紙パ技協誌
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75 巻, 2 号
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CNF特集
  • 萩原 総平
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 75 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    水中対向衝突法(ACC法)で製造したCNF「nanoforest」は,CNFに一般的な軽量・高強度,低線熱膨張性といった特徴に加え,水にも油にも馴染みやすい両親媒性のファイバー表面を有することが示唆されている。

    本稿ではnanoforestの製造方法と特徴及び,nanoforest事業に関する取り組み状況を説明する。

    事業の取り組み状況としては,サンプル提供を実施し,様々な分野で検討が進んでいる。

    高強度化や軽量化が期待されるCNF複合樹脂材料についてはサンプルワークを行う中で課題が明らかとなり,nanoforest-PDPの黄変化対策や,nanoforest-PDPを用いたCNF複合樹脂マスターバッチに関する開発を進めている。

    また,昨年5月に発表した高機能CNFパイロットプラント建設の概要と,そこで製造する水分散CNF「nanoforest-S(高解繊)」,疎水化CNF「nanoforest-M」,およびCNF100%成形体「nanoforest-CMB」について説明する。

  • ─実用化に向けての取り組み─
    中坪 朋文
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 75 巻 2 号 p. 105-108
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    パルプを化学的あるいは機械的処理により,幅がナノメートルオーダーまで解繊することによりセルロースナノファイバー(CNF)は得られる。CNFは,高強度・高弾性,低熱膨張,分散液の特異な粘度特性などの興味深い特徴を有し,広範な用途に応用可能な次世代素材として注目を集めている。

    当社ではパルプからセロファンを製造しているが,その製造工程の中間生成物であるセルロースザンテートから,ザンテート化セルロースナノファイバー(XCNF)が効率的に得られることが分かり,さらに,XCNFのザンテート基は簡単な処理で脱離させ,無置換のセルロースナノファイバー(RCNF)に再生することも可能である。

    当社CNFの実用化に向けて,当社CNF(特にRCNF)について,物性の評価を行った。RCNFは増粘剤として知られるヒドロキシエチルセルロース(HEC)よりも高い粘度を示し,さらに,HECよりも温度依存性が低く,増粘剤として有効であることが示唆された。また,RCNFは乳化性能も優れており,多くの油状物質を低濃度で乳化を維持する効果があることも分かった。その他,RCNFは分散安定性や有機溶媒中にも分散可能であることが分かった。今後,これらの特徴を活かした実用化を現在進めている。

  • 中俣 恵一
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 75 巻 2 号 p. 109-112
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    バルカナイズドファイバーというセルロースだけで作られた材料がある。この材料はコットンパルプや木材パルプを原料として作られ,19世紀の半ばにイギリスで発明された。耐衝撃性や電気絶縁性など,数々の優れた特徴を持つことから,エジソンの数々の発明にも用いられ,現在でも電気絶縁材料やディスクグラインダーのブレードなどの様々な用途に使われている。

    最近の研究によって,バルカナイズドファイバーの強靭さの理由が判明した。セルロース繊維が化学的に解繊され,太さが数nm〜数十nmであるセルロースナノファイバー(CNF)のネットワークになり,このCNFネットワークが乾燥工程で水分を除かれることで強固に収縮結合し,その強靭さを生み出していた。海洋プラスチック汚染への対応や,セルロースナノ材料が注目される現代にバルカナイズドファイバーが甦り,炭素繊維との融合など,新たな開発が進められている。

  • 山中 実央
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 75 巻 2 号 p. 113-117
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    持続可能社会の実現に向け,木質バイオマスの多面的な利用が求められている。中でもセルロースナノファイバー(CNF)は,木質パルプから得られる,様々な特長を持つ新規ナノ材料として注目されている。当社では,木質パルプに化学的な前処理「リン酸エステル化」を行ったのち機械処理することで,高効率で完全ナノ化(約3nm幅への微細化)したCNFを製造する方法を確立した。リン酸化CNFの水分散液は高透明かつ高粘性で,せん断力を加えると粘度が低下し,静止すると粘度が元に戻るチキソトロピー性も有し,pH3-11という幅広い液性でも安定している。また,リン酸化CNF水分散液から水を取り除くことで,リン酸化CNFシートを作製できる。このシートは紙のような柔軟性がありつつも,高い透明性と強度を有し,熱寸法安定性にも優れている。当社では水分散液やシートの実証プラントをすでに稼働し,実用化を進めている。実用化の第一段階として,水分散液は化粧品用増粘分散剤やコンクリート圧送用先行剤,シートは卓球ラケット用素材といった用途で製品採用された。さらに,リン酸化CNFのさらなる改質によって有機溶剤中への分散が可能となる。このCNFはパウダー状で,その溶剤分散液は水分散液と同様に透明性や粘性を有する。これにより,溶剤系の用途への適用可能性が高まった。加えて,リン酸化CNFによるポリカーボネート樹脂の高機能化技術の開発も進めている。我々は今後もリン酸化CNFの特長を活かし,さらなる用途開発を進めていく。

  • ─NEDOプロジェクト参画報告とCNF強化樹脂の取り組みについて─
    伊達 隆
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 75 巻 2 号 p. 118-125
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    セルロースは世界に最も広範囲に分布している,再生可能で環境負荷の低い植物由来の高分子であり,木材,草本類,農業廃棄物などの非可食性バイオマスから調達できる材料である。このセルロース分子が束になったセルロースナノファイバー(CNF)は,木材パルプを解繊することにより得られる,結晶性を維持した高アスペクト比の極細繊維であり,軽量,高弾性率,特殊な粘度特性などの優れた,あるいはユニークな特徴を有している。それゆえ現在,ナノ複合材料,機能性シート,添加剤,コーティング剤など様々な用途開発が行われている。特に,樹脂補強材としての利用はCNFの最も重要な利用の一つである。

    日本製紙は2013~2020年にかけて,京都大学矢野浩之教授の指導する,NEDO非可食性プロジェクト(通称)「高機能リグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発」に参加し,CNF強化樹脂の開発研究を行ってきた。このNEDOプロジェクトにおいて,①パルプを疎水化し樹脂と混練することによってパルプの解繊と樹脂との均一混合を行う画期的なパルプ直接混練法(Kyoto Process®)の開発,②CNFを樹脂に含有することによって様々な樹脂の強度が2~2.5倍に増強できること,③原料樹脂のスクリーニングにより最適原料としてトドマツを発見,④CNF強化樹脂の発泡成形により更に軽量高強度の材料を成形,⑤CNF強化樹脂のリサイクル性の確認,⑥高耐衝撃性材料の開発,などの様々な優れた結果が得られた。日本製紙では,このNEDOプロジェクトの技術を展開して,富士工場(静岡県富士市)にCNF強化樹脂実証プラントを2017年に建設し,それ以降,実用化に向けて化学会社や樹脂会社と共同でCNF強化樹脂の性能向上を行っている。

    筆者は,京都大学でのNEDOプロジェクトでの研究と,日本製紙でのCNF強化樹脂実証設備に携わってきたので,プロジェクトの詳細と実証設備の現状について解説する。

総説・資料
  • 鈴木 洋平
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 75 巻 2 号 p. 127-130
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    現在,世界中で使い捨てプラスチック製品の流通禁止に向けた法制化が進んでおり,日本でも2020年7月からプラスチック製レジ袋の有料化が実施された。この脱プラスチックの動きは,製紙業界にとってフォローの風に間違いない。

    新しい脱プラスチックに向けた製品を生産するにあたり,ACA社(フィンランド)製の最新測定機器を用いた次世代型の品質管理について紹介したい。

    Permiオンライン透気度計は,透気度測定をオンラインでほぼリアルタイム(2msec毎)に高精度な透気度測定ができる画期的なシステムである。透気度を安定させる事により,均一なコーティングが可能となり,品質向上,コスト削減に繋がる。

    超ハイシェア粘度計AX-100は,従来の回転式粘度計やハイシェア粘度計では測定できなかった高せん断速度1,000,000s-1まで測定できる。複雑なレオロジー特性を持つコーティングカラーを,高せん断速度にて粘度測定して最適化する事により,品質向上,トラブル防止,コスト削減効果が得られる。

    RoQロール硬度計は,ロール巻硬さを幅方向(最小1mmピッチ)に測定できる装置である。巻硬さのバラつきから,ロール品質はもちろん,ワインダーのテンションやニップ圧などの調整や,ロール内部のシワも発見できる。

    これらの装置は今後の製紙業界にとって必要不可欠であると考える。

  • ─安定操業と環境負荷低減─
    土屋 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 75 巻 2 号 p. 131-136
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    紙パルプ業界において使用される工業用水は製品の製造工程に使用されるものと製造設備の安定操業の為に使用されるものに大別され共にその使用量と品質(水質)の管理は重要な課題となっている。

    この度弊社では各種回転機器の軸封部のトラブルの約60%が供給される工業用水に起因するという現状を踏まえ軸封装置メーカーとしての観点から供給される工業用水の管理並びに使用量の削減と水質向上を実現する為にそれぞれが抱えている以下の3項目の課題に着目しそれらを解決する為の各種製品について紹介させて頂く。

    1)適切な流量と圧力の管理:セーフユニット導入による流量・圧力管理

    2)供給量過多による大量のシール水消費:スマートフロー導入による節水

    3)困難な水質管理:セーフジェット,セーフクリーン導入によるシール水の清浄度管理

    これらの課題の解決は回転機器の安定操業排水設備の負荷低減等生産性向上や経費削減だけではなく環境保全への貢献も可能と考えられる。

    紙パルプ業界において回転機器の安定操業を維持させながら工業用水の削減を進めていくにあたり軸封装置のリーディングカンパニーである日本ジョン・クレーンは今後も信頼性の高い製品を提供しお客様の立場に立って環境負荷低減も考慮した付加価値の高い製品を提供し続けていく所存である。

  • 高安 史雄
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 75 巻 2 号 p. 137-141
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,国内のKP設備は設置より30年から40年が経過し,長年の使用による磨耗および腐食が起きている。特に第一種圧力容器は法定検査が有る為,確実に検査を行い,その補修をしなければならない。圧力容器の補修方法として,全更新・部分更新・ライニング・オーバーレイ等がある。スチーミングベッセル等の周辺設備であれば,摩耗・腐食の状態によって,ライニングや部分更新,場合によっては全更新等を行う。しかし,連続蒸解釜に関してはその大きさから全更新・部分更新は容易ではない。国内の連続蒸解釜は設置当時に母材が炭素鋼で作られている為,ライニング補修が多く行われる。ライニング補修は摩耗および腐食箇所を工期内に可能な範囲を部分的に安価に補修できる。しかし,炭素鋼である母材にステンレス鋼板を取り付ける「異種材料間」の溶接となり,溶接箇所にクラックが発生しやすい。また,そのクラックから母材とステンレス鋼板の間に薬液が浸入し,母材の腐食が進行する。そのため,クラックが発生した場合,取り付けたステンレス鋼板を一旦剥がして,母材の健全性を確認した上で,再びステンレス鋼板を取り付ける必要がある。一方で紹介するオーバーレイ(Uddcomb法)は,母材の上にステンレス材を直接肉盛溶接することにより,母材の上に二相ステンレス層を新たに形成する方法である。ライニング補修が抱える母材の腐食リスクや溶射の様な剥離が無く,連続蒸解釜やバッチ釜の母材の延命化に有効で恒久的な補修方法であると言える。

  • 第1部 日本への紙の渡来と利用
    飯田 清昭
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 75 巻 2 号 p. 142-148
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    紙が,その前に使用されていた記録媒体に,どのように取って代わったかを調べる。

    正倉院文書は,700年代の日本における紙の使用状況を記録した貴重な資料である。使用分野の一つが行政文書である。支配地域の個人の戸籍を整備し,それに基づき徴税を管理する。政府の指示は,隣接する国から国へ書写により伝達される。地方は,指示を受け取ったことを連絡,さらに徴税状況を報告する。当時の推定人口数百万人を,紙の伝達のみで,統治していた。

    もう一つが写経事業で,国を上げての文化事業である。その量は10万巻以上といわれ,大勢の写経生が書写した。これは,同時に文字の使用を大きく拡大した。

    これらの紙の需要は,官営の紙漉き場や写経所のほかに,地方にも生まれた紙漉き場により支えられた。紙質分析から楮が主原料である。また,すでに,古紙を漉き返して利用していたことがわかる。

    いつごろに,紙が日本で使われだしたか。定説がないが,木簡学等から,文字が使用されだすとほどなく紙が渡来したと考えられる。

シリーズ : 大学・官公庁研究機関の研究室紹介 (137)
研究報文
  • Yulia Anita, Agusta Samodra Putra, Keishi Tanifuji, Akiko Nakagawa-Izu ...
    原稿種別: research-article
    2021 年 75 巻 2 号 p. 153-163
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    Anthraquinone(AQ)is used in the pulp and paper industries as a cooking catalyst. However, because AQ is “possibly carcinogenic”, it is no longer approved in Germany for the manufacture of paper and paperboard that contact food. To address this problem, we examined 2-methylanthraquinone(2-MAQ), a natural anthraquinone from teak(Tectona grandis)wood. Eucalyptus globulus wood was subjected to kraft cooking at 145℃ for 3 h with 0.03%2-MAQ and 15-19% active alkali to provide pulp in 55.5-58.1% yield. Kraft cooking with the acetone extract of Myanmar teak wood increased pulp yield by 1.6% but decreased kappa number by two points compared to that with only 2-MAQ. Ames testing suggests that 2-MAQ is not mutagenic. Unbleached and oxygen-bleached pulp contained 0.40- 2.90 ppm and 0.21-0.39 ppm residual 2-MAQ, respectively, while 2-MAQ was not detected in fully bleached pulp; therefore, this pulp should be safe for food-packaging use.

  • ユリア アニタ, アグスタ サモドラ プトラ, 谷藤 渓詩, 中川 明子, 大井 洋, エヴェリン エヴェリン
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 75 巻 2 号 p. 164-173
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    アントラキノン(AQ)は紙パルプ工業で蒸解助剤として使用されている。しかし,国際がん研究機関(IARC)はAQを「発がん性の可能性がある」物質に分類し,ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は,食品と接触する紙板紙の製造でのAQ使用の承認を取り消している。この問題に対処するために,本研究ではチーク(Tectona grandis)材の天然アントラキノンである2-メチルアントラキノン(2-MAQ)を取り上げた。ユーカリ・グロブラス(Eucalyptus globulus)材を用いて2-MAQ添加率0.03%,活性アルカリ添加率15-19%とし,145℃で3時間のクラフト蒸解を行ったところ,55.5-58.1%の収率でパルプが得られた。ミャンマー産チーク材アセトン抽出物を添加したクラフト蒸解では,化学合成品の2-MAQを用いた結果と比較してパルプ収率が1.6%増加し,カッパー価は2ポイント減少した。微生物を用いる変異原性試験(エームズ試験)の結果は,2-MAQは陰性で変異原性が無いことを示唆している。未漂白パルプおよび酸素漂白パルプには,それぞれ0.40-2.90および0.21-0.39ppmの残留2-MAQが含まれていたが,完全漂白パルプでは2-MAQは検出されなかった。すなわち,このパルプは食品包装用の紙板紙の原料として安全であると考えられる。

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