日本気管食道科学会会報
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68 巻, 4 号
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原著
  • 西山 耕一郎, 折舘 伸彦
    2017 年 68 巻 4 号 p. 267-274
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/25
    ジャーナル 認証あり

    リハビリテーション専門病院には気管切開後,嚥下障害,音声障害例が多数入院しているが,耳鼻咽喉科と気管食道科医師の介入が無く,治療に難渋している。入院中の99例を診察し,76例の気管カニューレを交換し,喉頭内視鏡検査を35例に施行した。気管切開症例76例中,66例に肉芽を認め,25例は多量の肉芽で,21例は気管カニューレを抜くと気管切開孔が閉塞し,13例は再挿入困難であった。気管孔の肉芽を予防するために,気管壁断端粘膜と皮膚を直接縫合して皮下組織を完全に覆った状態にすることが望ましい。長期間気管カニューレ使用が見込まれる症例は,経皮的気管切開術は避けるべきである。気管切開孔部の肉芽処置は,出血を伴い難渋するが,トリクロール酢酸80 w/v%濃度と,吸引付きスタンツェであるパワーパンチ(永島医科機器株式会社製)を使用すると,ある程度は出血を抑えることができるが,眼の保護のためにゴーグルの使用は必須である。

  • 伊藤 裕之, 加藤 孝邦, 小泉 千秋, 鈴木 康司, 棚橋 汀路, 三枝 英人
    2017 年 68 巻 4 号 p. 275-283
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/25
    ジャーナル 認証あり

    28年間に経験した205例の嚥下障害について報告した。このうち2例は治療中に死亡した。他の2例は精神疾患合併例で,家族は嚥下障害の治療を希望したが,患者は治療を辞退した。他の1例は,治療中に膵臓癌が見つかり,患者の希望により治療を中止した。他の2例は,治療方針に患者の同意が得られなかった。治療前に固形物や液体の経口摂取ができず経管栄養に依存していた症例を対象として,理学療法を用いた機能訓練と嚥下機能改善術を行った,治療後に経管栄養から離脱できた症例を予後良好とした。198例のうち16歳未満の症例は7例であり,16歳未満の,破裂脳動静脈奇形4例,脳外傷,外傷性脳梗塞,後頭蓋窩血管芽腫各1例であった。予後良好例は破裂脳動静脈奇形の2例であった。1例は独歩可能,他の1例は車イス移動であった。破裂脳動静脈奇形2例は再破裂により死亡した。

    16歳以上の191例中良好例は100例,不良例は91例であった。男女間では予後に有意差はなかった。脳血管障害は96例で良好例は55例,TBIは16例で良好例は7例,脊髄損傷は15例で良好例は5例であった。BT(全例術後)は14例で良好例は11例であった。脳腫瘍以外の腫瘍は,男性11例,女性1例の12例で,良好例は5例であった。免疫性神経筋疾患は10例で良好例は6例であった。その他の原因は28例で良好例は11例,不良例は17例であった。独歩群は車イス群,自走不能群よりも有意に予後良好例が多かった。車イス群は自走不能群よりも有意に予後良好例が多かった。

    男女間,各原因間で治療成績に統計上の有意差はなかった。良好例が不良例を上回った原因による嚥下障害は,嚥下障害の治療適応を考える良い対象である。

  • 山口 智, 若山 望, 日高 可奈子, 五味 真也, 高山 幸芳, 佐藤 一樹, 吉岡 友真, 石田 麻里子, 関根 久遠, 松根 彰志, ...
    2017 年 68 巻 4 号 p. 284-293
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/25
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    認知機能の低下による嚥下障害は先行期(anticipatory stage),嚥下準備期(preparatory stage)の障害とされているが,高齢者に多いためADLや心肺機能の低下など嚥下障害の要因が重なることが多く,先行期,嚥下準備期の障害のみであるかを詳細に検討した報告は少ない。今回われわれは高齢者でADLの比較的安定している症例を対象に認知機能と嚥下機能の関係を検討した。認知機能は改訂長谷川式認知症スケール(Hasegawa dementia scale-revised:HDS-R),Mini-mental state examination:MMSE,嚥下機能は嚥下内視鏡検査(videoendoscopy:VE),嚥下造影検査(videofluorography:VF)で評価した。HDS-R,MMSEともに低得点群と高得点群に分け,VEでは嚥下内視鏡スコアを比較し,VFでは嚥下反射の開始時の造影剤の位置,造影剤の通過から喉頭挙上が起こるまでの時間である喉頭挙上遅延時間(delay time of laryngeal elevation:LEDT),造影剤が下咽頭に達したときの喉頭の挙上した割合を示す下咽頭流入時喉頭挙上度(relative laryngeal elevation(%)at P point:% LE(p)),および喉頭挙上距離を比較した。結果は,嚥下反射の惹起性を反映するパラメータのみ有意差を認め,認知機能の低下は嚥下反射の惹起性のみに影響を与え,他の嚥下機能には影響を与えないと考えられた。

  • 遠藤 一平, 中西 庸介, 脇坂 尚宏, 吉崎 智一
    2017 年 68 巻 4 号 p. 294-300
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/25
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    頭頸部癌に対する化学放射線治療中にしばしば食欲不振,やせなどの症状が認められる。特に食欲不振から体重減少が進むにつれて生存期間が短くなり,体重減少は頭頸部癌の予後因子として重要である。今回,われわれは頭頸部癌治療における食欲不振と,強力な摂食亢進作用をもつグレリンの関係について検討した。対象は頭頸部癌(中・下咽頭癌,喉頭癌)に対するシスプラチン併用の化学放射線療法施行症例である。治療開始前後に血中グレリンの測定を行った。21例の頭頸部癌症例(中咽頭癌5例,下咽頭癌10例,喉頭癌6例)を登録した。治療前アシルグレリンは21.0±38.5fmol/ml,治療終了後は7.2±7.8 fmol/mlと有意に減少した(p=0.049)。シスプラチン投与による血中グレリンの推移では,アシルグレリンはシスプラチン投与ごとに徐々に低下傾向を示した。食欲に関するアンケートでは食事前にどれくらいの量を食べられるか,すなわち予想食事量では治療後に有意に低下していた。有害事象である食欲不振および,治療後のアルブミン値は血中グレリン濃度との正の相関が認められた。シスプラチン投与による食欲低下や放射線性粘膜炎に伴う低栄養状態に反応してグレリンが上昇を示すものと思われる。

症例
  • 永藤 裕, 増田 正次, 茂呂 順久, 佐藤 大, 甲能 直幸, 齋藤 康一郎
    2017 年 68 巻 4 号 p. 301-306
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/25
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    喉頭軟骨肉腫は喉頭悪性腫瘍の1%以下と稀であり,渉猟した限り本邦では40例の報告があるに過ぎない。今回われわれは喉頭軟骨肉腫の1例を経験したので報告する。症例は50歳の男性,1年前からの嗄声,喘鳴を認め近医内科で喘息として治療を受けていた。その後呼吸苦が出現し近医耳鼻科を受診し,声門下腫瘍疑いで当科を紹介受診した。組織学的検査の結果,喉頭軟骨肉腫と診断された。画像検査により輪状軟骨が1/2以上破壊された進行癌であることが判明し,喉頭温存は不可能と判断して喉頭全摘術を施行した。現在まで再発なく6年経過している。

  • 紫野 正人, 村田 考啓, 安岡 義人, 近松 一朗
    2017 年 68 巻 4 号 p. 307-313
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/25
    ジャーナル 認証あり

    乳幼児の上気道は細く脆弱なため,小さな嚢胞でも容易に狭窄し,いびき・無呼吸や吸気性喘鳴,時にチアノーゼ,呼吸困難を生じる。今回,上気道狭窄や哺乳障害を初発症状とした,生後6カ月以内の乳児における先天性嚢胞性疾患を3例経験したので報告する。

    症例1は上気道感染時に偶発的に発見された喉頭嚢胞である。生後6カ月時に喉頭微細手術にて嚢胞を全摘した。症例2は生後1週間頃からの喘鳴のため,生後1カ月で初診となった。右披裂から梨状陥凹に嚢胞を認め,生後2カ月時に喉頭微細手術にて嚢胞を全摘した。症例3は吸気性喘鳴と体重増加不良で,喉頭軟弱症を疑われ生後1カ月で紹介となった舌根嚢胞である。嚢胞が喉頭蓋を圧排して喉頭軟弱症の病態を呈していた。生後2カ月時に経口的に嚢胞開窓術を行った。病理組織は症例1, 2で喉頭嚢胞,症例3では甲状舌管嚢胞であった。全症例で嚢胞の再発や声帯運動障害はなく良好に経過している。治療は嚢胞全摘が理想的だが,患児への侵襲性を考慮して,症例によっては開窓術を選択すべきである。また気管挿管の可否や術後管理のため,麻酔科や小児科と密に連絡を取る必要がある。

  • 野村 文敬, 立石 優美子, 角 卓郎, 清川 佑介, 川田 研郎, 東海林 裕, 宮脇 豊, 中島 康晃, 河野 辰幸, 朝蔭 孝宏
    2017 年 68 巻 4 号 p. 314-319
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/25
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    深頸部膿瘍から進展した縦隔膿瘍は致死率も高く直ちにドレナージ等の処置を要する疾患である。今回われわれは縦隔膿瘍との鑑別を要した食道粘膜下膿瘍の症例を経験したので報告する。

    症例は65歳女性,主訴は咽頭痛と頸部腫脹。外来にて気道閉塞を認め,気管内挿管がなされた。CTにて左の扁桃周囲膿瘍および深頸部膿瘍を認め,さらに縦隔へ連続し気管分岐部まで進展する膿瘍形成を認めた。同日頸部切開排膿術を施行した。その後も縦隔の膿瘍が残存,再度外切開を施行したがやはり縦隔からの排膿は得られなかった。経過中,膿瘍はさらに増大し,全身状態悪化を認めた。所見から食道壁内の膿瘍が疑われ,消化管外科へコンサルテーションの結果,食道粘膜下膿瘍の疑いとなった。内視鏡下に切開を試みたところ大量の排膿が得られ,その後全身状態は急速に改善した。

    食道粘膜下膿瘍と縦隔膿瘍との鑑別には造影CTが有用である。縦隔膿瘍では周囲組織へ進展する膿瘍腔を確認できるが食道粘膜下膿瘍の場合は限局した膿瘍腔が形成され,また膿瘍周囲が強く造影される。疑わしい場合は上部消化管内視鏡を施行するべきと考えられる。比較的稀な疾患であり,文献的考察を加え報告する。

用語解説
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