感染症学雑誌
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60 巻, 12 号
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  • 佐久川 廣, 嘉手納 啓三, 親川 富憲, 上原 正照, 新垣 民樹, 金城 福則, 小張 一峰
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1261-1267
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    沖縄県におけるHBV感染の実態を調査する目的で, 妊婦を中心としたキャリアのHBe抗原, 抗体系の調査を実施した.
    妊婦のHBs抗原陽性率は3.3%と高率であったが, これらキャリア妊婦におけるHBe抗原陽性率は6.3%で, 母児間感染予防の対象となる児の出産数は他地域に比べ少ないものと推定された.また, 10歳未満の小児で, HBs抗原, 抗体陽性率がともに1%前後と低率であったことより, 沖縄県においては, 現在垂直感染, 水平感染がともに急速に減少しているものと思われた.
    一方, HBVキャリア全体の年齢別のHBe抗原, 抗体の陽性率をみると, 10歳未満では全例がHBe抗原陽性であるが, 年齢の上昇とともに陽性率が低下し, 10代の後半から20代の前半にかけて陰転化のピークを認め, 30歳以上では, 90%以上のキャリアがseroconversionしていた.そして, このことは沖縄県の慢性肝疾患の死亡率が低いことと関連しているものと思われた.
  • 藤巻 康喜, 河島 尚志, 根本 しおり, 宮原 真知子, 武隈 孝治, 本多 輝男, 小池 直人, 金 兌貞, 露木 和光, 川上 恒紀
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1268-1278
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    1978年2月より1984年12月までの7年間に市立根室病院小児科を受診した急性上気道炎患児の咽頭より482株のA群溶連菌を分離した.また1978年および1985年に根室市内の小学校の健康学童の咽頭より合計44株のA群溶連菌を分離した.
    これらの分離された菌株について, T凝集反応による型別を行い, 7年間の分離菌型の変遷を見るとともに, これらのうち368株について薬剤感受性の変動を調査した.
    型別では11型が最も多く出現しており, 次いで4型が多く認められた.7年間を通じてこの2つの型が常時出現しており, またその出現率も3年から4年の周期で交互に増減していた.ついで出現を認められた型として6型, 28型, B3264型などがあった.これらもそれぞれ独自の周期をもつて出現と消退を繰り返していた.
    これら分離されたA群溶連菌に対してPGG, AB-PC, CET, MINO, EM, CPの6種の抗生物質に対する薬剤感受性を検討した.このうちPC-Gに対する感受性が最も高く, 次いでAB-PC, CETの順であった.MINOおよびEMは時として2峰性の感受性分布を示した.CPは比較的変動がなかった.一方耐性菌はEMに対し一部認められたのみであり, 多剤耐性菌は全く認められなかった.
  • 深山 牧子, 磯崎 泰介, 岡 慎一, 浦山 京子, 稲松 孝思
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1279-1283
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    近年, 深在性真菌症は増加の傾向にあり, かつ致命的であることが少なぐない.われわれは老年者における深在性真菌症の特徴を明らかにするために, 剖検により確認された症例を対象に検討した.
    1977年より1983年までの60歳以上の剖検例1613例のうち, 深在性真菌症は33例 (2.05%) に認められた.病型では全身型7例, 局所型26例 (肺型18例, 尿路型3例, 消化管型4例, 中枢神経型1例) であった.菌種は, アスペルギルス15例, クリプトコッカス8例, カンジダ7例, 不明4例であり, 重複真菌感染症 (アスペルギルス, カンジダ) を1例に認めた.基礎疾患は固型癌11例, 血液疾患6例, その他16例であった.その他の16例のうち, 15例は神経疾患などでほぼ寝たきりの状態が3ヵ月以上続いていた.検査所見では, 血清アルブミン, コリンエステラーゼおよびリンパ球数の低値である症例を多く認めた.全身型と局所型との間に, 基礎疾患, 臥床期間, 臨床検査値に有意の差は認められなかった.
    老年者における深在性真菌症の占める比率は決して高くなく, 背景として担癌状態のほかに, 長期臥床の症例が多いことが特徴的といえよう.
  • ESK浮遊培養細胞によるインフルエンザウイルスの分離
    中村 和幸, 西沢 修一
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1284-1293
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    ESK細胞の浮遊培養法および浮遊培養細胞のインフルエンザウイルス感受性について検討し, 以下の成績を得た. 1) ESK細胞は, スピンナーフラスコを用いてMEM Joklik浮遊培養液に, 新生仔牛血清を10%, 30mg/mlのメチルセルローズを3%, 100mg/mlのポリペプトンを5%添加した培養液を使用することにより, 良く増殖し, 単離した状態の良い細胞を十分量得ることができた. 2) ESK浮遊培養細胞はインフルエンザ標準株に対してESK単層培養細胞, MDCK単層培養細胞とほぼ同等の感受性を示したが, ESK細胞でのHA産生の進展はMDCK細胞に比較し, 1~2日遅れる傾向が認められた. 3) 331名のインフルエンザ様患者からのウイルス分離において, ESK浮遊培養細胞で216株, ESK単層培養細胞で208株, MDCK単層培養細胞で205株のインフルエンザウイルスが分離され, ESK浮遊培養細胞はESKおよびMDCK単層培養細胞に劣らない高い分離率を示した.
  • 第1報小児ブドウ球菌感染症の臨床統計
    久保 政勝, 和田 紀之, 関 孝, 樋口 薫, 福永 謙, 永田 正人, 伊藤 文之, 堀 誠, 前川 喜平, Hisashi TAMAK ...
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1294-1302
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    昭和30年から昭和59年迄に慈恵医大小児科に入院したブドウ球菌感染症414名の臨床統計的観察を行った.ブドウ球菌感染症の年次推移は昭和48年, 49年をピークとしてその後減少したが, 昭和59年度が過去最高の31名となった.疾患別内訳は, 肺炎が最も多く129例, SSSS108例, ついで膿胸96例, 敗血症46例の順であった.
    年齢別分布は3歳以下の乳幼児が全体の88%を占め, 1歳迄の乳児は315名で全体の65%であった.重症ブドウ球菌感染症の死亡率の推移は, 昭和30年から34年までの5年間は死亡率が43%であったが, その後27%, 18%と減少し, 昭和45年以後10年間は10%前後と最低となった.しかし最近の5年間は死亡率は30%と著増し重篤化している.重篤化の要因を検討するため, 過去15年間に経験した重症ブドウ球菌感染症78例の臨床症状, 起炎菌, 検査成績について検索した.疾患別では敗血症が最も重篤であり, 起炎菌別では表皮ブドウ球菌による敗血症や髄膜炎は死亡率が高かった.予後不良例は, 低体温・四肢冷感を含めたshock症状, 腹部膨満, 出血傾向などの症状を認めた.検査成績ではDIC合併例が予後不良であった.
  • 第2報最近5年間に経験したブドウ球菌感染症の5剖検例
    久保 政勝, 瀬川 孝昭, 神立 進, 玉置 尚司, 岡崎 実, 若杉 宏明, 和田 紀之, 伊藤 文之, 前川 喜平
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1303-1310
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    ブドウ球菌感染症の重篤化の要因を知るため, 最近5年間で経験した5剖検例の臨床的病理学的検討を行った.その結果3例は, 乳児一過性低ガンマグロブリン血症, インスリン依存性糖尿病, 先天性心疾患などを認めるCompromized hostであった.臨床経過は急激で全例に血小板減少と低蛋白血症を認めた.そこで15年間に経験した重症ブドウ球菌感染症56例について血清総蛋白濃度を検討した.
    56例中30例に低蛋白血症を認めた.5g/dl以下の著明な低蛋白血症をきたした14例の予後および臨床的特徴は5例が死亡, 4例は広範な蜂巣織炎, 8例は強度の腹部膨満を認め特に重篤であった.一方正常例は26例で死亡例はなかった.敗血症, 肺炎, 膿胸, 髄膜炎などはブドウ球菌感染の中でも重症であるが, その中でも著明な低蛋白血症をきたす病態は重篤であるので, 迅速でかつ強力な抗生物質療法と補助療法の展開が必要である.
    重篤化や難治化の要因にブドウ球菌の高度多剤耐性があるが, 抗生物質感受性を検索しえた4例ではセフェム剤, アミノグリコシド系薬剤に (卅) とかなり感受性が高かった.
    また1例はブドウ球菌の産生する外毒素により多臓器障害を発症し死亡した.
    5剖検例の病理.学的検討では4例は経気管支性の小葉性肺炎像を, 1例は敗血症によるpneumonitisの像を認めた.5例全例に非化膿性のフィブリン血栓が肺, 腎, 脾などに認められ, DICを併発したと考えられた.
    著者らの経験した5剖検例では, ブドウ球菌の産生する外毒素とDICの発症が重篤化の要因と推察された.今後はDICを発症するブドウ球菌株の検索が必要と思われる.
  • 高山 直秀, 南谷 幹夫, 高山 道子
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1311-1316
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    水痘ワクチン接種前後のペア血清が得られた187名の健康小児のうち, 前血清陽性者および接種後数日で水痘発症した者を除いた174名についてワクチンの効果を検討した. 補体添加中和抗体 (CNT) 価8倍以上を陽性とした陽転率は78%であった. また皮内反応で発赤径5×5mm以上を陽性とすると, 陽転率は58%であり, 3×3mm以上を陽性とすると, 陽転率は82%であった. 接種ウイルス量を300~5,000PFUと変えても, 接種量の増加に比例してCNT価が上昇したり, 皮内反応が増強する傾向はみられなかった. ワクチン接種による重大な副反応はみられなかった. ワクチン接種によりCNT価32倍に上昇したものの, 軽症水痘となった小児が2名みられた. またCNT価8倍未満で, 皮内反応4×4mm程度の小児での水痘がきわめて軽症であった. これまで皮内反応陰性とされていた発赤径3mm以上5mm未満の反応を (±) とし, 陰性と区別して観察することが有用であろう.
  • 角 佳代子, 中 甫, 清瀬 闊, 杉山 悦朗, 篠永 哲
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1317-1323
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    最近の首都圏住民の腸管寄生虫感染状況を考える一資料として, 1980年1月から1985年8月までの5年8ヵ月間に三井記念病院中央検査部で行なった寄生虫検査14,956件の検査結果を集計し分析した. 検査方法はごく少数の例外を除き, ホルマリン・エーテル遠心沈澱法 (MGL法) によった. 検査対象の内訳は, 一般患者グループ9,431件, 人間ドックグループ5,325件, 中国からの帰国者を中心とした外国人グループ200件であり, 前2者よりなる日本人グループの総陽性件数は378件, 陽性率は2.56%であった. 陽性件数378件より重複検査件数を除いた陽性例数は250例であり, 横川吸虫が145例 (58.0%) と圧倒的多数を占め, 第2位はランブル鞭毛虫の49例 (19.6%) で, 以下, 鞭虫, 赤痢アメーバ, 肝吸虫, 小形アメーバ, 大腸アメーバ, 糞線虫と続くが, いずれも例数は10例 (4.0%) 以下であった. また, 高額所得者層より構成される人間ドックグループの方が, 横川吸虫の検出率で一般患者を3倍以上うわまわったのは注目される. これは天然アユなどの高価な魚類を食べる機会の多い豊かな食生活によるものと考えられ, 最近の寄生虫症の変貌を示すものといえる.
  • 辻 明良, 武藤 弓子, 金子 康子, 五島 瑳智子
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1324-1333
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    P.aeruginosaに対するクロルヘキシジンの殺菌効果は, 接種菌量により影響され, 菌量が多いほど増強されるという現象について追加検討し, 以下の成績を得た.
    1) クロルヘキシジンの殺菌作用は, P.aeruginosaの108, 107 cells/mlの菌量ですみやかに殺菌され, 105, 104 cells/mlの菌量では2~5分以上を要した. この傾向はクロルヘキシジンの濃度がうすくなるにしたがい著明であった. このような現象はE.coli, P.cepacia, P.fluorescens, V.parahaemolyticus, F.meningosepticum, A.xylosoxidansでは認められず, P.aeruginosaに特異的であった.
    2) P.aeruginosaの培養菌体の遠心上清の添加により, 殺菌効果が増強された.
    3) P.aeruginosaの菌体をDNaseで処理すると, クロルヘキシジンの殺菌効果は低下し, P.aeruginosanosaより得たslime又はcalf thymus DNAを添加すると殺菌効果は増強した.
    4) 電子顕微鏡観察において, 高菌量接種 (108 cells/ml) の方が低菌量接種 (105 cells/ml) に比べ, クロルヘキシジンによる著明な形態変化が認められた. Slimeで処理した菌に対しては, 著明な細胞表層の変化と細胞質の変性が認められた. 以上, P.aeruginosaの高菌量に対するクロルヘキシジンの殺菌効果の増強はslime中のDNAが関与することが示唆された.
  • 草場 公宏, 長沢 浩平, 岩橋 徳二, 鉢嶺 一男, 上田 章, 木須 達郎, 山口 雅也
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1334-1338
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    147名のSLE患者経過観察中, 68名に延91回の中等症ないし重症感染症の併発をみた. 臓器別には呼吸器と尿路感染の頻度が高いが, これと並んで帯状疱疹の発生頻度が著しく高いことが目立った.
    グラム陰性桿菌, 結核菌, リステリア菌, セラチア菌, 真菌, ウイルスなどによる感染症の頻度が全体の半数以上を占めた. 18例の死亡例の中4例が感染症によるものであった. SLEの活動期や副腎皮質ステロイド剤の投与量と感染症発生の頻度との間には一定の傾向はみられなかった.
    感染症併発時に血中CH50の上昇やCRP高値をきたす例が多く, SLE増悪との鑑別の一助になりうると考えられる.
  • 経気道感染後の経時的肺組織変化, 血清抗体価変動並びに感染経路別各種臓器組織変化の検討
    日野 二郎
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1339-1351
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    ICRマウス (6~7週齢・雄) に対し, C.psittaci meningopneumonitis strainを用い, 経気道感染並びに腹腔内, 静脈内感染実験を行なった. 経気道感染群では, 感染初期よりの経時的肺組織変化並びに肺外臓器の組織変化を, H-E・DFA染色を用いて検討した. また腹腔内, 静脈内感染群についても同様に検討した. 経気道感染群については, 感染96時間後の肺組織の透過電顕による検討を行ない, また生存マウス (低濃度感染群) については, C.psittaciに対する血清抗体価測定をMFA法を用いて, 感染3日目から8ヵ月目まで検討した.
    経気道感染後の肺組織変化は, H-E染色において感染6時間後より多形核白血球を主体とする炎症細胞浸潤が認められ, 感染18時間以降には間質性肺炎像を示し, 感染72時間以降は実質性肺炎が主体となり, 炎症細胞も単核球優位となっていた. 透過電顕では, 肺胞I型細胞, 気管支線毛上皮・無線毛上皮, 肺胞マクロファージ内に典型的な封入体が認められた. 血清抗体価の推移は, IgMクラス抗体価が感染2週目に1: 128とピークを示し4週目には1: 4~8となり, 2ヵ月目には消失していた. IgGクラス抗体価は感染2ヵ月目に1: 8192とピークを示し, 8ヵ月目でも1: 1024と高値を持続していた.
    経気道感染群では感染6日目までに全匹肺炎死し, 腹腔内・静脈内感染群は6日目より死亡が認められたが, 生存するものもあった. DFA染色を用いた各種臓器組織変化の検討では, 経気道感染群において肺炎死した10匹中3匹の肝臓・脾臓にのみ封入体が確認された. 腹腔内・静脈内感染群では, 死亡々ウスのみならず生存マウスにおいても, 肝臓・脾臓・肺・腎臓・心臓・脳・副腎等に封入体が認められ, 顕著な多臓器病変を呈していたにもかかわらず, 死亡率は経気道感染群に比し低率であった.
  • 増田 剛太, 根岸 昌功, 楊 振典, 清水 長世, 北村 正次, 神前 五郎, 川口 研二, 小池 盛雄
    1986 年 60 巻 12 号 p. 1352-1356
    発行日: 1986/12/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    日和見感染と考えられるアメーバ症2症例を経験した.
    症例I: 30歳, 女. 無症候性アメーバ原虫保有者として入院し, 妊娠15週目に粘血便を伴ないアメーバ性大腸炎に進展した. 本症例はMetronidazole投与により速かに治癒した.
    症例II: 67歳, 女. 手術不能進行乳癌の治療目的でCyclophosphamideとAdriamycinが使用され, 臨床的改善が得られた. しかし, その後, 血便, 肛門痛, 肝腫大, 発熱が出現し, 悪性腫瘍の転移による諸症状との診断でコルチコステロイド剤が使用されたが, これら症状は改善せず, 穿孔性腹膜炎, 敗血症にて死亡した. 剖検で乳癌の治療経過中に合併したアメーバ性肝膿瘍, アメーバ性大腸炎とその穿孔による腹膜炎と診断された.
    以上, 症例Iでは妊娠が, 症例IIでは抗腫瘍剤とコルチコステロイド剤投与がアメーバ症の発症および増悪因子となった可能性が示唆された.
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