地球温暖化対策の具体的な活動が各国に求められている。日本政府は「2030年までに2013年度比で温室効果ガスの排出量46%削減を目指す」という方針を出している。企業に対してもCO2削減努力を強く期待しており,地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けて取り組んできた。
リンテックグループでは,長期ビジョン「LSV 2030」の重点テーマの一つに「社会的課題の解決」を掲げ,環境への取り組みを全社一丸となって進めている。「2050年までにカーボンニュートラルを実現」を目指したCO2排出量削減対策に取り組んでいる。
熊谷工場ではCO2排出量削減の取り組みの一つとしてクリーンルーム空調の戻り冷水から廃熱を回収し,乾燥設備の予熱を行う水熱利用装置の導入や1,900 kW級コージェネレーションシステム(以下CGS)の導入,ボイラーの最適運転を実践してきた。
1,900 kW級CGSの導入において,廃熱を蒸気発生として直接利用でき総合効率が高く,省エネ省CO2効果が優れているガスタービンCGSを採用した。また,エネルギーサービス契約を活用することで初期投資をゼロにすることができ,運用面では定期整備や故障対応も円滑な体制が取れている。
ボイラーの最適運転においては,捨てられる紙屑由来の固形燃料を使っている焼却炉ボイラーを高負荷で運転させることで貫流ボイラーの燃料削減といった省エネに繋がった。2023年1月には超高効率貫流ボイラーを導入し優先稼働させることでさらに燃料の削減ができた。
本稿では,水熱利用装置とエネルギーサービス契約によるガスタービンCGS導入効果及びボイラーの最適運転による省エネ・省CO2事例を紹介する。
中国/江門星輝造紙有限公司では工場コスト改善や国の施策への対応もあり,省エネルギーは継続的に取り組んできた重要なテーマである。当工場ではワイヤー・プレス真空脱水用として水封式真空ポンプを9台使用していたが,これらを効率が優れるリニア式タービン真空ポンプ4台に集約することで,748 kWの電力削減を達成することができた。
リニア式タービン真空ポンプの特徴として,磁気軸受を採用し非接触で軸を支持するため,回転時の抵抗(損失)が非常に小さく,高速回転が可能である。電動機は回転子に永久磁石を採用し,ベクトル制御インバーター駆動とすることで,最大効率は97%以上を達成している。また,ポンプのインペラーは三次元流体解析による高効率設計がなされており,さらに電動機と直結されることにより増速機が不要で高速回転が可能となり,伝達効率も高くなっている。
真空ポンプ・電動機共に非常にコンパクトであり,増速機や潤滑ユニットが不要で,汽水分離器を含めても装置全体のスペースユーティリティに優れるため,既存設備への導入が容易である。また,軸受の定期交換や日常の油脂管理が不要で,メンテナンスの省力化が期待できる。中国では採用実績が着実に伸びてきており,装置の省エネルギー性と信頼性への裏付けと考える。
産業分野では,利便性の高い動力源として圧縮空気が幅広く使用されている。
その圧縮空気を生み出すものがコンプレッサー設備であるが,CO2排出量削減や電気料金高騰において,運用するユーザーのニーズや悩みは多岐にわたる。
圧縮空気使用量のトレンドは常に変動し,適正な機種や台数での運用が出来ずに原単位(単位空気量当たりの消費電力)が悪化する時間帯があるケースが非常に多い。このことからコンプレッサー設備は,どのようなトレンド状況でも原単位が悪化しない(変わらない)設備が「究極の省エネ設備」であり理想的である。
ただし刻々と変化する圧縮空気使用量トレンドに対して1日中または年間を通して同じような原単位で運用することは現実的に不可能であるが,「究極の省エネ設備」に近づけることは可能である。
まずトレンド解析によりコンプレッサーの稼働状況を知り,コンプレッサーの特性を活かして運用できているかの確認が重要なポイントであるが,台数制御,配管設備,エア漏れ,メンテナンス状況などを調査する広い視野での計画を推奨。そこには改善のヒントが必ず隠れている。
王子グループでは,2020年9月に2030年度を目標達成年度とする「環境行動計画2030」と,30年後の長期ビジョンである「環境ビジョン2050」を策定した。
東海工場においても,目標達成に向けエネルギー消費原単位を5年間平均で年1%以上削減することを目標にエネルギー効率の向上に取り組んでいるが,近年は省エネルギー効果が大きい案件の発掘には至らず,細かな案件を多数実施する活動が続いていた。
その中でモーター効率改善による省エネルギーを検討,製造ラインに清水を供給しているポンプのモーター(AC 220 V 30 kW)1台を永久磁石型同期モーター(PMモーター)に置き換えた場合の試算を行った結果,一定の投資効果が見込める事からPMモーター採用を決定した。併せて,PMモーター置き換えによるインバーター駆動に伴い,従来のポンプ出口バルブ開度80%固定運転から,運転周波数調整を行い,さらなる省エネルギーを図ることとした。
PMモーター置き換え前の試算では2.2 kWの削減効果を見込んでいたが,置き換え後の結果では2.9 kW下がり,また,運転周波数調整では4.0 kWの削減効果の見込に対し,結果は5.3 kWの省エネルギー効果が確認でき,どちらも見込みを上回る結果となった。
本事例ではPMモーター置き換えによる効率向上分に加え,従来の誘導モーター効率が見込みよりも低かったため,実際はさらに軸動力が下がり,全体として見込みの効果を上回ったと考察する。
今回の結果により,現在,同様の清水給水ポンプを3台追加でPMモーターに置き換える計画を進めている。今後は高効率ポンプ導入の検討も行い,更なる省エネルギー活動に努めていきたい。
現在世界中でカーボンニュートラルの取り組みが積極的に行われており,当工場でも省エネ活動については長年に亘り取り組んでいる。時代の流れは品質要望にも表れ,抄紙工程の操業にも変化が求められている。 長年当たり前となっていた操業形態については,固定概念にとらわれず品質面を重視しながら省エネの検証を行った。検証項目は,カンバスドライヤーの蒸気を止めバイパスした事例,クーチルーツ及び1次クリーナーナッシュポンプを停止した事例により省電力及び省蒸気を達成している。また省エネに寄与する抄紙用具を進取果敢に取り入れ,ワイヤーによる駆動負荷低減を図った結果,省電力を達成している。
本稿では当工場の抄紙工程で実施してきた省エネ事例を紹介する。
① プレドライヤーの6本のカンバスドライヤーの蒸気を止め,カンバスランをバイパスすることで電力30.0 kW及び蒸気12,966 t/年の削減となった。
② ワイヤー・プレスパートの真空系統を連結することによりクーチルーツを停止することで電力88.8 kWの削減となった。
③ 他抄紙機での実績を活かし,1次クリーナーナッシュポンプを停止することで電力19.9 kWの削減及び393,120 m3/年の節水となった。
④ 日本フィルコン株式会社製の省エネワイヤーecoシリーズを採用し,ワイヤーパートの駆動負荷低減を図り,電力11.2~14.9 kWの削減となった。他抄紙機においても省エネワイヤーの使用を検討中である。
近年,夏・冬に電力需給がひっ迫して節電要請が出される一方,太陽光発電拡大に伴って春・秋の休日昼間などに出力抑制が行われている。需給を反映して,卸電力市場は0.01~200円/kWhと大幅な価格変動を示している。 このような背景を元に,特種東海製紙㈱三島工場では卸電力市場に参加して,市場価格・電力需給状況に応じた自家発電設備の運転調整を開始した。安値買電・高値売電によるコストダウンを実現するとともに,上げDR(ディマンドリスポンス)・下げDRによる「電気の需要の最適化」を実現している。再エネ拡大に伴って世界的にも課題とされているダックカーブ現象の解消にも貢献する取組みと考えられる。
本取組実施にあたっては,工場のエネルギーシステムをモデル化した数理最適化モデルを活用している。このモデルを,検討時の効果計算や,日々の運用における30分ごと運転判断において使用している。自家発電設備の部分負荷特性,起動停止コスト,コージェネレーションシステムなどの特性をすべて考慮して,30分毎の運転を判断することは非常に煩雑であるが,本モデルを組み込んだエクセルファイルを動力オペレータへ提供することで,土日夜間も含めて,適切な運転判断を可能としている。
また,市場の異常高騰に対するリスク対応も非常に重要であり,当社では電力先物,相対契約,および保険を組み合わせて対応している。
その他,生産設備でのDR取組みや,他工場で本取組みを実現可能とするプラットフォーム・システムの開発についても紹介する。
2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けてCO2削減への取り組みが加速しているが,国内の製紙業界のライムキルンの燃料としてはC重油などが使用されており,これらの燃料は天然ガスと比較し,熱量当たりのCO2排出量は多いもののコストは低く,単純な天然ガス化は厳しい状況であった。
当社では,ライムキルンにおいて,これまで進めてきた省エネ技術,液体燃料から天然ガスへの燃料転換などの既存技術をさらに深化させ,独自のガスアトマイズ燃焼技術やガス専焼技術により天然ガス転換を推進し,エネルギー原単位の改善とCO2排出量削減に取り組んでいる。
ガスアトマイズ燃焼技術は,重油と天然ガスの混焼技術であり,既存のバーナを流用した燃料転換が可能である。当社ではお客さまのキルンごとに火炎形状を最適化することで,焼成率向上,低NOx化やコーチングを抑制することに成功した。当社のガスアトマイズ燃焼技術は2工場4キルンでご採用いただいており,重油燃焼に比べ約20%のCO2削減に貢献している。
ガス専焼技術に関しては,輝炎を形成するガスバーナを新たに開発し,オイルガンを交換することに加え,既存バーナの近傍に補助バーナを追加し,メインバーナと補助バーナの燃焼量比率やガス噴出流速を調整することで火炎形状や温度分布を最適化することが可能となった。2023年中にはお客さま先での実炉テストを行い,導入を進めていく予定である。ガスアトマイズ燃焼技術の展開およびガス専焼技術の導入による天然ガス転換推進で着実な低炭素化を進めるとともに,将来的には天然ガスで稼働するライムキルンに対してメタネーション技術により天然ガスをe-methaneへ転換し,2050年のカーボンニュートラル社会の実現に貢献していきたい。
紙パルプ工場では,近年の原材料価格変動や燃料高騰など様々な要因から,生産効率の向上や省エネルギーに対する要望が増し続けている。
ここで,蒸解工程は,チップから紙の原料となるパルプを製造する工程であり,同時にエネルギーとなる希黒液を生み出す工程のため,安定操業,生産性維持は非常に重要な工程である。
また,エバポレータは,エネルギーとなる黒液を濃縮する工程であり,安定した操業は省エネルギー,コストダウンのために重要な工程である。
これらの工程において,デポジットの付着は,生産性の低下やエネルギー損失の原因となる。デポジットの発生は,原料や蒸解薬品に含まれる成分が,操業の条件において発生するため,避けられないものである。
その対策として,水処理薬品を用いた対策としては,洗浄剤を用いて洗浄し,付着防止剤を用いて清浄な状態を維持する事が理想である。
デポジットは,発生する個所により成分や特性が異なるため,適切な水処理薬品を用いて管理する必要がある。 本報では,デポジットに関与する操業改善およびエネルギー損失低減方法として,洗浄剤や付着防止剤の理論および,蒸解釜のトップセパレータに付着したデポジットの洗浄剤処理による改善事例および,エバポレータに付着した有機物の付着防止事剤適用による改善事例を紹介する。