1983年9月から翌年9月までの1年間にわたって, 国家公務員等共済組合連合会三宿病院の産婦人科外来を受診した836名の患者より膣分泌物を採取し, ブドウ球菌 (
S. aureus) の分離を行った.そして, 単離された菌について, Enterotoxin型, コアグラーゼ型, ファージ型ならびに薬剤感受性について検討を行い, 以下のような成績を得た.
1.対象とした836検体のうち,
S. aureusの分離された例は99検体 (11.8%) であった.
2.
S. aureusの分離頻度と疾患との関係をみると, 妊娠に関連した検査材料では, 妊娠初期と出産後1ヵ月以降に比して, 妊娠中期から後期にかけては菌の検出率が低下する傾向がみられた.また, 膣炎等の炎症のみられた症例や子宮筋腫, 子宮癌, 子宮脱等の症例においては, 他の疾患に比べて菌の検出率が有意に高いという成績であった.
3.収集された
S. aureus 99株のうち, Toxic shock syndrome toxin-1 (TSST-1) を産生する株はわずか2株 (2.0%) 見出されたに過ぎず, 1株はコアグラーゼIV型でファージ型I群菌, 他の1株はコアグラーゼIII型でファージ型III群菌であった.
4.主要抗生物質の10薬剤に対する感受性測定成績では, Penicillin Gに対してのみ約70%の割合で耐性菌が認められたのみで, 他の薬剤に対しては, 耐性菌はほとんど見出されなかった.
5.本邦では月経期間中におけるタンポンの使用頻度が少ないことと併せて考えると, TSST-1産生菌が何等かの理由で増加するということがない限り, 本邦でのTSS発症例は少ないであろうということを言及した.
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