抄紙用ワイヤーは,抄紙工程のワイヤーパートで使用される用具である。その役割は①ヘッドボックスから供給される均一に分散されたパルプ懸濁液(水分率約99%)を脱水すること,②脱水しながらパルプ繊維を交絡させて紙製品の原型となる紙質(ウェブ)を形成すること,③それを水分率約80%のウェットシートにまで脱水して次工程であるプレス工程へ搬送することである。
ワイヤーの起源は非常に古く,1798年にフランス人ルイ・ロベールが世界初の連続式抄紙機を発明する前から使用されていたと言われている。当時のワイヤーは金属製であり,1975年頃までは金属製のワイヤーが主として使用されていた。
その後,より高い生産性に応えるために初期のプラスチックワイヤーが開発されたが,製紙業界における高品質,高生産性への要求が高まり,抄紙機は大型化,高速化へと発展している。抄紙用ワイヤーもその要求を満たすべく更なる進化を続けている。
本稿では,抄紙機の発展とともに進化し続けているプラスチックワイヤーの1重織から3重織の組織変遷に加え,高速マシン用に開発した新品種を含めた,最新ラインナップであるNシリーズについて紹介する。
昨今の抄紙機の高速化により低エネルギー消費量での安定運転が求められており,その中でプレスパートにおける役割は大きく,ドライパートに入る前に機械的に出来るだけ多く搾水することが,より求められてきた。これはプレスパートで脱水される水分量は,直ちに後段のドライヤにおける熱消費,コストに直結するもので,極めて大切であり,プレスパートにおける脱水率が良ければ,湿紙強度が強くなり,後段のドライパートも含め紙切れ,皺の発生によるトラブルも生じにくくなる。また,紙品質においても,紙層表裏の密度差が少ない事や表面の平滑性,嵩高などが求められ,重要視されている。
本稿では,求められているプレスパートの役割に応じて,プレスパートの基本形式から搾水量及び操業性向上のための型式変化を中心に,シュープレスおよびプレスパートに使用される機器,最新動向を紹介する。
抄紙機のワイヤーパートで使用される各種ワイヤーロール(ワイヤーロール,ブレストロール,ターニングロール等)には従来からゴムカバー材が採用されており,最近ではセラミックス溶射の採用も進んできた。ゴムカバーロールの場合プラスチックワイヤー(以下ワイヤー)との摩擦により1〜2年で偏摩耗が発生する。偏摩耗は相手ワイヤーの寿命に悪影響を及ぼし,抄紙現場では早期のワイヤー交換を余儀なくされている。対策としてセラミックス溶射の採用が20年以上前から進んできたが,セラミックス溶射皮膜は一定の効果を発揮してきたものの摩擦係数が低くワイヤーとスリップが発生し易いため,ワイヤー寿命に最も影響の大きいドライブロールへ採用ができず延命効果に限界があった。当社は約15年前から高摩擦係数・高耐久性セラミックス溶射皮膜TS-03112μの開発に着手し,ワイヤーメーカー殿の協力のもと様々な性能評価試験を経て,2005年オントップベルボンドフォーマーのドライブロールへ1号機を納入した。結果としてスリップ発生率は従来のドライブロール用ゴムロールと同等以上であることが確認された。以降TS-03112μはドライブロールを中心として採用が進み,その表面性能の高さから一般のワイヤーロール,ブレストロールへも展開され多くのワイヤーの延命化に寄与した。TS-03112μを採用された客先からはワイヤー寿命が1.5〜2倍に達しているとの報告が多数寄せられている。TS-03112μは高価なプラスチックワイヤーに関わる経費削減に大きく寄与するとともに抄紙現場におけるワイヤー交換等の煩雑な作業の軽減に寄与している。
王子マテリア㈱釧路工場L-1マシンはライナー原紙を日産1,207 t/日で生産している国内最大級のライナーマシンである。L-1マシンの抄造するライナーは3層で構成されており,裏層がフォードリニア,中・表層がベルボンドフォーマーの抄き合わせ構造である。
仕上歩留を向上させる為,ドライパートに堆積するガム・ピッチ由来の種々の欠点対策を講じて来ているが,特に1群カンバス表面に堆積するガム・ピッチに苦慮していた。2019年5月よりファブリキーパーを設置する事で良好な結果を得られた。本報ではその検討と操業経験および効果について報告する。
原料品質の低下やドライヤーシリンダーの長年使用による表面の凹凸などが原因で,ドライヤーに蓄積される汚れの増大や錆の発生が問題となっている。ドライヤーの汚れは紙切れの原因となり,乾燥効率の悪化や水分プロファイルの不均一を引き起こす。またアフタードライヤーにおいては塗工粕の除去を人手で行うなど安全上危険であり,また多くの手間がかかっている。さらに製品品質の向上を求められておりドライヤーでの汚れ除去は重要度を増してきている。
弊社は今までドライヤーシリンダーの汚れ除去において表面に付着した粕をドクター装置で掻き取ることを考えてきたが,最近の状況を踏まえて新たにドライヤーシリンダーに薬品を塗布して汚れを付着させにくくする手法も採用することになった。この薬品塗布システムはPCAポリクリーンアプリケーターと言い,形状がコンパクトなため設置場所を限定しない,シリンダー表面の全幅に渡って均一に薬品を塗布できる,散布しないため飛散して周辺を汚さない,水分プロファイルが一定になる,駆動装置がないため定期的な機械のメンテナンスが不要などの特長がある。またシリンダーに付着した汚れや錆を従来のドクターブレードとは異なる研磨パッドをシリンダーに面で当ててクリーニングするサーフェスクリーナー,従来の樹脂製ドクターブレードよりもクリーニング効果が高い新素材のN-Forceがある。
ドライヤークリーニング方法は抄き物により変わるため,板紙抄造マシン,洋紙・特殊紙抄造マシン,家庭紙抄造マシンに分けてドライヤーシリンダーに適した表面クリーニングの最新技術を紹介する。
近年,資源保護や環境への関心の高まりから古紙のリサイクルや抄紙マシンのクローズド化が進んでいる。その結果,古紙中の薬品や填料である炭酸カルシウム等の電解物質が水中に溶け出すことで抄紙系の電気伝導度が上昇し,内添紙力増強剤は本来の効果(凝集性・紙力)を発揮し難くなっている。当社では高電気伝導度下に適した内添紙力増強剤を有しているが,古紙原料の増配や季節要因で起こる急激な環境の変化に対しては細やかに対応しきれていないのが現状である。この問題を解決するために,イオン性の異なる両性分岐型紙力増強剤2種を抄紙環境の変化に合わせて混合比を調整して使用する,新規混合処方を開発した。
一般的に内添紙力増強剤はカチオン性基とアニオン性基を有する両性分岐型ポリアクリルアミド(両性PAM)が使用されている。両性PAMはイオン間相互作用により,ポリイオンコンプレックス(PIC)を形成することで,見かけの分子量が増加し,パルプへの吸着率の向上とそれに伴うパルプの凝集性や紙力効果の向上が期待できる。
今回開発した新規混合処方は2種の両性PAMを混合することでより大きなPICを形成させることが可能であり,優れた紙力向上効果を発揮するとともに混合比率を変えることで凝集性のコントロールができることを見出した。この新規混合処方は抄紙環境の変化に対して2種の紙力増強剤の混合比率を調整することで迅速に対応でき,安定操業に貢献できるものと考える。
GOEBEL IMS社は,紙や板紙,タバコ,フィルム,アルミフォイル,無菌包装,その他の特殊材料を加工する為のスリッターリワインダーの世界的なリーディングプロバイダーである。彼らはドイツとイタリアの生産拠点で開発,製造しており,また,日本では弊社 伊藤忠マシンテクノス株式会社を代理店とし,販売を展開している。
本稿では,紙及び紙との組み合わせによる新しい機能材など,市場で増加しているアプリケーションに対応する為,GOEBEL IMS社が,どの要素に注意を払い,御客様の加工する紙の特性を理解し,それにマッチしたテイラーメイドの機械を提案・設計することが可能であることを説明する。
西域まで支配を広げた唐と,アラビヤから急送に版図を拡大してきたイスラム王朝がタラス河畔で衝突,両大国が接したことで製紙技術がイスラム社会に伝わった。
アッバース朝は,紙を統治の手段として使うと共に,文化面でも推奨した。タラスの戦いから300年後にイベリヤ半島でも紙が生産されだす。book marketがうまれ,バクダッドに栄えるが,モンゴルの破壊によりダマスカスへ移った。それが,チムールの征服によりカイロへ移る。13世紀頃より,製紙技術を手にしたイタリヤがイスラム市場へ紙を輸出出だした。イスラムの製紙技術とbook marketはイランを中心に14世紀に最盛期を迎えた。
イスラムの紙は,亜麻から得られるリネンのぼろを,水車を動力として叩解,手漉き,風乾した後,小麦でんぷん主体の塗工剤を塗り重ね,風乾後磨き上げる。これにより,ペン書きに耐える紙となる。
イスラム世界では,紙は,コーランの記述をとおして社会に広がった。さらに,アッバース朝の文化政策により,ヘレニズムを含む多文化の翻訳,数学・商業・地図学等の学術の発展で,出版(主として写書)が急増,14世紀に文明の爛熟期を迎えた。
激動する現代社会は不確実性に満ちており,その将来を見透すのは容易ではないが,企業の経営者はその中で将来に向けた的確な経営判断を要求される。一般に短期の近未来のことは比較的高い確度で予測は出来ても,時間軸を延ばした中長期的な未来の予測は,その望ましい未来像を描くことは可能であっても,それが実現するか否かを高い精度で予測することは不可能に近い。特に2019年までは全く想定外であった新型コロナウイルスによるパンデミックは社会全体に大きな影響を及ぼし,2021年8月の現在その終息が見通せず,人間社会全体をなんとも表現しがたい不安が覆っている。
筆者は本シリーズにおいて紙パ技協誌の内容をより豊かにし興味深い雑誌にするために,領域を拡げて文系学術分野を取り込み文理融合型雑誌への転換を提案してきた。このように領域の拡大を横軸とすると,縦軸,すなわち過去・現在・未来からなる時間軸を考えた場合,製紙産業の未来をどのように描くか,未来をどのように予測するかという重要な問題には未だ触れていない。
不確実性の高い未来ではあるが混沌とした現代だからこそ,過去と現在の経験・事象や異分野の科学技術だけでなく,周辺の人文科学,社会科学などを総動員して,単線的ではなく複数のシナリオやロードマップから未来像を描き,未来を予測しようという試みの重要性を比較的新しい学問分野である「未来学」を基盤として再認識し,筆者の紙パルプ技術予測研究会の経験も振り返りながら考えて見たい。
我々は有機のポリピロールと無機のIndium Tin Oxide(ITO)をハイブリッドし,ポリピロール-ITO導電性インクを創製した。一般に,ポリピロールは不溶不融の性質を持つため,凝集性が高く,加工性が欠如している。加工性の高い形態のポリピロールの合成方法の1つは分散重合によるコロイド状のポリピロールの合成である。従来では,ポリピロールに加工性を付与したポリピロール-シリカについて報告してきた。ポリピロール-シリカは高分子界面活性剤を使用せず長期間の分散安定性を有した導電性インクであったが,ポリピロールそのものの導電度より3桁低いという課題が残されていた。本研究では,高分子界面活性剤を使用せず,水中で長期間の分散が安定するポリピロール-ITO導電性インクを合成に成功した。ポリピロール-ITO導電性インクはITOの仕込み濃度を最低でも0.5 w/v%以上にする必要がある。Scanning Electron Microscope(SEM)像の観察結果より,ポリピロールの表面にITOが吸着していることを確認した。ポリピロールの表面にITOが吸着することで長期間の分散安定性に寄与していると考えられる。ポリピロール-ITO導電性インクの表面抵抗値は25 Ω/□,ポリピロールが1,600 Ω/□,ポリピロール-シリカが 97,000 Ω/□であることからポリピロール-ITO導電性インクはポリピロール,ポリピロール-シリカより高い導電性を有していることを確認した。ポリピロール-ITO導電性インクを使用し,紙の上に手描きの電気回路を作成した。紙を折り畳むことで通電し,LEDが点灯することからポリピロール-ITO導電性インクがフレキシブル性と導電性を有していることを確認した。ポリピロール-ITO導電性インクは加圧式インクジェットの吐出試験を行い,吐出に成功した。吐出可能なことからポリピロール-ITO導電性インクはインクジェット用のインクとしてポテンシャルを有している。
We have prepared organic conducting nanocomposite particles which utilize polypyrrole as conducting parts and small ITO particles as dispersants. The nanocomposite particles of polypyrrole and ITO represent potentially useful processable forms of polypyrrole, normally intractable conducting polymers. The conductivity of polypyrrole-ITO nanocomposite particles was two orders of magnitude higher than bulk polypyrrole under the same condition. We confirmed that these polypyrrole-ITO nanocomposite particles can be utilized as conducting inks due to their high colloidal stabilities.