京都大学では,2017年から土井隆雄特定教授を中心に宇宙木材研究が進められている。この研究は,宇宙での恒久的な社会形成を目指す有人宇宙学の一環であり,宇宙での資材調達の問題を解決するため,木材の利用を検討している。木材は環境面や精神面での恩恵が大きく,宇宙での樹木育成が可能ならば,恒久的な社会形成に貢献できると考えられている。研究では,低圧環境や微小重力環境での樹木の成長や,真空環境での木材の物性変化を調査している。2022年には国際宇宙ステーションで木材の宇宙曝露試験を実施した。さらに,住友林業と共同で木造人工衛星「LignoSat」の開発も進められており,2024年10月に打ち上げの予定である。
LignoSatは,アルミニウムやチタンの代わりに木材を使用する人工衛星で,軽くて強い特性を持つ木材の利点を活かしている。木材は真空環境での生物劣化や可燃性の問題がなく,人工衛星の材料として適している。地球低軌道では,役目を終えた人工衛星が大気圏に再突入する際に木材が燃焼し,エアロゾルになりにくいという利点もある。LignoSatの設計では,九州工業大学のサポートを受け,実績のあるBIRDS衛星のシステムをベースにしている。ミッションには,木造構体内部のひずみ測定,温度センサーによる多点温度計測,地磁気センサーによる地磁気測定,単一周波数の双方向通信,ソフトエラー(SEU)観測が含まれる。これらのミッションのいくつかは電子回路の開発が必要であり,特にひずみ測定には専用回路の設計と電子基板の作製が求められた。木材は再生産可能な循環型資源であり,軽くて強く,歴史的にも飛翔体の材料として有用である。今回の活動を通じて,木質業界でも宇宙開発という新しい分野に注目が集まることが期待されている。
植物資源は化石資源の代替資源として不可欠な資源となりうる。リグノセルロース資源はその中でも草本系・木質系として多様な形態で得ることができるものである。地域別に異なる植物資源を組み合わせることで,化石資源を削減するために必要な原料を得られる可能性がある。このような可能性をもつリグノセルロース資源については,各種変換技術が研究・実証段階から実用化へ開発が進められている中,適切なライフサイクル思考による評価が不可欠である。本稿では,リグノセルロース資源の活用に関して必要となるライフサイクル思考の要件を議論する。将来の資源・エネルギー構造を先制的に解析しながらシナリオを計画し,リグノセルロース資源のライフサイクルおよびマテリアルフローを把握しなければならない。特に,製紙工場はリグノセルロース資源をマテリアル,ケミカル,エネルギーとして利用してきたプロセスシステムを有しており,地域の再生可能資源を集約するハブとして今後の価値の増加が期待される。
近年の急速なデジタル化により,記録・伝達処理も紙媒体から電子機器に移行している。しかしながら,現在でも契約書や履歴書などの公式文書では紙媒体が多く使用されている。公式文書など重要文書では,筆記の際,主にボールペンが用いられるが,ボールペンで一旦記述した文字は,修正したい時に消しゴムで消去することができない。ボールペンの消去法はいくつか存在するが,いずれも常時消去できることから公式文書には適用できない。
そこで筆者らの研究により,ボールペンで筆記したインキ(文字)を一定時間内は消しゴムで消去でき,所定時間経過後は消去できなくなるタイマー機能を有する機能紙を開発することができた。
昨今,持続可能な社会の実現に向けて木質資源活用の機運が高まっている。中でも,セルロースナノファイバー(CNF)はその優れた特性から特に注目されている。CNFはゴム材料や熱可塑性樹脂材料との複合化による利用が検討されているが,一部の材料との混合では元来の物性が低下することがある。例えば,透明性と耐衝撃性に優れたポリカーボネート樹脂(PC樹脂)との溶融混錬では,PC樹脂の光学特性が失われることがある。これは,溶融混錬時に生じるCNFの熱劣化や分散不良が原因である。
王子ホールディングスでは,リン酸化CNFを用いた高透明CNFシートの製造技術を確立しており,このシートは機械物性や寸法安定性にも優れている。我々はCNFシートをPC樹脂に積層することで,PC樹脂の光学特性を維持しつつ,機械物性に優れた複合材(CNF-PC複合材)を成型できることを見出した。
本報では,CNFシートやPC樹脂の厚みを変えて複数種類のCNF-PC複合材を作成し,各種物性を測定した。光学物性に関しては,全てのCNF-PC複合材が全光線透過率80%以上,ヘーズ値2.0%以下であり,PC樹脂の高い透明性を維持した。さらに,機械物性に関しては通常のPC樹脂に比べて高い物性を示し,CNFシートの厚みが大きいほど補強効果が顕著であった。この結果は,薄いPC樹脂でもCNFシートで補強することで剛性を担保でき,PC樹脂製部材の軽量化に寄与する可能性を示している。また,CNF-PC複合材の熱曲げ加工を実施したところ,様々な曲率半径で賦形可能であることが分かった。これにより,曲率形状に賦形された部材へのCNF-PC複合材の適用可能性が示唆された。CNF-PC複合材は,持続可能な素材の利用と既存樹脂製部材の軽量化を両立する可能性を秘めている。
近年ではカーボンニュートラルな素材への注目が高まっており,その一つとして木質由来のバイオマス原料であるセルロースが挙げられる。セルロースはこれまでも紙やパルプの原料として活用されてきたが,新たな展開先のひとつとしてセルロースナノファイバー(CNF)が期待されている。CNFは食品や化粧品,複合化樹脂など,様々な用途での活用が進んできた一方で,特殊な製造設備が必要であること,製造箇所が限られること,低濃度の水分散体として得られるため輸送コストが高いこと,といった課題がある。そこでCNFよりは粗い繊維ではあるが,使用現場にて汎用・簡易な設備で製造できるミクロフィブリルセルロース(MFC)の開発に取り組んだ。
当社ではMFCを使用現場に設置可能なノズル型・ディスク型製造装置に加え,汎用的な装置である高圧洗浄機でも製造できることを見出している。得られたMFCの利用用途として①地面に撒くことによる雑草抑制効果②凍結防止剤への液だれ防止機能の付与③ゴムへの添加による強度向上に関する検討を行い,効果を明らかにした。本稿では,これらのMFCの製造方法と用途開発事例について紹介する。
今後もカーボンニュートラルな素材であるMFCを有効利用できる事例を増やし,持続可能な社会へ貢献していきたい。
紙はリサイクル可能な素材であるが,リサイクルを繰り返すと強度が低下する傾向にある。そのため,紙の強度低下を補強する薬品として乾燥紙力増強剤が広く使用されている。当社では乾燥紙力増強剤(ポリストロンシリーズ)として主にカチオン性基とアニオン性基を有する両性ポリアクリルアミド(両性PAM)系紙力増強剤を製造,販売している。
近年,持続可能な社会の実現に向けてバイオマス素材の活用,ライフサイクルでのCO2の削減に注目が集まっている。ポリストロン(以下PS-と表記)製品の多くは濃度15%~20%の水溶液の設計となっており,高濃度化によって輸送頻度を削減することが出来れば輸送燃料由来のCO2が削減可能であると考え,高濃度化の検討を実施した。製品粘度を変えずに高濃度化した場合,ポリマーサイズが小さくなるためパルプ凝集性が低下する問題があった。検討の結果,両性PAMに特定のバイオマス素材を配合することでその問題が解決されることを見出し,従来品対比で製品濃度を高め,かつ性能を維持したPS-4000,PS-4100を開発することに成功した。各製品のCO2排出量を試算した結果より,PS-4000,PS-4100は従来品対比でライフサイクルでのCO2が低減すると見込まれる。本稿ではPS-4000,PS-4100について紹介する。
今日では高い古紙再利用率によって古紙パルプの微細化や強度低下がもたらされている。また古紙原料由来の填料や澱粉などが抄紙系内に蓄積され,抄紙工程において様々なトラブルの原因となっている。さらに近年の「脱炭素・CO2削減」ニーズの高まりによって,紙製造時のエネルギー削減も課題となっている。
このような背景から当社は内添薬品や微細繊維,填料などの歩留り向上や系内の清澄化,搾水性向上による蒸気原単位削減の可能な新規抄紙工程改善剤PMシリーズを開発,上市した。
抄紙工程改善剤PMシリーズはPAM系紙力増強剤と比較して,カチオン性基を増量,過度な凝集を起こさないイオンバランス・分子量の調整がされている。PMシリーズの適用によって硫酸バンド使用量削減,サイズ剤など各種内添薬品の定着向上,微細繊維,古紙由来の灰分歩留りを向上することが可能となる。
実機においても紙質を維持しながらバンドや各種内添薬品の原単位低下,系内の清澄化,抄速の向上や乾燥負荷の低減が確認された。
Accurate measurements of the surface free energy (SFE) are essential for determining the interfacial properties of materials, including the adsorption characteristics of solid particles at the water/oil interface in emulsions. The SFE of cellulose nanofibers (CNFs), which are nanomaterials derived from wood resources, has thus far been evaluated by inverse gas chromatography (IGC), and the emulsifying capacity of CNFs is effectively explained by the desorption energy calculated from the SFE. However, IGC suffers from a long measurement time and complicated analysis. Among the various methods proposed for measuring the SFE, contact angle measurements have the advantage of simplicity in both measurement and analysis. Here, the SFE of CNFs was evaluated by contact angle measurements. Two types of CNFs with different surface structures were prepared through ion exchange of surface-carboxylated CNFs: one with sodium and the other with tetrabutylammonium ions. The contact angle measurements were performed on the CNF films using a combination of three different probe liquids, and the SFE of the CNFs was determined based on the van Oss‒Chaudhury‒Good theory. However, a substantial decrease in the electron‒donor component of SFE was observed through the ion exchange from sodium to tetrabutylammonium; this result was inconsistent with previous reports. Furthermore, the calculated desorption energies of the CNFs could not explain the emulsification behavior in the experimental system. These discrepancies were attributed to the swelling of the CNF films against the probe liquid. This study showed the limitations of contact angle measurements for accurate SFE determination of CNFs.
表面自由エネルギー(SFE)の正確な測定は,材料の界面特性を決定するために不可欠である。既報では,逆相ガスクロマトグラフィー(IGC)を用いることで,木材由来のナノ材料であるセルロースナノファイバー(CNF)のSFEを精密に決定することに成功した。さらに,得られたSEFを用いて,CNFのエマルション中の水/油界面における吸着特性を理論的に予想したところ,予想されたCNFの乳化能は,実際の乳化挙動と一致していた。しかし,IGCは測定時間が長く,分析が煩雑であるという欠点があり,代替手法が求められている。SFEの測定には様々な方法が提案されているが,なかでも接触角測定は,測定と解析の両方における簡便さを特徴としている。本研究では,接触角測定によりCNFのSFEを評価し,その精度を検証することで,接触角測定によるIGCの代替可能性を検討した。表面にカルボキシ基を導入したCNFに対し,異なる対イオン(ナトリウムおよびテトラブチルアンモニウムイオン)を導入し,表面構造の異なる2種類のCNFを調製した。これらから調製したCNFフィルムに対し,3種類の溶媒を用いて接触角測定を行い,その結果からCNFのSFEを決定した。結果として,ナトリウムからテトラブチルアンモニウムへのイオン交換により,SFEの電子供与性成分の大幅な減少が観察された。この結果は,IGCによる測定結果および実物性から予想される変化と矛盾していた。この原因は,プローブ溶媒に対するCNFフィルムの膨潤であると考えられる。一連の実験によって,接触角測定を用いたCNFの正確なSFE測定は困難であると結論付けられた。