紙パ技協誌
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73 巻, 7 号
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省エネルギー特集 II
  • 波田 貞之
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 73 巻 7 号 p. 599-603
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル 認証あり

    江津工場の2号,3号タービンは使用開始から60年程度経過して老朽化が進み,トラブルが頻発していた。さらに,機械式ガバナを電子化する近代化工事もできない状況で,安定操業のためにタービンの更新が必要であった。

    一方,パルプ増産の計画もあり黒液濃縮設備の増設が必要であるが,工場全体の蒸気・電力バランスも検討して,日本製紙で初めて電気式エバポレーターを採用した。パルプ増産により自家発比率が増産計画前の89%から76%に低下して,買電の契約を上げることで電力コストが増加する課題があった。そこで,パルプ増産前の早い段階からタービン導入を決定して,減圧によるエネルギーロスの有効利用で工場全体のコージェネレーションを最適化して総合エネルギー効率を高めた。その結果,自家発電を増やして自家発比率がパルプ増産計画前を上回る95%まで増やすことできた。

    本稿では,パルプ増産による蒸気・電力バランスの変動をタービン発電機の設置により,操業安定化,コスト改善,省エネを行った事例について報告する。

  • 内田 雅己
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 73 巻 7 号 p. 604-607
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル 認証あり

    王子製紙㈱日南工場は,印刷・情報用紙を主力製品としているが,少子高齢化やICT化の加速といった逆風のもと,市場規模の縮小が続いている。このような状況下,当工場では,収益確保に向けたエネルギーコストの削減は,極めて優先度の高い喫緊の課題であると位置づけ,省エネルギーの目標を『全一次エネルギー使用量の1.5%削減』とし,エネルギー専門委員会,エネルギー幹事会を中心に,社員一丸となって日々省エネルギー活動に取り組んでいる。

    近年,設備投資は抑制される傾向にあり,新規案件の発掘,実施が難しい状況となってきているが,そうした中,当工場では過去の案件の深掘りや,他工場の案件の水平展開等に積極的に取り組むことで,エネルギー使用量の削減を継続している。

    本稿では当工場が実施してきた省エネルギーの取り組み事例について紹介する。

  • 小田 将広, 櫛田 靖夫
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 73 巻 7 号 p. 608-613
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル 認証あり

    各種製造工場では,操業に用いる圧縮空気や窒素ガス等の様々な気体を工場内に輸送するための配管が長大かつ複雑に敷設されている。配管が損傷して生じるリークは,大きなエネルギー損失を発生するため,工場の効率的な運営や省エネルギーの観点からは,配管等の設備からの気体のリークを検知,リーク箇所を特定し,補修していくことが重要である。

    従来の超音波式リーク検知器では検知範囲が局部的なため,広大な工場内に縦横に敷設された気体配管からのリークを効率的に検知,リーク箇所を特定することは困難である。そこで,著者らは超音波のビームフォーミング技術をリーク検知に適用し,リークを検知するだけでなく,リーク箇所を特定することが可能な,小型・可搬型装置エアリークビューアーMK–750の開発を行った。

    MK–750は,リークで発生する超音波の到来方位をリアルタイムで特定し,かつ可視動画と重ね合わせて表示することで,誰でも簡単に,広範囲のリーク箇所を即座に探索することができる。

    窒素ガス内圧40kPa,φ0.2mm孔の模擬リーク源からのリークに対し,開発したMK–750にて約5mの遠方から探索した結果,リーク検知とリーク位置特定が可能であることを確認した。さらに,実際の工場設備でMK–750の性能検証を実施し,工場内の圧縮空気や窒素ガス等の配管,バルブ,各種計器類での実リークを,2〜15m以上遠方からでも検知し,広範囲・高所のリーク箇所を非常に効率よく特定できることを実証した。さらに,騒音レベルが著しく高い環境でも,超音波を利用することで,リーク箇所を特定できることを確認した。

  • 田中 博之
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 73 巻 7 号 p. 614-618
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル 認証あり

    地球温暖化の抑制や水俣条約の発効により照明器具は既存光源からLED光源への切替えが産業界全体にとっての急務となっている。LED照明は省エネ・エコ製品として優れており,そのメリットも広く理解される一方で従来光源と異なり熱くならない光源であるとの誤った認識が普及しているように思われる。LED照明を構成する部品には熱に弱い素材が多く使用されているため既存光源ではあまり重要視されていなかった放熱設計が製品寿命を左右する問題となっており,特に高温,粉塵,衝撃・振動等の特殊な環境下での使用は製品寿命を著しく低下させユーザーの期待を裏切るような事例が散見される。当社の製品は安定器を必要としないAC駆動チップを採用した独立型モジュールと,他に類を見ない螺旋構造のヒートシンクを開発することで70℃までの特殊環境に特化したLED照明を開発した。また本稿では70℃以上の高温環境ユーザーからの期待に応えるために当社が取組んでいる最新の熱対策,筐体設計,素材の改良,新素材LEDチップの開発について触れていきたい。

総説・資料
  • 上藤 丈浩, 秋永 草平
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 73 巻 7 号 p. 619-623
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル 認証あり

    貫流ボイラは,大型ボイラと比較し保有水量が圧倒的に少なく,高効率・省スペ-ス・取り扱いが簡便という特長を持ち,産業用・業務用熱源として日本のボイラ市場の約7割(弊社調べ・発電用除く,出荷ベースは9割を超える)を占める。

    日本のボイラ市場の約7割を占める貫流ボイラの効率改善は重要であるが,熱交換器技術の進歩により,高効率貫流ボイラのボイラ効率は極限まで高まってきており,ボイラ単体での効率改善の余地は小さくなってきている。そこで本稿では,負荷機器周辺まで含めた蒸気システムの効率改善に着目し,高効率貫流ボイラに適したクロ-ズドドレン回収装置を自社開発したので紹介する。

    貫流ボイラの特徴である保有水量が少ない故のメリット,高効率運転のメリットを実現するには自己蒸発量が少ないデメリットをカバーしつつ安定して給水できるクローズドドレン回収システムが不可欠となる。弊社のクローズドドレン回収システムはバッファ容量の増加等によりそれを実現し,更にフラッシュ蒸気回収制御といった特許技術の採用により熱回収率を大きく向上させている。また弊社独自技術であるスチームアシスト方式では,ドレンポンプの省電力化にも成功している。高効率貫流ボイラと合わせて同クローズドドレン回収システムを導入する事で,更なる省エネルギー・CO2削減を大きく進めることが可能となる。

  • 鷲津 真人
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 73 巻 7 号 p. 624-628
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,温暖化等の地球環境問題への対策が各国に求められており,日本はパリ協定の約束草案で2030年度のCO2排出量を2013年度比より26%削減することを目標とした。北越コーポレーション新潟工場でもパリ協定の約束草案達成に貢献する為,省エネプロジェクトを立ちあげた。プロジェクトの中から「8号機1次スクリーン高効率化」及び「9号機2次水フィルター増設による節水」の2つの事例を報告する。

    新潟工場8号機1次スクリーン高効率化では,相川鉄工製B–1500型スクリーン用アジテーターをMaxi Agitatorに更新し,さらにプーリー比を変更して回転数をダウンすることで消費電力の削減を図った。新潟工場8号機には1次スクリーンが5台あり,すべてにMaxi Agitator及びプーリー比変更を採用したところ,合計125kWの消費電力削減となった。

    新潟工場9号機2次水フィルター増設による節水は,日本ポール製スピンクリン装置を2ユニット増設することで,余剰のあるスーパークリア水(再用水)の精製量を増やして2次水として利用し,不足により補給している工業用水を削減する。予想効果としては,170m3/hの節水となる見込みである。現在,2次水フィルター増設の手配・準備を進めており,本年12月に稼働予定である。

  • 林 倩, 氏家 章吾
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 73 巻 7 号 p. 629-633
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル 認証あり

    製紙工程では省エネルギーに対する様々な取り組みが求められている。そのなかで,抄紙機のドライヤーパートにおいては,湿紙を目標水分まで乾燥させるために多くのエネルギーが使用されている。特に気温が低い冬季に,乾燥に使われる蒸気エネルギーが増加し,蒸気原単位が悪化する傾向となり,生産効率に影響を与える場合がある。従って,いかに蒸気原単位を低減できるかが生産性の向上及び,省エネルギーの重要な課題である。

    本稿ではドライヤーの熱伝達効率の改善を目的に独自開発したファインスチームTM 技術を紹介する。本技術ではドライヤー内壁面に撥水性機能を発現させることで,蒸気凝縮水による液膜層の伝熱抵抗を低減し,熱伝達効率を改善する。その結果,平均3〜10%の蒸気原単位を削減した。

    本技術は導入の為に設備を停止する必要がなく,低投資且つ容易に生産性の向上及び,省エネルギー化を求めるお客様のニーズに対応している。また,ボイラの水質やプロセスへの影響がないという優位性があり,薬注最適化のために自動制御装置を開発し,弊社の最新の水処理監視システム「S.sensing® WEB」と連携による見える化が可能となっている。

    本技術は実機では単筒式ヤンキードライヤー及び多筒式ドライヤーで実証され,既に国内外50件以上の実機で適用されている。

  • ─空気軸受式可変速単段ターボブロワ TurboMAX ─
    増田 剛士
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 73 巻 7 号 p. 634-638
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル 認証あり

    大量の水を消費・廃棄する製紙産業にとって,排水処理費用の削減は大きな課題である。排水処理工程において,曝気ブロワは消費電力が大きく24時間連続運転であることが多いため,曝気ブロワの高効率化は排水処理費用削減に大きく貢献する。当社のターボブロワ「TurboMAX」はこのニーズに応える新型ブロワである。

    TurboMAXは,空気軸受,永久磁石同期モータ,高効率インペラ,高速回転速度制御等の優れた技術を集結した新しいスタイルのブロワであり,全体構造はブロワ,モータ,インバータ,タッチパネルコントローラ,ブローオフバルブ(放風弁)がパッケージ化されている。最大の特長である空気軸受は,軸が軸受と非接触で回転するため,潤滑油が不要で,騒音・振動が極めて小さく,機械損失も発生しない。空気軸受に加え,インペラと軸の伝達効率100%,高効率インペラ,専用設計高効率永久磁石モータ,インバータによる自動制御機能を融合することで,高い総合効率を実現している。高効率以外にも低騒音・低振動,省メンテナンス,省スペース・軽量化といった特長を併せ持つ。

    実例として某処理場でフィールド試験を実施し,ルーツブロワをMAX100–C060S1(75kW)に置換えて効果を確認した。結果,24.5%消費電力削減,16dB(A)騒音低減,25μm振動低減,6℃のブロワ室温度低減効果を確認した。また,2年間の試験期間でフィルタの清掃・交換以外のメンテナンスは発生していない。

    TurboMAXは複数の製紙工場にも納入実績があり,省エネ効果等を確認している。これまでは,これらのブロワは排水処理用途のみであったが,近年ではフローテーターの空気供給用ブロワや,生産プロセスでの空気供給用ブロワといった排水処理の曝気用途以外での実績も増えており,良好な運転実績を確認している。更に複数台のブロワを制御する制御盤や,ブロワの運転データを遠隔監視・活用できるIoTの導入,長期間のサービスパック等,多様なニーズにお応えできる新商品もラインアップしている。

  • 瀬戸 邦彦
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 73 巻 7 号 p. 639-645
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル 認証あり

    近年になって国内紙パルプ産業においてもパルプ製造装置への多変数モデル予測制御の導入が始まっている。多変数モデル予測制御は導入した装置全体を安定して制御するとともに,最適化機能により自動的に最適運転を継続して実現する。このような目に見える収益改善効果があることにより,多変数モデル予測制御は国内を含めた世界中の装置産業の主要な装置で広く用いられている。国内装置産業ですでに長年に渡って使用され,海外のパルプ製造装置でも多数使用されているハネウェルが提供する多変数モデル予測制御「Profit Controller」について,コントローラそのものの技術的特長を簡単に説明するとともに,導入後の運用やモニタリングなどをサポートする機能や,将来のさらに大きなスコープの最適化への拡張性について紹介する。

    また,多変数モデル予測制御が収益改善効果を産むのは導入時ではなく,導入後の運用時である。正しく運用・メンテナンスをされていない多変数モデル予測制御は収益改善効果が低下していき,いずれ使用されなくなってしまう。このような事態を避けるために導入時に運用などを含めたライフサイクルマネージメントについても考慮する必要がある。多変数モデル予測制御のライフサイクルの各ステージでの注意点を,豊富にある現在までの他産業での実績や経験を交えつつ解説する。また導入時や導入後のサポートなどに必要な体制について推奨例をもとに説明する。

シリーズ : 大学・官公庁研究機関の研究室紹介 (129)
技術報文
  • 森 芳立
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 73 巻 7 号 p. 648-658
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    クラフトパルプ(KP)蒸解後の原料洗浄工程は,多段の洗浄設備で構成されている。KP洗浄工程では,パルプ原料の洗浄と共に,パルプ原料に付着した高価な蒸解薬液のNa成分を回収して薬液回収工程に返送して行くが,少量の清水で,この薬液成分を効率良く洗浄していくため,通常,向流洗浄方式が採用されている。

    本報では,KP洗浄工程の代表的な多段洗浄フローを取り上げ,各洗浄設備での薬液成分量の遷移についてシミュレーション計算できる簡単な数値モデルを提案すると共に,各洗浄装置の稀釈係数(DF:Dilution Factor)と置換係数(DR:Displacement Ratio)を仮定した上で,洗浄設備の操業に当たって洗浄装置の稀釈係数(DF)を変更した場合,そして,洗浄フローを,例えば,向流洗浄方式から並流洗浄方式に変更した場合,洗浄ろ液で回収される薬液成分量,及び,パルプ原料に付着して回収されずに持ち去られる薬液成分量,そして,その回収濃度が,どのように変化してくるのかについて数値計算で解析し,洗浄工程に従来から導入されている向流洗浄方式の有効性について調べた。また併せて,最経済的な稀釈係数(DF)の操業点についてもシミュレーションを行った。

  • Yoshitatsu Mori
    原稿種別: research-article
    2019 年 73 巻 7 号 p. 659-671
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    The washing process of KP (Kraft pulp) brown pulp stocks, following to KP cooking continuous digest­ er, is consist of a series of washing equipment. This multi stage washing process is not only to wash the brown pulp stocks eff ectively but also to recover KP cooking chemicals (expensive sodium compounds) and some wood lignin components that dissolved in the fi ltrated dilute black liquors. And the fi ltrated and ex­ tracted black liquors are send to the following KP causticizing process, and the chemicals are recovered fi nal­ ly.

    In this KP washing process, “Countercurrent fl ow washing” strategy has been utilized in general, and ex­ pected to the washing process to achieve better washing states for the pulp stocks not to remain much chemicals in it. And, furthermore, they are required to be washed eff ectively with lesser amount of fresh wa­ ter usage, and, at once expected to decrease the energy loads of the following black liquor evaporation pro­ cess.

    In this paper, a washing calculation model for this KP multi stage washing process that can simulate and estimate the chemical material balance was proposed. Next, utilizing the simulated results by this model and another “Cross fl ow washing strategy”, that used simple fresh washing water fl ow lines were compared. As the result, the eff ect of the “Countercurrent fl ow washing” was confi rmed from the superiorities of the simu­ lated results of the recovered chemical amounts in each washing fi ltrate line, lost chemical amounts to be car­ ried away attached to the brown pulp stocks and the variance of the recovered chemical consistencies etc.

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