抄紙機のウエットエンドにはパルプ由来のリグニン, ヘミセルロース, 樹脂酸, 脂肪酸, トリグリセリドなどのリテンション阻害物質が多量に存在し, リテンションの阻害要因になっていることが知られている。これらの阻害物質の指標として, ゼータ電位, 電導度, 全有機体炭素 (TOC), カチオン要求量, UV吸光度, 濁度等があるが, 統一した見解や普遍的な理論を導き出すには到っていない。そこで, ファイン系の量が多いGPを主体としたパルプに, 硫酸バンドとカチオンPAMを使用したシングルポリマーシステムとpDADMACとカチオンPAMを使用したデュアルカチオンシステムのモデル実験を行い, ファインリテンションと紙力剤定着率を最適化するウエットエンド指標を調査した。更に, Smoluchowskiのperikinedc式 (ブラウン運動による衝突) とorthokinetic式 (シェアーによる衝突) から, 乱流下における, 凝結剤とアニオントラッシュ, 及び繊維への衝突頻度を計算し, 理論的な裏付けをした。硫酸バンドを凝結剤として使用した場合にファインリテンションを最大にするには, ゼータ電位を約-10mVに近づけ, TOCやUV吸光度, 濁度を最小にすること, pDADMACを凝結剤として使用した場合にファインリテンションを最大にするには, ゼータ電位を約-10mVに近づけ, TOCを最小にすることが重要であることが示された。衝突頻度の計算から, アルミニウムイオンはアニオントラッシュに吸着した後に繊維に吸着するが, pDADMACは繊維に吸着した後にアニオントラッシュに吸着することが示された。この結果は本実験結果やBrouwerらの実験結果と一致した。この様に凝結剤の種類によってアニオントラッシュと繊維に対する衝突頻度が異なるために, ろ液のカチオン要求量を測定してもファインリテンションを最適化する指標にはならず, 繊維の表面電荷密度を表現しているゼータ電位がファインリテンションを最適化する指標になるものと考えられる。
カチオン澱粉やPAM系紙力剤の定着率を最適化する指標には, ゼータ電位ではなく, パルプ全体のカチオン要求量が指標になる。パルプ全体の電荷の10-20%が中和されている場合にカチオン澱粉の定着率が最大になり, 約30%が中和されている場合にPAM系紙力剤の定着量が最大になった。歩留向上剤は分子量が大きいために, パルプの最表面に吸着するのでファインリテンションを最適化するにはゼータ電位が指標と考えられる。それに対し, 紙力剤は分子量が小さいために, フィブリル内部へも吸着するのでパルプ全体のカチオン要求量が紙力剤定着率を最適化する指標になるものと思われる。
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