日本気管食道科学会会報
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67 巻, 4 号
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原著
  • ―反回神経麻痺と声帯萎縮による声門閉鎖不全症例に対して―
    三橋 正継, 大久保 啓介, 猪狩 雄一, 角田 真弓
    2016 年 67 巻 4 号 p. 249-255
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
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    当院では一側性声帯麻痺や声帯萎縮による声門閉鎖不全に対する声帯内方移動術としてリン酸カルシウム骨ペースト (BIOPEX-R) を用いた声帯内注入術 (声帯内BIOPEX注入術) を行っている。今回,当院で本術式を行った症例の術前後における誤嚥の自覚症状および多角的所見について検討した。2004年5月から2015年7月の11年3カ月間に当科で声帯内BIOPEX注入術を施行した一側性声帯麻痺および声帯萎縮症例は97名のべ112例であった。声門閉鎖不全以外に明らかに誤嚥をきたす病態があると考えられた22例を除外し,79名90例を対象とした。誤嚥の自覚症状については,飲水のむせの頻度を5段階に分類する「むせの頻度スケール (five-point Choking Frequency Scale) 」を作成して評価した。他覚的所見については,嚥下造影検査 (VF) の動画記録から8 point scaleを用いて評価した。術前に飲水のむせの自覚症状があった症例は90例中57例であった。そのうち,術後にむせの頻度スケールが改善したことを確認できた症例は57例中49例 (86%) であった。術前後ともVFを施行した症例は12例で,術前VFの結果誤嚥を認めた10例は,術後に全例誤嚥消失を確認した。声帯内方移動術は反回神経麻痺による声門閉鎖不全の誤嚥に対する外科的治療として有用である。

  • 冨藤 雅之, 荒木 幸仁, 鈴木 洋, 宮川 義弘, 田中 伸吾, 田中 雄也, 塩谷 彰浩
    2016 年 67 巻 4 号 p. 256-263
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
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    喉頭壊死は放射線治療,化学放射線治療などの後に発生しうる重篤な合併症として知られている。当院における2006年から2015年までの9年間においての喉頭壊死症例8例について後方視的な検討を行った。いずれもレーザー手術,経口的切除術を行い,かつ (化学) 放射線治療の既往歴があるか術後の後療法として (化学) 放射線治療を行った症例であった。レーザーあるいは経口的切除術単独および (化学) 放射線治療単独の場合で喉頭壊死をきたした症例はなかった。7例は抗菌薬投与,ステロイド薬投与,高圧酸素療法,デブリドメントなどを行い保存的に治癒したが,喉頭壊死に加えて生検にて腫瘍残存と診断された1例は喉頭全摘術を行った。また,後日再発がみられた2例にも喉頭全摘術を行った。近年咽喉頭癌に対して経口的手術は低侵襲手術として行われることが増えているが,特に放射線治療の既往を有する症例や放射線治療を追加する症例においては喉頭壊死の可能性について留意しながら慎重な経過観察を行う必要がある。また腫瘍再発がなく喉頭壊死のみであれば高気圧酸素治療を含んだ治療の組み合わせを行うことにより喉頭温存を図れる可能性があると考えられた。

  • 岸本 曜, 北村 守正, 楯谷 一郎, 石川 征司, 森田 真美, 鈴木 千晶, 林 智誠, 平野 滋
    2016 年 67 巻 4 号 p. 264-271
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル 認証あり

    2012年に本邦でセツキシマブが頭頸部癌に適応拡大されて以来,進行頭頸部癌に分子標的薬併用放射線療法 (BRT) を施行されることが増えてきた。それに伴い,一次治療としてのBRT後に腫瘍が残存,もしくは再発し,救済手術が必要となる症例もしばしば認められる。BRTでは化学放射線療法 (CRT) に比較し,手術に対する影響が軽度であることが期待されているが,本邦におけるBRT後の救済手術に関する報告は未だ限られており,十分な検討はなされていない。

    われわれはこれまでBRT後の救済手術を3例経験した。①下咽頭癌cT3N0の局所再発に対して咽頭喉頭頸部食道摘出術,右頸部郭清術と遊離空腸による再建を行い,特に問題なく経過している。②中咽頭癌cT3N2bM0の頸部再発に対して左頸部郭清術を行い,一時的に創部のわずかな離開を認めたが問題なく経過している。③声門上癌cT4aN2bの局所再発に対して喉頭摘出術と右頸部郭清術を行うも,術後創傷治癒が遷延し創部感染をきたし,局所皮弁での再建術を要した。この症例では組織の血流は乏しく,重篤な線維化をきたしていた。症例数が少なく今後更なる検討が必要であるが,BRT後の救済手術でもCRT後と同様慎重な対応が必要と考えられた。

  • 藤原 良平, 内野 眞也, 野口 志郎, 速水 康介, 北野 睦三, 寺尾 恭一, 土井 勝美
    2016 年 67 巻 4 号 p. 272-277
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
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    自律性機能性甲状腺結節 (autonomous functioning thyroid nodule : AFTN) は,甲状腺の結節性病変が自律性にホルモンを分泌し甲状腺中毒症を呈する病変である。今回われわれは,2004年から2013年までの間に野口病院でAFTNと診断し手術的加療を行った63例について検討した。手術により甲状腺中毒症は全例是正され,合併症として永続性・一過性反回神経麻痺は認めず,永続性副甲状腺機能低下症を3例 (5%),一過性副甲状腺機能低下症を4例 (6%) に認めた。組織型は,単発性の機能性結節53例のうち31例 (58%) が濾胞腺腫であり,多発性の機能性結節10例のうち5例 (50%) は腺腫様甲状腺腫であった。また,機能性結節そのものが癌であった症例が3例 (5%) あり,機能性結節そのものは良性であったが癌を合併していた症例が15例 (24%) あった。AFTNの治療としては,手術的加療や131I内用療法が主体となるが,このことを十分ふまえた上で治療方法を選択する必要がある。

症例
  • 田村 悦代, 新美 成二, 和田 吉弘, 飯田 政弘
    2016 年 67 巻 4 号 p. 278-282
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
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    妊娠による音声の変化は妊娠性喉頭障害として,分娩後に軽快するのが特徴であるといわれている。今回われわれは,妊娠に伴って話声位が著しく低下し,分娩後も改善しなかった2症例を経験した。症例1 : 33歳。妊娠3カ月ごろより声が低くなったとして受診した。初診時,話声位は127 Hz,声域は118~511 Hzで,明らかな器質的病変は認められなかった。男性ホルモンの検査で,テストステロンは正常範囲であったが,アンドロステロンは正常の約2倍の値を示した。1年後には月経が再開し,話声位は152 Hz,声域は141~555 Hzに変化した。また,アンドロステロンの値も減少し,正常範囲に近い値となった。その後,再度,妊娠・出産をしたが,話声位に変化はなかった。症例2 : 35歳。妊娠6カ月ごろより声が低くなったとして受診した。初診時,話声位は133 Hz,声域は82~606 Hzであった。いずれの症例も,積極的な治療の希望はなく,経過観察中である。声域は,2症例とも30半音程度あり,正常範囲であったが,話声位が低下し声域下限よりに偏移し,発声時に声区変換付近の不安定さがあるなど,ホルモン音声障害による男性化音声と似た症状と考えられた。

  • 岡 愛子, 森 照茂, 牧原 靖一郎
    2016 年 67 巻 4 号 p. 283-288
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル 認証あり

    頭頸部癌において放射線治療の適応は広がってきているが,重大な合併症の一つに喉頭壊死がある。今回,放射線治療後の喉頭壊死2症例を経験した。【症例1】67歳男性。喉頭癌T3N0M0に対してcetuximab併用放射線療法 (70 Gy) を施行。治療終了5カ月後に気道狭窄症状を認め緊急気管切開を行った。画像検査で再発,喉頭壊死の鑑別不能であり喉頭摘出を行った。病理検査では悪性所見を認めなかった。【症例2】79歳男性。盲腸癌,左頸部リンパ節転移に対して化学放射線治療 (66 Gy) を施行。3年8カ月後に左頸部リンパ節が再増大し,気道狭窄症状を認め緊急気管切開を行った。再発頸部リンパ節転移に対して追加照射 (54 Gy) を行い,治療終了1カ月後に嚥下困難,悪臭が出現した。喉頭壊死と診断し,総頸動脈浸潤が疑われたため手術は行わず,高圧酸素治療を行った。悪臭などの症状は一旦消失したものの,1カ月後に原病死した。喉頭の壊死,炎症と癌の残存,再発との鑑別は難しく,治療をかねて喉頭摘出術となるケースが多い。保存的治療として抗生剤,ステロイド,高圧酸素などがあり,全身状態や患者の喉頭温存希望が強い症例では治療選択肢となる。

  • 大戸 弘人, 春日井 滋, 阿久津 征利, 齋藤 善光, 赤澤 吉弘, 肥塚 泉
    2016 年 67 巻 4 号 p. 289-294
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル 認証あり

    経鼻胃管 (以下N-G tube) は日常診療で頻用される医療器材だが,まれに重篤な合併症として,両側声帯の外転麻痺をきたす経鼻胃管症候群がある。今回われわれは経鼻胃管症候群と考えられた2例を経験したため文献的考察を加え報告する。症例1は83歳男性,前医で小腸イレウス加療中に呼吸困難,喘鳴を認めた。両側声帯の外転麻痺を認め,気管切開術を施行した。症例2は51歳女性,進行胃癌に対しN-G tubeを挿入した。その3日後に呼吸苦をきたし,両側声帯の外転麻痺を認めたため気管切開術を施行した。経鼻胃管症候群とは,N-G tube挿入後に咽頭痛,両側声帯の外転麻痺,喉頭浮腫を発症する症候群である。加齢に伴う輪状軟骨の骨化,頸椎前方の高度な骨棘形成,低アルブミン血症などを背景にし,喉頭と咽頭正中に固定されたN-G tubeとの摩擦や,経鼻胃管の輪状後部への持続的な圧迫により,後輪状披裂筋の機能不全が原因とされる。N-G tubeなどが挿入された患者で,遷延する咽頭痛,両側声帯の外転麻痺を認め場合には喉頭ファイバーでの観察が推奨され,抜去可能な管類は早急に抜去すべきと考える。

  • 工藤 健司, 佐藤 浩之, 岩垣 立志, 栃原 敏彦, 太田 正穂, 成宮 孝祐, 山本 雅一
    2016 年 67 巻 4 号 p. 295-302
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル 認証あり

    変位蛇行した下行大動脈に圧排されたことによる食道通過障害,いわゆるdysphagia aorticaの病態が増悪因子と考えられたダビガトラン起因性の重度食道潰瘍を呈した症例につき報告する。症例は81歳女性,心房細動がありダビガトラン220 mg/日を内服開始した。その後よりつかえ感を自覚し,初回検査2013年7月の内視鏡検査にて中部食道に狭窄を伴う易出血性の粘膜不整病変を認めた。上切歯28~32 cmの左壁中心に限局した粘膜粗造病変であり,食道癌を疑われたが生検では食道潰瘍の診断であった。その後,定期観察を重ねたが悪性所見は認めなかった。CT検査では限局した食道壁肥厚と口側食道の拡張を認めた。初回検査から1年9カ月後までに8回の内視鏡検査を施行され,増悪とわずかな軽快を繰り返す所見であった。その後,前医を受診せずダビガトラン内服を数カ月にわたり自己中断し,2年4カ月後に内視鏡検査を施行したところ潰瘍性病変は消失していたためダビガトラン起因性食道潰瘍と考えられた。本症例は,これまでの報告にあるダビガトラン起因性食道潰瘍に比べ明らかに重症であり,その原因にdysphagia aorticaが推測されたが,診断までに長期を要した示唆に富む症例として報告する。

  • 清水 雅子, 松見 文晶, 鶴岡 美果
    2016 年 67 巻 4 号 p. 303-308
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル 認証あり

    甲状舌管嚢胞は前頸部正中に隆起する腫瘤としてみられることが多く,偏在性に存在することは稀である。また発生部位や腫瘤の大きさにより咽頭や喉頭進展を認め気道症状を生じることがある。今回われわれは,気道狭窄を認め気管切開術を要した偏在性甲状舌管嚢胞症例を経験したので報告する。症例は37歳男性。10日前から徐々に増大する右頸部腫脹を主訴に受診。呼吸困難は認めなかった。右顎下部に55×45 mm大,弾性軟,可動性良好な腫瘤を触知した。喉頭内視鏡では喉頭蓋谷右側に喉頭蓋を左側へ圧排する粘膜下の膨隆所見を認め声帯は観察困難であった。CT検査では右舌骨大角に接する境界明瞭,内部均一の占拠性病変を認め,造影MRI検査では胸鎖乳突筋前縁で顎下腺を腹側,内・外頸動脈を背側へ圧排する嚢胞性腫瘤を認め,甲状舌骨間膜から咽頭腔へと進展していた。右側頸嚢胞との診断で,局所麻酔下に気管切開術を施行後,全身麻酔下に嚢胞摘出術を施行した。病理診断は甲状舌管嚢胞であった。術後喉頭浮腫は軽減し,再発はみられず経過良好である。側頸部に発生する嚢胞性疾患においては甲状舌管嚢胞も鑑別のひとつとして念頭に置き,発生部位より気道狭窄を呈する可能性があり注意を要する。

  • 渡邊 毅, 田中 藤信, 金子 賢一, 髙橋 晴雄
    2016 年 67 巻 4 号 p. 309-313
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル 認証あり

    頸部は重要な構造物が集中する部位であるが大きな筋組織や骨性構造に守られていないために外傷の場合には迅速な外科処置を必要とすることがある。鈍的頸部外傷後に急激な気道狭窄をきたし気道確保に難渋した甲状腺断裂による頸部血腫例を報告する。症例は69歳女性。主訴は呼吸困難で,アスピリンを内服していた。自宅で転倒し右頸部を打撲し,徐々に呼吸苦が出現したためにドクターヘリで当院へ救急搬送された。頸部正面X線で気管狭窄を認め,喉頭浮腫が著しく気管挿管を試みるも気管内への抵抗が強く挿管困難で,その後よりマスク換気が困難となり,酸素飽和濃度の急激な低下を認めた。このため緊急で頸部正中を切開したところ深部より血腫の流出を認め,気管への圧迫が解除されマスク換気が可能になり,気管切開はおこなわず経鼻的に挿管することができた。最終的に頸部血腫の原因は甲状腺断裂によるものであると判断され,止血操作をおこなった。抗凝固療法中の頸部外傷では血腫での急激な呼吸困難を念頭に入れ迅速な処置が必要である。特に鈍的頸部外傷後による気道狭窄は無処置であれば致死的になることがあり,3時間以内の迅速な処置が肝要である。また,狭窄した気管に安易に気管切開を施行することはリスクがあり,注意が必要である。この場合は陽圧換気の継続および再度の気管挿管を試みることも有用であると考えられた。

用語解説
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