イネワラを原料としてパルプ生産を行う上で最も大きな問題となるのが, イネワラ中に多量に含まれるシリカである。イネワラのパルプ化において, シリカを保持しながらも, リグニンをほぼ完全に脱離する技術の開発は, イネワラをパルプ原料として利用する可能性を広げるものであると考えられる。そこで, 脱シリカを極力抑制したイネワラのパルプ化法として, 酸素-亜硫酸塩蒸解及び酸素-アンモニア蒸解の可能性に着目し, この蒸解法によるイネワラのパルプ化において, 脱リグニン, 脱シリカ, 炭水化物収率などの挙動を詳しく検討した。
水酸化ナトリウムを用いる場合は, 酸素圧下でもそうでない場合でも, シリカがほぼ完全に除去された。これに対して, 酸素-亜硫酸塩蒸解と酸素-アンモニア蒸解では, 脱リグニンが95%まで進行した場合でも, シリカの保持率は非常に高く, 約70%程度であった。一方, 炭水化物収率については, 前者ではカッパー価10のパルプで90%と非常に高いが, 後者では, 74%であり, 対照とした酸素-水酸化ナトリウム蒸解の結果よりも低い値であった。
中性糖分析の結果から, 酸素-亜硫酸塩蒸解では, グルコースの保持率が非常に高いばかりでなく, 脱リグニンが進行しても, ヘミセルロースに由来する中性糖の保持率もあまり減少しないことがわかった。一方, 酸素-アンモニア蒸解では他の酸素-アルカリ系蒸解に比べ, ヘミセルロース由来の中性糖の保持率が低いばかりでなく, グルコースの保持率もあまり高くないことが明らかになった。
以上より, 酸素-亜硫酸塩蒸解ではシリカの保持率, 炭水化物収率ともに高いために, 高収率パルプ化が可能であることがわかった。
抄録全体を表示