雪氷
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63 巻 , 2 号
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  • 中尾 正義
    2001 年 63 巻 2 号 p. 139-146
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    ネパール・ヒマラヤの氷河を主たる対象として,1994年から2000年にかけて実施してきた「ヒマラヤにおける雪氷圏学術調査」について,計画立案の背景と構想,得られた成果の概要などを簡単に報告する.ヒマラヤでは,最近20年あまりの間に世界でもトップクラスの勢いで氷河が急速に衰退してきている.この急激な衰退は,従来から詳しく調べられてきた氷河表面にデブリを持たない比較的規模の小さな氷河に限らず,デブリに覆われた大型氷河についても当てはまる.しかしその衰退が,1970年代に始まるいわゆる地球温暖化のためであるとは明言できない.今後,気候が温暖化しなくとも,氷河の衰退は継続するものと予想される.
  • 渡辺 興亜, 上田 豊
    2001 年 63 巻 2 号 p. 147-157
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    ヒマラヤの氷河の日本人研究者グループによる調査の歴史を,その初期の1960年代から振り返り,1980年代半ばまでについて物語風に述べる.ネパール・ヒマラヤの登山隊に参加しての調査に始まり,個別に行われた観測,比較氷河研究会の発足などを経て,現地通年観測所の開設と文部省科学研究費などによるネパールとの共同研究(GEN)によって本格的な調査が続けられた.特定テーマを持った集中観測,氷河掘削など,また天山・崑崙の観測への展開についても述べ,残された宿題にも触れる.
  • 朝日 克彦
    2001 年 63 巻 2 号 p. 159-169
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    ランタン・ヒマール以東のネパール・ヒマラヤ東部を対象に,氷河分布図を含む氷河目録を作成した.1992年撮影の垂直撮り空中写真を実体視判読することによって,詳細な氷河分布を最新の5万分の1地形図上に描出した.分布図によれば,ネパール・ヒマラヤ東部には1024の氷河が存在し,そのうちの153(15%)が岩屑被覆氷河であった.氷河の総面積は,1597km2に及び,岩屑に覆われた範囲はそのうちの261km2で,全体の16%を占めている.1992年現在のこの氷河分布図と,1958年撮影の空中写真により作成された地形図とを比較し,最近34年間の個々の氷河の末端変動を明らかにした.合理的なデータのみを取り上げ,全体の約半数の氷河について検討した.その結果,57%の氷河が最近34年間で後退していた一方で,35%の氷河が停滞,9%の氷河が前進していた.したがってネパール・ヒマラヤ東部の氷河は,全体には後退傾向が顕著なものの,全ての氷河が後退している訳ではない.後退・停滞・前進の変動種別ごとの出現の割合には地域差があり,クラスター分析によって16に細分した山群・流域は氷河変動の傾向をもとに三つの地域類型に区分できる.地域差が生じる要因やより広い範囲での傾向については,さらに詳細な検討が求められる.
  • 藤田 耕史
    2001 年 63 巻 2 号 p. 171-179
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    古くから研究が行われている欧米の氷河は冬期の降水によってその質量を得て(涵養されて)いるのに対し,アジア高山域の氷河は夏期の降水によって涵養されている.このため,降水による涵養と融解による消耗が同時期に生じ,質量収支の様相が欧米の氷河と異なると考えられていたが,降水の集中する時期の違いが氷河の質量収支に与える具体的な影響についてはよくわかっていなかった.しかしながら1970年代以降のヒマラヤ・チベットにおける観測・解析・モデル研究によって,1.融解期の降雪が日射に対する反射率(アルベド)を高く維持し氷河の融解を抑制していること,2.その一方で気温上昇に対しては,降水が雪として降らなくなることによるアルベドの低下によって,冬期に降水が集中する氷河よりもより多くの融解がおこること,が明らかにされてきた.本稿では,夏期に降水が集中する気候が氷河の質量収支に与える影響について,これまでの研究を概説する.
  • 竹内 望
    2001 年 63 巻 2 号 p. 181-189
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    本総説では,今までに明らかになったヒマラヤの氷河に生息する雪氷生物の生態を紹介し,微生物による雪氷面アルベド低下効果と,微生物を使ったアイスコア分析について解説する.雪氷生物とは,氷河や雪渓などの雪氷圏に生息する低温環境に適応した特殊な生物のことをいう.ヒマラヤ氷河には,雪氷藻類と呼ばれる植物が繁殖し,その生産に支えられた動物やバクテリアが生息しており,これらの生物で構成される単純で閉鎖的な生態系が存在している.雪氷生物は,氷河の環境に適応した特有のバイオマスや群集構造の分布,また行動や生活史をもっている.ヒマラヤに多く分布する岩屑に表面を覆われたデブリカバー氷河では,氷河上湖や氷体内水系を生息場所とした生物群集が存在する.雪氷生物は,地球物理学にも重要な面があることが明らかになってきた.雪氷生物の繁殖は氷河表面のアルベド(日射光の反射率)を低下させて融解を加速し氷河変動にも影響を及ぼすこと,アイスコアに含まれる雪氷微生物の分析が新たな過去環境の指標になる可能性があることがわかってきた.
  • 坂井 亜規子
    2001 年 63 巻 2 号 p. 191-200
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    岩屑に覆われた永河の融解過程は複雑で観測が困難なためこれまで詳細な研究が少なかった.当初の研究は岩屑に覆われた部分に重点がおかれ,均一な厚さの岩屑に覆われた氷雪の融解についての実験的研究が多くの研究者によって行われてきた.実際の氷河では岩屑の粒径,組成,厚さなどの分布を広い面にわたって把握することが困難であった.そこで近年発達した衛星画像で得られた表面温度分布から消耗域全体の融解量を推定するモデルが開発された.このモデルにより推定された値は実際の岩屑に覆われた氷河の融解量よりも大きくなった.この原因は岩屑氷河の池や氷壁の部分で大きな熱の吸収が氷河の融解を促進させていることが一因と考えられる.
  • 上野 健一
    2001 年 63 巻 2 号 p. 201-205
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    ネパールヒマラヤ及びチベット高原における近年の気候変化の実態を解説し,ヒマラヤでの気象観測の現状を紹介した.Shrestha et al.(1999), Liu and Chen(2000)らの研究によれば,同地域の地上気温には明らかに昇温傾向がみとめられ,特に高所・寒侯期ほど顕著である.一方,降水量の長期傾向は明らかではなく,大きな年々変動が存在する.1990年代以降にヒマラヤにおける自動気象観測が多数実施されるようになり,山岳気象の年々変動の様相が明らかにされつつある.
  • 内藤 望
    2001 年 63 巻 2 号 p. 207-221
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    近年ネパール・ヒマラヤにおいて顕著な氷河縮小が数多く観測されている.特に小型氷河の縮小速度は1990年代に入って加速していると考えられる.また岩屑に覆われた大型氷河についても,従来考えられていたよりも激しく縮小していることが実測されるに至った.このような現地観測例が蓄積された一方で,ネパール・ヒマラヤの氷河の特徴を反映した氷河変動モデルの開発と数値実験も徐々に充実しつつある.これら現地観測および数値実験による,1970年代以降の約30年間のネパール・ヒマラヤにおける氷河縮小に関する,最新の研究成果について紹介,解説する.
  • 山田 知充
    2001 年 63 巻 2 号 p. 223-234
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    モレーンで堰き止められた氷河湖の置かれている気象・水文環境と急激な拡大をもたらす熱環境について,ネパール東部のツォーロルパ氷河湖を例に述べる.
    湖は11月中頃から4月末の5.5ヶ月間結氷している.湖の吸熱期は5月から冷たい融解水が多量に流入し始める6月中旬までの1ヶ月半に限られる.夏期,湖の集水域の融解水と雨水は,全て一旦氷河内部の水系に取り込まれ,湖水中に開いた氷河の開口部から,多量の浮遊粒子を含む0℃の水となって湖に流入し,エンドモレーンを超えて流出している.高濁低温の流入水・湖面での熱収支・定常的に吹く谷風が,湖の温度構造・浮遊粒子濃度分布・湖水の運動を決めている.湖水のみかけ密度は水温よりも深さと共に増加する浮遊粒子濃度に依存している.湖は年間を通して安定成層状態を保っているので,全層に亘る循環を起こす時期はない.
    湖は誕生以来42年間に,長さ3.2km,平均深さ55mへと急成長した.拡大は,夏期に限られる氷河末端氷崖の湖への崩落による長さ方向と,年間を通してほぼ一定速度で起こっている湖底に融け残っている氷河氷の融解による深さ方向との2方向に生じている.熱収支解析から,急激な拡大が起こるに充分な熱環境にあることが検証された.
  • 菊地 勝弘, 長石 唯人, 遊馬 芳雄, 上田 博, 金村 直俊, 藤井 雅晴
    2001 年 63 巻 2 号 p. 239-251
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    札幌市を含む石狩平野は,冬期季節風及び季節風末期時に,しばしば局地的大雪に見舞われることで知られている.一度,局地的大雪に見舞われると,各交通機関は麻痺状態になり,社会生活に与えるダメージはすこぶる大きい.そのため,局地的大雪の降雪域,降雪量,降雪時間を含む,正確な短時間予測の確立が要求されている.
    この研究では,その目的のために構築された,札幌総合情報センターのX-バンドレーダーとマルチセンサーネットワーク(SNET)のデータを用いて,石狩平野の異常降雪域の把握及び地上付近で6cmh-1以上の降雪強度を記録した時の解析を行った.
    その結果,2シーズンにわたって異常降雪域が平野内のほぼ限定された同じ狭い地域に限られていることが明らかになった.また,4仰角のエコー強度の鉛直分布の時間変化から,10分間程度の短時間に,僅か数km2の狭い範囲で,比較的静穏な条件下で異常降雪が出現する時,地上僅か200~400m上空で,急激にエコー強度が増加していることが明らかになった.これは,石狩湾上からの北西寄りの一般風と,内陸の丘陵地で放射冷却によって生成された下層の東風成分を持った冷気との間に形成された鉛直及び水平シアーによって,降雪粒子の急激な雪片化が促進されたものと推測された.この異常降雪が,大雪片によるとする考え方は,地上での目視観測結果及び雪片の落下速度とエコー強度の時間的な対応によっても妥当なものと考えられる.
  • 戸山 陽子, 西尾 文彦, 長谷川 順子
    2001 年 63 巻 2 号 p. 253-264
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    海氷の直流電気伝導機構は,ブラインが海氷の結晶粒界に存在しているため,プロトン伝導よりもブライン伝導が大きく寄与する.ECMを用いた海氷の塩分量測定を試みた.北海道東部のサロマ湖の海氷で測定したECMの結果では,海氷の温度が-5.0℃以上の場合,ECM電流は海氷の塩分量の関数となり,海氷め塩分量を測定できる.ECM電流i (μA)と海氷の塩分量S(‰)の関係はS=Aib+Cとなる経験式を得た.一方,海氷が-5.0℃以下の場合,ECM電流は海氷の結晶構造に依存した伝導特性を表わす.この現象を明らかにするため,単結晶の人工海氷を作成し,直流電気伝導度の温度特性曲線を作成した.海氷のブライン内で起こる固体塩の析出温度-23.0℃,-44.0℃,-54.0℃で直流電気伝導度の温度特性曲線に変曲点が確認された.
    ECMは高分解能で連続的に測定できるので,海氷の塩分量を詳細に測定することができる.また海氷の直流電気伝導特性は,ブラインの塩分量測定や,温度によるブラインの相変化を知ることに役立つことが期待される.
  • 多田 良平, 盛 〓, 福田 正己
    2001 年 63 巻 2 号 p. 265-271
    発行日: 2001/03/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    海底堆積物や永久凍土中に存在するメタンハイドレートの含有量と弾性波速度の関係を求めるための基礎実験として,ガラスビーズを海底堆積物,氷をメタンハイドレートに模した多孔質媒質を用いて弾性波速度測定を実施した.弾性波速度の温度変化は,粒径数ミクロンのガラスパウダーや粘土・シルトが主たる研究対象であり,堆積物を模すような大きな粒径の多孔質媒質ではあまり成果が得られていない.今回,0.05~0.2mm粒径のガラスビーズに対し,シングアラウンド超音波法を用いて縦波のみならず横波の速度測定を実施した.その結果,ガラスパウダーや粘土と同様な弾性波速度の温度依存性が確認された.
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