日本気管食道科学会会報
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74 巻, 4 号
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原著
  • 須田 悟史, 大久保 啓介, 稲木 香苗
    2023 年 74 巻 4 号 p. 275-282
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル 認証あり

    一側性反回神経麻痺による声門閉鎖不全は嗄声や嚥下障害をきたし,生活の質を低下させる。一側性反回神経麻痺に対する外科的治療のひとつに声帯内注入術がある。当科では注入物質としてリン酸カルシウム骨ペースト(Calcium Phosphate Cement,商品名:バイオペックス-R, HOYA Technosurgical,以下CPC)を採用しており,進行癌や廃用によって全身状態が不良で全身麻酔導入困難な症例に対しては局所麻酔下に経皮的声帯内注入術を行っている。今回,当科で施行した局所麻酔下CPC声帯内注入術の治療成績と安全性について後方視的に検討した。対象となった症例は16例であった。音声障害と嚥下障害について,それぞれ最長発声持続時間(MPT)とGRBAS尺度,摂食・嚥下臨床的重症度分類(DSS)とむせの頻度スケールで評価し,いずれも術後に有意な改善を認めた。明らかな術後合併症は見られなかった。局所麻酔下CPC声帯内注入術は低侵襲で安全性が高く,全身状態不良で予後の限られた一側性反回神経麻痺患者の生活の質の改善に寄与すると考えられた。

症例
  • 柊 陽平, 向川 卓志, 岡田 晋一, 後藤 聖也
    2023 年 74 巻 4 号 p. 283-288
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル 認証あり

    喉頭に発生する悪性リンパ腫は比較的稀である。今回われわれは喉頭に発生した悪性リンパ腫の1病型である節外性NK/T細胞性リンパ腫・鼻型(ENKL)の1例を経験した。症例は65歳男性。嗄声,嚥下痛を主訴に近医より紹介となった。喉頭ファイバー検査にて右声門上から右梨状陥凹にかけて腫瘤性病変を認め,組織生検を施行したところNK/T細胞リンパ腫の病理診断となった。画像検査にて喉頭に限局した病変であることからENKL stage IE期と診断した。血液内科,放射線治療科にて化学放射線療法(2/3 DeVIC併用放射線治療)を施行したところ完全奏効が得られ,治療終了2年が経過し無再発生存を維持している。ENKLは正確な診断に難渋し発症から治療介入までに長期間を要する症例も多い。その予後も不良であったが,症例数の蓄積により近年治療法が確立され,徐々に長期生存を維持できる症例が増えてきている。遅滞なく治療介入ができるよう,腫瘤性病変の鑑別としてENKLも念頭に精査を行うことが重要であると考えた。

  • 西野 将司, 小郷 泰一, 中嶌 雄高
    2023 年 74 巻 4 号 p. 289-295
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル 認証あり

    76歳男性。Stage IVの右下葉肺癌につき加療中であった。縦隔リンパ節転移による食道狭窄が出現し通過障害改善目的に内科で食道ステント留置を施行した。留置後より腹痛を訴えたため胸腹部造影CTを撮影したところ,食道ステントが腹腔内に穿破しており同日緊急手術を施行した。食道ステントは腹部食道で腹腔内へと穿破しており小網により被覆されていた。ステントを抜去することは困難であったため穿孔部位からさらに胃壁の小弯側を切り足し,穿破しているステントを直接胃内へと誘導したのち穿孔部位と追加切開した胃壁を縫合閉鎖し小網で被覆した。術後経過は良好であり,術後7日目より経口摂取を開始し問題なく経過。その後リハビリ目的に転院となった。腹部食道の穿孔はまれであり,部位別では胸部食道が70.2%と最も多く頸部食道が15.6%,腹部食道が12.2%とされる。調べうる限り,食道ステントによる,腹部食道の穿孔でステントを抜去することなく手術を施行した症例の報告はなかった。今回われわれは食道ステント留置による医原性の腹部食道の穿孔に対してステントを抜去することなく手術を施行し,良好な結果を得たので若干の文献的考察を含めて報告する。

  • 大槻 周也, 岡上 雄介, 大江 健吾, 高田 晋明, 樽井 彬人, 五百倉 大輔, 児嶋 剛
    2023 年 74 巻 4 号 p. 296-302
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル 認証あり

    誤嚥防止手術は重症の嚥下障害に対して施行される。手術の際は確実に気道と食道を分離した上で,低侵襲で合併症を起こさないことが重要である。当科では2021年より声門下喉頭閉鎖術を施行しており,その成績を報告する。2021年1月から2022年7月までに声門下喉頭閉鎖術を施行した6例を対象とした。嚥下障害に至る原疾患は神経筋疾患が5例,脳梗塞が1例であった。術前に既に気管切開術が施行されている症例が3例であり,他の3例は発声がわずかに可能だが会話は不可能であった。術前の栄養経路は胃瘻栄養が3例であり,2例が経口摂取,1例が中心静脈栄養であった。手術は5例を全身麻酔,1例を局所麻酔で施行した。全例で縫合不全は認めなかった。術後の栄養経路は経口摂取のみの症例が2例,胃瘻を併用し経口摂取している症例が1例,胃瘻・経鼻栄養のみの症例がそれぞれ1例,早期に転院し詳細不明な症例が1例であった。カニューレフリーにできた症例は2例であった。他の4例は人工呼吸器使用のためカニューレを要したが,気管孔のトラブルは認めなかった。全例で縫合不全は認めず,声門下喉頭閉鎖術は有用な術式である。

  • 直井 友樹, 宮本 真, 猪股 浩平, 齋藤 康一郎
    2023 年 74 巻 4 号 p. 303-312
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル 認証あり

    背景と目的:虚血性脳卒中は,高血圧,糖尿病,高脂血症,アルコール,喫煙などにより発症する疾患として広く認識されている。しかし,舌骨が原因となることはほとんど認識されていない。方法:今回われわれは,舌骨の機械的刺激が虚血性脳梗塞の原因となった2症例を経験したので報告する。症例1(69歳,男性)は再発性脳梗塞をきたし,症例2(71歳,男性)は,高血圧と高コレステロール血症の既往があった。2例とも,頸部エコー,CT,CTA,MRI,Angioといった複数の画像検査を組み合わせ,舌骨が頸動脈へ機械的刺激を加えて発症したと考えた。脳神経外科による治療と同時に,耳鼻咽喉科医による舌骨大角と甲状軟骨上角の切除が行われた。以後,新たな脳梗塞の発症は生じていない。結論:舌骨に関連した頸動脈損傷は脳卒中の稀な原因となるが,多くの医師は認識していない。3D-CTAを含めた画像検査は,診断の一助となりうる可能性がある。

  • 蔦 健吾, 鈴木 健介, 阪上 智史, 八木 正夫, 野田 百合, 岩井 大
    2023 年 74 巻 4 号 p. 313-318
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル 認証あり

    脊索腫は胎生期における脊索の遺残組織に由来するまれな悪性腫瘍であり,頭蓋・脊椎に沿ってあらゆる部位に発生する。頭蓋底と仙骨部に多く,胸椎原発の報告例は非常に少ない。今回,われわれは頸部外切開にて切除した極めてまれな胸椎原発脊索腫の1例を経験したので,術中所見,術後治療や合併症などについて文献的考察を加えて報告する。症例は50歳代女性,1カ月前から右頸部腫瘤を自覚し,当科を紹介され受診した。右鎖骨上に可動性不良,弾性硬の腫瘤を触知し,CT/MRIで甲状腺右葉下極から上縦隔まで進展する腫瘍性病変を認めた。穿刺吸引細胞診では唾液腺腫瘍や神経鞘腫が疑われ,頸部外切開にて切除をおこなう方針となった。術中所見では腫瘍は椎前部と連続しており胸椎前面から発生していると考えられた。永久病理では粘液性基質を背景として好酸性胞体を持つ担空胞細胞が索状に増殖し,免疫組織化学染色ではAE1/AE3がびまん性に陽性,EMA, S-100蛋白が部分的に陽性で脊索腫と診断された。切除断端陽性と判定され,術後陽子線治療を施行した。治療後9年経過しているが再発を認めていない。脊索腫では切除と術後陽子線治療の有用性が報告されているが,再発や照射に伴う晩期合併症のリスクがあり,治療後の厳重な経過観察が必要である。

用語解説
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