感染症学雑誌
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74 巻, 2 号
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  • 海老沢 功
    2000 年 74 巻 2 号 p. 87-95
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    感染症新法の1類感染症ペスト, ラッサ, マールブルグ, エボラ, クリミア・コンゴ出血熱は危険な感染症で高度安全病棟を要し, 各都道府県にこれを1つ造設すべき旨示された。しかしペストは抗生物質療法が確定しているので, 2類感染症に移すべきである. 輸入の可能性が最も高いラッサ熱について何年に1回その病室を各都道府県が使うかを検討した. ラッサ熱は実際には12年前1987年に1人輸入されただけであるが, 10年に1人輸入されると多めに仮定して計算した. この際アフリカで感染したマラリア患者数を基準にして分析すると, マラリア患者が最も多く輸入される東京都が37年に1回, 他の道府県はいずれも100年以上, 平均1, 017年に1回である.
    このように稀にしか使わない病室を多数造るより国内に1~2カ所造り, 患者発生時救急車か小型航空機で運んだ方が得策である. マールブルグ, エボラおよびクリミア・コンゴ出血熱が輸入される可能性はラッサ熱よりはるかに少ない. その頻度は上の計算値の誤差範囲内に入る. これらウイルス性出血熱患者は血液その他の体液を注意深く扱えば, 血液, 尿, 糞便, 胆汁に病原菌がいる腸チフス患者を扱える隔離病室で治療可能である.
    熱帯アフリカ諸国で患者多発の報告を分析する時, その背後にある医療事情を考えないとその危険性を過大評価することになる. 有熱患者はまずマラリアとして, キニーネを1本の注射器で何人にも注射することは日常茶飯事である. エボラ出血熱多発の要因を考える時, アフリカ人がサルやラクダを食べる習慣があることも考慮する必要がある.
  • 中村 文子, 小栗 豊子, 田部 陽子, 猪狩 淳
    2000 年 74 巻 2 号 p. 96-103
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    1994年から1996年の3年間に, 順天堂大学附属病院において血液, 血管内カテーテルより分離されたStaphylococcus epidermidis35株について疫学的検討をおこなった. 疫学マーカーとしてスタフィオグラムによるbiotype, 薬剤耐性パターン, pulsed field gel electrophoresis (PFGE) の3法を用いた. biotypeは6type, 薬剤耐性型は7type, PFGE型は12typeに分けられ, PFGEが最も解析能力に優れていた. PFGE型が同じでも耐性型, biotypeが異なる株が認められ, 3法を組み合わせることによってより詳細な型別が可能であった. 当院において最も高率に認められた型はPFGE型A (57.1%), biotype1 (62.9%), 耐性型1 (MPIPC, ABPC, GM耐性: 34.3%) であった. 耐性型V~VII (6剤以上に耐性) の株は, PFGE型A, Bのみに認められていた.
    S. epidermidisの院内分布では, type AおよびBは3年間にわたり多くの病棟から分離されていたが, type C, Dは1996年分離株には認められなかった. またtype A, 耐性型1は小児病棟から優位に検出された菌型であった.
    S. epidermidisが頻回に検出された3患者の分離株について解析したところ, いずれの症例もPFGE型, biotype, 耐性型が一致した菌型が数カ月間にわたって分離されていた. なお, 退院歴のある1患者については退院前と後の菌型は異なっていた.
  • 田口 真澄, 勢戸 和子, 小林 一寛
    2000 年 74 巻 2 号 p. 104-111
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    1997年に大阪府下で発生した志賀毒素産生性大腸菌O157: H7による家族内感染22事例54名由来の201株の各種疫学マーカーを用いた解析を行った. 疫学マーカーには志賀毒素 (STx) 型, 薬剤感受性試験, コリシン型, プラスミドプロファイル型, パルスフィールドゲル電気泳動 (PFGE) 型を用いた.
    疫学マーカーを調べた結果, 家族内で明らかに異なった複数の菌株が認められた事例が2例 (家族No.21, 22) あった. 家族No.21は5歳の男児から母親と同一のマーカー株と, STx型以外の4種類のマーカーが異なった株が検出され, 家族No.22は48歳の男性から家族と完全に一致する菌株とSTx型, プラスミドプロファイル型, PFGE型が異なる菌株が検出された. 両事例ともに, 家族内での共通の感染源の存在が考えられたが, 複数の菌株による同時感染あるいは再感染も推察された.
    また, 7月から9月に発生した12事例中8事例から同一のマーカー株が検出されており, 各事例の感染源は不明であるが解析結果から共通した汚染食材からの感染が示唆された.
    以上のことから, 疫学マーカーは表現型をみる方法と遺伝学的方法を組み合わせることが有用であり, 家族内や同一施設発生事例では1株だけでなく複数株の疫学マーカーを調べ, その結果と喫食調査あるいは患者発生状況などの疫学調査との整合性を考えて, 総合的に疫学解析を行うことが必要と考えられた.
  • 中村 竜也, 内田 幸子, 平城 均, 桝田 緑, 高橋 伯夫, 小松 方, 相原 雅典, 黒川 博史, 柴田 尚宏, 八木 哲也, 荒川 ...
    2000 年 74 巻 2 号 p. 112-119
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    62歳女性の直腸腫瘍術後に細菌感染症を続発した. CTM, CZOPなどの投与にもかかわらず感染症状は改善されず, 術創部膿瘍が発生し腹膜炎も併発した. ドレナージと膿瘍の洗浄を併用する中で, 感染症状は軽快した. その後, 人工肛門造設術が施行された際に一過性に感染症を疑わせる兆候が見られたためCZOPが再度投与されたが, 明らかな感染症は出現せず, やがて, 病状も改善したので退院し, 現在は外来で経過観察中である. 膿瘍の膿培養にて, CAZに耐性 (MIC: >16μg/ml) を示す大腸菌が分離された. 本分離菌では, クラブラン酸によりCAZに対する耐性度が低下 (CVA添加によりCAZのMICが64μg/mlから≦0.13μg/mlに低下) する現象が観察されたため, 初期の段階でextended spectrum β-lactamase産生菌が疑われた. 便からも同様の耐性を示す大腸菌が分離されたため, 院内感染対策が直ちにを講じられ, ESBL産生菌の施設内拡散を阻止することができた. その後, PCR解析と遺伝子の塩基配列の決定により, このCAZ-耐性大腸菌は, ESBL (SHV-5-2a=SHV-12) 産生菌である事が確定した. 本報告は, 国内におけるSHV-型ESBL産生大腸菌による感染症例の最初の報告である. 欧米でのTEM-, SHV-型ESBL産生菌の増加や院内感染などの状況を考えた場合, 今後, 国内でもこの種の耐性菌の増加が懸念される. 緻密な感染症対策と慎重な抗菌薬療法を実施する上で, 臨床分離菌がどのような種類のβ-ラクタマーゼを産生しているかを識別することが益々重要となっている.
  • 中尾 美幸, 横田 憲治, 小熊 恵二, 高井 研一
    2000 年 74 巻 2 号 p. 120-127
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    Helicobacter pylori (以下H.pylori) に対する電解機能水の殺菌効果を培養法と菌体ATP量を測定することで検討した. 培養法では電解機能水は強い殺菌力があることが認められた. しかし, 馬血清, 牛アルブミンのような有機物の共存はその殺菌力を減弱させた.
    菌体ATP量はlysissolutionで処理することにより測定可能であり, 菌量とATP量に相関が見られた. 電解機能水および消毒剤である塩化ベンザルコニウム, グルコン酸クロルヘキシジンの殺菌効果を菌体ATP量を測定することで判定したところ, 培養法において生残菌は認められなかったが, 30分間各試験水に接触混和させても菌体ATP量が測定された. 形態観察ではcoccoid formを呈しており, このATP量はcoccoid formに由来していると考えられ, 各試験水ともcoccoid formまで殺菌することが不可能であることが示唆された. 電解機能水は多くの栄養型に有効であるが, その使用法については, 有機物共存下での殺菌効果の減弱や, coccoid formに対して殺菌効果が認められないことを考慮する必要がある.
  • 相澤 佐織, 蜂谷 敦子, 井田 節子, 立川 夏夫, 菊池 嘉, 青木 眞, 安岡 彰, 岡 慎一
    2000 年 74 巻 2 号 p. 128-133
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    無治療からAZT/3TC/IDVによる3剤併用療法を開始したHIV感染者17症例につき耐性獲得状況及び臨床経過を2年間調査した. 我々の用いている耐性検査法は, 血漿中HIV-RNAが3, 000コピー/ml以上であれば約80%の検体にて塩基配列の解析が可能であった. 本調査対象17例中11例 (65%) が治療開始24カ月迄に同一の治療が継続され, このうち8例は24カ月後もVLは検出限界以下であった (Intent-to-treat47%, on treatment72%). 耐性ウイルスは継続例中1例に3TC耐性が認められたが, AZT及びIDV耐性は1例も認められていない. 治療中断例6例の主な理由は副作用であり, VLが検出限界以下の期間に治療を変更した5例は24カ月後もVLは検出限界以下に保たれていた.
  • 森屋 一雄, 角 典子, 中尾 昌弘, 山崎 貢, 齊藤 眞, 伊藤 健一郎
    2000 年 74 巻 2 号 p. 134-142
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    佐賀県内で, EPEC及びEAggECの病原性関連遺伝子eaeA, aggR, astA陽性大腸菌の0から5歳児における保有状況を健常乳幼児及び散発下痢症患者について比較した. eaeAについては, 既報の愛知県下の散発下痢症患者233名とも比較した. 散発下痢症患者は, 他の下痢起因菌が検出されず大腸菌が分離された74名を対象とした. 健常乳幼児304名を調べた結果, 278名から大腸菌が分離され, そのうち105名からの大腸菌が0血清型別可能であった. eaeA陽性大腸菌は佐賀県内散発下痢症患者9名 (12.2%), 愛知県内散発下痢症患者19名 (8.2%), 健常乳幼児6名 (5.7%) から検出され, aggRは, 下痢症患者10名 (13.5%), 健常乳幼児6名 (5.7%), astAは下痢症患者10名 (13.5%), 健常乳幼児14名 (13.3%) であった. 各遺伝子保有状況は, 年齢を合わせ, O血清型別可能な大腸菌に限ったが, 統計学的有意差は健常乳幼児と下痢症患者の間に認められなかった (p>0.05). EPEC, EAggECの下痢起因性は, 他の病原性因子や未知の病原性因子を含め検討する必要がある.
  • 松本 昌門, 三輪 良雄, 平松 礼司, 山崎 貢, 齋藤 眞, 鈴木 康元
    2000 年 74 巻 2 号 p. 143-149
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    パラチフスAは, 我が国では年々増加の傾向にあり, 集団発生も報告されている. しかしパラチフスA菌に関する分子疫学的な解析は十分に行われていない. そこで, 我々は愛知県で国内事例, 及び輸入事例より分離されたパラチフスA菌18株, チフス菌12株についてパルスフイールドゲル電気泳動による解析を行った.
    その結果, 解析した12株のチフス菌は, 遺伝子レベルで多様性を示したのに対して, 18株のパラチフスA菌は異なる由来やファージ型に属していたが, 高い類似性を示した. このことは限られたクローンがパラチフスAの発生に関与していることを示唆しているものと思われる.
  • 目野 郁子, 岡田 賢司, 山口 優子, 諸熊 一則, 大隈 邦夫, 植田 浩司
    2000 年 74 巻 2 号 p. 150-154
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    乳幼児期に全菌体百日咳を含むジフテリア・破傷風・百日咳混合ワクチン (DTwP) の定期接種を受けた若年成人女性84名を対象にジフテリア, 破傷風および百日咳に対する抗体保有状況を調査した. 母子手帳の記載による84名のDTwP接種回数は, 1回4名, 2回5名, 3回23名および4回52名で, ワクチンを3回以上接種した者は全体の89.3%であった. ワクチン接種15~19年後のジフテリアおよび破傷風の抗毒素抗体陽性率 (0.011U/ml以上) は, それぞれ86.9%, 940%と高率であった. 百日咳では抗PT抗体価, 抗FHA抗体価の抗体陽性率 (10EU/ml以上) は357%, 559%と低率であった. 以上の結果からDTwP接種後15年以上経過してもジフテリア, 破傷風に関しては, 良好な抗体保有状況であったが, 百日咳に関しては, 感染防御レベル以上の抗体を保有するものは少なかった.
  • 沖津 忠行, 鈴木 理恵子, 佐多 辰, 島田 俊雄, 山井 志朗
    2000 年 74 巻 2 号 p. 155-161
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    1996~1998年の間に, 神奈川県西部地域の医療機関において感染性下痢症と診断された下痢患者348名中14名 (40%) からAeromonas属菌が分離された. 内訳はAeromonas hydrophila, Aeromonas sobriaおよびAeromonas caviaeが各々7株, 1株および8株で, A. hydrophilaA. caviaeとの同時分離例が患者2名に認められた.
    Aeromonas分離株のうちA. hydrophilaの溶血活性, ヘモリシン遺伝子保有形態および0群について検討した. A. hydrophila分離株7株は, いずれもヒッジ血液寒天培地上で明瞭な溶血環を形成するβ溶血株であったが, それらのブイヨン培地培養上清のウサギおよびヒツジ赤血球に対する溶血活性は, 7株中1株が陰性 (<2HU/100μl) であった. 一方, 溶血に関与するヘモリシン遺伝子の保有形態は [ahh1+ahh3+aerA] および [ahhl+aerA] が各々6株および1株で, いずれも本菌の下痢原株の性質に関連するヘモリシン遺伝子ahh3およびaerAの両者, またはその一方のaerAを保持していた.また本分離株7株のO群は, O11であった株が5株および型別不明株が2株であった.
    A. hydrophila分離株7株はいずれも潜在的腸管病原因子を保持する病原株であること, またこのような病原株の主要なO群はO11であることが示唆された.
  • 児玉 和也, 野口 寿行, 近平 佳美
    2000 年 74 巻 2 号 p. 162-165
    発行日: 2000/02/20
    公開日: 2011/02/07
    ジャーナル フリー
    A 66-year-old male was admitted to our hospital, presenting a high fever and generalized. erythema on June 9, 1999. Physical examination revealed many eschars on his legs. Laboratory examinations were as follows: platelet counts, 5.5×104/μl: FDP, 25μg/ml: TAT, 70.9ng/ml: GOT, 177 IU/l, GPT, 174 IU/l: CRP, 32.3mg/dl. Based on thesefindings, he was diagnosed as having rickettsiosis with DIC, and minocycline (200mg/day) and heparin were started immediately, but had no clinical effect for 3days. Blood gas analysis showed severe hypoxia and the chest CT scan revealed increased CT value in all lung fields with reticular shadows in the lower fields and pleural effusion, suggested interstitial pneumonia. Methyl-prednisolone pulse therapy was started on June 12, after which he completely recovered. Anti-Rikettia japonica IgM antibody was found to be×8, 192 by immunaluorescent test, establishing the diagnosis of Japanese spotted fever. Acute respiratory failure with interstitial pneumonia shadows should be emphasized as a complication of severe rickettsiosis.
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