クラフトパルプ製造工程における排出ガスを無臭化することはクラフトパルプ工場地帯においては大きな意義をもっている。まずこの問題の解決のためには, どのような蒸解条件のもとで, どの程度の悪臭成分が生成されるかを知らねばならない。この意味において本研究は行なわれたものである。I.B. Douglassら
1), 2) もすでに研究し報告した。彼らは内容7.5m
lのステンレス製の小さな蒸解管に1gの小さなチップと5m
lの蒸解液を入れて蒸解し, 蒸解を終ってからすぐに蒸解管をドライアイスで冷却し, 内容物を0.1NH
2SO
4溶液中に入れ, ふたをして25℃に加温して生成したメチルメルカプタン (MMA), ジメチルサルファイド (DMS), ジメチルジサルファイド (DMDS) をガスクロマトグラフにより測定した。彼らの実験によると, 170℃, 2時間, 硫化度22.2%の蒸解条件において, 絶乾チップ1gに対し, spruce (針葉樹) についてはMMAが0.49mg, DMSが0.23mg, DMDSが0.02mg生成し, maple (広葉樹) についてはMMAが0.88mg, DMSが0.4mg, DMDSが0.02mg生成した。彼らの実験結果は硫化度が高いほど悪臭成分としてのMMA, DMS, DMDSの生成量は多く, 針葉樹と広葉樹を比較すれば広葉樹の方が悪臭成分の生成量は多いということであった。しかしクラフトパルプ製造工程においては実際に蒸解生成物をすべて酸の中に入れるような工程はないので, 彼らの実験値はクラフトパルプ蒸解中における悪臭成分の理論的生成量の測定であり, 実際のブローガス中の悪臭成分は (特にMMAについては) もう少し低いことが想像される。
他方わが国におけるクラフトパルプは原木として広葉樹が50%以上用いられているといわれている。上述の報告は米国産のチップを用いているので, 著者らは日本産の赤松 (red pine), ブナ (beech) などを用い, 上述の理論的悪臭成分の生成量とは別に, 実際に放出されるMMA, DMSの濃度を測定するべく, つぎのような実験を行なった。
容量4
lの電熱式オートクレーブに絶乾に換算して400gのチップを入れ, これに有効アルカリをNa
2Oとして絶乾チップの25%, 液比を1 : 5にして, 硫化度を20%, 25%, 30%の三段階にとりガス抜きを行なわないで蒸解を行ない, 蒸解を終ったらすぐガスを採取し, ガスクロマトグラフにより分析した。ガス抜きを行なわなかった理由はブローガスを放出させ, その中に含まれるMMA, DMSの濃度を測定する際に, オートクレーブより冷却器を通じて水蒸気を凝縮させても, ガスが試料採取管に取れるようにした為である。
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