日本気管食道科学会会報
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58 巻, 5 号
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特集:気管切開の現況—専門医としての取り扱い方
  • 北野 博也
    2007 年 58 巻 5 号 p. 433-439
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
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    最近は気道確保の方法として気管挿管が行われることが多くなった。また,他科領域では経皮的気管切開術が盛んに行われている。しかし,気管切開術は気道確保の方法として最も確実な方法であることに変わりはない。それゆえ,気道を扱う外科医にとっては,習熟しておくべき基本手術手技の一つである。本稿では,気管切開術に関する基本的事項を中心に特殊な気管切開術まで述べた。専門医としては,重篤な合併症のある症例や難易度の高い症例に対する気管切開術を依頼されることが多いと思われる。このような場合,常に的確かつ安全な手術を行うためには,基本的手術とはいえ危険度が高い手術であることを十分に理解し,慎重に取り組まねばならない。
  • 工藤 典代
    2007 年 58 巻 5 号 p. 440-447
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    小児,特に乳児に対する気管切開例は周産期医学の発達とともに増加し,かつ低年齢化している。乳幼児の気管切開は成人と異なる点があり,その違いを十分認識した上で行うべきである。小児気管切開の統計では0歳児が40~67%を占める。気管切開の適応は気道狭窄と呼吸管理目的が主である。気道狭窄は先天性疾患が主であり,喉頭奇形や両側声帯麻痺などが原因疾患となる。気管切開は全身麻酔下で頸部を伸展位にし,頸部正中に横切開を置く。気管切開の方法はおおむね6歳以下であれば下気管切開法が可能である。7歳以降では中気管切開法を行う。気管切開部位の気管壁に釣り糸を2本かけ,軽く牽引することで気管の切開がしやすくなる。気管を縦切開した後は釣り糸を軽く牽引し,気管を明視下におき,気管挿管チューブを徐々に浅くしていく。気管切開カニューレが挿入された後に,気管挿管チューブを抜去する。釣り糸は胸部にテープで固定する。気管切開カニューレの第一交換は7日から10日後に行う。この際に釣り糸を除去する。経過中,家庭でも保護者が気管切開カニューレのケアができるように指導する。晩期合併症の気管腕頭動脈瘻は特に重症心身障害児に生じる可能性が高いことに留意する。
  • 服部 知洋, 馬島 徹
    2007 年 58 巻 5 号 p. 448-453
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
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    呼吸器疾患患者が重症化し気道確保の選択を迫られる場合,第一選択は経口気管挿管である。しかし,人工呼吸管理が長期化する場合は経口気管挿管や気管切開チューブによる換気の欠点,利点を把握し,それぞれの呼吸器疾患の病態も考慮した上で,気管切開の選択をすることが実際と考えられる。また,経口気管挿管から気管切開への切り替えのタイミングは,経口気管挿管開始時から7日以内に人工呼吸器からの離脱ができない場合,理想的には10日以内に気管切開に変更することが望ましいと考えられる。気管切開チューブの抜去については,人工呼吸器から離脱し,上気道閉塞がなく,気道分泌物が減少し,十分な咳嗽力があれば抜去できると考えられる。しかし,個々の患者の呼吸管理状況を正確に把握し判断,実行するのが現状である。
  • 山口 大介, 矢作 直樹
    2007 年 58 巻 5 号 p. 454-462
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
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    経皮的気管切開術は,その新しい方法の開発により,外科的気管切開術と比肩しうるまでになった。特に熟練した術者においては,外科的気管切開術に比して,出血や感染,総死亡数などの周術期合併症がより少ないと報告されている。またその施行にあたっては,より少ない手術時間や少ない経験でも可能である。近年の科学的根拠をふまえて,経皮的気管切開術の外科的方法に対する優位性,具体的な施行方法とそのpitfall,合併症対策について論じたい。
    また気管穿刺術は,これまで喀痰排出困難な患者の気道の清浄化目的で用いられることが多かったが,2003年の米国麻酔学会におけるDifficult Airway Management Guidelineにおいて,換気・挿管困難の患者に対する最後の気道確保手段として位置づけられた。また本邦でも外傷初期診療ガイドラインにおいて通常の気管挿管困難症例に対する外科的気道確保方法として注目されている。気管穿刺術のこうした新しい論点と展開について紹介する。
  • 平林 秀樹
    2007 年 58 巻 5 号 p. 463-471
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
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    気管切開は気道管理において現代医療の最も基本的な手技である。しかしながら,不正確な気管切開や気管カニューレの取り扱いによりさまざまな合併症が発生する。この稿では気管切開の合併症を,術中などの早期と経過を追った晩期の合併症の紹介とその対策を考えた。また致命的合併症である腕頭動脈瘻の対応については詳しく紹介した。
原著
  • 平野 隆, 上村 尚樹, 渡辺 哲生, 鈴木 正志
    2007 年 58 巻 5 号 p. 472-477
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    上気道閉塞性病変に対して,気管切開術は基本的な手技であり,耳鼻咽喉科医にとって非常に重要な手術手技の1つである。今回,われわれはCiaglia法の一種である,Blue Rhino法(NEO PERC®:タイコ ヘルスケア社)を用いた,経皮的気管切開術による気道確保を行った4症例について報告し,当科での外科的気管切開術と経皮的気管切開術との比較検討を行った。外科的気管切開術を施行した症例は19例であり,経皮的気管切開術を施行した症例は4例であった。外科的気管切開術と比較して経皮的気管切開術では明らかに,手術時間の短縮を認め,術後出血や皮下気腫,創部感染といった術後合併症を認めなかった。気管切開部の創処置においても,外科的気管切開術では全例において,気管孔閉鎖術が必要であった。しかし,経皮的気管切開術では半数の2例であり,気管孔閉鎖術の有無にかかわらず,切開創痕はどちらも相違はなく目立たなかった。気管切開手技に精通している耳鼻咽喉科医において,本方法は気管切開術の有用な1つの手技として考慮しうるものと考えられた。
  • 安村 佐都紀, 浅井 正嗣, 小林 美幸, 将積 日出夫, 伏木 宏彰, 安部 英樹, 和田 倫之助, 渡辺 行雄
    2007 年 58 巻 5 号 p. 478-483
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
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    当院(全診療科)における全入院症例を対象に気管切開術および輪状甲状膜穿刺によるチューブ留置(minitracheotomy)の現状と問題点について分析することを目的に,各診療科の施行件数,術後経過と管理状況,合併症を調査した。2005年1年間の施行例は,気管切開術72例およびminitracheotomy 42例であった。退院・転院・転科時,カニューレやminitracheotomyチューブを留置したままの気管孔や穿刺孔残存例が多く認められた。合併症の頻度は,気管切開術の早期合併症は23.6%,晩期合併症は15.3%であった。minitracheotomyにおいては,早期合併症9.5%,晩期合併症23.8%であった。本調査期間中には非常に重篤な合併症は認めなかった。しかし,文献的には頻度は少ないが重篤な合併症の報告があり,施行前にインフォームド・コンセントを得る際にはこの点を考慮する必要がある。
症例報告
  • 溝上 大輔, 唐帆 健浩, 磯田 晋, 田部 哲也, 塩谷 彰浩
    2007 年 58 巻 5 号 p. 484-490
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    近年,長期間におよぶ人工呼吸器管理が必要な患者に対して,Percutaneous Dilational Tracheostomy (PDT)が術後集中治療室などにおいて頻用され,その簡便性,術後創感染の少なさ等に関して,既に一定の評価を得ている。特に,胸骨正中切開創を有する胸部外科術後では感染創となりうる気管切開創と連続してしまい縦隔炎等の重篤な合併症を引き起こすことがあるため,気管周囲の剥離操作を行わないPDTが好んで施行されている。通常PDTは,第1第2気管輪もしくは輪状軟骨下を穿刺して行われるが,輪状甲状間を穿刺する,より高位のPDTを施行すれば,剥離操作を行わない利点に加え,胸骨正中切開創からの距離も取れることからPDTで輪状甲状切開を施行している施設もある。しかし,その有用性や安全性については未だ十分な議論がなされていない。われわれは,心臓血管外科術後,縦隔炎予防目的にCOOK社製Ciaglia Blue Rhino®を用いてPDTで輪状甲状切開を施行され,声門下狭窄をきたした2例を経験した。PDTは症例を選び,十分に経験のある術者が通常の位置に行えば外科的気管切開と同様に有用な方法である。ただし,声門下狭窄等の長期的合併症については更なる検証が必要である。特に,PDTを輪状甲状間に施行し,気管カニューレを長期留置すると声門下狭窄をきたす可能性が高い。
  • 小川 晃弘, 中 希久子, 松本 亮典, 谷本 一憲, 牧野 琢丸, 高原 寛, 公文 啓二, 長谷川 英夫
    2007 年 58 巻 5 号 p. 491-497
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)はしばしば,周術期気道管理の障害となり得る。今回われわれは口蓋扁桃に発生した節外性リンパ腫の1症例を経験した。本症例はSAS症状に疾患が隠蔽されており,SASに対する手術治療すなわち口蓋扁桃摘出術で麻酔導入時に結果的に挿管困難をきたすことになった。これについて臨床経過とともに文献的考察を加えて報告した。
    症例は51歳男性で,上気道感染後に持続する喉頭違和感で診察を受けたが,同時に固形物の嚥下障害があり,夜間の呼吸障害が強く睡眠時無呼吸症候群を疑われて紹介となった。初診時,口蓋扁桃はMackenzie分類3度に高度腫大しており舌根扁桃もまた高度に腫大していた。内視鏡では声帯の後端と披裂部が同定できるのみであった。全身麻酔での扁桃摘出術およびUPPP手術を計画した。麻酔導入時に気道の確認に最重点を置いていたが,舌根から喉頭蓋にかけての乳頭状粘膜増殖性変化を認め,萎縮した喉頭蓋や声帯が同定不可能であった。内視鏡下の気管内挿管もついで試みたがこれも困難であり,最終的に緊急気管切開の運びとなった。一連の操作とくに緊急気管切開により合併症として発生した嚥下性肺炎と頸部食道損傷による消化管穿孔については,ICUで約2週間の集中治療を受け,上縦隔ドレーンを2週間留置することとなった。
    後日摘出された口蓋扁桃の病理組織診断は最終的に末梢型非特異的T細胞リンパ腫と報告された。今後は本例のように睡眠時無呼吸症候群に関連した診療から腫瘍性疾患が発見される機会が増えることが予想され,注意が必要と思われる。
  • 谷口 雅信, 渡邉 昭仁, 辻榮 仁志, 細川 正夫
    2007 年 58 巻 5 号 p. 498-501
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    2000年1月から2007年2月までに恵佑会札幌病院で頸胸腹部3領域リンパ節郭清を伴う食道癌根治手術を受けた609例中,術後4週間以内に気管切開術が実施された16例(2.6%)について検討した。気管切開術の際に前頸部皮膚を前頸筋と全周性に縫合し,気管切開部分と食道癌手術時の食道胃吻合部を含む頸部手術野とが隔絶されるようにした。気管切開術後に創感染や頸部吻合部縫合不全など重篤な術後合併症を発症したものは認めなかった。
  • 前田 恵理, 木村 美和子, 二藤 隆春, 高野 真吾, 田山 二朗
    2007 年 58 巻 5 号 p. 502-506
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/25
    ジャーナル 認証あり
    経皮的気管切開術(percutaneous dilational tracheostomy,以下PDT)はその簡便さから,近年,本邦でも広く普及しつつある。今回われわれはPDT後の気管切開チューブ誤挿入の1症例を経験したので報告する。
    症例は65歳男性。肺炎により人工呼吸器管理中,救急部でPDTが施行された。術後,内科で気管切開チューブの交換が行われたが,挿入時に抵抗があり難渋した。呼吸困難の訴えもあったが,自然に軽快したため経過観察されていた。肺炎の治療効果判定のため胸部CTを施行したところ,気管前壁外の縦隔に気管切開チューブを認め,当科受診となった。気管切開チューブを抜去すると,気管外前方に気管内腔と交通のない死腔を認めた。気管内腔に問題はなかったため,消毒と圧迫処置で,死腔は徐々に縮小し皮膚切開創は閉鎖した。現在,気管狭窄などの異常は認めていない。
    PDTで作製された気管孔は,外科的に作製されたものに比べて小さく,深くなる傾向があるため,より慎重な気管孔管理が必要である。
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