紙パ技協誌
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72 巻, 11 号
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研究発表会/不織布・家庭紙特集
  • 木材科学委員会
    2018 年72 巻11 号 p. 1213-1223
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
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  • 神﨑 護
    2018 年72 巻11 号 p. 1224-1227
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
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    この小文では東南アジアの森林消失と再生について紹介したい。東南アジアの多くの国では,独立後の外貨獲得手段として,簡単にアクセスできる木材資源がまず経済成長の第一段階として利用された。森林の大規模な農地化がその後1960年から1990年にかけて進行し,森林消失を決定的にした。これに対して,地球規模での伐採反対キャンペーンや森林保全の動きがおこり,それは1998年のリオの地球サミットでの森林原則宣言につながり,さらに1997年の京都プロトコルで採用された植林再植林クリーン開発プログラムにおける炭素クレジット化にもつながった。

    熱帯各国での森林伐採の方法も変化した。現在多くの国々で,低インパクト伐採の適用が義務化され,国際的な森林認証の取得も加速しつつある。度重なる洪水や土石流被害は,東南アジアの人々の森林保全についての考え方を大きく改善してきた。小規模な森林保有者,農民や地域共同体は木材生産の重要なプレーヤーになりつつある。日本の森林状況は第二次世界大戦直後の悲惨な状況から,70年もかからずに大きく改善された。東南アジア各国の森林状況も今後30年の間に劇的に改善されることが期待できる。

  • 寺本 好邦
    2018 年72 巻11 号 p. 1228-1232
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
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    10年ほど前に紙ベースのマイクロ流体分析装置(μPAD)の基本的な概念が提案されてから,世界中で活発に研究が為されてきた。一方,その要素技術の開発は,異なる専門的観点から実施する価値がある。本研究では,TEMPO触媒酸化セルロースナノファイバー(TOCN)のμPADのモジュールとしての合理的利用を提案する。まず,乾燥状態のTOCNは不安定な物質を安定に貯蔵し,湿潤時には生化学反応場として機能することを示す。TOCN水性分散液のチクソトロピー性は,インクジェット印刷性を与え,μPADの製造を容易にする。溶液中と比較して,湿潤時のTOCNネットワークにおける物質の交換には長い時間を要するが,このことはμPAD上での徐放性実現と反応キネティックスの制御と位置付けられる。TOCNを組み込んだ有機リン系農薬の半定量μPADの構築例も示す。TOCNを実装することにより,1枚の紙にさまざまな機能を組み込むことができ,μPADの設計の柔軟性と汎用性を向上させられるものと期待される。

  • 三枝 秀彰
    2018 年72 巻11 号 p. 1233-1236
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
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    当社の不織布事業は,製紙で培った技術を基軸とし,建材用ガラスシートや放電加工用フィルター濾材の生産から始まった。その後,不織布製造で得た技術を駆使し,2012年に高砂工場に不織布生産設備を新設し,水処理膜用支持体やバッテリーセパレータなどの商品,所謂機能性材料を扱うに至っている。また,車載エアコン用や空気清浄機用のエアフィルターを中国広東省珠海市にある子会社 珠海清菱浄化科技有限公司(MFZ)で製造している。本稿ではこれらの当社の不織布製品群の中から建材用ガラスシート,放電加工用フィルター濾材,水処理膜用支持体,そしてバッテリーセパレータを紹介する。

    建材用ガラスシートや放電加工用フィルター濾材は,本稿で述べる特徴からユーザーの高評価を得ている。当社の中で比較的新しい製品群である水処理膜用支持体は,中国・欧州を中心に着実に顧客を増やしている。またバッテリーセパレータも特に2016年末に発表した超耐熱性リチウムイオン電池用セパレータが,安全性アップの観点から国内外の電池メーカーに注目され,キャパシタ用やコンデンサ用と共に売上げを伸ばしている。中国では電気自動車(EV車)向けの検討も進んでおり,不織布製造設備の増設も視野に入れて事業拡大への取り組みを進めている。

  • 馬籠 一裕
    2018 年72 巻11 号 p. 1237-1242
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
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    家庭紙向けシュープレスにNipcoFlex-Tというものがある。NipcoFlex-Tは高い品質を維持しつつ,省エネルギーで家庭紙を生産できることを強みとしている。このシュープレスはCD方向に対してはヤンキーシリンダ表面に追従する必要があるため,既存のシュープレスよりも柔軟性があるシューを備えている。一方,MD方向に対しては従来どおり硬く,曲がらないシューを備えている。さらに,シューの傾斜量を変更できる油圧システムを採用しているため,MD方向のニップ圧力分布であるニップカーブをマシンの運転中でも任意に変更できるようになっている。これらの特徴をいかすことで,要求製品性質に合わせ,マシン運転中に嵩を重視(紙品質向上)する操業,または脱水効果(省エネ&繊維間結合向上)を重視する操業の選択が可能となった。本報文では,既に世界中で40台以上の実績があり,お客様より好評を博してきたNipcoFlex-Tについて紹介する。

  • 今井 茂夫, 和田 充弘, 和田 丈晴, 岩﨑 圭, 片桐 律子, 美濃部 安史, 石井 聡子
    2018 年72 巻11 号 p. 1243-1250
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
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    衛生ナプキンや使い捨ておむつのような衛生用品は,皮膚との長期間の接触で使用されるため,これらの製品に含まれる化学物質が人体に悪影響を及ぼすかどうかを確認することが重要である。

    衛生用品の主要材料であるパルプは,その白さを増すためにアルカリ薬剤による漂白が行われるが,製造メーカーの環境配慮の高まりによって二酸化塩素に基づくECF漂白が広く採用され,これまでの漂白方法に比べてクロロホルムおよびクロロフェノールの生成は大幅に減少した。しかも,ECF漂白プロセスにおける塩素化合物の発生および持続性に関する知識が蓄積されている。

    一方,衛生用品に塩素化合物が含まれていると,汗などの体液に溶けて皮膚に吸収される可能性があり,人的影響を把握するためにはその含有量を定量的に測定する必要がある。但し,塩素化合物の悪影響は化学種によって大きく異なるため,塩素の総量のみを計算することでは不十分であり,溶出液中の化学形態を特定することが重要となる。当社では,生理用ナプキンに使用されるパルプ中のダイオキシン類を分析し,たとえ毎日40年間使用されても大丈夫なよう,衛生用品の消費者の健康への影響を評価している。

    筆者らは,生理用品への漂白パルプの使用可否を決定すべく,皮膚暴露を想定した溶出試験を実施し,溶出された化合物の定量を含む化学形態ベースの定量分析フローを作成,安全性に関する評価方法を確立した。これにより,ECF漂白パルプに含まれる塩素化合物の量的な把握,及び化学的形態の解明に至り,当社製品が安全であることを確認した。本レビューでは,これらの研究成果を紹介する。

総説・資料
  •  ─インダストリアル・インターネットによる工場パフォーマンスと信頼性の改善・最適化─
    板東 永師 , ヤリ アルミ, ヨハンナ ニューカム
    2018 年72 巻11 号 p. 1251-1255
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル 認証あり

    インダストリアル・インターネットは安全に工場データへアクセスし,パルプ,紙およびエネルギー生産のために貴重な資源を作るための今日での有効な可能な手段である。これにより,工場のプロセス操作,品質および収益性を安定化,最適化できるような有効な決定と改善を生産現場が行なうことができる。最も重要なことは,インターネットとクラウドコンピューティングによりこのデータが容易に送受信でき,パルプ,紙およびエネルギーの各エキスパートが迅速かつ確実にプロセスの状態,安定性および経済的な操業状態を評価できることである。生産ラインの最適化ソリューションは,プロセス改善と専門家との相談,アドバンスト・プロセス制御と最適化,アナライザーと測定,制御パフォーマンス改善,KPI監視およびベンチマーキングサービスを結び付けることができるようになる。その結果,工場の生産性向上,生産コスト最適化,設備維持管理,そして経営管理まで広い分野にわたり,改善が可能となる。

    本稿では,弊社のバルメット・インダストリアル・インターネットの特徴である「4つの構成要素(エコシステム,アプリケーション及びサービス,自動化及びITプラットフォーム,プロセステクノロジー)」と,そのトータルソリューション,導入へのロードマップを示しながら,製紙工場操業のパートナーとしての弊社の取組みを紹介する。

  • ─働き方改革も含めて─
    為本 吉彦
    2018 年72 巻11 号 p. 1256-1259
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
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    2017年に入り,日本でもIoT(Internet of Things)の企業での活用は,認知・理解段階から,試行・導入段階に入ってきた。先進企業の事例紹介や先進的な試行・実証検討(PoC:Proof of Concept)などが行われ,実用化一歩手前まで来ている事例も現れてきている。

    これまでの企業の取組みからすると,IoTがもたらす製造業への影響は,大別すると 1)現場のリアルタイムでの可視化・判断の効率化,2)製造方法や工程・生産計画など「作り方」変革,3)事業そのものの構造改革やビジネスモデル変革,の3つが予想される。これらの影響の“核”は,「大量生産」概念からの脱却にあり,従来の製造技術や生産管理の再構築が必要である。

    将来の生き残りを目指して,これから製造業で進めるべき取組みは,最終消費者がどのように自社の製品を使っているか,という「使い様」を出発点に,顧客の成功体験を具現化するための方策検討である。そこでは「小集団活動」を応用した手法が活用できるであろう。

  • ─お客様との密接な連携を重視したデジタルソリューションサービスMHPS-TOMONI ─
    堀口 雅樹
    2018 年72 巻11 号 p. 1260-1261
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル 認証あり

    ICT(情報通信技術)を活用して火力設備の運転および保守(O&M)コストの最適化と環境性能の向上を図るためには,設備運用者であるお客様との連携と,設備提供メーカーである当社の洞察力の組み合わせが不可欠との認識に立ち,当社は“お客様と一緒に働く”ソリューションを提供することに重点を置いている。

    火力設備の運用に携わるお客様それぞれが持つ課題解決のため,当社は,総合的なデジタルソリューションのアプリケーション群を揃えた「MHPS-TOMONI」を開発した。

    これらデジタルソリューションの提供は,1980年代の初めに高度なボイラー燃焼管理システムを業界に先駆けて開発したことに始まり,1997年に高砂工場で発電実証設備の運営を開始したのを機に,設備のデータ収集とデジタル化を本格化させた。1999年にはお客様の火力設備を遠隔監視する施設を開設し,以来,お客様と協力しながら,設備の信頼性や運用性を検証するツールとして活用してきた。

    本稿では,現在提供している火力設備の品質維持及び効率的運用に向けた最新のデジタルソリューションである「MHPS-TOMONI」のサービス例を紹介する。

  • ─ローレンツェンアンドベットレーの最新試験技術と最新オンライン測定─
    山﨑 光洋
    2018 年72 巻11 号 p. 1262-1271
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル 認証あり

    成熟したビジネスには,それがどのようなものでも,競争力の維持に持続的な改善が要求される。今日では以前に増してこのことがより重要になっている。コスト削減と効率改善の探求が常に議題となる。パルプ・製紙業界では,定められた品質内の製品を可能な限り低コストで製造するのが第一の目標であり,品質試験とプロセス管理がその目標を達成するひとつの方法である。さらに,市場分析・研究開発・調達・販売などの製造・品質管理以外のプロセスも,ビジネスを構成する重要な要素である。ビジネス全体を考えるには,それぞれの要素を統合したデータが必要である。

    本稿では,品質管理における最新試験技術を単体試験機・オンライン試験機・全自動試験機のそれぞれから紹介し,個々の試験機を接続して品質管理プロセスを統合する方法を紹介する。さらに,品質管理のさらに他のプロセスとの統合についても述べる。

    IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の手法を用いて,試験室,さらには工場の外からリアルタイムでデータを入手し,有機的に統合することで,総合的なデータを得られる。各グループ工場のリアルタイムかつ総合的なデータに基づく,グループ本社でのこれまでになく迅速かつ的確なビジネス判断を促進することができる。

  • 木村 忠司, 白石 陽一, 清水 一道
    2018 年72 巻11 号 p. 1272-1275
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル 認証あり

    循環流動床ボイラでは燃料と媒体を高温環境下で流動して燃焼させており,ボイラに使用される部材の侵食摩耗が深刻な問題となり,設備の稼働率と経済性の課題がある。

    過去にCFBボイラにおける侵食摩耗の対応策として耐侵食摩耗材料の開発をする上で高温ブラスト摩耗試験を実施したが,実機の条件とは多少異なっていた。今回はよりCFBボイラ実機に近い状態を模擬するためブラスト材および圧縮空気を温めた高温ブラスト試験を実施し,ボイラ火炉への最適な材料の模索を行った。その結果をまとめると以下の通りである。

    ここでは,ボイラ火炉内の水冷壁パネルを想定して,773K(500℃)における高温ブラスト摩耗試験を実施し,高温での耐侵食摩耗策について検討した。

    炭素鋼と肉盛溶接材料を比較すると,最大摩耗深さおよび平均摩耗深さにおいて35~50%程度の差はあるものの,各肉盛溶接材料(Ni基およびCo基)では際立った優位差は確認されなかった。

    今回試験した温度域ではいずれの肉盛溶接材料も耐侵食摩耗に差がないことから,実機においては腐食環境(塩化腐食や硫化腐食)も大きな要因の1つになっていると思われる。それぞれの耐腐食性に適応した材料を選定することで有効な耐摩耗策になると考えられる。また,損耗の著しい箇所に対しては肉盛厚さを変更することにより対応可能であるといえる。

    今後ボイラ実機を模擬するために,様々な状況( 例えば酸化のみでなく高温下における塩化腐食や硫化腐食等) を考慮した試験の実施,さらに耐高温侵食摩耗に優れた肉盛溶接材料の模索が必要であると考えられる。

  • 第4部:2000年以降の展開:社会的規範の激変
    飯田 清昭
    2018 年72 巻11 号 p. 1277-1285
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    一人当たりの紙・板紙の消費量は,1970年以降,少ないと言っても年率3.4%で増加していたが,1995年頃を境に年率マイナス2.2%で減少しだす。それに従って,生産量も1997年を境に年率マイナス1.1%で減少しだし,これは産業にとって初めての事態であった。この変化は,世界の紙・板紙の生産量にも見られ,2007年頃より頭打ちとなっている。

    一方,紙を使わない情報の量は1995年頃より急増(おそらく年率50%以上)し,2009年では,全流通量の99%以上,全消費量の87%を占めるまでになった(紙媒体はわずか13%)。さらに,2010年頃より,ビッグデータとして分類されるデジタルデータが利用されだし,それが年率数十パーセント(多分70%以上)で増え続けている。2000-2010年は,デジタルデータが社会的規範を換えた転換点で,情報化社会と称されるべき時代に入ったと考える。

    新聞・印刷用紙が減少するなかで,板紙と家庭紙は増加している。製紙産業としては,これに対応しながら,新規事業を含めたビジネスモデルを作り上げる模索が続いている。

研究報文
  • 扇谷 浩, 石藤 雅俊
    2018 年72 巻11 号 p. 1286-1290
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    品質の異なる複数のチップを混合してパルプを製造する際,蒸解条件を最適化したり,得られるパルプの収率や品質をコントロールしたりするには操業状況を見ながらの調整や現場の経験に基づく調整によるところが大きい。そこで,異なる樹種のチップを混合して蒸解した際のパルプの品質や収率を事前に予測し,最適なチップ配合や蒸解条件を設定することを目的に混合したチップの蒸解実験を実施した。

    実験用のオートクレーブを用い,蒸解性の異なるEucalyptus globulusチップとAcacia mangiumチップとをバスケットに入れて混ざり合わない様にして一緒に蒸解し,それぞれのチップから得られるパルプを別々に回収して評価した。その結果,2種類のチップが共存してもそれぞれのチップの蒸解挙動は,各チップを単独で蒸解した場合の挙動と同じであり,混合して得られたパルプのカッパー価は,それぞれのチップから得られるパルプのカッパー価をその混合割合での加重平均した値とほぼ同じ値になった。また,収率についてもカッパー価の変化に対する収率の挙動は混合して蒸解しても単独で蒸解しても樹種毎に同じ挙動であった。

    これらのことから,複数のチップを混合しての蒸解挙動は,混合したそれぞれのチップの挙動を評価,把握しておけばどの様な樹種をどの様な割合で混合しても推定できる可能性があることが示唆された。

  • Hiroshi Ougiya, Masatoshi Ishihuji
    2018 年72 巻11 号 p. 1291-1294
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    Optimization of chip mixture largely depends on chip quality such as pulp yield and digestibility. Chip of Eucalyptus globulus shows high pulp yield and easy digestibility compared with that of Acacia mangium. To study cooking behavior of Eucalyptus chip and Acacia chip individually, we separated them respectively with packing each chip into a metal basket and digested together. As a result of analysis of cooking behavior of each chip by experimental digestion, we confirm that behavior of chip mixture during digestion can be explained from average of digestibility of individual chips constituting the mixture. Kappa number and pulp yield of two species of chips were not affected by each other.

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