本研究は靴紐の締め方の強弱(tightness)が歩行動作に与える影響を明らかにすることを目的とした.実験参加者は男性9名(22.8±1.2歳),女性9名(21.9±1.8歳)とし,歩行課題(自然歩行,努力歩行)と靴紐の締め方の強弱(fit条件,loose条件)を操作した歩行実験を行った.Kinect v2を用いた歩行姿勢測定システムで歩行速度,歩幅,歩隔を,体幹2点歩行動揺計で歩行周期時間,胸椎背部(以下,Th6)および仙骨付近(以下,S2)における3方向(左右,上下,前後)の平均動揺量とHarmonic Ratio(以下,HR)を計測,算出した.すべての分析項目を用いて対応のある二元配置多変量分散分析を実施した結果,歩行課題と靴紐条件について主効果が認められた.loose条件ではfit条件よりも,歩行速度,S2の上下動揺量,Th6の上下方向のHRは有意に小さく,Th6の左右動揺量,S2の前後動揺量は有意に大きかった.本研究より,靴紐の締め方が緩い(loose条件)と歩行中の体幹の動きに影響を与えることが示された.
眼球の動きや頭の動きに関連するパラメータを判別分析や機械学習へ適用して,運転中のドライバのメンタルワークロードを推定する研究がいくつか行われている.しかしながら,これらの実験で用いている眼球運動計測装置はいずれも時間分解能が非常に高く,実用化を考えたシステム開発においてコスト面で好ましくない.そこで本実験では,ドライバのN-back課題によるメンタルワークロードの違いを評価可能な眼球運動パラメータを抽出できるデータ計測サンプリングの最小値を明らかにすることを目的としている.そのために,眼球運動を計測する際のサンプリングレートとメンタルワークロードの推定精度の関係を実験的アプローチにより調査した.その結果,眼球運動のサンプリングレートが低い場合でも眼球運動パラメータによるドライバのメンタルワークロード推定ができる可能性を示唆した.
本研究では,複数の姿勢推定技術を用いて上肢動作の計測を行い,計測精度の比較を通して各手法の長所と短所を考察することを目的とした.計測手法として,高精度で広く利用されている光学式モーションキャプチャ(基準値),深度情報から姿勢推定を行うAzure Kinect,動画のみからの姿勢推定手法であるMeTRAbsを用い,健常者の肩外転,肩屈曲,肩水平内転の各平面動作を実施した.各計測手法によって得られた関節位置座標を用いて関節角度を算出し,比較を行った.その結果より,Azure Kinectは動作条件に限らず光学式モーションキャプチャと同等の値が得られた.また,MeTRAbsは前額面の肩外転,奥行き情報が必要な矢状面の肩屈曲,肩水平内転の0~90度の範囲の動作では十分な精度を持つとみなすことができた.脊髄損傷者を対象とした計測では課題動作遂行における肩外転を用いた代償動作を適切に捉えられた.これらの結果は,MeTRAbsによる動作計測が臨床場面での実用性に耐え得る精度を持つことが示唆された.