日本気管食道科学会会報
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74 巻, 5 号
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特集:気管食道科領域における手術教育の現状
序文
  • 中村 一博
    2023 年 74 巻 5 号 p. 329-332
    発行日: 2023/10/10
    公開日: 2023/10/11
    ジャーナル 認証あり

    2012年に日本外科学会と日本解剖学会から臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドラインが公表され本邦でもご遺体を用いた手術手技研修のcadaver surgical training:CSTが可能となった。従来の旧式手術教育システムはon the job training:OnJTとよばれる。これは従来の外科医の標準的手術手技獲得の方法であり,その名の通り,指導医の指導の下に,手術室で実臨床で,実際の患者を手術しながら術式を学ぶ手法である。一方,新しい手術教育システムのひとつがCSTである。CSTでは術式に沿った解剖学を学ぶことができ,手術教育は安全に施行できる。何らかの失敗をしてもやり直しができるし,その際のトラブルシューティング技法も学ぶことができる。もちろん,OnJTやCSTのまえにはoff the job training:OffJTが存在する。すなわち術前カンファレンスでの画像診断や内視鏡所見の評価,病理組織学診断の解釈や,術式の選択とその手順の学習,手術用解剖学の習得などである。OffJTにバーチャル・リアリティ(virtual reality:VR)やミクスド・リアリティ(mixed reality:MR)などの最先端技術を用いる試みもある。OnJTとCSTはOffJTを前提に成り立っている。医療安全の見地からは,CSTは医療事故の減少につながる可能性があり,国民福祉へ貢献できる。医療経済の観点では,手術室の回転率の改善,術中術後合併症の減少,退院までの在院日数の短縮,に貢献しうる。

関連論文
  • 東 賢二郎, 香取 幸夫
    2023 年 74 巻 5 号 p. 333-337
    発行日: 2023/10/10
    公開日: 2023/10/11
    ジャーナル 認証あり

    東北大学では厚生労働省の補助金事業の一環として2013年からカダバーサージカルトレーニング(CST)を行っており,昨年までに全国からのべ327人が参加した。当院におけるCSTの特徴は,一度の研修会で耳科,鼻科,頭頸部といった多領域の実習に参加できることと,音声・嚥下に対する研修会も行っていることがあげられる。研修会で実施した手術手技の理解度調査では,CST終了後に参加者の78%で理解度の上昇を認め,半年後においても参加者の83%で理解度が維持されており,CSTの利点である実臨床と同様の手技ができること,また実臨床では操作しない周囲解剖を理解できることがこの結果に寄与したと考えられる。医療安全に対する社会的な関心が高まっており,実臨床前のトレーニングがより重要となり,CSTの必要性はさらに高まることが予想される。

  • 三谷 壮平
    2023 年 74 巻 5 号 p. 338-345
    発行日: 2023/10/10
    公開日: 2023/10/11
    ジャーナル 認証あり

    手術技術を効率よく若手に伝承するためには,技術の構造を分析し可視化する必要がある。手術技術は,「数値化」「言語化」「映像化」することによって可視化することができる。当科ではこれまで,結紮縫合や鼻内視鏡手術,腫瘍切除術などの頭頸部外科手術に必要な手術技術を「数値化」「言語化」してきた。また,virtual realityの技術を用いて,手術技術の「映像化」にも取り組んでいる。このような取り組みにより手術技術を可視化することができれば,ある種アートの側面を持つ手術を,サイエンスとして捉えることが可能となる。また,良い手術教育を実践していくためには,組織の環境整備が必須である。当科で実践している,手術教育のための戦略的環境整備についても併せて紹介する。

  • 楯谷 一郎
    2023 年 74 巻 5 号 p. 346-353
    発行日: 2023/10/10
    公開日: 2023/10/11
    ジャーナル 認証あり

    カダバーサージカルトレーニングのメリットは,正常な⼿術解剖を実寸⼤(3次元)で学べること,⼿術⼿技を実際に体験しながら学べること,実際の臨床では見ることができない術野周囲外の解剖を学べることにある。耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域は解剖学的に複雑な部位が多く,日常臨床では術野外になる部位まで観察できるカダバーサージカルトレーニングは極めて有用なトレーニング方法である。喉頭枠組み手術では,喉頭枠組みの圧排や移動による声帯への影響をその場で観察することで原理やメカニズムの理解が深まりやすいという利点があり,鏡視下・ロボット支援下咽喉頭手術では,咽喉頭のInside-out anatomyやこれらの術式に特徴的な手術手技を効率的に学ぶことができる。また卒前卒後教育やリクルートにも不可欠と考えられる。

  • 七戸 俊明
    2023 年 74 巻 5 号 p. 354-361
    発行日: 2023/10/10
    公開日: 2023/10/11
    ジャーナル 認証あり

    高難度手術である食道癌の手術教育において,on the job training(OnJT)は症例数が少なく類似する術式がない,重大な合併症が起こり得るなどの問題点がある。一方,ご献体を使用した手術手技研修であるcadaver surgical training(CST)は,2012年に「臨床医学の教育および研究における死体解剖のガイドライン」が公表されたことにより実施可能となった。これにより,食道癌手術のCSTも全国で行われるようになり,北海道大学でも「献体による食道内視鏡外科手術講習会」を開催している。講習会ではCSTの学習効果を評価すべく,場面ごとの知識と技術を点数化した評価表を作成し,受講生の自己評価によるCSTの実施前後の得点の変化を検討した。その結果,実施後の総合点は約2倍に上昇し,右反回神経リンパ郭清や大動脈周囲の処理において効果が顕著であった。一方で,難易度が高い左反回神経リンパ節郭清での効果は限定的であった。これらの結果は,CSTは一連の手術手順を効率よく学習するのに有効であるものの万能の切り札ではなく,術中神経モニタリンク装置を活用した安全で効率的なOnJTプログラムの構築や,繰り返し学習できるオンデマンド教材やシミュレーターなど,新たな教育プログラムの開発が必要であることを示唆している。

  • 江口 隆, 清水 公裕
    2023 年 74 巻 5 号 p. 362-368
    発行日: 2023/10/10
    公開日: 2023/10/11
    ジャーナル 認証あり

    外科治療の成功のためには,優れた「技術」に加え,豊かな「知識」,適切な「戦略」が重要である。胸部外科における手術教育は,近年の開胸手術から低侵襲手術への移行やロボット手術の普及に伴い,大きな変化を遂げている。本稿では,手術教育におけるパラダイムシフトを概説し,個別化されたシミュレーション環境の提唱と信州大学で実践している手術教育法の紹介を行う。手術の低侵襲化,個別化・精密化が進む中,手術教育においても,3D画像の活用やoff-the-job trainingの実践,トレーニングの個別化や精密肺切除への対応などが求められている。われわれは,今後の外科トレーニングに欠かせない要素として,「持続可能性」,個々の症例への「適応性」,手術で再現できる「リアリティ」を掲げ,それらを満たす個別化されたシミュレーション環境を提唱する。信州大学では,血管充填を伴うブタ摘出心肺モデルの活用や3D-S(Develop, Demonstrate, Discuss, & Share)コンセプトに基づく手術プランニング,シナリオトレーニングなど,独自の革新的な手術教育法を実践している。今後も,さらなる教育方法を開発し,その効果を測定していくことが重要な課題である。

用語解説
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