耳鼻と臨床
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69 巻, 3 号
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原著
  • 近藤 玲未, 松本 希, 土橋 奈々, 野田 哲平, 小宗 徳孝, 中川 尚志
    原稿種別: 原著
    2023 年 69 巻 3 号 p. 153-159
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    MRI を撮影した人工内耳装用症例を 2021 年までに 18 例経験した。MRI の撮影範囲の内訳は頭頸部 9 例、胸髄 2 例、肩関節 1 例、肝臓 1 例、腰仙髄 2 例、脊椎 1 例、骨盤 2 例であった。このうち頭頸部 MRI を撮影した 8 例は撮影範囲に人工内耳のアーチファクトを認めた。MRI 撮影後の人工内耳トラブルが 4 例に生じ、うち 1 例で体内器の磁石を入れ替える手術を要した。MRI の強調像のうち、拡散強調像は磁石を入れた状態では評価困難であった。MRI 画像の欠損範囲や検査後のトラブルを把握しておくことで、他科の医師との MRI 検査計画を立てやすくなり、また患者の検査への理解を深めることに役立てることが可能と考えられた。

  • 三橋 亮太, 佐藤 公宣, 田中 久一郎, 永田 圭, 深堀 光緒子, 栗田 卓, 佐藤 文彦, 川口 壽比古, 黒岩 大海, 宮﨑 瑞穂, ...
    原稿種別: 原著
    2023 年 69 巻 3 号 p. 160-168
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    緊張部型真珠腫の多くは、経外耳道的内視鏡下耳科手術(以下 TEES)でわずかな骨削開を加えることによって明視下操作が可能となる。2015 年 9 月より、われわれは緊張部型真珠腫に対する基本術式を TEES としている。今回、2010 年 1 月から 2020 年 3 月までに久留米大学病院耳鼻咽喉科で手術を行った緊張部型真珠腫初回手術例 115 耳について検討を行った。これらの症例を日本耳科学会中耳真珠腫進展度分類 2015 年改訂案に基づいて進展度を分類し、術式選択、聴力成績、遺残・再形成再発率について検討した。手術成績は TEES 導入前群(n=61)と TEES 導入後群(n=54)の間で比較を行った。TEES 導入後群では症例の 74%が TEES 単独による手術を行われた。TEES の導入後に聴力成功率が改善する傾向を認めた。TEES 導入前群と TEES 導入後群における遺残再発率と再形成再発率は同等であった。

  • 山本 賢吾, 大木 幹文, 中村 吉成, 大橋 健太郎, 山下 拓
    原稿種別: 原著
    2023 年 69 巻 3 号 p. 169-175
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    一酸化窒素(NO)は生体でさまざまな作用を示し、経口的に呼出された呼気 NO 濃度が下気道疾患のバイオマーカーとして利活用されている。一方で高濃度の NO が鼻・副鼻腔から産生されるものの、これに着目した報告は少ない。今回われわれは、経鼻的に呼出された呼気 NO 濃度の測定を試みると同時に、鼻疾患の有無やその種類により、経口および経鼻的に呼出された呼気 NO 濃度が異なるかを検討した。ネブライザ装置の一部と NO 濃度測定装置を組み合わせることで、鼻閉の強い症例でも経鼻 NO 濃度を測定することができた。経口 NO 濃度は副鼻腔炎群、アレルギー性鼻炎群、対照群の順に高く、経鼻 NO 濃度はアレルギー性鼻炎群、副鼻腔炎群、対照群の順に高かった。鼻疾患のバイオマーカーとして、経鼻的な NO 濃度測定の有用性が示唆された。

  • 松岡 千尋, 阪上 智史, 八木 正夫, 岩井 大
    原稿種別: 原著
    2023 年 69 巻 3 号 p. 176-181
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    最も一般的な外科的気道確保術である気管切開術は、術中・術後の合併症が危惧されるハイリスク症例(高度肥満、短頸、長期的なカニューレ管理を要するなど)において、安全な管理に悩まされる。近年、安全性を考慮した新しい術式として 2007 年に鹿野によって輪状軟骨切開術(Cricoid Cartilage Fenestration:以下 CCFn)が報告され、ハイリスク症例に対する選択肢としてその有用性が確認されている。当科では 2020 年 12 月から 2021 年 12 月の間に CCFn を 13 例に施行した。心肺停止による蘇生後脳症が 7 例(54%)、脳出血(脳幹出血を含む)が 2 例(15%)、脊髄梗塞が 2 例(15%)、その他の症例が 2 例(15%)であった。BMI 30 を超える肥満が 13 例中 4 例(31%)で、抗凝固薬を使用している例は 5 例(38%)であった。全症例で合併症を認めず、観察中にカニューレ管理におけるトラブルはなかった。人工呼吸器は 8 例(62%)で離脱した。脊髄梗塞の 2 例のうち 1 例は意識状態が良好で発声可能であった。しかし、上肢の運動障害があるため用手的な閉鎖による発声が困難であったのでレティナ®を挿入したが、フランジが声門に接触するために使用できなかった。上肢の運動障害を伴い用手的な閉鎖による発声が困難な症例に対して CCFn を行う場合には注意が必要と考える。

症例報告
  • 佐藤 公宣, 三橋 亮太, 田中 久一郎, 梅野 博仁
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 3 号 p. 182-189
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    血管平滑筋腫は皮下組織に発生する良性腫瘍であり、外耳道に発生することは非常にまれである。今回、外耳道後壁の切除および硬性再建を行った外耳道血管平滑筋腫を報告する。症例は 47歳、男性。右耳閉感を主訴に近医を受診した。右外耳道腫瘍を認め、当科を紹介された。画像検査と細胞診では診断が確定できず、外耳道腫瘍に対して腫瘍切除を施行した。腫瘍と合併切除した外耳道後壁は薄切軟骨で硬性再建した。術後の病理診断は海綿型血管平滑筋腫であった。術後 10 カ月が経過するが現在までに再発なく経過し、外耳道の形態も維持できている。血管平滑筋腫は再発や悪性化の報告がされており、初治療での十分な切除が必要である。腫瘍の再発、外耳道形態については今後も経過観察する方針である。

  • 三橋 亮太, 佐藤 公宣, 田中 久一郎, 川口 壽比古, 深堀 光緒子, 黒岩 大海, 小野 剛治, 千年 俊一, 梅野 博仁
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 3 号 p. 190-198
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    頸静脈球型グロームス腫瘍症例(GJT)の根治切除は困難なため、多くの症例では経過観察を選択した結果、持続性の拍動性耳鳴に悩まされる。今回われわれは GJT に対して、姑息的手術を行い拍動性耳鳴が消失した症例を経験した。症例は 67歳、女性。右拍動性耳鳴を自覚し、右鼓膜下象限に接する赤色の拍動性腫瘤を指摘された。画像検査の結果、右 GJT(Fisch 分類:Class C2)と診断した。下位脳神経麻痺を認めず、wait and scan の方針となったが、3 年後に拍動性耳鳴により不眠とうつ病が悪化した。経外耳道的内視鏡下耳科手術(transcanal endoscopic ear surgery:TEES)で鼓膜の意図的浅在化を行い、手術直後より拍動性耳鳴が消失した。鼓膜の意図的浅在化は根治切除困難な GJT の拍動性耳鳴に対する治療として有用であると考えた。

  • 久冨木 冠, 我那覇 章, 中村 雄, 津曲 省吾, 東野 哲也
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 3 号 p. 199-207
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    骨固定型補聴器(以下、Baha)システムにおけるインプラントの生存には osseointegration が重要である。化学療法や放射線治療は osseointegration に悪影響を及ぼすことが知られているが、化学放射線療法後の Baha に関する報告は少ない。本報告では、上咽頭癌に対する化学放射線療法後に行った Baha について報告する。53 歳の男性が上咽頭癌の化学放射線療法後の左持続性耳漏と難聴を主訴に当科を受診した。右耳は中耳癌に対する側頭骨亜全摘術後の聾であった。術前 CT 画像シミュレーションにおける左インプラント想定部位は頭頂骨に位置し、従来の上咽頭癌に対する放射線療法の照射野外であると判断した。左頭頂骨に皮下組織保存による Baha 植込み術を行った。術後の Baha 装用閾値は 28 dB、最高語音明瞭度は 90%であり、良好な装用効果を認めた。Baha 植込み後、患者は補聴器装用が不要となり、耳漏は停止した。術後 2 年の経過観察期間において皮膚・皮下組織合併症を認めず、共鳴振動周波数分析を用いたインプラントの安定性評価における ISQ 値は 52 であった。

  • 大野 純希, 吉田 晴郎, 伊東 正博, 田中 藤信
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 3 号 p. 208-213
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    副耳下腺に生じた多形腺腫由来癌の 1 例を経験したので報告する。症例は 48 歳、男性で、受診 1 年 2 カ月前より自覚した左頬部腫瘤を主訴に受診した。画像検査で副耳下腺腫瘍を疑ったが、穿刺吸引細胞診では class Ⅱ、多形腺腫疑いであった。診断確定目的に、腫瘍直上切開による腫瘍切除術を施行し、術後の永久標本で多形腺腫由来癌の診断に至った。術後、頭頸部扁平上皮癌に準じたシスプラチン併用の化学放射線療法を施行し、術後 2 年 3 カ月時点で再発なく経過している。今回は腫瘍直上切開を選択したが、術後に改めて検討した結果、同一の切開線で頸部郭清や耳下腺切除にもつなげることが可能な切開線の選択も検討すべき症例であった。

  • 野田 美月, 嶋崎 絵里子, 山内 盛泰, 倉富 勇一郎
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 3 号 p. 214-220
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    症例は 56 歳、男性。嗄声を主訴とし喉頭内視鏡検査にて左声帯麻痺を認め、超音波検査、造影 CT で甲状腺左葉下極に境界不明瞭な腫瘍陰影を認めた。穿刺吸引細胞診では乳頭癌の特徴を示さず核異型が強い悪性細胞を認め、甲状腺癌やその他の悪性腫瘍を疑い甲状腺左葉切除術・傍気管郭清術を施行した。手術では腫瘍が浸潤した反回神経や胸骨甲状筋、副甲状腺、周囲脂肪組織を一塊に切除した。免疫組織化学染色では CD5 陽性、サイログロブリン・TTF-1 陰性であり甲状腺内胸腺癌と診断された。切除断端は陰性で遠隔転移もなく経過観察とした。甲状腺内胸腺癌は浸潤傾向が強いが、甲状腺未分化癌や甲状腺扁平上皮癌と比較し経過が緩徐で予後良好であり、治療は根治切除が第一選択である。甲状腺下極に境界不明瞭な腫瘍を認め、細胞診にて乳頭癌細胞とは異なる悪性細胞を認めた場合は本疾患を鑑別に挙げ、断端陰性となる根治切除を行うことが重要と思われた。

  • 井野 千代徳, 田邉 正博
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 3 号 p. 221-237
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    自発性異常味覚(spontaneous dysgeusia:以下 SD)症と診断した特徴的な 13 例を提示する。SD 症は、所見・症状・背景共に舌痛症に近似することが分かった。実際、両疾患は区別困難である場合もまれではない。口腔感覚は近隣の雰囲気を感知・評価する機能を有している。口腔感覚でもある SD 症例の 62.7%が家庭にストレスがあると答えている。 その SD 症は近年増加傾向にある。実際、SD 症は 2007 − 2009 年では 14 例で、2019 − 2021 年では 65 例に増加している。その原因の一つに筆者らは高齢化と介護が原因ととらえている。怒りの表情を見ると第二味覚野が活性することが知られている。実際、同居者の怒りの顔を見ると SD が発症するという例は少なくない。不快な味質と嫌悪は扁桃体に記憶されているが、不快な情報は扁桃体を刺激して不快な味質を中枢で生むことになり、それを患者は舌に自覚する。これが SD 発症の機序と考えた。

  • 猿渡 英美, 奥田 匠, 井手 慎介, 古賀 浩之, 髙橋 邦行
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 3 号 p. 238-242
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    異所性甲状腺は甲状腺組織が甲状腺の固有位置以外に存在する発生学的異常で、頸部正中に生じることが多い。今回外側甲状腺原基に由来して側頸部に生じた迷入性異所性甲状腺癌が疑われた症例を経験したので報告する。症例は 60 歳代、男性。半年前から右頸部腫瘤を自覚し、徐々に増大した。当科初診時、右頸部に約 6 cm 大の嚢胞性腫瘤を認めた。穿刺吸引細胞診で原発不明の腺癌の転移を疑って摘出術を施行したところ、甲状腺乳頭癌と診断された。本腫瘤は嚢胞性であったがリンパ節転移としては巨大であるにもかかわらず単一で、リンパ節構造もみられず起源が不明と考えられたが、術後再発高リスク例で放射性ヨウ素内用療法の適応と判断し、甲状腺全摘および D1 郭清術を施行した。術後病理検査所見では両葉に計 4 カ所乳頭癌を認め、リンパ節転移は認めなかった。術後は放射性ヨウ素内用療法を行い、現在外来で経過観察を行っている。

  • 福島 亮, 白倉 聡, 苦瓜 治彦, 島﨑 幹夫, 大野 貴史, 吉田 祥徳, 民井 智, 小出 暢章, 別府 武
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 3 号 p. 243-248
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    近年、がん治療において免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitors;ICIs)は広く使用されているが、ICIs による免疫関連有害事象(immune-related adverse events;irAE)の種類は多彩であり注意が必要となる。その中での神経・筋関連有害事象は症状もさまざまであり、診断に難渋することがある。今回われわれは、嚥下障害を初発症状とした irAE 筋炎の 1 例を経験したのでここに報告する。ステロイド治療を開始されたが、改善が思わしくなかった嚥下障害に対して、耳鼻咽喉科医主導で嚥下評価とリハビリテーションを継続し、嚥下障害は緩徐であったが改善を得られ、次の治療に結びつけることが可能となった。ICIs による irAE 筋炎の際は、早期の嚥下機能評価とそのリハビリテーションが患者の全身状態や予後に重要となることが考えられた。

  • 伊東 里佳, 中島 俊之, 進 武幹
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 69 巻 3 号 p. 249-252
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    特発性浅側頭動脈瘤の 1 例を経験した。浅側頭動脈は腫瘤性病変を疑い、穿刺吸引細胞診が施行され、止血に時間を要した症例の報告があるため、外傷の有無、拍動および Terrier's sign の有無や、超音波検査や CT/CTA などの画像検査による鑑別が重要である。

視点
  • 野田 哲哉
    原稿種別: 視点
    2023 年 69 巻 3 号 p. 253-261
    発行日: 2023/05/20
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    めまい患者にはしばしば嘔気や嘔吐などの自律神経症状を伴う。今回はめまいに伴う嘔気に着目して、乗り物に酔いやすい者と酔いにくい者の嘔気を調査した。2016 年 8 月からの 5 年間にめまいを訴えて当科を初診で受診した者の中で、カルテに乗り物酔いと嘔気の有無が記載されている男性 198 例と女性 603 例を対象者とした。男性では乗り物に酔いやすい者が 33 例で、そのうち 21 例(63.6%)が嘔気を伴っており、酔いにくい者が 165 例で、そのうち 92 例(55.8%)が嘔気を伴っていた。女性では酔いやすい者が 212 例で、そのうち 161 例(75.9%)が嘔気を伴っており、酔いにくい者が 391 例で、そのうち 223 例(57.0%)が嘔気を伴っていた。男性では統計学的に有意差が認められなかったが、女性では有意差があり、乗り物に酔いやすい者は酔いにくい者よりめまいに嘔気を伴う割合が高いといえた。乗り物酔いとめまいは関係があることが示唆された。これらには平衡機能障害があり、中枢の神経経路を介して自律神経症状が現れると考えられた。

臨床ノート
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