ゴムの膨潤、又は耐油性の研究は實驗的に重要であるだけでなく、ゴムの内部構造を知る一手段になると思はれる。特に加硫ゴムは溶解しないので研究が困難であるが、膨潤するから之を利用して此の機構を知る事が出來れば非常に研究に便宜を與へると思はれる。然るに加硫ゴムは色々の配合物を混じたり、又生ゴムの種類等も離雜多であり、加硫中に起る變化、溶劑の種類等、色々の因子が膨潤に大きい影響を及してゐるので本報では之を定量的に檢討して、大體如何なる因子がどの樣に働くかを觀察して見た。その結果天然ゴムにクロロプレンゴム、ブタヂエンゴム等の他の膨潤力の小さいゴムを混じた時は勿論見掛けの膨潤力は大いに變るが、純ゴム分につき計算すると2成分の固有膨潤力に比例して夫々加成的に表れる事を知つた。次に種々の無機充填劑を加へたものにつき檢討したが、此の場合は無機物は膨潤しないから生ゴム分のみの膨潤に左右されるのであつて、見掛けの膨潤が變つても生ゴム分につき換算するといづれも大差ない事が判つた。(尤もカーボン黒等は多少異るが、之はカーボンの特殊作用で、カーボンの増強力等とも關係あり、研究の手掛りになる之思はれる。)此の樣に加硫ゴムは配合物に依り見掛けの膨潤力が變り複雜であるが、純ゴム分については膨潤の加成性があるから、換算して考へると理論的取扱ひが極めて簡單になる事を知つた。次にゴム分子の内部構造に大きい影響を及す加硫であるが、之については Kirchhof (
Koll. Beiheft., 1914, 6, 1) の文獻もあり、膨潤力は加硫係數のε乘に比例してゐる事が知られてゐる。此の理論的意味は未だ明かではないが、以上の樣に純ゴム分につき簡單化された膨潤力を計算し加硫の影響を調べて行くと、純ゴム分に及す種々の影響が定量的に明かになると思はれる。
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