院内感染における下気道感染成立機序を知る目的で, 気管切開患者7例, 気管チューブ挿管患者7例を対象に, 胃液, 咽頭ぬぐい液, 気管チューブ (カニューラ) 付着物, 吸引短を同時に細菌培養をおこなった.胃液からの分離菌は36株で, その内, 咽頭ぬぐい液からの分離菌との一致は, わずか22.2%にすぎず, 胃内細菌叢と上気道細菌叢とは密な相関があるとは言えなかった.咽頭ぬぐい液と吸引短の分離菌の一致率は, 気管切間例で38.5%, 気管内挿管例で80%であり, 咽頭ぬぐい液と気管カニューラ又は気管チューブ付着物のそれは, 気管切開例で33.3%, 気管内挿管例で88.9%であった.すなわち, 上気道細菌叢と下気道細菌叢の関連は, 気管切開例と気管内挿管例とでは大きな差があり, 気管切開例に比べて, 気管内挿管例で関連が密であった.院内感染の病原体となりうると思われる細菌が, 胃, 上気道, 下気道の各細菌叢間で一致した症例は14例中4例と少なかった.
院内感染の下気道感染成立機序として, 従来から言われている胃内細菌叢から上気道細菌叢を経て下気道細菌叢を形成するということが, 極めて日常的に起こっている結果は得られなかった.
抄録全体を表示