gusher とは、内耳の外リンパ腔がくも膜下腔と広く交通しており、アブミ骨手術の際に内耳開窓部より脳脊髄液が漏出することである。ほとんどの症例で、術後聴力は高度感音難聴となっている。われわれは先天性アブミ骨固着にアブミ骨手術を行ったところ、gusher をおこした症例に遭遇した。手術の結果、聴力改善することができたので、文献的考察を含め、報告する。症例は 10 歳の女児で難聴の家族歴はなかった。聴力は両側の伝音難聴で、3 分法で気導が右 52 dB、左 47 dB、骨導が右 10 dB、左 13 dBであった。骨導閾値の上昇は認めなかった。術前の側頭骨 CT では、中耳と内耳、内耳道の形態は正常であった。右耳の手術を行った。アブミ骨底板に小孔を開けたところ、透明な液が流出し始め、流出する量は時間とともに徐々に増えてきた。中耳側より軟部組織で覆ったが、液の流出は完全に停止できなかった。このため、アブミ骨底板を摘出した上で、卵円窓より大きめの軟部組織を一片、蝸牛内より卵円窓にあて、内側より完全に閉鎖させた。テフロンピストンの長さを調節、キヌタ骨長脚にかけ、先端を軟部組織にあてた。周囲にゼルフォーム
® を引き詰め、鼓室内にフィブリン糊を塗布したところ、透明な液の流出がほぼ停止した。術後めまいが生じたが、7 日目に消失した。術後の純音聴力検査で手術側の気導が 3 分法で 17 dBと改善し、骨導も術前と変化なかった。
抄録全体を表示