新しいアミノ配糖体系抗生剤HAPA-Bの呼吸器感染症に対する有効性, 安全性および有用性を検討する目的で, Amikacin (以下AMK) を対照として二重盲検法による比較試験を実施した.
対象疾患は細菌性肺炎, 肺化膿症ならびに慢性呼吸器感染症 (慢性気管支炎・び漫性汎細気管支炎の急性増悪, 感染を伴った気管支拡張症・肺気腫・肺線維症・気管支喘息など) とした.
これらにHAPA-B1回200mg1日2回, AMK1回200mg1日2回のいずれかを原則として14日間筋注投与した.
その結果以下の成績が得られた.
1. 集積症例
218例について検討薬剤が投与された.このうち小委員会およびコントローラーにより開封前に解析対象症例としての適否が検討された.その結果, 臨床効果解析対象例として185例 (HAPAB98例, AMK87例), 副作用解析対象例として207例 (HAPA-B108例, AMK99例), 臨床検査値解析対象例として193例 (HAPA-B102例, AMK91例), 有用性解析対象例として182例 (HAPA-B96例, AMK86例) が採用された.
2. 臨床効果
小委員会判定でHAPA-B投与群98例中, 著効1例, 有効65例, やや有効9例, 無効23例, 有効率67.3%, AMK投与群87例中著効1例, 有効56例, やや有効10例, 無効20例, 有効率65.5%であり, 両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.また, 肺炎群と慢性呼吸器感染症群での層別, 重症度別の臨床効果においても両薬剤投与群問に有意差は認められなかった.また, 主治医判定においても両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.しかしながら慢性呼吸器感染症群における投与3日後あるいは7日後の咳嗽, 呼吸困難喀痰量の改善度において, HAPA-B投与群はAMK投与群に比して有意に優れていた (P<0.01, 0.05).
3. 細菌学的効果
起炎菌として108株が分離されたが, その内訳はグラム陽性菌27株, グラム陰性菌81株とグラム陰性菌が多くを占め, 菌種も多彩であった.その消失率はHAPAB投与群66株中消失40株, 60.6%, AMK投与群42株中消失25株, 59.5%であり, 両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.さらに, グラム陽性菌, 陰性菌別あるいは菌種別に層別した場合においても両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.
4. 副作用および臨床検査値異常
副作用はHAPA-B投与群108例中3例, 2.8%, AMK投与群99例中6例, 6.1%にみられた.HAPAB投与群では3例とも発疹, 発熱, 掻痒感などアレルギー症状を主体とした例であり, AMK投与群は発疹, 掻痒感のほかに注射部位の疼痛1例, 注射部位の発赤・疼痛1例, めまい1例がみられた.両薬剤投与群間における発現頻度に有意差は認められなかった.両薬剤投与群を通じて重篤な症状を呈した例, 後遺的症状を呈した例はみられなかった.
臨床検査値異常は, HAPA-B投与群102例中20例, 19.6%, AMK投与群91例中27例, 29.7%にみられた.主たるものは, 好酸球増多, トランスアミナーゼ上昇などであった.両薬剤投与群間において発現頻度に有意差は認められなかった.また, BUN上昇3例, BUN上昇およびクレアチニン上昇1例がみられたが, これらはいずれもAMK投与群において発現し, HAPA-B投与群ではみられなかった.全ての臨床検査値異常は重篤な例ではなく, 後遺的な経過を示した例はみられなかった.
5. 有用性
有用性において有用以上と判定された症例は, 小委員会判定でHAPAB投与群96例中63例, 65.6%, AMK投与群86例中54例, 62.8%であった.また主治医判定においてはHAPA-B投与群92例中60例, 65.2%, AMK投与群で84例中46例, 54.8%であった.両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.
6.以上の成績より, HAPA-B1回200mg1日2回投与は, AMK1回200mg1日2回投与に比し, 肺炎, 慢性呼吸器感染症などに対し, 少なくとも同程度の臨床効果が得られたものといえよう.また, HAPA-B投与群においては, 腎および聴器に対する副作用および臨床検査値異常がみられなかったことから, より安全性が示唆され, かかる感染症に対しても臨床的に有用性が期待される新しいアミノ配糖体系抗生剤と考えられた.
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