日本気管食道科学会会報
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75 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 三澤 清, 山田 智史, 竹内 一隆, 森田 浩太朗, 瀧澤 義徳
    2024 年 75 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2024/02/10
    公開日: 2024/02/10
    ジャーナル 認証あり

    原発不明がん症例に対して採血(リキッドバイオプシー)によるctDNA解析を行い,原発部位の特定が可能であるか検討した。リキッドバイオプシーは治療前に,ctDNA抽出用採血管で1本あたり8.5 mlずつ計2本行った。ctDNAをバイサルファイト処理しテンプレートとして使用したメチル化-ctDNA解析で,頸部リンパ節腫大病変のp16免疫染色が陽性であった症例に,3遺伝子(CALML5DNAJC5JLY6D)すべてにメチル化を認めた。これらの結果から,原発不明がんにおける原発部腫瘍の探索に,リキッドバイオプシーによるメチル化解析を用いることで,治療前に原発部を予測することも可能であると考えられた。リキッドバイオプシーは全身の腫瘍由来のDNA全体を対象とするため空間的不均一性の影響を受けにくく,時間的不均一性を考慮した解析も可能である。現段階では,リキッドバイオプシーにおける課題は多くあるが,臨床研究を活性化するキーファクターになることは言うまでもなく,医師の役割を含めた医療システムに変化をあたえるツールになると期待される。

症例
  • 嵐 健一朗, 富里 周太, 甲能 武幸, 小澤 宏之
    2024 年 75 巻 1 号 p. 8-13
    発行日: 2024/02/10
    公開日: 2024/02/10
    ジャーナル 認証あり

    輪状軟骨切開術が鹿野らにより報告されて以降,多くの成人例で本手技の症例報告が行われているが,小児例での報告は稀である。今回われわれは神経線維腫症I型に伴う頸部巨大腫瘤により気管切開術が困難であった小児症例に対し輪状軟骨切開術を行い,良好な長期経過を得られた症例を経験したので報告する。症例は9歳の男児で,神経線維腫症I型のため,頸部および頸椎に多発する腫瘍を認めた。腫瘍による頸椎圧迫骨折および環軸椎亜脱臼に対し頸椎の固定手術が必要であったが,頸部腫瘍の圧排による咽頭腔の狭小化と気道狭窄が生じていたことから外科的気道確保を先行して行う方針となった。気管は腫瘤による圧排で左側に偏倚し,頸椎の後弯も伴って深部に走行していたことから,通常の気管切開は難しく,全身麻酔下での輪状軟骨切開術を施行した。小児の外科的気道確保後は成人と比較し気管内の肉芽形成や狭窄が起こりやすいことが知られているが,本症例では術後14カ月の時点で大きな合併症やカニューレトラブルもなく,良好な経過を辿っている。しかし喉頭の成長や発声機能の影響についてはさらに長期での経過を追っていく必要があると考えられる。

  • 歌方 諒, 久世 文也, 山田 達彦
    2024 年 75 巻 1 号 p. 14-20
    発行日: 2024/02/10
    公開日: 2024/02/10
    ジャーナル 認証あり

    声門下狭窄症の発生機序には不明な点が多く,感染症,外傷や気管内挿管の後遺症として発症する他に,原因を特定できない特発性の症例もみられる。また,根治治療に難渋し長期間の治療を要することが少なくない。今回われわれは,IgG4関連疾患が疑われた声門下狭窄症に対して輪状軟骨切除,第1気管輪輪状切除,輪状軟骨と気管の端々吻合,および気管輪状軟骨皮膚瘻形成術を行い,良好な経過が得られた1例を経験した。声門下狭窄症の治療に際しては,適切に狭窄の病態を診断し,種々の手術法から適切な術式を選択することが重要となる。

  • 髙田 菜月, 原 真理子, 和田 友香, 渡部 高久, 髙橋 希, 小川 武則, 守本 倫子
    2024 年 75 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2024/02/10
    公開日: 2024/02/10
    ジャーナル 認証あり

    咽頭狭窄による上気道閉塞では,軽症であれば経鼻エアウェイや非侵襲的陽圧換気などの保存的治療で症状が改善することもあるが,重症例では気管切開が必要となる。咽頭狭窄は重症度分類がなく,客観的な判断が困難である。咽頭狭窄の症状を重篤化させ,予後を左右する因子について明らかにするために,当院で気管切開が必要となった咽頭狭窄例(17例)について原因や予後,転帰について後方視的に検討を行った。鼻腔狭窄,上咽頭狭窄,中咽頭狭窄は各1点,喉頭軟弱症,気管軟化症,中枢性無呼吸,神経疾患は各2点,肺疾患および嚥下障害は各3点としてスコアをつけた。カニューレ抜去できた症例のスコアは1~4点,カニューレ抜去できなかった症例のスコアは4~13点であり,カニューレ抜去できた症例はスコアが有意に低かった。スコアが8点以上では人工呼吸器管理が必要となる傾向にあった。また嚥下障害があると有意差をもってカニューレ抜去ができなかった。こうしたスコア化をすることで,咽頭狭窄症例の呼吸障害治療方針決定の一助となると考えられた。

  • 多田 和弘, 髙山 明美, 北島 亮, 髙山 賢哉
    2024 年 75 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2024/02/10
    公開日: 2024/02/10
    ジャーナル 認証あり

    症例は43歳,女性。X-2年3月より咽喉頭違和感を自覚し,その後も咳嗽持続,呼吸困難感が出現したため,X-1年4月に精査加療目的に当科を紹介受診した。胸部単純CTで気管壁の肥厚,気管右側に気管内腔に突出した腫瘤影を認め,PET-CTで気管右側に集積を認めたため,同部に対し気管支鏡下生検術施行。気管内腔の高度狭窄を認めたため,気管内隆起病変に対し気管ステントを挿入。病理検査にて気管原発腺様嚢胞癌と診断した。その後,IMRT 66 Gyを施行し経過をみていたが,約1年後に咳嗽増強,CTにてステント挿入部より尾側の気道狭窄の増悪を認めた。狭窄が高度であったため気管内挿管を施行し人工呼吸器管理となった。その後ECMO下にて挿管チューブ抜去後,既存のステント留置部より頭側および尾側へ再度気管ステントを留置した。同時に同部に対し生検も施行し,炎症性の肉芽組織を認めたものの,悪性細胞を認めなかった。今回われわれは,腺様嚢胞癌に対して気管支内視鏡下ステント留置後に,ステントによる物理的刺激がない気道に肉芽形成による高度気道狭窄をきたした気管腺様嚢胞癌の1例を経験したため報告する。

  • 宮本 大輔, 意元 義政, 菅野 真史, 藤枝 重治
    2024 年 75 巻 1 号 p. 36-43
    発行日: 2024/02/10
    公開日: 2024/02/10
    ジャーナル 認証あり

    Excessive dynamic airway collapse(EDAC)は,気管・主気管支における慢性炎症や何らかの刺激が原因となり,気管膜様部の脆弱性が亢進し,呼気時に気管内腔に気管膜様部が突出することにより気管狭窄を引き起こす疾患である。今回,深頸部膿瘍,気管切開術を契機にEDACを発症した症例を経験した。右深頸部膿瘍を認め,上気道閉塞に対して緊急気管切開術を行った。深頸部膿瘍に対して抗菌薬全身投与による保存的加療を行い改善傾向にあったが,治療開始4日目に呼吸状態の急激な悪化を認めた。内視鏡および頸胸部CT検査で,呼気時の気管膜様部の気管内腔への突出を認めたことからEDACと診断した。非侵襲的陽圧換気によるCPAP療法を行い呼吸状態は安定化したため,治療開始9日目に呼吸器を離脱し,14日目に気管カニューレを抜去した。本症例においては,長期間の喫煙による気管・気管支への慢性刺激が背景因子にあり,頸部膿瘍による急性炎症,気管切開術および気管カニューレによる気管への刺激によってEDACが惹起された可能性が高いと考えられた。成人の呼吸困難症例に対しては,EDACの存在を念頭において診療を行う必要があると考える。

用語解説
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