日本気管食道科学会会報
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71 巻, 6 号
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原著
  • 岡田 拓朗, 岡本 伊作, 佐藤 宏樹, 近藤 貴仁, 清水 顕, 塚原 清彰
    2020 年 71 巻 6 号 p. 391-396
    発行日: 2020/12/10
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル 認証あり

    外科手技のトレーニングとして日常的にon-the-job trainingが行われているが,医療安全や医療倫理の観点から十分に配慮が必要である。当科では手術手技向上を目的として生体ブタを用いたアニマルラボトレーニングを実施している。喉頭全摘術に対してアニマルラボトレーニングの有用性の検討を行った。対象は喉頭全摘術を執刀した56名で,トレーニング後に自己評価した。評価項目は,舌骨の同定,甲状軟骨の同定,咽頭収縮筋の同定と切断,上喉頭神経の同定と切断,術中気管切開と挿管チューブの交換,咽頭粘膜の温存と喉頭全摘,咽頭縫合,永久気管孔作成の8項目である。卒後10年目以下と11年目以上で比較検討した。卒後10年目以下は39名,11年目以上は17名であった。全項目で11年目以上の医師の方が高得点で,特に上喉頭神経,喉頭全摘,咽頭縫合,永久気管孔作成の項目で有意差があった。ブタの喉頭はヒトの喉頭と類似しており,喉頭全摘術はヒトの手術と同等に行うことが可能であった。スコア化によって若手医師の苦手とする項目が抽出できた。実際の手術の際に効率的な指導ができ,より安全に執刀することが可能になると考えられた。

  • 高橋 亮介, 河邊 浩明, 小出 暢章, 大野 十央, 有泉 陽介, 朝蔭 孝宏
    2020 年 71 巻 6 号 p. 397-404
    発行日: 2020/12/10
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    局所進行下咽頭癌に対する下咽頭・喉頭全摘術(total pharyngolaryngectomy:TPL)は標準治療の一つである。TPLでは併施される甲状腺切除と気管傍郭清(VI郭清)の範囲によっては術後副甲状腺機能低下症を生じ得るが,今まで詳細な検討はされていない。今回,2008年4月から2018年9月に当科でTPLを行った下咽頭癌53例を対象に,甲状腺切除とVI郭清の範囲が3カ月後の副甲状腺機能に与える影響について調査した。切除範囲別の術後副甲状腺機能低下症は,甲状腺葉切+片側VI郭清で0%(4例中0例),甲状腺葉切+両側VI郭清で36%(14例中5例),甲状腺全摘+両側VI郭清で97%(35例中34例)と,切除範囲が大きくなるに従い術後副甲状腺機能低下症が高頻度になることが判明した。また副甲状腺機能補正を行っていた症例のうち,約20%の症例で高Ca血症と腎機能障害を認めた。補正薬剤の調節で高Ca血症は全例改善したが,2例は腎機能障害が残存した。副甲状腺機能を補正している症例は高Ca血症や腎機能障害をきたす可能性があるため,血液検査や尿検査による内服の調節を継続する必要がある。

  • 山名 一平, 柳澤 純, 笠 伸大郎, 市川 淳, 是枝 寿彦, 進 勇輝, 三ノ宮 寛人, 佐藤 啓介, 岡本 辰哉, 吉田 泰, 乗富 ...
    2020 年 71 巻 6 号 p. 405-408
    発行日: 2020/12/10
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル 認証あり

    過去10年間に,われわれは特発性縦隔気腫22例を経験した。男性17例,女性5例で,平均年齢は20.5±10.9歳,平均body mass index(BMI)は19.0±2.4であった。11例(50%)は明らかな誘因がなく,11例(50%)はスポーツ中や咳嗽後などなんらかの誘因があった。1例のみ再発症例であった。症状は,胸痛は17例,咽頭痛は9例,呼吸苦は1例に認め全例が突然発症であった。確定診断は全例頸胸部CT検査で診断しえた。抗菌薬を使用したのは11例(50%)であった。平均在院期間は3.3±1.4日であった。全例が安静加療で改善した。平均観察期間は9.6±5.9日であった。特発性縦隔気腫は一般的には予後良好な疾患であり,胸腔内圧を上昇させないよう安静加療が重要である。しかしながら,縦隔炎や緊張性縦隔気腫を合併する重症例も報告されているため,十分な評価と経過観察を行う必要がある。

症例
  • 馬場 剛士, 中村 一博, 三浦 怜央, 鈴木 啓誉, 大島 猛史
    2020 年 71 巻 6 号 p. 409-413
    発行日: 2020/12/10
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル 認証あり

    義歯異物は頻繁に遭遇する疾患である。下咽頭に突出していれば耳鼻咽喉科医により内視鏡下に,食道内に落ちていれば消化器内科医により内視鏡下に摘出される。局部床義歯には固定用のクラスプがあり消化管粘膜に刺入すると摘出困難と報告されているが,無歯顎用の固定クラスプのない全部床義歯では摘出は容易であることが多い。今回われわれは,頸部食道粘膜壁に嵌頓した固定クラスプのない全部床義歯異物に,外切開摘出を要した症例を経験した。喉頭内視鏡にて下咽頭に義歯を認めなかった。画像精査にて輪状軟骨の背側,頸部食道に嵌頓している義歯を認めた。前医にてすでに内視鏡下摘出術が不可能であったことを鑑み,全身麻酔下での経口的摘出術と外切開による経皮的摘出術を選択した。全身麻酔下に下咽頭から頸部食道を展開したが鰐口鉗子にて把持した義歯は動かず,外切開による摘出術に切り替え義歯を摘出した。固定クラスプがない全部床義歯でも,サイズによっては経口的摘出が困難であり,外切開を要すことが再確認された。

  • 藤原 直人, 佐藤 弘, 宮脇 豊, 井上 準, 中平 光彦, 菅澤 正, 桜本 信一, 岡本 光順, 山口 茂樹, 小山 勇
    2020 年 71 巻 6 号 p. 414-420
    発行日: 2020/12/10
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル 認証あり

    食道癌症例においては他臓器との重複癌症例が多く,しばしばその治療には難渋する。しかし,食道癌・腎癌の合併症例は比較的稀であり,その治療法に一定の見解はない。今回われわれは,初診時切除不能進行食道癌および進行中咽頭癌,進行腎癌の3重複癌を認め,集学的治療により良好な予後を得ている症例を経験したので報告する。症例は66歳の男性で,気管浸潤を伴った進行食道癌の精査中,中咽頭側壁の進行癌と左腎癌を指摘された。腎癌に関しては片腎摘出術が必要と考えられたが,これに先立ち食道癌に対してFP療法併用化学放射線療法を施行した。食道癌に対して治癒が見込める状況を得た後,左腎摘出術を施行。さらに追加化学療法を行った後,食道癌に対しsalvage手術を行った。中咽頭癌に関しては化学療法で著明な縮小を認め,その後の放射線単独治療にてCRを得た。現在初回治療から1年5カ月が経過しているが,3重複癌ともに再発なくADLを維持して生存中である。腎癌合併症例においては,食道癌・頭頸部癌におけるkey drugであるシスプラチンを使用するタイミングを考慮しながら,バランスの良い集学的治療を行う必要があると考える。

  • 曽根田 亘, 菊池 寛利, 川田 三四郎, 廣津 周, 松本 知拓, 平松 良浩, 神谷 欣志, 竹内 裕也
    2020 年 71 巻 6 号 p. 421-425
    発行日: 2020/12/10
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル 認証あり

    進行食道癌による食道肺瘻は,肺膿瘍形成や呼吸状態の悪化をもたらし,姑息的治療が行われることが多い予後不良な病態である。われわれは,食道肺瘻を合併した胸部食道癌の症例を経験したので報告する。症例は胸部食道癌の治療前に食道肺瘻による肺膿瘍と診断された。抗菌薬投与に加え,経鼻胃管を経瘻孔的に膿瘍内に留置し,膿瘍腔の縮小と炎症反応の改善を得た後に,化学療法および化学放射線療法を施行した。治療後も腫瘍は残存し切除も困難であったが,食道肺瘻に伴う発熱や炎症反応の再燃,呼吸器症状などを認めなかった。食道肺瘻は予後不良であるが,全身状態管理のうえ化学放射線療法が奏効した場合には根治切除が可能となる場合もある。食道肺瘻症例では病態と全身状態の正確な評価に基づいた治療戦略の構築が重要である。

  • 大久保 啓介, 井上 卓, 深田 理佳, 菅野 雄紀, 平野 俊之, 南 隆二, 笠原 健
    2020 年 71 巻 6 号 p. 426-433
    発行日: 2020/12/10
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル 認証あり

    症例は65歳男性。流行早期にCOVID-19肺炎のため当院に搬送後,第4病日に気管挿管および人工呼吸器管理となった。呼吸状態は改善せず第16病日に病棟陰圧室で気管切開を施行した。気管切開チューブは二重管タイプを用いた。術後感染対策チームの指示によって適切に標準予防策とエアロゾル感染に対する付加的予防策を行った。術後は徐々に呼吸状態が改善し,第35病日に人工呼吸器から離脱した。第38病日に気管切開チューブをスピーチタイプに変更し,第45病日に気管切開チューブを抜去した。また気管切開術後は食支援のためにKTバランスチャートによる包括的評価を行い,第22病日より楽しみ程度の摂食を開始した。計画に基づいて摂食嚥下リハビリテーションを行ったところ経口摂取がすすみ,第40病日に経鼻胃管を抜去した。経過中に病院職員や入院患者への院内感染は認めなかった。COVID-19肺炎患者における気管切開術後の感染リスク管理は,感染経路として接触感染,飛沫感染およびエアロゾル感染への対応が重要である。二重管タイプの気管切開チューブはチューブ交換などのエアロゾル発生手技を減少させるために有用と考えられた。

用語解説
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