近年,人間の身体動作をテクノロジーによって拡張する試みが広がっている.本稿は特に人間の関節動作をアシストするテクノロジーを対象に,利用者である人間とのインタラクションに焦点を当て,人間工学が取り組むべき研究課題を考察した.また,近未来,当テクノロジーの性能が昇華するとともに,利用者や利用場面が広がることを予見し,そのときに生じる研究課題を展望した.
本研究は,押し作業中の操作反力が突発的に減少する外乱(反力外乱)発生時の姿勢動揺に操作力の大きさと足位置が与える影響を明らかにする.実験では,15名の参加者が,反力外乱発生時の操作力の大きさと足位置を変化させた押し作業を実施した.本研究では,姿勢動揺は重心(COM)の位置変化量と速度で表され,床反力と操作反力の水平成分の差を積分した水平力差分の力積と床反力作用点(COP)が姿勢制御因子となると仮定した.実験においてこれらの評価指標を記録し,姿勢の不安定感等の主観評定を実験参加者に求めた.押し作業中に足を前に踏み出すことで,反力外乱後のCOMとCOPの位置変化量が減少した.反力外乱前のCOM位置変化量,水平力差分の力積,主観的な姿勢の不安定感は操作力とともに増加した.結論として,本研究は,反力外乱を伴う押し作業において,足を前に踏み出すことが姿勢動揺を抑制し,要求操作力の増加がより大きな姿勢動揺を引き起こすことを明らかにした.
爪病変の診断や評価には,正常な解剖学的構造の理解やそれらの大きさの情報が必要であるが,これまで,足趾爪甲を爪床上で正確に計測した報告はない.本研究は,超音波診断装置を用いた水浸法による足趾爪甲の描出方法と計測方法の有用性と妥当性を検討した.爪病変のない対象者に対して,超音波検査用ゼリーを塗布した場合と水を超音波伝達媒体とする水浸法の超音波画像を比較した.また,水中での時間経過に伴う爪甲の厚さを計測した.さらに,20歳代と40歳代以上の足趾爪甲の厚さ,高さ,幅,爪高指数を比較した.その結果,水浸法にはアーチファクトは認められず,爪甲を鮮明に描出した.また,水中に浸けた爪甲の厚さの変化量は0 mmであり,有意差は認められなかった.さらに,20歳代と40歳代以上の爪甲の厚さ,高さ,爪高指数には有意差が認められた.以上のことから,本手法は爪甲の構造を鮮明に画像化し,爪甲の計測と評価が可能であることが認められた.
本研究では,動きの一致手法と背景がトランジション時の連続性に与える影響について,主観評価分析を通して明らかにすることを目的とした.刺激として,ショット構成2水準(寄り→引き,引き→寄り),動きの一致2水準(一致,不一致),背景2水準(あり,なし)の3要因を採用した3DCG映像を作成した.実験では参加者に刺激を提示し,2つのショットの繋がりが連続的に見えたかどうかを5段階で評価させた.実験の結果,「寄り→引き」構成のトランジションでは,空間を把握しづらい背景条件において連続性評価が低くなることが示唆された.本結果から,背景情報によるストーリーの把握がトランジション時の主観的な連続性評価を高めるために重要である可能性がある.また,背景の有無に関わらず動きが一致する映像では,動きが一致しない映像と比較して,連続性評価を高める効果が認められた.この効果はショット構成が「引き→寄り」である場合に大きくなることが示唆された.
本稿では,ヒトの歩き方に基づく個人識別について述べている.今回は初歩的検討として,事前に登録された人物のみを対象に識別を行った.本提案手法は2次元Light Imaging Detection and Ranging (LiDAR)で測定した距離情報に基づき識別を行う.LiDARとLiDAR正面遠方から設置されたLiDARの真下へと歩行するヒトの間の距離の継時的変化に基づき,縦軸が時間で横軸がLiDARから見た角度,描画色をLiDARとの距離としてサーフェスプロットを描画する.その画像を畳み込みニューラルネットワーク(CNN)で分類することにより,個人を識別する.1人につき300枚,12人で合計3,600枚の画像を描画した.その後教師データ2,400枚とテストデータ1,200枚に分割し,教師データを用いてCNNに学習させた.テストデータで学習モデルの評価を行った結果,識別対象人物12人に対して正解率は0.89であった.