp型分離株のマウスに対するLD50は10-4.7と弱毒であった. 石川県金沢市の患者発生地点である健民公園では, 4-6月だけの観察にとどまったが, L. pallidumが優占種で5月にピークがみられるとともに, Karp型Rtも分離できた.
    以上により, 秋から持ち越された媒介種の未吸着個体群が翌春に至って活発化するとともにヒトとの接触頻度も増えることが, 福井・石川両県の患者発生が春に傾むく主な理由と考えられた.
  • 橋戸 円, 川名 尚
    1988 年 62 巻 2 号 p. 141-146
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    日本の女性性器ヘルペス症患者より分離したHerpes Simplex Virus (HSV) 56株 (1型26株, 2型30株) についてplaque reduction assayによりAcyclovir (ACV) に対する感受性を測定した. 感受性は, 対照の50%のHSVの増殖を阻害したACVの濃度 (ID50) として表した. 1型のACV感受性は0.59-8.46μMに分布し, 平均は2.92 (±1.85) μM, 2型の感受性は3.80-12.05μMで, 平均は6.24 (±1.90) μMであった. thymidine kinase (TK) activityを調べたところ, 基質特異性の変化したTK (TKa) をもつHSV株は1型に比べ2型に有意に高率に検出された. またID50値はTKaにおいて高い傾向がみられた. 著明に高いID50値をもつACV耐性のHSV株は, 今回検討した日本の新鮮分離株からは検出されず, またこれらはアメリカの新鮮分離株10株に比べてID50値が低く, ACVに対する感受性が高い傾向が認められた. 以上より, ACVは日本で分離されるHSVに対しても有効であると考えられた.
  • 原尻 真理, 吉沢 花子, 橋爪 壮, 板橋 光司郎, 尾崎 陽子, 若山 曜子
    1988 年 62 巻 2 号 p. 147-155
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    我が国におけるC. trachomtisの感染状況, ならびに妊娠, 分娩, 出生児に及ぼす影響を明らかにする目的で, 以下の調査を行なった. 妊娠4ヵ月の妊婦237名を対象に, Micro TrakTM法, ChlamydiazymeTM法, 分離培養法にて抗原検出を, ELISA法, IpazymeTM法にて抗体検出を行ない, 抗体保有をもとに分類し, 妊娠, 分娩の観察を行なった. また, 臍帯血のIgG抗体が陽性だった25名の児を対象に, 鼻咽腔, 眼瞼からの抗原検出を行ない, フォローアップした.
    妊婦の子宮頚管擦過材料からの抗原検出は, 11例で4.6%, 抗体陽性率は, IgG抗体陽性は35.9%, IgG・IgA抗体陽性は16.0%で, 抗原陽性11例中8例 (72.7%) は, IgA抗体陽性であった. 抗体陽性群では, 陰性群と比較して, 既往妊娠歴では, 流産の発生率が有意に高く (p<0.001), 前向き調査 (Prospective study) においては切迫流産, 早産の発生率および妊娠週数, 出生時体重においても有意差が認められた. また, 前置胎盤との関連も示唆された.
    抗原が検出された母親から出生した児6例中4例から, また上記の抗原陽性例を含むIgA抗体 (16倍以上) を保有していた母親から出生した児の17例中8例から抗原が検出された. IgA抗体を保有し, 抗原が検出されなかった母親から出生した児の4/11の鼻咽腔から抗原が検出されたことからC. trachomatis感染の指標として, 抗原検出はfalse negativeを含む危険があり, この種の研究には, IgA・IgG抗体の検出を感染の指標とする方が適切と考えられた.
  • 田中 真奈実, 入江 勇治, 安羅岡 一男, 佐藤 章仁, 松本 繁, 白田 保夫, 中村 尚志, 河合 美枝子, 海老原 誠
    1988 年 62 巻 2 号 p. 156-163
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    関東地方利根川流域で感染した慢性日本住血吸虫症について, 茨城県内診断例12例を中心に, その診断法・病態・治療適応について検討した. 患者は, すべて海外渡航歴・利根川以外の本症流行地への旅行歴はなく, 取手市戸頭, 稲敷郡河内村, 筑波郡谷和原村等かつて本症の流行が報じられた地域の在住者である. 血中抗住血吸虫抗体及び糞便中の虫卵は検査したすべての症例で陰性であった. 8例の患者の確定診断は, 本症とは異なる基礎疾患で摘出された臓器 (胃・十二指腸等上部消化管及び肝・胆道系) 中の日本住血吸虫虫卵の病理学的検索によってなされた. しかし, 茨城県取手市戸頭の3症例と筑波郡伊奈町の1症例は, 人間ドックで画像診断学的に診断されており, 流行地における本症患者のスクリーニングには, 肝エコーにおける魚鱗状パターン, 肝CT像における被膜石灰化像・隔壁様石灰化像等特徴的所見も有用であることが示された. また, その病態は, 基礎疾患によって異なっており, 胃癌・肝癌等悪性腫瘍との合併例は4例であった. プラジカンテルによる治療適応の判定には, 虫卵排出の有無及び虫卵の孵化能の検索が必要であるが, 疑わしい症例には生検材料による孵化試験をすることが必要である. 病理組織学的検索だけでは, 感染時期及び孵化能の判定は困難である.
  • 村瀬 稔, 仲西 寿男, 坂崎 利一
    1988 年 62 巻 2 号 p. 164-170
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    サルモネラ腸炎の集団発生39事例からの分離菌292株のプラスミドの解析, 生物型別およびファージ型別を行い, プラスミドプロファイルの疫学マーカーとしての有用性を評価した. 39事例中, 分離菌株にプラスミドの存在が認められたのは14事例で, それらの事例では各事例ごとに分離菌のもつプラスミドプロファイルは1パターンに限定され, しかもそれぞれの事例に特異的で, その疫学マーカーとしての有用性が確認された. しかし, 多くの事例で1事例からの全分離菌株が同じ生物型およびファージ型であるにもかかわらず, プラスミドの証明できない菌株の存在が認められ, それらの事例をプラスミド保有菌と非保有菌との混合感染とすべきかどうか, 今後の研究によって明らかにされなければならない疑問点が残された. 一方, 全分離菌株にプラスミドの存在が認められなかった25事例では, 生物型別およびファージ型別がいぜんとして有用なことが再確認されたが, われわれの用いた型別の方法にも検討すべき余地のあることが考察された.
  • 村瀬 稔, 仲西 寿男, 坂崎 利一
    1988 年 62 巻 2 号 p. 171-179
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    最近, Salmonellaの一部の血清型で30-60Mdの大型プラスミドがその病原性に関係するといわれる. 私たちはこれらに該当するプラスミドと胃腸炎起病性との関係を検討するため, 主として急性胃腸炎患者由来の血清型Typhimurium185株, Enteritidis35株を含む33血清型, 458株および家畜由来のTyphimurium21株についてプラスミドの検出を試みたが, 30-60Mdのプラスミドを保有する菌株は, Typhimuriumのヒト由来1株および家畜由来7株のみであった. そこで60Mdプラスミド保有および非保有のTyphimuriumそれぞれ2株ずつを用い, それらの108および104ずつを15日齢のC57BLマウスに経胃接種したところ, プラスミドの有無にかかわらず, いずれの菌株も最終的には全身感染でマウスをたおしたが, 60Mdプラスミド保有菌株接種群では, 非保有株接種群に比べて生残日数が短かかった. これを接種後の菌のマウス体内分布からみたとき, 60Mdプラスミド保有株のほうがより早期に実質臓器に侵入することがわかった. いっぽう, 60Mdプラスミド保有株6株を含めて, 各種のプラスミド保有および非保有のTyphimurium20株のHeLaおよびHEp-2細胞への侵入性を比較したところ, 両者間に有意義な差はみられなかったのみならず, その率は高いものでも7%以内にとどまり, また細胞1個あたりの侵入菌数は数個にすぎなかった. 以上の成績から, 一部のSalmonellaの血清型にみられる大型のプラスミドはマウスや家畜のチフス症または全身感染における菌力の強さ, とくに菌が腸壁を突破してからのちの動向に関係するが, ヒトの急性胃腸炎起病性には関与しないと考察された.
  • 田辺 清勝, 中川 明子, 木村 哲, 三田村 圭二, 島田 馨, 森 茂郎, 若林 とも, 稲垣 稔, 三浦 琢磨
    1988 年 62 巻 2 号 p. 180-184
    発行日: 1988/02/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    HIV (human immunodeficiency virus) 抗体陽性の血友病患者 (26歳) がカリニ肺炎を発症し, この治療にST (スルファメトキサゾールとトリメトプリム) 合剤を投与したところ, 投与後9日目に中毒疹が出現して重症化した. TEN (toxic epidermal necrolysis) の病理組織所見を呈しており, 本症例はAIDS (acquired immunodeficiency syndrome, 後天性免疫不全症候群) に併発した薬剤過敏症と考えられる.
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