1980-1983年の4年間に大阪空港から入国した海外旅行者は5,694,435名で, 検疫の際に下痢を申告した者は15,232名であった.
そのうち, 4,843名について下痢原因菌の検索を行い, 次の成績を得た.
1) 病原菌検出率は47.7%で, 毒素原性大腸菌 (enterotoxigenic Escherichia coli, ETEC) が最も多く, 1,079名 (22.3%), ついでSalmonella 711名 (14.7%), 腸炎ビブリオ572名 (11.8%), 赤痢菌221名 (4.6%), V. cholerae non-01 (NAGビブリオ) 120名 (2.5%) の順で, この5菌種が海外旅行者下痢症の主因をなしているものと考えられた.
2) 病原菌検出率には季節的な変動はなく, 各菌種とも年間を通じて検出された.
3) 推定感染地は, ETECとSalmonellaでは東南アジアに多い傾向がみられたが, アジア全域およびアフリカ, 中近東など広範囲にわたる感染であった. 腸炎ビブリオ, NAGビブリオなど, ビブリオ属では東南アジアに集中する傾向がみられた.赤痢菌では南西アジア, 東南アジアに多く, とくにインドにおける感染例が多かった.
4) 病原菌陽性者の18.3%にあたる423名の患者からは複数の病原菌が検出された.
5) Salmonellaおよび赤痢菌を検出した患者では, それぞれ124名, 11名から複数の血清型が検出された.
6) 検出した病原菌の血清型, 薬剤感受性を調べた.
7) ETECの毒素型を調べた.
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