日本気管食道科学会会報
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70 巻, 3 号
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原著
  • 石橋 淳, 木村 百合香, 小林 一女
    2019 年 70 巻 3 号 p. 219-224
    発行日: 2019/06/10
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル 認証あり

    以前より喉頭の加齢による位置変化が嚥下に与える影響が指摘されている。今回,加齢による安静時の喉頭の位置変化を明らかにすることを目的とし頸部X線側面像を用いた検討を行った。【対象】男性258名,女性268名。【方法】第3頸椎前縁上端から第5頸椎前縁下縁を基準距離(a)として,第3頸椎前縁上端と同レベルの高さから,舌骨下縁までの距離(b),声門前連合までの距離(c),甲状軟骨下縁までの距離(d)を計測し各距離を基準距離で割り相対数値化し性別・年代別にグループ分けを行い各グループ間の数値をStudent-T検定を用いて検討した。【結果】男女間の検討では(c/a),(d/a)で男性が女性よりも有意に低位であった。男性・女性の年代間の比較では(b/a),(c/a),(d/a)のいずれも加齢により延長する傾向があった。男性の年代間の比較で40代と50代の間で,女性の年代間の比較では40代と60代の間で有意に喉頭が低位となった。【結語】喉頭低下は加齢とともに徐々に進行する。特に40代以降で急速に進行する。

  • 岡村 明彦, 渡邊 雅之, 上月 亮太郎, 高橋 慶太, 問端 輔, 今村 裕, 峯 真司
    2019 年 70 巻 3 号 p. 225-230
    発行日: 2019/06/10
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル 認証あり

    食道扁平上皮癌の壁内転移は,予後不良因子と考えられているが,その臨床病理学的特徴や予後に与える影響については,少数の報告があるのみである。今回当院にて手術を施行した食道扁平上皮癌症例840例を対象とし,切除標本で診断された壁内転移を有する症例(壁内転移群)と認めなかった症例(非壁内転移群)の臨床病理学的特徴を比較検討し,壁内転移の予後に与える影響について後方視的に検討した。全症例中44例(5.2%)に壁内転移を認めた。壁内転移群は非壁内転移群と比較し,有意に病期が進行しておりR0切除率が有意に低かった(p<0.01)。また壁内転移群では,全生存および疾患特異的生存がいずれも有意に不良であり,壁内転移の全生存および疾患特異的生存におけるハザード比はそれぞれ2.07(95%信頼区間1.42-3.04,p<0.01),2.10(95%信頼区間1.37-3.22,p<0.01)であり,独立した予後不良因子であった。食道扁平上皮癌の壁内転移は重要な予後不良因子であり,こうした症例においてはより強力な集学的治療が重要と考えられる。

  • ─大阪府耳鼻咽喉科医会アンケート調査より─
    北野 睦三, 田山 二朗, 西原 美沙子, 白石 功, 佐藤 満雄, 速水 康介, 藤原 良平, 土井 勝美
    2019 年 70 巻 3 号 p. 231-237
    発行日: 2019/06/10
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル 認証あり

    大阪府の嚥下障害診療の現状を理解するために実態調査のアンケートを行った。結果から現状の課題があげられた。①VEおよびスコア化の普及:VEの実施率は開業医22%で低く,スコア化は勤務医57%,開業医14%でまだ不十分といえる。そのため積極的な啓発活動が必要である。②STの協働:所属STがいる開業医は1%で,STによる嚥下指導は困難な状況である。しかし訪問看護ステーションのSTとの連携など地域全体をチームとして捉え,嚥下障害治療に取り組める体制を構築することが大切である。③情報提供:地域内で嚥下評価を行っている科が「ない」「わからない」の回答が過半数をこえており,評価ができる施設がわかりにくい。嚥下障害はさまざまな疾患によって起こる機能障害であり,どの施設がどのような嚥下障害診療を行っているかの情報は,患者受診,他科,さらにSTとの連携のためにも提供するべきである。そのため積極的に情報提供の活動が求められる。④在宅医療への参加,推進:在宅医療が推進されているが,勤務医は行っておらず,開業医も5.2%しか往診の嚥下機能評価は行っていない。耳鼻咽喉科医は在宅診療に積極的に参加すべきである。

症例
  • 岡田 愛弓, 三枝 英人, 門園 修, 前田 恭世, 山本 圭介, 伊藤 裕之, 山本 昌彦
    2019 年 70 巻 3 号 p. 238-244
    発行日: 2019/06/10
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル 認証あり

    症例は83歳男性。8年前より吸気性喘鳴を伴う呼吸困難発作を繰り返し,過去2回の気管切開歴があった。徐々に両側声帯外転が低下していくことが指摘され,1年前に2回目の気管切開を受けて以降,レティナ®にワンウェイバルブ®が装着されたままの状態であった。気管孔閉鎖希望にて当科受診。喉頭内視鏡検査で声帯が吸気時に軽度外転した後,吸気途中から声門方向へ引き込まれるように内転し,声門狭窄する現象が観察された。後輪状披裂筋に対するbipolar hooked wire electrodeを用いた筋電図検査では明らかな筋原性変化を認めた。Woodman法による声門開大術(左側)を行い,術中に後輪状披裂筋に限局した明らかな変性を認め,病理所見から後輪状披裂筋の非炎症性ミオパチーと診断した。十分な声門開大が得られたので,気管切開孔を閉鎖した。その後1年6カ月経過しているが気道狭窄の再燃は認めない。

  • 東 咲波, 上羽 瑠美, 佐藤 拓, 後藤 多嘉緒, 二藤 隆春
    2019 年 70 巻 3 号 p. 245-253
    発行日: 2019/06/10
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル 認証あり

    重度嚥下障害患者に対する気管切開術は,唾液誤嚥により気管孔周囲が汚染されやすく,術後の感染が問題となる。特に多剤耐性菌に感染した際には使用できる抗菌薬が限定され,感染制御に苦慮する。今回,多剤耐性菌による気管孔周囲感染をきたした後に,誤嚥防止手術を施行した2症例を報告する。症例1は筋萎縮性側索硬化症の64歳男性。嚥下障害と呼吸障害が進行し,二期的に誤嚥防止手術を行った。誤嚥防止手術の際に,メチシリン耐性ブドウ球菌による気管孔周囲感染が判明した。気管孔周囲のデブリードマンと適切な抗菌薬投与により,良好な経過を得た。症例2は多系統萎縮症の64歳男性。多剤耐性緑膿菌による嚥下性肺炎に対して気管切開術を行ったところ,術前からの抗菌薬使用にもかかわらず,気管孔周囲感染が生じた。唾液誤嚥による創部汚染を防ぐ目的で誤嚥防止手術を行い,デブリードマンや洗浄などの外科的処置を連日施行することにより,感染制御を得た。重度嚥下障害を有する多剤耐性菌保菌患者に外科的気道確保を行う場合,単に気管切開術を行うよりも誤嚥防止手術を一期的に行うことが望ましく,術後の感染制御を考慮し,治療方法を検討すべきである。

  • 石永 一, 中村 哲, 竹内 万彦
    2019 年 70 巻 3 号 p. 254-257
    発行日: 2019/06/10
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル 認証あり

    手術は甲状腺乳頭癌の治療選択の一つである。しかしながら,妊娠中の甲状腺癌の場合は慎重に治療選択をしなければならない。今回われわれは妊娠後期に発見された増大傾向を呈した甲状腺癌症例を治療する経験を得たので報告する。症例は33歳女性,妊娠37週時に正中部の頸部腫瘤を認めた。細胞診検査では悪性とは判明したが,詳細不明であった。患者は初診から2日後に帝王切開を受け,その後初診から25日目に甲状腺全摘と右頸部郭清を受けた。その後,肺転移のためRI治療が施行された。合併症もなく術後経過は良好であった。細胞診で鑑別困難な甲状腺腫瘍があり急速増大する場合は,たとえ妊娠中でも手術を検討すべきである。

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