北海道では近年ヒグマによる人身被害が増加しており、猟友会の出動は重要とされるが、その効果を定量的に検証した研究は乏しい。本研究では、ヒグマと狩猟者の空間的・動的な相互作用を再現するマルチエージェントシミュレーションを構築し、猟友会の活動がヒグマ出没頻度や人身被害に与える影響を分析する。ヒグマは季節に応じて生息地・市街地・住宅地を移動し、エネルギーや餌に基づく行動を取る。狩猟者は個体差ある技能やパトロール範囲を持ち、加入・引退も確率的に発生する。本モデルでは現実の北海道の状況に基づき、捕獲活動によって人身被害の発生頻度が低下する可能性を示し、猟友会の活動と人身被害の関係について検討することを目的とする。
大規模施設や多層建築物における災害時の避難安全性の確保は重要な課題である。本研究では、日常的な避難訓練を受けていないイベントでの来場者の自律的行動を再現することを目的として、多層建築物の避難行動を対象にエージェントベースのシミュレーションを構築した。実在する大学建物の図面を基にマップを作成し、事例としてオープンキャンパスを想定した上で、過去の予約データに基づき教室ごとに来場者(避難者)を想定したエージェントを配置した。セルオートマトン型モデルで移動を再現し、最短経路行動と確率的選択行動の比較を行った。試行的にパラメータを変化させた結果、確率的選択行動において従属性が強い場合には避難完了時間が早まり、弱い場合には遅延する傾向が示され、移動特性の違いが結果に反映されることを確認した。
本研究は,人工知能に関連する特許の可視化を試みたものである.分析対象は,日本企業が出願した特許とし,分析対象期間は2024年とした.本分析においては,特許データのベクトル表現を取得した後,可視化を行った.ベクトル表現の獲得には,Sentence-BERT等の複数のモデルを採用した.本分析では,各モデルの特徴などの知見の獲得および得られた結果の応用について検討した.
As Japan's political foundations destabilize, a new form of bureaucracy is poised to emerge: AI-driven technocrats for social design. Unlike conventional technocrats or civil servants bound by EBPM (evidence-based policy making), this cadre could redefine governance itself. Yet the education system remains perilously stagnant, fragmented into narrow disciplines that fail to cultivate the integrated capabilities such leadership demands. Without decisive reform, Japanese universities risk irrelevance as artificial intelligence reshapes global realities. Higher education must overcome disciplinary silos and foster holistic expertise able to bridge data, governance, and social foresight. Based on an experimental class the author conducted at the University of Tokyo, this article argues for a fundamental reorientation of academia to prepare the next generation for AI-driven governance.
本研究は、「エクスペリエンス指向」の社会シミュレーションのフレームワークの構想を提案する。これは、定量的な社会シミュレーションと定性的なパブリックライフやプレイスメイキング研究の橋渡しを目指すものである。エクスペリエンスは、シミュレーションベースのイベントと大規模言語モデル(LLM)を用いて生成された一人称ナラティブを統合することで生成される。これにより、多様なステークホルダーに、シミュレーション内部からの1人称視点のエクスペリエンスが提供可能となる。併せて、バーチャル・エスノグラフィーやハルシネーションの創造的活用についても、その可能性を考察する。
本研究は、ChatGPTの登場が日本株式市場に与える影響について分析を行う。分析対象は、国内上場企業とし、分析期間は、ChatGPTが公表された前後の期間とする。本分析では、株式価格変化を基に影響の評価を行うが、株式分析には、双方向LSTM-GNNを用いる。また、結果の解釈にXAIを用いることで、分析結果の可視化を試みる。
本研究は、起業活動の促進要因を政府の政策にとどまらず、国民の能力、特に英語能力の観点から検証し、さらに国の所得レベルによる差異を明らかにすることを目的とする。具体的には、新規事業登録数を従属変数、英語能力指数、および新規事業設立の容易さを独立変数とし、これらの国別のパネルデータを対象に回帰分析を行った。分析の結果、英語能力指数と新規事業設立の容易さの影響については、高所得国では有意な結果が得られなかったが、低所得国においては重要な要因であることが示唆された。これらの結果より、起業活動に対する政府の政策や国民の能力の影響は国の所得レベルにより異なり、起業活動を促進するための政策は所得レベルごとに留意する必要があると考えられる。
本研究では、特許の有効性の評価に関する分析を行う。本分析では、大規模言語モデルおよび技術クラスタリングを通じ、ブロックチェーン関連特許の有効性を評価する。分析対象は、ブロックチェーン関連 の国際特許で、分析期間は、2014年から2025年とした。分析においては、時価総額などの外生的な変数を用い特許との関連性の解明を試みる。
本研究は、2024年に開業した同市初の都市鉄道、ホーチミンメトロの今後の拡充に対する市民の期待を、208件の自由記述型式アンケート回答を対象にテキストアナリティクスを用いて明らかにした。クラスタリングと共起分析により、「効率性と利便性」、「郊外居住を伴う生活環境の改善」、「環境・健康への効果」という3点が抽出された。特に、移動時間の短縮、交通渋滞の回避、郊外通勤、汚染軽減等に対する期待が明らかになった。また、通勤/通学利用の有無によって差が見られた。これらの結果は、メトロが移動手段にとどまらず、生活環境の改善や持続可能な都市発展の観点でも期待されていることを示唆している。
マーケティング調査における大規模データ収集は、時間とコストの制約から困難を伴う。近年、LLMを用いた代替手法が注目されるが、人間データとの乖離やバイアスが指摘されている。本研究では、日本の人口統計とBig Five特性に基づく合成データ(仮想のデモグラフィックデータベース)を作成し、LLMと統合することで、属性分布を反映した回答生成を試みる。順位選択コンジョイント分析において、人間回答・LLM単独回答・統合LLM回答を比較し、その推定精度の有効性と限界を検討する。
日本の外食産業における食物アレルギー対応は道半ばであり患者家族のQOLは著しく損なわれている。特に彼らはアレルギー表示の無い飲食店の利用に困難を感じつつも潜在的なニーズを持つ。そこで本調査ではアレルギー表示のない飲食店においてどのような情報や対応が患者家族の不安を軽減し、来店を後押しするのかを明らかにすることを目的とする。患者家族を対象に飲食店での利用体験を「満足」「利用断念」「不満足」に分類。来店前から退店までの対応を評価し、各郡で重要視される要素を比較分析する。本研究成果は飲食店が実践すべき対応策の示唆に繋がり、患者家族のリスク低減やQOL向上、またフードバリアフリーの促進にも貢献できる。
本研究は、楽天トラベルに掲載された宿泊施設の公式紹介文と利用者レビューの語彙的特徴を比較し、両者のギャップを明らかにするとともに、時点間比較によりその変化の把握を行った。対象はレビュー件数が多いシティホテル3施設(品川プリンスホテル、東京ドームホテル、リーガロイヤルホテル大阪)で、分析には2018年と2024~2025年のデータを用いた。分析の結果、当初は両者の間に一定の乖離があったが、基本的なサービス・設備に関する語では差が縮小していた。一方で、施設固有の特徴や設備には依然としてギャップが残り、一部では拡大傾向も確認された。これらは、レビューが施設紹介文の情報を補強する一方、レビューを評価としてみれば紹介文に改善余地があることを示唆している。
本研究は、宅配便ラストワンマイル配送における再配達コストの最適化について検討する。配送ネットワークモデルにおいて配送密度(面積あたりの配送件数)を固定条件とし、不在率を変数として設定することで、再配達処理の効率的な運用方式を分析する。固定費型の正社員ドライバーと変動費型の従量制配送サービスへの再配達業務の配分について、それぞれのコスト特性を考慮したモデルを構築する。正社員ドライバーは固定給与体系で稼働し能力上限を持つ一方、従量制配送は件数単価による課金体系という異なる特性を持つ。これらの特性を踏まえた配送コストモデルを構築し、不在率の変化に応じた分析を行うことで、配送コストを最小化する最適配分比率を明らかにする。本研究の成果は、配送事業者が効率的なラストワンマイル配送を実現するための実践的な指針となることが期待される。
本研究はAI関連特許を保有している企業のM&A前後における保有特許の質的価値の評価に関する分析を試みる。分析対象は全世界の企業のイベントとし、分析対象期間は、2010年から2024年とする。分析においては、多様な形態の買収などを考慮する。分析においては、合成コントロールなどの手法や、評価指標としては引用数等を用い、M&Aによる影響を明らかにする。
地方自治体では、福祉や防災など複雑化する課題への対応として、市民ニーズの的確な把握が求められているが、従来のアンケート調査は回収率や回答者の属性に偏りがあるという課題を抱えている。また、人口減少に伴う職員数の減少から、頻繁な調査の実施は現実的ではない。そこで本研究では、市民ニーズ収集の偏りを低減するため、AIが多様な市民像(AIペルソナ)を生成し、そのペルソナへヒアリングを行うフレームワークを提案する。これにより、従来の調査で不足していた層の意見を補完し、より現実に即した多様な市民ニーズの収集を目指す。
本研究は、仮想通貨売買予測に因果推論モデルを組み込むことの有効性を検証した。従来の相関関係に依存したモデルに対し、市場の因果構造を動的に探索することで予測性能向上を目指した。2017-2025年のビットコイン4時間足データと20のテクニカル指標を使用し、CausalNexのDAGClassifierで因果構造を特定。ウォークフォワード・バックテストにより、因果推論モデル戦略がベースラインモデルに比べ、平均収益率で有意な改善を示した。さらに、価格変動に強い因果的影響を持つと特定されたRSIを活用して取引ルールを改善した結果、収益率のさらなる向上に成功した。本研究は、因果推論が複雑な市場予測に有効なアプローチであることを示唆する。
都市計画の一環として交通基盤の拡充が進められているが、現状では幹線道路に交通が集中し、慢性的な渋滞が発生している。本研究では、この課題に対して三浦市を対象に、道路整備計画の効果を評価するためのエージェントベースのシミュレーションを構築した。人口や通勤通学者のマクロデータを反映し、市内外の移動状況を再現した。現状の道路網のモデルと新たな道路整備を仮定したモデルの主要道路の交通量を比較した結果、追加道路による主要道路の交通量に大きな変化は見られなかった。しかし一部区間では統計的に有意な差が確認され、追加道路が特定区間の交通量に影響を及ぼすことが示された。以上より、道路整備は全体的な渋滞解消には繋がらないものの、局所的な交通改善に寄与し得ることが明らかとなった。
本研究の目的は、学校教育の中で振り返りを通じて子どもたちの「生きる力」を向上させる方法を検討することである。「生きる力」はこれからの時代を生き抜くために不可欠とされる一方、現行の教育において十分に育まれているかには疑問がある。そこで筆者らによる新たな社会的教育アプローチの一つとして、「振り返りのジャーナル」を考案した。具体的には「生きる力」を、主体性・問題解決能力を中心に、自己理解力・メタ認知・自己効力感を加えたらつの能力として細分化する。中学生を対象に「振り返りジャーナル」を実施し、その効果を5つの能力の変化を測定することにより検証する。これにより、子どもたちの生きる力の向上に向けた、新たな社会的教育アプローチを探る。